信じられない。
信じられない!
こんな素敵な人が私の…!
町中で偶然見かけた後ろ姿。
個性的な髪型は見間違いすら許さない。
小走りに近付いて声をかける。
「遊星さんっ!」
振り向いた彼はいつもどおりの無表情である。
「…ああ、か。偶然だな」
「そうですね。この辺でお仕事ですか?」
「いや、クロウに頼まれて…」
言って後ろに視線を向ける。
それだけでも納得した。
「なんか…遊星さんがコンビニ使うってちょっと変な感じかも。有名人がふらふら歩いてていいんですか?」
「問題ない。それにに会えた」
「!」
ふわりと柔らかい笑顔を向けられては顔を赤くして俯いた。
遊星は本当に何でもない顔でさらりと心を奪い取る。
怖いけど、そのまま仄めかされ続けたい。
「ゆ、遊星さんって…」
「何だ?」
「何でもありません…」
「そうか」
熱くなった頬を手で軽く仰ぎながら遊星の隣を歩く。
(遊星さんって…さらっと照れるようなこと言うわよね…)
天然の、男女見境なくたぶらかすカリスマの持ち主の遊星。
きっとこういうことを臆面もなく言えるからなのだろう。
「それにしても重そうだな。手伝おう」
「えっ、あっ、いやっ、あのっ」
自然すぎる動作で遊星はの鞄を取り上げた。
「そんな、ダメですよ…!返して下さい!」
「気にするな」
「でもっ、今日は本当に荷物が多いから…」
「なら尚更だろ?」
(うっ、そんな風に爽やかな笑顔向けないで…!)
何故だろう、今日の遊星は良く笑う。
何か良いことがあったのかもしれない。
トドメの笑みに何も言えなくなったは仕方なく遊星の隣を付いていく。
「、今日はうちに来るのか?」
「はい。あの、遊星さんに会いに行こうかなって思ってたので…」
「そうか」
少しだけ恥ずかしそうに、しかし素直に口にする。
そんな様子を遊星は満足気に見ていたが、やがて。
(きゃあ!)
びくりとが弾かれたような反応をする。
遊星の手がの手を軽く握ったからだ。
「ゆっ、遊星さん…!」
「何だ?」
「あのっ、手、手が…っ!」
「何か問題があるのか?あるならば放す」
「えぇっ!?問題は別に無いんですけど」
「ならこのまま行こう」
若干食い気味に言われては二の句を飲み込んだ。
(確かにあっさり放されても寂しいけどさ…)
それにしても心臓に悪い。
ばくばくと早鐘を打つ胸を押さえて、ははあっと息を吐いた。
「お邪魔します」
覗きこんだガレージ内は暗かった。
普段ならジャックやブルーノ、仕事が終わっていればクロウもいる。
しかし珍しいことに誰もいない。
がらんどうのガレージには若干の違和感があった。
「あれ?遊星さん、Dホイールどうしたんですか?」
全てのDホイールの姿すらない。
「貸しているんだ。だから誰もいない」
「そうなんですか」
「飲み物を用意するから部屋に行こうか」
「えっ…はい…」
思わず返事をしてしまっただが、改めて考えると遊星の部屋に入るのは初めてのことだ。
(っていうか部屋で二人きりって!)
