最初は『そういう遊び』だったの。
ちょっと仕事に疲れてただけで。
遊星、優しいから…困らせてみたくて我儘言ってみただけだったんだけど…。
その日、はかなり遅くに帰ってきた。
休みの前日にそういうことが多いが、今日もそのパターンといえた。
普段、遊星はいつもの帰りをガレージで待つが、大概誰かが遊星と一緒にいる時間には帰ってくる。
しかし今日はその誰かすら先に部屋に戻っていた。
「もーやだー。働きたくないいぃぃ…」
帰ってくるなりは鞄を放り出し、彼女を出迎えた遊星にしなだれかかる。
「嫌なことでもあったのか?」
そんなを優しく抱きとめて遊星はの背中をあやすように軽く叩いた。
この家で『雇われる』という形で仕事をしているのはのみである。
今でこそ皆の為に働いているという名目もあるが、元々遊星と出会う前から彼女はそういう風に生計を立てていた。
一般的といえば一般的で、そして社会という物は一般的であるからこその全体主義。
個人を大なり小なり犠牲にしてなりたつ全体の世界は理不尽で残酷なものである。
「それもあるけど、なんかもうこんな時間に一人で夜道歩いてて空しくなったって言うか」
「連絡をくれれば俺が迎えに行くぞ」
「そーゆーことじゃないの…」
夜道を一人で歩くことに空しくなったわけではなく、こんな時間まで何をしてるんだろうという気になっただけだ。
勿論この家の生計をが全部担っているわけではないし、なんだったらクロウにはお前の稼いだ金はお前が持っておけよとまで言ってもらっている。
その時言われた『遊星と一緒になるつもりなんだろ?その時まで取ってろよ』という言葉に死ぬほど照れてしまい、ついでに慌ててしまい『へ、変なこと言わないで受け取って!!!』と強引に給料の一部を渡してからそれがずっと継続している。
不満なども無い。
寧ろここで世話になるなら当然のことだと思っている。
だけど、そういう全ての倫理観とか責任感とか…そういう面倒くさい色んなことが煩わしくて腹立たしい日だってあるのである。
「でも私のこともっと大事にして、お姫様みたいにして欲しいのって気分なの」
「…お姫様?」
「そう!」
子供のような要求に遊星は少しだけ笑ってしまう。
「あ、笑った!遊星酷い!!私のことなんかどうでもいいんだ!」
「いや、済まない。どうでもいいなんて思っていない」
その証拠に…。
と、言いながら遊星はを軽々と横抱きにして抱き上げる。
「では、お食事になさいますか?連れて行って差し上げます」
「!」
悪戯っぽく笑う遊星の言葉には一瞬目を瞬かせる。
敬語で喋る遊星なんて珍しい。
いや、初めて見たかもしれない。
ましてや自分を対象にして敬語を遣う遊星なんて一生見れることはないだろう。
どきどきしながらは頷いた。
「うん…お願い」
何となく口をついた『お姫様』という言葉に意外すぎる形で乗ってくれるなんて…。
遊星の首に腕を回して抱き上げられたまま階段を登る。
キッチンのテーブルにはいつも通り、の分の食事が残されている。
帰りの遅い日はいつも遊星を隣に置いては一人で夕食を摂っていた。
一見寂しいようにも見えるが、遊星と暮らすようになるまでは今から夕飯の準備をしたりコンビニに寄ったりしていたのだ。
用意されているだけでどれだけありがたいか。
そして食べるのは一人でも、遊星がいつも傍にいる。
はそれだけで遊星と一緒に暮らして良かったといつも思うのだ。
「俺がやるからはここにいるんだ」
椅子の上にを下ろし、ついでに頬にキスまでして遊星は食器をレンジに放り込んだ。
伏せてあるカップを取り上げ、ケトルにカップから水を注ぐ。
「それくらい自分でやるよ…?」
「いいから。…お姫様は座っていればいい」
「あうぅ…」
言い出したのは自分なのではそのまま黙り込む。
そうしている間にレンジが遊星を呼び、の目の前に湯気の立つコーヒーカップと食器が整えられた。
