Oh! My HONEY 5


「よう、。今日は早かったな!」
を出迎えてくれたのはクロウである。
「ただいま。ねぇクロウ、あの人…どなた?」
「はは…そうなるよな。ブルーノとかいう記憶喪失の風来坊らしいんだが、Dホイールの知識がスゲェってんで遊星が雇っちまった」
「雇った…って、そんなお金このチームにあるの?」
「衣食住保証するだけで良いんだとよ」
「…や、そのお金も大概かかると思うんだけど…」
それでなくてもこの家にはジャックと言うアレがいるのに。
「そりゃまぁそうなんだけどよ…遊星も水を得た魚になっちまってるし、あいつがちょこっと触っただけでエンジンの出力上がったところみせられちまったしなぁ」
更に言うならこのチームのリーダーは遊星だし。
なかなかに熱中を極めているような二人に声を掛ける気を削がれたは着替えるために階段を上がった。
遊星とブルーノ(と、呼び捨てにしてしまっても良いのだろうか)の会話する声が聞こえる。
楽しそうな声だ。
小さな嫉妬心を覚えなくも無いが、このチームの目標も知っているだけに邪魔することも出来ない。
しばらくは放って置くしかなさそうだ。
「そーだ、の分の夕飯作ってあるぜ。俺らちょっと知り合いに誘われて食べて来ちまったんだ」
「誘われてってことは奢り?いーなぁ…」
「まあまあ。俺らの浮いた分載せといたからよ。ちょっと豪勢だぜ」
「ほんと!?嬉しい!」
流石はクロウだ。
遊星と一緒に住むようになって一番良かったのはやはり遊星といつでもいれることである。
しかしそれと同じくらいクロウの存在が非常に大きい。
気は利くし優しいし、何より家事の手が増えたのは本当にありがたくて。
「クロウってホント良いわよね。私、クロウのいない生活に戻れそうにない」
「おいおい、遊星に聞こえたらどうするんだよ。あいつお前のことになるとマジで見境ねぇんだからな」
「聞こえないと思うわよ。アレだもん」
視線で促がせばパソコンに向かう遊星の後姿。
ここまで熱中している姿を見るのも久しぶりかもしれない。
「万一の火種を投下するのは止めてくれってこった。ま、遊星はしばらく放って置くしかねぇけど」
「遊星、二徹くらいなら何でもないような顔でしちゃうもんねぇ。仕方ないか」
頭の中で牛乳の買い置きあったかな、と考えてしまう。
熱中すると最低限の食事すら摂らなくなることが多い遊星。
飲み物や好物ならとりあえず口にするので牛乳の買い置きが欠かせない。
食事の時間くらいきちんと取ってもパソコンは逃げないと思うのだが、そういうことではないらしい。
「クロウ、牛乳買い置きしてたっけ?」
「お前がそういうと思って買って来てあるぜ」
「…ホント、クロウって良いわね。気が利きすぎ。彼女いるの?」
「企業秘密…と、言いたいところだが募集はしてねぇ」
意外な返答には目を丸くした。
「やだ、嘘。すっごい気になる!どんな人?」
そんな気配を微塵も匂わせないクロウにの興味が膨らむ。
しかしクロウは悪戯っぽく笑うだけで。
「それこそ企業秘密。まあ、そのうちな」
その一言しか言ってはくれなかった。




さて、あれから36時間ほどが過ぎたが遊星はまだ部屋に戻ってこない。
「遊星…もう二晩も戻ってこないし…」
真っ暗な部屋、ベッドの中で一人呟く。
今晩も一人寝なんて溜め息が出る。
普段なら作業を終えた遊星と一緒に風呂に入ってベッドに入る。
の仕事の有無も関係はするが、殆ど欠かさずセックスを求めてくるくせに。
熱中する物が見つかるとこんな扱いなんて…男という生物とはかくも勝手で子供である。
隣に誰もいないから、会話が途切れず夜更かしをするようなこともない。
残念なくらいに肌の調子は良くなったのに。
「…流石に寂しいんですけどー…」
呟きに返事をするものはいない。
当然だが。
「……抱きつきたいなー…いつもみたいにぎゅうってして欲しいなー…っていうか寧ろ…」
…エッチしたいなー…なんて。
口にはしないけど。
嗚呼、これが欲求不満というやつか。
何だか苛々する。
遊星が不足するとこんなにもささくれた気分になるなんて。
そろそろ遊星の腕が恋しくて仕方ないのに、それが与えられないと苛立つ。
たった二晩一人寝をしているくらいでこんなことになる自分…。
もし、万一、彼に別離を告げられるようなことがあったら自分はどうなってしまうんだろう。
想像も出来ないが、良い方に転ぶことは絶対にない気がする。
「もー、遊星ー…私泣いちゃうよー…」
「それは困る」
「ひゃぁぁっ!びっくりした!!!」
闇の中から聞こえた男の声には飛び上がりそうになった。
「ゆゆゆ遊星!?ちょ、気配消して入ってこないでよ!!」
ベッドサイドの明かりを点けて本人を確認する。
ぼんやりと明るくなる部屋に、焦がれ続けた遊星の姿が浮かんだ。
「あーもう遊星で良かったー。幽霊かと思っちゃった」
『せ』と『れ』が違うだけで大違い。
ゆうせい と ゆうれい。母音も一緒。
…どうでもいいか。馬鹿馬鹿しい。
「で…いつからいたの」
「『遊星…もう二晩も戻ってこないし…』のあたりからだな」
「最初からじゃないっ!」
声を掛けてくれてもいいのに。
部屋に入ってきた時に何も気付かなかったのは、廊下の電気を先に消して静かに入ってきたからだろう。
布団を深く被っていたとはいえ全く気付かなかった。
どうせ部屋に戻ってくることは無いだろうと諦めていたということもある。
遊星が起こさないようにと配慮してくれたのは嬉しいが、今だけはその配慮が恨めしい。
、寧ろの続きは何だ?」
「は?」
「さっき言いかけただろう。っていうか寧ろ、何なんだ」
そんなこと言ったっけ。
ずいっと迫ってくる遊星にどきどきしながらもは記憶を辿る。