ああ、どうしよう。
学校の女子の間で回ってたちょっとエッチな漫画みたいに部屋に入るなり遊星が狼になってしまったら…。
実ははそういうことに興味だけはいっぱいある。
(でも狼さんになっちゃっても、遊星さんなら全然大丈夫かも…それに昨日の夜だって)
ふと思い出した後ろ暗い記憶に、は一人赤面する。
誰にも言えないことだったが、貸してもらった漫画を読むうちに、は自慰を覚えた。
最近は後ろめたい気分になりつつも遊星にこんな風にされたい、こうやって欲しいと考えながら毎晩のように自らの体を慰めている。
誰にも言えない、遊星には尚更。
しかし、奪われるならば、はその身を喜んで差し出すだろう。
「今日は暑いからコーヒーよりジュースの方が良いか?」
「えっ!あっ、はい!」
変なことを考えていたは遊星の声に慌てて顔をあげる。
見れば机の上のお盆には…。
「うわ、美味しそう!」
ケーキがちょこんと載っている。
は甘いものが大好きだ。
「嬉しいけど良いんですか?」
「構わない。それに、が美味しそうに食べる姿を見るのが好きなんだ」
「やだ、恥ずかしいから食べる姿はあんまり見ないでください。あ、鞄は自分で持ちます」
遊星の荷物が増えたので、は自分の鞄をさっと手に取る。
遊星も咎めることはしなかった。
連れ立って遊星の部屋へ向かう。
(男の人の部屋に入るの初めて・・・)
特に遊星の部屋と思うと緊張が増す気がする。
しかし好奇心もかなりそそられる。
普段はクールで無表情の遊星の私生活とはどういう感じなのだろう。
「お邪魔します・・・」
扉の先は・・・当然ながら普通の部屋。
でも想像より少しだけ机の上が散らかっている。
ガレージで忙しくしていたら仕方のないことなのかもしれない。
「椅子が無いからベッドの上にでも座ってくれ」
「はい」
荷物を端に置いてベッドに腰を下ろした。
サイドボードには遊星のデッキが置いてある。
流石にこれごとDホイールを貸したりはしなかったようだ。
の視線に気付いた遊星はそれを手に取る。
「一戦やるか?」
「私じゃあ遊星さんの相手にはなりませんよ?」
の言葉に遊星は首を横に振る。
「そんなことはない。100回やれば100通りの流れになる。それが楽しいんだ」
「そんなものですか?でも、遊星さんとデュエルするのは楽しいから、遊星さんが良ければやりましょうか」
ごそごそと鞄を漁り、デッキケースを取り出した。
遊星と会う度にデュエルをしているわけではないけれど、時々相手をしてくれるのは嬉しかった。
「この前は1ターン様子見したら大変なことになったんで、惜しまずいこうと思います」
ベッドの上にカードを置いた。
デュエルディスクは使わない。
勿論ライディングでもないのでアクセルシンクロは不可能である。
「先攻はでいい」
「あ、いえ。寧ろ後攻で。先攻は遊星さんどうぞ」
「そうか。なら、俺のターン…!」
…
「うっふ、サイクロンです!これでかかし破壊しちゃいますよぉ」
「くっ…」
「で、この子で直接攻撃です!」
…
「そのミラーフォースは読んでいた。罠カード、スターライトロード!」
「やだー、スターダスト様献上してどうするの私!」
「更に、罠カード…」
「きゃー!!!」
…
「ジャンク・ウォリアー召喚!」
「罠カード、奈落の落とし穴です!」
「ならば、神の警告!」
「うっ…」
「これで決まりだな…。ジャンク・ウォリアーで直接攻撃!」
「まだですよ!罠カード、強制脱出装置!」
…
デュエルはついつい意地になるもので。
一戦のつもりが、気付けば4戦が終わっていた。
外はすっかり夕焼けに染まり、窓から差し込む夕日が遊星の部屋を赤く染めている。
「ああ、楽しかった。結局4戦もやっちゃいましたね」
負ければその都度カードを入れ替えて、勝敗は二勝二敗の引き分け・・・と、言いたいところだったが一回は粘りまくって遊星が先にドロー出来なくなり、2回目は奇跡の手札だったので(しかも遊星は手札がイマイチだった)実力で勝ったとは言えない内容であった。