「…あ、ありがとう…」
流れるような遊星の手際の良さに感心しながら、は箸を探す。
しかし肝心のそれは何故か遊星の手の中にあった。
「お箸頂戴」
「いや、ダメだ」
「何で?」
意味不明の拒絶にが首を傾げると、遊星はまたしてもを抱き上げた。
「えっ、ちょっと!何!?」
用意をするだけして何処かへ連れて行くつもりか!と身構えたが、遊星は今までが座っていた椅子に自ら腰掛けると、膝の上にを横抱きのまま下ろす。
そして曰わく。
「食べさせてやる」
「ええっ!?」
「ほら、口を開けるんだ」
差し出されて、は遊星と箸先を交互に見る。
「…」
仕方がないのでとりあえず、一口。
「遊星…自分で食べれるよぉ…」
は訴えるが遊星は首を横に振る。
「は何も煩わされる必要はない。明日が終わるまでたっぷり甘やかして大事に扱ってやるから」
慈しむように微笑む遊星にはぽわんと頬が熱くなった。
憎らしいほど格好良い笑みを向けられてしまっては何も言い返せない。
それに元はと言えば自分が言い出したことでもあるのだし。
は諦め混じりにおずおずと頷いて、遊星の手から夕食を摂るのであった。
心の中では不意に誰かが降りてこないことを必死で祈っていた。
結局、遊星が食器も片付けてくれた。
何となく罪悪感もあったけれど、とんでもなく楽でこれはこれで悪くないかも、とも思えた。
幸い遊星に食べさせてもらっているところも誰にも見られなかったし、楽だったかと問われればイエスであった。
「部屋に戻るか?」
食器を洗い終わった遊星が当然のようにを抱き上げて問う。
何となく慣れてきたは遊星に体を預けながら首を振った。
「先にお風呂入りたいな」
「分かった」
ならば、と遊星は部屋を通り過ぎバスルームへ向かう。
脱衣所に下ろされたは羽織っているジャケットに手を掛けるが、それを遊星が手を掴む形でやんわりと制止した。
理由を察したはほんの少し体を強張らせる。
「自分で脱げるよ」
「ダメだ」
「…」
するんとジャケットを脱がされて、は漸く余計な要求をしてしまったのだなぁと気付く。
全て遊星がしてくれるのは確かに楽だけれどそれはつまり彼を自由にさせる口実を与えたも同然だった。
丁寧にブラウスのボタンが外されていく。
心なしか楽しそうに作業をする遊星だがは手持ち無沙汰だった。
眺めているのも恥ずかしいが、そうしている他にやることがない。
スカートも脱がされて下着だけの姿にされた。
「…下着は自分で脱いじゃダメ?」
「良いと言うと思っているのか?」
「ですよねー…」
ココまで来ると最早お姫様扱いなど如何でも良くなっているに違いない。
いや、それも重要だが自分の欲望も重要というか。
遊星の手が背中に回ったかと思うとぷつんと胸元がゆるくなる。
「…っ」
さて、ブラも取り払われて残すところショーツのみ。
遊星の指先がくっとそれに掛けられた。
遠慮なくすーっと下ろされるが、それを見下ろしている余裕も勇気もには無かった。
赤くなる顔を両手で覆う。
「死ぬほど恥ずかしい…」
「別に、普段からしているじゃないか」
「こういう脱がせるじゃないでしょ…!」
セックスの時に脱がされるのとは訳が違う。
子供を脱がせるかのようなやり方には思わず声を荒げてしまった。
が、あまり騒いで誰かが起きてしまったら困るので慌てて口を手で押さえる。
その間に手早く自分の服を脱いだ遊星が、やはりを抱き上げてバスルームの中へ。
裸の肌が触れる感触は滑らかで温かく、気持ち良いけれどこの後のことを考えると楽観的ではいられない。
遊星はを膝に乗せたまま椅子に座った。
そんな遊星に抱かれながらもは質問せずにはいられなくて。
「やっぱり遊星が全部するの?」
「勿論」
「…ですよねー…。…じゃあ宜しくお願いします」
無駄な質問とは分かっていたけれど。
予想通りの答えが返ってくるだろうことも分かっていたけれど!