『……抱きつきたいなー…いつもみたいにぎゅうってして欲しいなー…っていうか寧ろ…』


あ。
うん…そーね、言いましたねー。
口に出してましたねー。
途端にの視線は宙を泳ぐ。
「…さあ、教えてくれ」
素直すぎるの反応に、ニヤニヤしながら遊星がベッドの上のに更に顔を近づけた。
「ちょっと近いんですけど遊星さん…」
「さあ」
「…やだ!馬鹿!!」
が遊星の肩を押し返す。
背けられた顔が赤く染まって見えるのはサイドボードの明かりの所為か。
それとも彼女の初心な反応の副産物か。
「その顔…分かってるくせに!」
羞恥から睨んでくるは本当に可愛くて遊星は堪らなく加虐的な気分になる。
の口から聞きたいんだ。さあ…早く」
自らを拒絶するかの様に押し返すの腕を掴んで引き寄せた。
細い腰に素早く腕を回して、逃げられないように抱き締める。
「こうされたかったんだろう?…それから?その次を聞かせてくれ」
耳元で吹き込まれるように囁かれた遊星の声。
の餓えた体がぞくぞくと反応する。
「やっ…言えないぃ…」
「じゃあ、このままでいるか?」
抱き締められて感じる。
遊星の首筋からは石鹸の香りと共に遊星の匂いがしていることを。
あ、ちゃんとお風呂入ってきてくれたのね…などと的外れのことを考えつつも、遊星の匂いに眩暈がする。
このままなんて有り得ない。
餓えに餓えた体がこの匂いだけで満足するなんて絶対に無い。
浅い呼吸を繰り返しながら、はきつく目を閉じて消え入りそうな声で訴えた。
「し……シたい…の」
「したい?何を?キスか?」
言うなり遊星はの唇に深く自身のそれを重ねた。
抱き締められて二日振りのキス。
口の中に広がる遊星の味にの体は喜びの悲鳴を上げる。
「んっ、…」
抱き締められた腰が震えるほどに興奮する。
絡め取られた舌先も、優しく舐められる唇も、全部が性感帯であるかのような気分だった。
「あぁ…遊星…だめ、もっと」
意地悪く離れる遊星の唇を追いかけて、遊星の首に腕を回した。
心なしか嬉しそうに求めに応える遊星のキスを受けながら頭の奥が蕩けてくる感覚を知る。
「ふ、っ…ん…っ、ん…」
ぎしりとベッドが軋んで、遊星に押し倒されたことが分かった。
角度を変えて何度も何度もたっぷりと味わわれる。
「っ、遊星…」
溢れる唾液を飲み込んで、ぼんやりと見つめた先にはいつもの遊星の姿。
この先が欲しいのにじっと見下ろすだけで動かない。
「嫌、意地悪しないで…」
しかし遊星は答えない。
は恥ずかしそうに視線を逸らした。
目を見てなんて言えやしない。
「私…、遊星と……えっち、したいの…」
陥落したは頬を真っ赤にしながらもはっきりと請うた。
羞恥の所為かほんの少し目尻には涙が見え、恥ずかしそうに伏せ目がちな瞼の先では長い睫毛が震えていた。
視線を逸らしたには遊星の表情は見えていない。
しかしの行為を請う言葉は遊星自身も怖くなるほどの欲情を彼にもたらした。
悪趣味にも程があるだろう、と遊星は頭の片隅で思う。
いつまで経っても処女のような反応を見せるから直接言葉でセックスを請われたことはまだない。
無理矢理言わせた感もあるものの彼女の反応は猛烈な刺激でもって遊星を衝き動かした。
…っ」
キスだけで焦らされていたのはだけではない。
遊星だって本当は焦れったかった。
『もっと』なんて首に腕を回された時は理性が持たないと思った。
それでも可愛いを見たくて、その口で求めてほしくて必死で飲み込んでいたけど。
「ああっ…!」
早くこうやって、可愛がりたかった。
名を呼んだ遊星が、一思いに寝間着を捲り上げたかと思うとの胸に噛り付く。
ちゅぶちゅぶと音を立てながら舌で撫で回すように激しく攻められた。
「やぁっ、あぁぁぁ…っ、はぁっ…」
餓えた体が求めていたのはこういう刺激。
背中をしならせながらは喘ぎ声をあげる。
を愛撫しながら遊星は性急な動作で寝間着の下穿きも脱がせてしまった。
下着ごと引き下ろされては体を強張らせる。
「ちょ、や…っ、遊星…っ」
の制止の言葉も聞かず遊星の指がにゅるりと柔らかいの入り口を撫でた。
そこは既に期待に蜜を溢れさせている。
「やぁんっ、触らないで…」
「…恥ずかしがらなくてもいい」
「そん、なっ…無理…っあ、あぁぁ!!」
散々お預けを食らっていた体は、遊星に少し捏ねられただけで軽く絶頂を感じてしまう。
更に零れ落ちる愛液が遊星の手を濡らした。
「溢れてくるな…」
「もうっ、…言わないでよぅ…」
「そろそろ俺もいいか?もう二日もしてないし、抜く暇も無かったから堪らないんだ」
「いちいち聞かないでよ…っ」
そして男性の生理現象など聞かせないでほしい。
こんな時に聞かされたら遊星で猥褻な想像をしてしまう。
彼が一人で自分を慰めている姿なんか普段は想像も出来ないのに。
いや、遊星はきっとそれを分かってて聞かせた。
こんな時だから聞かせた。
「何でまた溢れてくるんだ?」
「知らない!」
可笑しそうに尋ねてくるのが憎らしい。
全部分かっててやっているくせに。
の入り口から指を引き抜き、遊星は少しだけ体を離した。
この瞬間はいつも何となく緊張する。
今から遊星が中に入ってくることを期待しているのかもしれない。
暫くの間の後、遊星が再び覆いかぶさってくる。
足の間には熱い彼の感触。
「…もうずっとしていなかったような気がする」
言いながら遊星は自分の唇を少し舐めた。
無意識にしたのであろうが、獣が舌なめずりするようではぞくりとする。
今から遊星に乱暴に食い散らかされるかもしれない。
そしてそれを本能が待ち望んでいる。
「…遊星、ね…早く…」
何故かそれ以上なかなか先に進まない遊星を促すように彼の背中に手を回した。
「ふっ、…その言葉を待ってた」
「…ばか…っ、!」
やはり全て確信犯か。
しかし憤慨する間も無く遊星がゆっくりと侵入してくる。
「っうぅ…ン…っ」
内壁を押し広げるかのようなこの感覚。
処女の頃は痛いだけだったこれが、今では不思議な快感を生み出していた。
「く…っ、あぁぁ…」
遊星が充足の溜め息を漏らす。
の内部は緩やかに遊星を締め付け、なのに抵抗も薄く飲み込んでいた。
時折震えるような蠢きが苛むように導こうとする。
久しぶりとはいえ、肌が粟立つかのような快感だった。
「全く、持ちそうに…ない、な…」
「ん、それでもいいから…」
目の前の、遊星の余裕のない表情が堪らなく可愛い。
今日は散々望むように遊星に言葉を吐かされた。
最後は促される前に言ってやろう。
「乱暴にしてもいいから、中でいっぱい出して…」
にっこりと、笑顔付きで。
そんなの行動に遊星は弾かれたように目を見開いて。
その瞬間、はふと感じる。
「あれ?ちょっとおっきくなった?」
最後の最後でちょっとだけしてやったかも?
遊星は少しだけ顔を顰めた。
「っ、どうなっても…知らないからな」
一言告げると、ぎしりとベッドを軋ませた。