それでも対戦すれば本気になるし、勝っても負けても遊星相手なら本当に楽しいから不思議である。
「まあまあな時間だな。そろそろ帰らなくて大丈夫なのか?」
「遊んでくるって先に伝えてあるから大丈夫です。うち、そんなに厳しくないんで…って言うか…」
正直母親が家に帰ってくるかどうかすら怪しいと思っていた。
の家も龍可・龍亞の兄妹と似たような家庭だった。
物心ついた頃から父親は殆ど家におらず、母親も留守がち。
13歳までは面倒を見てくれる手伝い兼ベビーシッターのようなものも雇っていたが、が手の掛からないくらいの歳になったということでそれ以降は雇わなくなった。
要するに、が今日家に帰ろうが帰るまいが気にする人間がいるかどうかも分からないということである。
「…?」
黙り込んでその先を言わないを遊星は覗き込んだ。
急に遊星の顔が近くなり、はどきりと心臓を跳ねさせた。
「あっ、いや、あの、どうせ家に誰もいないんで!何時になろうと心配いらないです!!」
あわあわとは言うが、それは聞きようによっては「帰らなくても良い」と言っているようにも聞こえた。
遊星もそれを感じて視線が強くなる。
「…、それは帰らなくても良いと言うことか?」
「えっ、やっ、そんな・・・こと、は・・・」
示唆された遊星の言葉の意味には頬を赤くする。
そんなつもりじゃない。
興味はあってもそれを遊星に言うなんて絶対に無理だ。
なのに遊星はゆっくりと顔を近付けてくるではないか。
(嘘、うそ・・・待っ・・・)
ドキドキと心臓の音が凄く大きくなる。
一分一秒がとんでもなく長いような、短いような。
思わずぎゅうっと目を瞑った。
その瞬間。
「…っ!」
感じたこともないような感触がに触れた。
温かくてふわりと柔らかい。
なのに、体を熱く震わせるかのような。
(遊星、さん…)
散々妄想で遊星と繰り返していたけれど、本当のキスはこんなにも温かくて刺激的なのか。
真夜中の一人遊びよりもずっと気持ち良い。
優しく触れていた遊星そっと離れた。
気恥ずかしくては遊星を直視できない。
そんなの耳元に唇を寄せて遊星は低く囁いた。
「今晩、泊まっていかないか」
「!」
その言葉には胸が苦しくなるくらいの興奮を覚えた。
じんわりと足の間が温くなる。
今ならものの3分でイけるかもしれないと思うほどの。
ぞくぞくと震え上がる体が好奇心を満たしたいとに訴えかける。
「…嫌か?」
遊星の確認の声にはゆっくりと首を横に振った。
「嫌じゃ、ないです」
静かなの声に遊星はもう一度の唇を押し付けた。
今度は強く腰を抱き、しっかりと抱き締めて。
逞しい遊星の腕にの体は嬉しいと悲鳴をあげた。
毎夜の妄想が今現実になっている。
(こ、これだけでイっちゃいそう…濡れてきちゃったよぉ…)
繰り返し角度を変えては何度もキスを繰り返されて、は堪らない気分になる。
遊星はどうなのだろう。
きっと慣れているに違いないが、今どんな気分なのだろう?
そんなことを考えていたが、すぐには遊星の考えを思い知らされることになる。
(きゃあ!足…っ)
の腰に回された腕が緩んだと思ったら、遊星の手が太股を撫でた。
数回制服のスカートの上を往復したそれはするりと膝を撫でた後スカートの中へ。
素肌を撫で回されては流石に体を硬直させる。
「…」
最早言葉が出せない。
そしてその手が更に奥へ伸ばされようとした時。
――R R R
遊星を呼ぶ、電話の音。
はぎくりと体を震わせ。
遊星はぴたりと動作を止めた。
「…邪魔が入ったな。切っておけば良かった」
誰に言うでも無い風で呟くと体を離す。
部屋を出て行く遊星の後姿を見て、はふうっと体から力が抜けた。
(どどどどうなるかと思った!!触られてたら濡れてるのばれてたし…!)