「…ン、っ」
諦めの極致にあるとは対称的に、遊星の楽しそうな顔が近付けられた。
ちゅ、と小さく音を立てて触れ合った唇。
「ふ…っ、ぁ…」
首から後ろに回した腕で掴んだ肩を強く抱き、逃げられないようにして奪う。
滑り込んで来る遊星の舌は優しくの舌を捉えた。
くちゅりと唾液の混じり合う音を立てながら遊星の舌がの口内を蹂躙する。
「ん…っふ…、」
重なり合った唇の端から吐息が零れ落ちた。
溢れそうになる唾液を垂下して、漸く解放される。
「…ゆうせぇ…」
離れた唇を惜しむような声が出てしまった。
甘えた声を満足げに受け取る遊星は、先にシャワーを取り上げる。
ざぁ、と温かい雨がの体を濡らした。
「きゃ…」
髪まで濡らす遊星には驚いてぴくんと体を跳ねさせる。
「熱かったか?」
「う、うぅん…びっくりしただけ…」
が控え目に首を横に振ると、遊星は安心したように髪を洗いだす。
優しく遊星の指が髪を撫で梳かす感覚が気持ち良い。
「あー…コレ良いかもー…」
頭を何度も撫でるような丁寧な手付きにはうっとりと目を閉じた。
そしてシャワーの雨でそれを流される。
温かくてやはり気持ち良い。
しかし、『これはこれで悪くないかも』と油断したころに新たな試練はやってくるのである。
流石にクレンジングと洗顔だけは自分でやって(その間もずっと遊星の膝の上に乗せられていた)さて体…と思った時にははっとした。
ボディソープを取ろうとした手を遊星が掴んだのである。
「俺がする」
「…」
ですよねー。
やんわりと、しかし強制力を孕む遊星には伸ばした手を下ろすしかなく。
ぬるんと体を撫でる遊星の手を受け入れるより他はなかったのである。
「あは、あははっ!やだ、くすぐったいよぉ…っ」
ふかふかした泡を塗り広げるように、体の至る所を遊星の手が撫でている。
既に殆どの部位を撫で回されたは、脇腹をくすぐるかのような遊星の手付きに身を捩った。
「あっ、やぁん…っ」
腰を撫で上げた遊星は、そのままの胸を掬い上げての乳首をきゅうっと抓んだ。
柔らかな薄い皮膚が、刺激に反応する。
「ああっ…やだぁ…」
敏感に膨らみ始める乳首を指先で弾かれては体をしならせた。
「はあぁんっ…!やだ、遊星、それ洗ってるんじゃないぃ…っ」
「だが気持ち良さそうだ。凄く可愛い」
「やっ…馬鹿…!」
ぷっくりと膨らんだ乳首を指先で捏ね回しては様子を伺うように覗き込む遊星。
見られたくなくては手で顔を覆った。
足の間がじんわりと熱くなってくる。
刺激を受けるたびに切なく疼く体の奥。
堪らなくては膝を擦り合せるが、目聡くそれを見つけた遊星はぬるりとの下腹を撫でた。
「ひゃぁっ…」
くすぐったいようなもどかしいような。
しかし確実に腰を反応させるような遊星の手付き。
いやらしく指先が下へと滑っていく。
「そういえば、此処がまだだったな」
わざとらしく問われては遊星の視線から逃れるように顔を逸らした。
ぬかるみの中に遊星の指が埋まる。
「んンっ!」
「嗚呼、熱い…な」
溜め息を吐くような遊星の言葉にぞくりと耳から感じてしまう。
くちゅくちゅと水音が反響する。
「あっ、あぁっ…!」
一番感じるところを掠めるように遊星の指先が円を描いている。
思わず腰が浮いてしまう。
もっと強い刺激を欲しがって、無意識には足を広げて腰を揺らした。
「はぁ…あ、あっ!あっ!…っ」
「俺のお姫様はいやらしいな。こんなに腰を揺らして…」
「やァっ、だってぇ…!あぁ…っ、指離すから…っ!」
の言葉に遊星は意地悪く笑う。