「んっ、はっ…あっあっ…」
獣の体勢で後ろから深々と貫かれる。
体の奥を突き上げられる度に背筋がしなった。
「あぁっあっ…んっ、ゆう、せ…ぃ…っ」
「はぁっ…はぁっ…、…っ!」
「んンっ!」
どくりと中で遊星が脈打つのが分かる。
もう何度目だろうか。
崩れ落ちる体を抱き上げられて、優しいキスをされる。
触れて啄ばみ、ちゅ…と小さな音がした。
「だめ、もう私…」
「まだだ」
「もう死んじゃうって…」
窓の外が白み始めている。
確かに欲求不満ではあったが、こんなに何度もではそろそろ限界だ。
ぐったりと腕の中で遊星に身を預けては目を伏せている。
が泣かなくてもいいように、たくさんしておかないとな」
あー…。
うん…そーね、言いましたねー。
泣いちゃうって言いましたねー。
「や、もう別の意味で泣きそうです。そろそろ寝かせてよォ…」
嗚呼、余計なこと言うんじゃなかったー…。
少し後悔してももう遅い。
唇を吸っていた遊星が離れてきつく抱き締められる。
それは確かに暖かくて安心する温もりではあるのだけれど。
遊星の胸に顔を埋めてはまだ来ぬ明日が思い遣られて仕方が無かった。









================================

クロウのお相手は存在している設定です。(さんだったってことはありません)