衝撃の連続に今更鼓動が早くなる。
へなりと遊星のベッドに突っ伏して、大きく息を吐いた。
静かにしているとドアの外の遊星の声が少しだけ耳に入ってくる。
何を喋っているのかはよく分からないが、どうもチームの誰かのような気安さだ。
(あ、遊星さん、ちょっと笑った…)
そういえば今日は分かりやすく機嫌が良さそうだったっけ。
普段は大抵無表情だからあまり分からないけど。
何かいいことあったのかな…後で聞いてみようかな。
取り残された部屋でぼんやりと考えているうちに、心臓の動悸も大分おさまってきた。
しかし唇にはまだ遊星の感触が残っているかのよう。
(遊星さんと、キスしちゃった)
頭の中で呟くとまた体温が上がってくる。
熱くなる頬に手を当てて冷ましている間に遊星が戻ってきた。
ベッドで力なく倒れているの傍に座る。
「チームの誰かからですか?そろそろ戻って来るとか?」
「ああ、ブルーノからだった」
冷静に考えれば、チームのメンバーがいるのに泊まっていくとか…。
それってあんまり良くないんじゃないだろうか。
皆それぞれ大人だし(遊星は個人判断でブルーノを雇ったと聞くし)自由といえば自由ではある。
ちょっと気分も盛り上がってはいたけれど、本当は一緒にいたいけれど!ここはやはり断るべきなのだ。
そんな風に考えているが口を開く前に遊星が口を開く。
「ブルーノの方の用事はすぐに済んだようだが、クロウとジャックが翌朝にならなければ帰ってこないらしいから、明日の昼に帰ってくると言っていた」
「……え」
思わずがばりと体を起こしたが見たのは、非常に楽しそうな遊星だった。
「泊まって、いくよな?」
「……はい…」
有無を言わせない確認に、は体をベッドに沈める。
(だから笑ってたとか?…まさかね…。あああああ、遊星さんすっごい楽しそうな顔してたあ…)
誰もいない家で二人っきりなんていよいよ漫画みたいな展開なんですけど。
そして漫画ならここでヒロインは可愛くどきどき待っているだけでいい。
そのうち相手の男が狼になるから。
何かお風呂でハプニング起こったりして。
…それは現実世界では未来永劫なさそうだ…。
それよりデュエルが白熱して気付かなかったけど(キスも衝撃的だったし)なんとなくお腹が空いてきた。
現実とはこんなものである。
「遊星さん」
「何だ?」
は窓の外に目を向けた。
さっきまで燃えるように赤かった空は、薄紫のベールがかかっているかのよう。
既に夕闇が侵食を始めている。
「ちょっとお腹空きません?何か作りますよ、私」
「さっきの続きは夜までお預けか」
「!…からかってるなら怒りますよ」
遊星の言葉に顔を赤らめる。
冗談を言うタイプでは無いが、恐らく今のは本気ではあるまい。
「はは、済まない」
ちょっと笑って遊星は赤くなったの頬にキスをした。
(きゃあ!)
更に頬が熱くなる。
これは逆効果というやつだろう。
「もぉぉっ!ほんっと怒りますよ!!」
頬を押さえて遊星を睨むが涼しい顔をしている。
唇の感触が消えたかな、と思ったらこれだ。
(ああ、きっとこうやって翻弄され続けるんだろうな)
悔しく思うがこれがきっと年上の彼氏様という存在なのだろう。
「はぁ、遊星さん、今晩何が食べたいですか。私以外で」
「…何故俺の答えを先読みした」
「流れで何となく察しました。オムライスでいいですか?好きですよね?」
それにとりあえずにも作れるくらい手軽だし。
オムレツを載せる方は難しいが、卵で巻くくらいなら簡単だ。
「ああ。の作る物なら何でも嬉しい」
「…!…ほんっと、遊星さんって…」
「何だ?」
「何でもありません。とりあえず冷蔵庫見せてください」
本当に心臓に悪い恋人だ。
結局さらりと心を奪ってしまうんだ。
そしてきっと仄めかされ続けるのだ。