「それはもっと触って欲しいと言うことか?やっぱりいやらしいな、は…」
もどかしい快感に震えるの内股を押さえながら、遊星は敏感に膨らむ突起をきゅうっと押し込むように触った。
「うぁあっ!!」
焦れったい快感を与えられていたは一瞬にして絶頂する。
膝の上でがくがくと体を痙攣させたは荒く息を吐きながら、遊星の胸にぐったりと体を預けた。
そんなにシャワーの雨が降り注ぐ。
「…ゆうせい…?」
「泡を落としたら、湯船に浸かっていてくれ」
「え…う、うん…」
ざぁざぁと体を綺麗に流されて、遊星に言われたとおり浴槽に体を沈めた。
てっきりこのまま最後まで…と思っていたのに拍子抜けである。
体の中はじくじくと熱く、身を浸しているお湯とは異質な熱を孕んでいた。
何より、遊星の膝の上に抱かれていたとき、遊星もまた興奮による性的な欲求を感じていたことは確かである。
その証拠に太股の辺りに硬く熱を持った遊星の欲望を感じていた。
だからこそ密かにはしたない期待をしていたのに。
それを押さえ込んでしまうなんて…。
欲求不満を感じ、はあっとは熱い溜め息を吐く。
体の中がきゅうんと疼いた。
そんなを知ってか知らずか、自分の事を済ませた遊星が浴槽に身を沈めてきたけれど、後ろから腰を抱くだけで何もしない。
所在なさげには首だけで振り返って遊星を見上げた。
「どうした」
「…どう、も…しないけど…」
「ふ、そんなに物欲しそうな顔をしてどうもしないなんて嘘だな」
意地悪い言葉にはちょっとだけ泣きそうな表情になる。
苛めすぎたかと遊星は心の中で反省して、機嫌をとるようにの頬に何度もキスをした。
そして耳元で囁く。
「お姫様、続きはベッドでいたしましょうね。たくさん、可愛がって差し上げます」
「!」
遊星の言葉には目を見開く。
思わず遊星を見れば、あの悪戯っぽい笑みを浮かべて自分を見ている。
甘くて低い言葉遣いとその微笑みにはじんわりと足の間が熱くなるのを感じた。
そういえば、着替えを用意するのを忘れたな。
遊星に体を拭かれながらはぼんやりと思っていた。
何かされるかな、とちょっと構えていたが意外にも遊星は丁寧に体を拭いてくれるだけで。
髪までしっかり水気を拭ってはくれたけれど、流石に乾くまではいかない。
「ね、着替え忘れちゃったね」
「そもそも部屋に寄らなかったからな」
「ダッシュで戻ればいっか」
「ああ、そのつもりだ」
「…え?」
やはり遊星がを抱き上げたのだがはきょとんとする。
「…ばらばらで戻った方が良くない?」
「だめだ」
「…もう…融通利かないんだから…」
抱えて走る方が効率が悪いような気がしてならないが、言い出したら聞かないことを知っているのではもう何も言わない。
そして真夜中にバスタオルを巻いただけの(しかも遊星に横抱きにまでされている)姿を誰かに見られるのは絶対の絶対に嫌なのでやかましく問答する気にもならなかった。
ドアを開けると冷気が流れ込んできて、は遊星の首に回した腕に力を込める。
「済まない、寒いな」
「ううん。遊星があったかいからくっついてたら平気」
「…はこういう時、無意識にそういうことを言うからタチが悪い」
「え?」
「いや、行くぞ」
急ぎ足で部屋に戻るが、静まり返った廊下に誰かが起きている気配は無い。
素早く部屋の中に滑り込んで遊星は肩でドアを閉めた。
「んふふ。何だろ、別に悪いことしてないのに息まで詰めちゃった」
そう言って無邪気に笑っているをベッドへ降ろす遊星。
可愛らしくて仕方が無いけれど先に髪を乾かしてやろうか…と思ったりしていた。