が望む限り。
「…美味い」
「本当ですか?」
良かったぁ、と笑顔を見せる。
「材料が入ってて助かりました。結構自炊してるんですね」
「クロウがな」
「ああ…」
そういえば一度エプロンをしている姿を見たことがある。
顔から想像出来ない姿に物凄く驚いたものだった。
それにしてもここに二人きりなんて本当に珍しい。
そもそも全員が出払うことなんて殆ど有り得ない。
今にも誰かがガレージから声を掛けてくるんじゃないかと思ってしまうほどだ。
「遊星さん、あの…」
「何だ?」
「…本当に誰も帰ってこないんですか?」
「ああ」
いつもの無表情で遊星は頷いた。
そこから感情を読み取るのは難しい。
先程、部屋で遊星に体を弄られた時は、声にはっきりと感情が浮き出ていたのに。
(っていうか…凄いエッチな声してた…)
遊星の少し掠れた欲情の声を思い出すと、勝手に体が浮遊感に包まれる。
腰が疼くあの感覚。
思わず頬が熱くなりは俯いた。
「…どうした?」
「い、いえ…何でも…」
何でもありません、と言おうとしたの耳元に遊星が素早く囁きかける。
「さっきのことを思い出しているのか」
「!」
弾かれたように顔を上げては遊星を見た。
そこには意地悪く笑う遊星の姿が。
「素直で、可愛いな」
「あ…っ」
スプーンを置いた遊星の手がスカートを少しだけ捲り、の太股に直接触れた。
さするように手を往復させた後、更に奥に指を辿らせる。
「ゆっ、遊星さん…っ、ダメ…!」
思わずは遊星の腕を掴んで、先へ進むことを阻止していた。
触られるわけにはいかない。
だってそこは…。
「何故ダメなんだ?」
「そ、それは…っ」
は頬を更に染める。
言える訳が無い。
遊星の声を思い出して濡らしていることなど。
ばつが悪くては遊星から視線を逸らした。
その隙に遊星の空いているほうの手が、遊星を制止するの手を外してしまう。
「あっ、ダメ!」
しかしその声は届かない。
遊星の指が下着の上からの溝に浅く埋まった。
「ああ、凄いな。こんなに濡らして」
「っ、や、言わないで…くださ…」
「俺のキスだけでこんなにしたのか?それとも…もっと先を期待したのか…?」
ぞくぞくと肌が粟立つ程の甘い囁きの声とともに遊星の指先が溝を上下する。
敏感な突起に触れるか、触れないかの手つきで。
「ひゃぁんっ!」
思わず声を上げてしまった。
他人の指によるもどかしい刺激。
自慰の時とは全く違う、弱い快感。
なのに、遊星の指だと意識するだけで普段よりも愛液が溢れてくる。
「遊、星さ…、はぁ、ぁん…」
やわやわと遊星の指は規則正しく動くだけ。
は無意識のうちにその指でより深い快感を得ようと、腰を揺らめかす。
勿論遊星はその動きに気付くが、口には出さない。
気付かない振りでの好きにさせてやる。
「んっ…ん…、ああ、ダメ…ぇ…っ」
ぶるりとの腰が震えた。
(ああっ、イっちゃう…っ!)
しかしその刹那、遊星がから指を離してしまった。
絶妙のタイミングで快感を奪われた。
ぞくぞくと痺れるような感覚が行き場を失って体の中心に熱くわだかまる。
「あぁ…」
絶頂の予感を口に出来ず、何故と問えないはただ遊星を見上げるだけで。
そんなを見透かすように薄く笑う遊星の残酷なこと。
「続きは全部食べ終えてからだ。折角が作ってくれたのに、残すわけにはいかないだろう?」
言って、置いてあったスプーンを持つ。
ぐずぐずと体に残る熱を自分の指ででも解放したいところだが、それを遊星の目の前で出来るわけが無い。
促されるままにももう一度スプーンを取った。
しかし味などもう分からない。
ただそれを咀嚼して飲み込むだけの作業のようなものだ。
(んん…おかしくなっちゃうよぉ…)
膝を擦り合わせながら目の前の食事を飲み込んだ。
「んっ、あ…遊星、さぁん…」
食事中の悪戯のおかげではもう遊星のなすがままだった。
食べ終えた後、抱き上げられて遊星の部屋に移動させられて。
「あんっ、ん…」
移動の合間にもたっぷりとキスを与えられ、今に至る。
「はぁっ…はぁぁ…ん、…っ」
ベッドに座った遊星の膝の上に乗せられた。
頼りない体勢で、遊星に縋るようにその胸に頬を押し付けた。
肌蹴た制服のブラウスの合わせ目に差し込まれた遊星の手がの胸に触れている。
ぷくりと尖った乳首を摘み上げて、抓るように押し潰した。
「あぁぁっ…!やぁ、っ…遊星さん…っ!」
強い刺激には背中をしならせる。
腕の中で素直に反応するが可愛くて仕方が無い遊星は、を抱いたまま腰を抱き寄せて乳首を口に含んだ。
「あっ!あぁっ…ダメぇ…っ!!」
荒い呼吸に震える柔らかな胸が遊星の頬に触れる。
ちゅう、と強く吸って舌先で弾いたら更にが声を上げた。
「はぁ、あぁっ!ん、あっ、ダメ…っ、やだ…っ」
感じすぎる余り拒絶の言葉が口をつく。
しかしその内に潜む快楽への甘い渇望の声色を遊星は聞き逃さない。
更に快楽を与えてやるため、優しく食んでは舌で舐め回した。
食事中に絶頂を与えられなかったの体は悲鳴を上げるほどに疼いている。
ぬかるむ足の間が切なく収縮を繰り返しては確かな刺激を欲しいと涙を流していた。
「遊、星…っ、さぁ…んっ、お願い、もうっ…」
喘ぎながら訴えるに遊星はゆっくりと唇を離す。
「もう?」
「もう…い、イかせて…くださ…い」
とうとう遊星にはしたないお願いをしてしまった。
は恥ずかしさに両手で顔を覆う。
もしかしたら淫乱な女だと呆れた表情をしているかもしれないと思うと、まともに遊星の顔を見ることが出来ない。
「ふっ…分かった」
少しだけ笑ったような遊星の声。
その直後、の体は遊星の手によってベッドに押し付けられた。
スカートの中に手が差し込まれる。
ああ、またあの遊星の指を味わえるんだと思うとそれだけで興奮を感じてしまう。
しかし遊星は食事中の時とは違い、の下着を脱がせ始めた。
「…え、っ」
さっきの続きが始まると思っていたは不思議に思い、遊星を見た。
視線が合うと遊星は少しだけ口角を上げて。
「、少し疑問に思ったんだが」
「…は、はい。何ですか?」
「イく感覚を何故知っているんだ?」
「!」
遊星の問いにの頭の中がかぁっと熱を持つ。
ニヤニヤと問うてくる遊星は問いながらも答えを知っているに違いない。
が硬直したまま答えられずにいると。
「自分でシたことがあるんだな」
「あ、あの…っ、きゃあっ!!」
図星なだけに言い訳など出来ようはずも無いが、否定したくて口を開いたを無視し遊星は下着を取り去ったの足を抱える。
そして、迷わず蜜の溢れるの秘部に口を付けた。
「ひゃぁあっ!ゆっ、遊星さんっ!?」
ねろりと滑らかな舌がの突起を舐める。
「あぁぁっ!!!」
求めていた刺激とは違うが、それを上回る初体験。
妄想の中の遊星は時折こうやってを慰めてくれていたけど、本物はそんな妄想が妄想であったと強くに知らしめた。
滴る蜜を舐め取りながら遊星の舌が溝を往復する。
「ああっ、だめ、イくっ!イっちゃうのォ…っ!あぁぁあっ!!」
唾液を含ませた舌に撫で回されて、散々に焦らされていたはいとも簡単に絶頂を迎えてしまった。
がくがくとは腰を震わせて爪先をぴんと硬直させる。
そして透明な雫を噴き出した。
生温いそれが遊星の頬を濡らす。
「はぁっはぁっ…うそ、いやぁ…」
は顔を真っ赤に染めて首を横に振った。
潮を噴くなど初めてのことで、如何に遊星に感じさせられたかを思い知らされる。
しかしそれよりも自ら出した体液で遊星を汚してしまうなんて。
「ご、ごめんなさい…遊星さん、私…私…っ」
「謝る必要はない。しかし…凄いな。こんなに感じてくれるとは思わなかった」