しかしがベッドに座った拍子に少したわんだバスタオルが遊星の目の前ではらりと滑り落ちたのである。
の柔らかくて白い肌が晒される。
一瞬も遊星も動きを止めた。
「やっ!」
慌てて直ぐそれを胸元まで引き上げるが、ぴたりと行動を止めた遊星の目を見ることが出来ない。
が俯いたままで短い沈黙が流れた。
やがて、する…と遊星の手が俯いたの頬に触れる。
大きな温かい手は不思議な強制力を持っての顔を上げさせた。
「続き、だな」
「あうぅ…」
良くも悪くもジャストなタイミングすぎて。
思わず笑っている遊星の顔が近づけられる。
が目を伏せるのと同時くらいに、柔らかな唇を押し付けられた。
遊星の体がベッドに上がってくるのをマットが沈み込む感覚で知る。
「ン、…っ」
そろりと探るように舌が侵入してきて絡めるようにの舌を撫でた。
「ふ、ァ…んっ…」
ばさりと何かが放り投げられるような音が聞こえたと思ったら、遊星が圧し掛かってきて体がベッドに押し付けられる。
触れ合う素肌の感触に、遊星が彼を覆っていたバスタオルを放り投げたのだと理解した。
まだ風呂上りの素肌は温かくて心地よい。
体温を分け合うように抱き合って唇を交わした。
「はぁ、ん…、ゆう、せ…、んぅ…」
「…、愛している」
「っ、ん、私、も…っ!」
角度を変えながら重ねてはお互いの吐息を混じらせる。
唯一の舌触りを感じあいながら絡ませた舌先が小さく音を立てて部屋に響いた。
「はぁっ…」
ようやく離れた時には、つぅっと銀の糸が互いの唇を繋いでいて、深く貪られたことをは思い知る。
「…」
「あ…、ン…っ」
愛おしそうに名前を呼んで、遊星はの首筋に顔を埋めた。
白くて滑らかな肌に何度も唇を押し付ける。
「ん、あぁっ…、くすぐったい…」
遊星の吐息が触れ、ぞくぞくと甘い感覚が背筋を駆け抜けた。
鼻先が首筋を伝わり鎖骨のあたりに遊星の唇を感じた瞬間、ちゅうううっと肌を強く吸われた。
「…っ、」
僅かな痛みを感じては思わず遊星の肩を掴む。
しかし押し返すことはしない。
寧ろ求めるかのように腕を回して遊星を抱き締めた。
「…、?今日はやけに素直だな」
「だって…遊星優しかったから…。何か、今すっごい遊星が好きって思うんだもん…」
恥ずかしそうに唇を尖らせて訴える。
素直な物言いも様相も、それはそれは堪らなく可愛らしく、遊星の中の獣が揺さぶられる。
今すぐにでもその可愛らしい口に反るほどに勃起した自身を捩じ込んで、口淫を強要してやりたい。
涙目になりながらもきっといやらしい舌使いで愛してくれるに違いない。
我慢できなくなればそのままたっぷり射精して、喉の奥まで犯しつくしてしまいたい。
そんな加虐心をくすぐられながらも、しかし遊星はそれをぐっと飲み込んだ。
明日の夜まではを甘やかして愛すと決めたのだから。
「ふ、…そんなに可愛いことを言う口は…」
「んンっ……」
遊星が身を乗り出して改めてにキスをした。
首に回されたの腕に力が篭もる。
強請られているかのようで、遊星は嬉しくて堪らない。
もっともっととの舌を追い掛けながら、そっと柔らかい胸の上に掌を重ねた。
「っあ、ん…っ」
キスの合間にの甘い声が漏れた。
それをもっと引き出そうと、遊星は緩やかに胸を揉みしだいて優しく乳首に触れる。
「んンっ…!」
ぴくんとの背中が跳ねた。
唇を重ねながら更にゆっくりと極めて優しく乳首を捏ねた。
もどかしいくらいの動きにの呼吸が浅くなる。
「ふ、は…っ、あ、あぁ…遊星…っ、あ、は…ァ」