の足を下ろした遊星が頬を手で拭う仕草にはいたたまれなくなる。
「は、初めてなんです、こんなの…本当に…」
いつでもこんな風になっていると思われたくない。
自慰は図星だが、妄想の中の遊星はをここまで感じさせはしなかった。
「だが、コレは初めてではないんだろう?」
「はぁっ、ん!」
遊星の指が達したばかりのの突起を撫でた。
まだ余韻の残る体に走る鋭い刺激。
とろりと愛液が滲んでくる。
「どうなんだ?」
「…っ」
素直に答えられるはずもなく、は首を横に振る。
くちゅ、と淫猥な音を立てながら遊星はを苛んだ。
もどかしいくらいの優しい愛撫は食事中の悪戯を彷彿とさせる。
思わず揺れる腰が遊星を誘っているようだった。
「あっ、あっ!はぁあ…っ!!」
がびくりと腰を震わせた。
目に見えて軽く絶頂に達したようだったが遊星は更に指を埋め込み、先程よりも強く指先で転がした。
「いやぁっ、遊星さんっ!ダメっ、おかしく…っな…っ、あ、あぁっ!またイっ…!」
しかし、またしても遊星はから指を引く。
二度目のお預けには体をがくがく震わせながら涙を浮かべた。
「どうして、遊星さん…」
一度イった体は貪欲に快楽を欲しがっているのに。
「イきたいか?」
遊星の言葉に最早是非もないは頷いた。
「じゃあ、自分でして見せてくれ」
「え…っ」
「出来るよな?」
確かに体はおかしくなりそうな程熱い。
じぃんと疼く体の中心が早く解放してくれと叫んでいるかのようだけれど…。
(遊星さんの目の前で…なんて)
どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。
そんなこと恥ずかしい。
絶対に無理。
だけど何となく強制力を感じる言い方に拒絶を出来ずにいると。
「」
硬直するに遊星は静かに声を掛ける。
「出来る、よな?」
二度目の言葉は更に強くに響く。
は呆然と頷くしかなかった。
「…は、はい…」
おずおずと遊星の目の前で足を開いて見せる。
これだけでもう死んでしまいたい程に恥ずかしい。
緊張と羞恥に震える自分の指先を唇に含んだ。
「…ん」
先程まで遊星が指を埋めていた場所にゆっくりと自分の指を埋め込む。
「はっ…ん…」
欲しかった刺激が腰を緩やかに支配する。
快楽の余韻を辿るようににゅるにゅると指を動かした。
「あっ、ん…!はぁ、…み、見ないで…」
じっと見つめる遊星の視線が痛い。
妄想の遊星に視姦されたことは無い。
いつだって『彼』はの気持ち良いところに触れてくれた。
そう、こんな風に。
「あっあっ…はぁぁ…遊星さぁ…ん…」
『彼』はの何もかもを知り尽くしていて。
例えばもっと激しくして欲しいと思えばそうしてくれて。
ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら突起を嬲る。
それが自分の指先なのか『彼』のものなのか、だんだん分からなくなってきて。
「んっ!あ、あぁっ…イく、遊星さん、遊星さぁん…!!」
跳ねるようにの体が痙攣した。
とぷりと溢れた愛液がの手を汚す。
はぁはぁと荒い息遣いで視線を彷徨わせると、険しい表情の遊星が目に入った。
彼の望むようにしたつもりだが、何か不満があったのだろうか。
「はぁっ、はぁっ…、遊星さん…?何か…怒ってますか…?」
「…いや」
ぎしりとベッドを軋ませて遊星がに覆いかぶさる。
「でも…急に、不機嫌ですよね…?」
「…俺の名前を呼んだだろう?」
「え…?は、はい…」
いつものクセで妄想の遊星を呼んでしまったのは確かだった。
思い出すと顔から火が出そうだが。
本人を目の前にして、妄想の中のその本人でイってしまうなんて。
(いわゆるオカズにしてますって言ってるようなものじゃない…!)