軽く唇を吸った後、少しだけ離れてを覗き込んだ。
頬を上気させてともすれば苦しそうにも見える表情で喘ぐ。
「やぁっ…見ないで…っ」
恥ずかしそうに顔を背けて遊星の視線から逃れようとする。
「…可愛いを俺に見せてくれないか?」
「っ、は、恥ずかしいよぉ…っ」
「もう少しだけだから…」
宥めるように頬にキスをして遊星はそろりとの足の間に空いた手を伸ばした。
さわ…と太股を撫でる遊星の掌の感触。
「んっ、あ…や、あぁん…っ!」
キスと胸への愛撫で熱く蕩けたの足の間に遊星の指が潜り込む。
ぐじゅりとぬかるんだ感触に迎えられ、遊星はの敏感な突起にそっと触れた。
「っああぁ…!」
その瞬間は背中を仰け反らせる。
一度風呂場で絶頂を感じさせられた体は感じやすく、軽く触れる遊星の指先が想像以上の快感を生み出した。
「ゆうせぇ…っ!だめ、はぁあ…っ、私、すぐ…っ」
それでなくても絶頂の後暫く焦らされていたのである。
欲していた快感を与えられて、の体は悦びに涎を溢れさせた。
「ぐちょぐちょだな」
「や、あ…っ言わないで…!」
ぎゅうっとシーツを掴み、は感じるままに腰を揺らしてしまう。
自覚すればするほどに恥ずかしいのに、遊星の指は優しくも意地悪くの体を追い立てた。
「あっあっ…ゆう、せ…っ、イっちゃうよお…っ」
「ああ、イくんだ。俺に見せてくれ。さあ…!」
乳房を揉みしだく遊星の指が一際強く乳首を抓み、ぬかるみをかき混ぜる指は敏感な突起を押しつぶす。
今ようやく与えられた強い刺激にの喉がか細い悲鳴をあげた。
「ひっあぁ…っ!!」
遊星の目の前ではがくがくと体を跳ねさせて絶頂する。
眩暈すら感じる絶頂は、風呂で与えられた快感と遜色ないほどに気持ちが良かった。
「はぁっはぁっ…」
浅く呼吸を繰り返す胸が扇情的に揺れている。
遊星はかぶりつきたい衝動に駆られた。
しかし今夜は自分よりもを優先しようと決めている。
「…、大丈夫か?」
未だに呼吸の整わないを気遣うような遊星の声には薄く微笑んだ。
「ん、大丈夫…だよ」
「…そうか。じゃあもっと気持ちよくしてやる」
「え」
そろりと遊星が体の位置をずらして、の足元に蹲った。
遊星の言葉を飲み込むのに一瞬思考がおろそかになった。
その行動にやや遅れて「まさか」と「待って」を同時に感じたが、制止の声を出す前に遊星の舌がの柔らかな花弁を掻き分けていた。
「う、あっ!」
余韻も覚めやらぬぬかるみに、熱くて柔らかい舌が潜り込む。
にゅぐ、と探るように唇を押し付けられたは、指先とは違うぬめった感覚に腰を震わせた。
「あぁ…っ、ゆうせ…、イったばっかり、なのにぃぃ…っ!」
絶頂で溢れた愛液を掬い取るかのように遊星の舌が上下する。
優しく突起を撫で回しては愛液をすすり上げられて、少しおさまりかけた体の奥の疼きが少しずつ戻ってきた。
「はぁ、あぁぁんっ!ゆうせぇ、っ…、はぁ、はぁあっ…」
ぺろりぺろりといやらしく這い回る遊星の舌。
敏感に膨らんだの感じる部分をちゅうっと吸って快感を与えると、の腰が跳ねるようにして遊星に押し付けられる。
それに応えるように更に奥まで潜り込もうと、遊星の指が花弁を押し広げた。
「ひあ、あ、あぁっ…!なか、だめぇ…っ!あはぁぁっ、入って、くるぅ…っ」
ひくひく震えながら疼くの中に遊星の舌がゆっくりと押し込まれた。
蠢くそれが柔らかくの膣壁を広げていく感覚には戦いた。
「やぁっ…そんな、とこ…っ舐めちゃ、…あぁぁあ…っ」
遊星の唾液なのか自分の愛液なのか分からない体液が内股を伝う感覚にすら感じてしまう。