遊星の意図はともかくはまたいたたまれない気分になった。
今度は何を言われるんだろうと思うと少し怖い。
「の中の俺に、少し嫉妬しただけだ」
「え、…ふ、っ…!」
遊星の言葉を反芻する前に唇を塞がれた。
ぬるりと侵入した舌が、の唇を割って上顎をなぞる。
そして柔らかく舌を絡め取られた。
撫であう舌を軽く吸い、遊星の味がする唾液を飲み込む。
「んっ、ん…遊星さん…ん、ふ…」
離れようとすると追いかけられて、何度も唇を吸われた。
息遣いも荒く離れる時には名残を惜しむように銀の糸が唇を繋いでおり、激しさを物語る。
「だが…」
「ん、はぁっ…何ですか…、きゃ、っ」
は下肢に何やらを押し付けられたのを感じた。
一瞬ぎくりと体が強張ったが、それが遊星自身だと思い至る。
「コレは、の中の俺では無理だろう?」
遊星は軽く腰を動かして、大きく反ったソレでの溝を上下に弄る。
「やっ、は…っ、遊星さんっ…」
いやらしい動きには頬を赤くして遊星の体を押し返そうとしたが、そんな可愛らしい抵抗はますます遊星の気分を熱くした。
「…本当に可愛いな。そろそろ、良いだろう?」
「え、っ」
「俺も気持ち良くしてくれ…」
言うなり遊星がの入り口に埋まりこむ。
「あ、っ、く…うっ…!」
異物感に驚いたは戦いて体を跳ねさせたが、遊星は構わずに腰を使いゆるゆると侵入してきた。
「はっ、あ…!やぁ、苦しい…ゆうせ、い…さぁ…っ!」
の愛液に塗れていたせいか、の想像よりも滑らかに遊星は進んでくる。
痛みは少しあるけれど、それよりも寧ろ内壁を広げられる感覚が苦しかった。
「ああ、凄く良い…は、ぁ…」
の首元に顔を埋めた遊星が呟いた。
先程までの余裕の声は何処へやら。
僅かに苦しそうな、それでいて嬉しそうな…そんな声。
興奮と快感を隠そうともしていない遊星のいやらしい声にはぞくりと身を震わせる。
(んっ、もう…私今日何回イったら気が済むの…!)
初めて男性を受け入れるというのに、遊星の声だけで体の奥が熱く疼くなんて。
「う、…、あまり締め付けないでくれ…」
「んっでも…!体が…勝手に…」
「く…っ、はぁ…ああ、堪らないな…動く、ぞ」
ぎしり。
少しだけ体を浮かせた遊星が腰を引く。
「きゃあっ、んっ!!あっあっ…あぁっ…!」
規則正しい淫猥な水音が部屋に響く。
そしてそれに合わせるようにの喘ぎ声も。
「はぁっ、や、はっ、はぁ、あぁ…んっ」
「っ、…っ、は、…っ」
遊星も荒い息遣いでその速度を速めていく。
「あっあっ、遊星さんっ…!激し、っいぃ…!」
突き上げられていると、時折背中がしなるほどに気持ちの良い瞬間があった。
何度か繰り返すうちに遊星はそこを重点的に突き上げてきて。
「はぁっはぁっ、ああっ、イイっ、遊星さぁんっ!」
毎夜の一人遊びの時のように遊星の名前を呼ぶがそこにいた。
「、…っ!」
遊星も熱の篭った声でを呼ぶ。
普段ならその声は幻だが今日は本物だ。
「遊星っ、さん…!あぁ、ダメ…私っ、また…っ!!あっあっ、イくぅ…!!」
びくんとの腰が跳ね上がる。
「あはぁぁっ…」
頭の中が真っ白になるこの感じ。
体の奥が戦いてぞくぞくと肌が粟立つような快感の波が深くを攫っていく。
「う…っく」
の絶頂によりきつく締め付けられた遊星も小さく呻いた。
そして導かれるようにの最奥で欲望を吐き出す。
自分の体の中で遊星自身が跳ねる感触を、は不思議な気分で味わっていた。
「はぁ…すっごい初体験でした…」
事後の風呂場で遊星と湯船に浸かりながら、はぼんやりと呟いた。
結局、あれやこれやいたされてしまい、思い出すだけでも赤面ものだ。
「ああ、俺も初めてだったから心配していたが、上手く終わって良かった」
「え」
「何だ?」
「ゆ、遊星さん…、初めてだったんですか!?」
の言葉に遊星は居心地が悪そうに視線を逸らした。
童貞であったことを責められたと思ったのだろう。
困ったような表情をしながら。
「…今まで、恋人なんていなかったからな…」
「嘘!だってあんなに慣れてたじゃないですか!!」
初めてでナチュラルに加虐出来るものなのだろうか。
「それは…知識くらいなら俺にだってある」
男性特有の生理現象とか。
そういうものの対策に、必要だから。
「でもっ、うそ、だって……」
遊星の初めての女になったということか。
何となく、それはそれで頬が緩むような。
勝手ににやける頬を押さえながら顔をほんの少し湯船に沈めた。
「…遊星さん」
「何だ?」
「とりあえず、次があったら今度は私主導でお願いします」
終