指や遊星のアレとは違う感覚は異質でもどかしいが、柔らかくて気持ちがイイ。
体の奥がきゅうんと疼いて断続的に遊星の舌を締め付けた。
「はぁっ、あ…!またイっちゃう…!」
粘膜を舐めることで刺激を受けたの体が熱く震える。
またしても上り詰めようとするは身を捩って遊星の愛撫から逃れようとした。
「ん、にげるな…っ」
「でも!そんなっ…あぁっ、そこダメぇっ…!!」
しかし腰を抱えられ逃げることも敵わない。
遊星の舌に膣壁をたっぷりと刺激されてとうとうは陥落した。
「やっ、出ちゃ…っ!やぁあっ、イくっ…!!」
体を震わせるは、潮を噴きながら2度目の絶頂を迎えた。
遊星の顔に温い飛沫が噴き掛けられる。
頬を伝う生温い雫。
絶頂で溢れたの愛液を舐め取って、遊星は漸くの体を解放した。
「はーっ、はーっ…苦し、っ…」
短い間に2度も絶頂を感じたはベッドに身を沈ませながら乱れた呼吸を繰り返す。
遊星は床に落としたバスタオルで顔を拭くと、に改めて圧し掛かった。
そして苦しげに荒い呼吸を繰り返すを覗き込む。
「…辛かったら、もう寝るか?」
「え、…何で?」
「明日の夜まで甘やかしてやるって言っただろう?がもう嫌ならこれ以上は何もしない」
奉仕するだけして、自分は耐えると言うのである。
普段の遊星からは考えられないほどの殊勝な言葉に思わず愛しさが湧き上がるのを感じた。
「何、言ってるの。…こんなにして」
「っ!」
伸ばされたの手が遊星の勃起をきゅうっと握りこむ。
思わぬ刺激に遊星はびくんと腰を震わせる。
熱く脈打つそれは、確かに遊星も興奮しているのだと伝えていた。
「…最後までしてよ。遊星と繋がりたい」
「…、お前はそんな可愛い事ばかり言って…!」
必死に繋ぎ合わせてきた理性を砕かれそうだ、と遊星は思う。
そんな衝動に駆られるまま、遊星は自身をの足の間に押し付けた。
「入れる、ぞ」
「うん…」
最後の確認を取る遊星の言葉には恥ずかしそうに頷いた。
遊星ははぁっと溜め息を吐いて一気に腰を推し進める。
「あぁぁっ!!」
散々指や舌で刺激されてきたが、一番欲しかったモノを与えられる感覚にはびくびくと体を仰け反らせた。
「はぁっ、あ…、っ、熱い…っ」
「遊星、も…!熱くて…、おっき、いぃ…っ!」
ぴっちりと遊星を締め付けるの膣壁に刺激されて、遊星は腰を引いた。
そして改めて深く打ち込む。
「あぁっ!あ!はぁあっ!!」
先端が疼いている体内の奥を突き上げている。
知られすぎた体を的確に犯す遊星は、彼自身も気持ちが良いのだろう。
背中をそらせたいやらしい腰つきで何度もの中を出入りする。
「う、あっ…、締まる…っ、あっあっ…、凄くイイ…!」
きゅうっと締め付けるの内壁に擦りあげられ、敏感な先端が柔らかい蠢きに埋まりこむ感覚。
腰が蕩けそうな快感に遊星は夢中での中に打ち込んだ。
「ふあ、あぁっ…、深い、の…っ!あぁぁっ、ゆうせ、ぇっ…あっあっ…!」
の指に自らの指を絡めてベッドに強く押し付ける。
突き上げる度に揺れるの体と、震える胸が見下ろす遊星の目に留まった。
先程湧き上がった衝動が改めて沸き起こる。
ごくりと喉を鳴らした遊星はの胸にしゃぶりついた。
「きゃ、あぁぁっ!」
ずっと放って置かれた部分に触れられは悲鳴を上げる。
が、それもすぐに嬌声に変わった。
「あぁっ、は、あぁぁんっ…!吸っちゃ、だめぇ…、はぁ、あ、感じちゃううぅ…!!」
ちゅうちゅうと敏感に膨らんだ乳首を吸い上げられながら突き上げられては髪をベッドに散らす。
そして戦慄く内股できつく遊星の腰を挟み込んだ。
それは遊星を強請っているかのようにも感じられ、遊星は更に腰を早める。
「っ、…、っあぁ、…!」
「やぁっ、そんな声…っ、出さな、いでぇ…っ!」
掠れきったいやらしい声で名前を呼ばれてぞくりと足元から鈍い痺れが湧き上がった。
それは今まさに遊星が攻め立てている体の中心に新たな疼きを感じさせる。
ずくんずくんと脈を打つかのような疼きが強くなりは自らの限界を感じていた。
「ゆうせ、っ、私…っ、も、イっちゃいそう…っ!」
「あぁ、一緒に…っ!、っ…一緒に、っ」
体の中をぞくぞくと駆け上がる冷たい快感。
遊星の楔が深くを貫いた瞬間、それはぱぁんと弾け飛ぶかのようにの全身を通り抜けた。
「イく、あぁっ、イくイく…っ!!」
の爪先が空中を蹴り上げがくがくと震えた。
同時に断続的に収縮するの中が遊星をきつく締め上げる。
「っく、あ…っ、俺も、出る…!!」
びくんと仰け反った遊星。
震える腰をぎりぎりまで押し付けての奥深くで欲望を迸らせる。
今まで我慢し続けていたものを吐き出す快感に思わず小さく呻く。
溢れる程に吐き出された精液が内股を伝い落ちた。
3度も絶頂させられは意識を手放したいほどに疲れていたが、それを必死で繋ぎとめる。
そして、崩れるように隣に体を沈ませた遊星に視線を投げかけた。
「…とりあえず、もう一回お風呂だね…」
「……ああ、そうだな…」
しかし流石に遊星も疲れた表情で、声に力はあまり感じられなかった。
温かくて、寝てしまいそうだ。
遊星がドライヤーでの髪を乾かしているのである。
二度目の風呂を終えて今。
もうとっくに深夜を回っている。
意識していなければ瞼が勝手に閉じてしまう。
「ふぁ…」
「…眠たいなら寝てもいいぞ」
「ううん。髪が乾いてから寝る…」
何度もイかされた体が早く寝ろと訴えているようだったがは我慢した。
乾かされた髪を遊星が丁寧に梳かしてくれた。
これは本当にお姫様になったような気がしてしかも気持ちよくてとてもいい。
あまり奉仕尽くしされるのは気が引けるが、時折このドライヤーだけは甘えてしまおうかなと密かに思った。
「ほら、。こっちだ」
「ん…。あったかいね、遊星」
ベッドに潜り込んだ後は遊星が腕枕をしてぎゅうっと抱き締める。
これ自体は普段とあまり変わらないけれど、はとても幸せだった。
翌朝。
「ちょ、ちょっと…遊星…」
「ん?」
「自分で履ける…」
「ダメだ」
「あうぅ…」
遊星の手によって着替えさせられたは困惑した表情で遊星を見下ろしていた。
ベッドの縁に腰掛けたと床に跪いた遊星。
恭しくの踵を持ち上げた遊星が、すうっとすねを唇でなぞった。
「やっ…もう…、ほんと、自分で…」
「ダメだと言っているだろう」
ちゅう、との足の甲にキスをした遊星が漸くに靴を履かせる。
靴底を持つことも厭わずに、に靴を履かせる様は本当に姫と従者のように見えたかもしれない。
今ここで誰かが部屋に入ってきたら顰蹙を買うだろうな、と思いながらは遊星からのこの行為を受けた。
「…さあ、これでいい」
靴紐まできちんと結んだ遊星が顔を上げた。
満足げな遊星には一言「ありがとう」と言う事しか出来ない。
しかしまだ今日という日は始まったばかり。
そう、姫の一日の始まりである。
終
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始まったと思ったら終わってた。
ラブシーンこってり書きすぎた。