躊躇う指先


「ん…、は…」
このアジトは正確には部屋じゃない。
使用されていない地下鉄の中の拓けたところを部屋のように設えているだけで、壁も無いし何だったら屋根すら怪しい。
「遊星…、っ」
夜とはいえあまり大きな声を出したら誰かに聞かれてしまうかもしれない。
だけど焦がれ続けた遊星の腕がきつく体を抱いているという事実に、溜め息と共に小さな声を漏らしてしまう。
後ろからを抱きしめた遊星は、その首筋に顔を埋めた。
ふんわりと鼻を掠める彼女の香り。
視界が眩むほどに脳髄を揺さぶる興奮を感じる。
「ん、…っ、」
抑え込むような小さなの声が、更に遊星を煽った。
眩暈を感じながらの耳元に唇を寄せる。
「……。良い、か…?」
遠慮がちな遊星の囁き。
しかし控え目さとは裏腹に、その渇いた声はの体を欲して掠れている。
欲情を向けられて震える程感じているに是非もない。
だけど。
「遊星、今晩はこれで許して欲しいの」
「…えっ、?」
申し訳なさそうに振り返ったが、ベッドに遊星を押し倒す。
「…、っ…?」
のしかかってくるに戸惑いを覚えつつも、彼女の柔らかな体が押し付けられるのは悪くない。
「っ、ん…」
そのまま唇が重なった。
は優しく 食むように遊星の唇に触れながら、遊星のタンクトップの裾から手を入れる。
びく、と遊星の体が強張った。
初々しい反応が可愛らしい。
堪らなくなって舌先を遊星の唇の中に滑り込ませる。
口内を優しく探り、柔らかな舌を吸って愛撫すると遊星はくぐもった声を漏らした。
慣れていないのかと思うと更に可愛くなる。
緩やかに混じり合う唾液を垂下して満足気に唇を離した。
「っは、可愛いわ…遊星…」
「……」
素直なの感想を不本意そうに受け取る遊星。
は遊星の腰の上に馬乗りになったまま、彼のタンクトップを捲りあげた。
機械ばかり弄っている割には均整の取れた体で、ちょっと憎らしくなる。
ぴたりと人差し指を遊星の喉元に当て、体の中心を辿るように下へと滑らせた。
「っ、…」
くすぐったかったのか遊星が息を詰める。
臍の辺りにくるりと円を描き、そして下腹の辺りでベルトに阻まれる形で指を止めた。
「ねぇ、遊星。これから何をされると思う?」
「…っ、え」
「そもそも…セックスの経験、ある?」
「!」
自身でも意地の悪い質問をしたな、と思う。
彼の拙く辿々しい誘い方やキスに慣れない様相を見れば経験が有るのか無いのかなど聞かなくても分かる。
の質問に遊星はかあ…と顔を赤らめた。
それは直接的過ぎるの言葉に羞恥を感じたからなのか、それとも初めてであることを責められたと恥じたからなのか。
「…」
伏せ目がちに視線を逸らし、無言で小さく首を横に振る。
心なしか悔しそうな顔をしているようにも見え、男の自尊心を傷つけてしまったかとも思ったがとりあえずは続きを行うことにした。
「そう…じゃあ何をされるか良くは分からないわね」
体をかがめて遊星の頬や首筋に何度もキスをした。
ちゅ、ちゅ…と軽く触れ合う肌の感触。
滑らかな肌と、微かに香る遊星の匂い。
堪らなくなる程愛おしくて、とてつもなく情欲を煽られてしまう。
遊星に唇を触れさせながら腰が熱く疼いてじんわりと濡れてくるのが分かった。
ここで遊星が獣になって襲いかかってきたら、の考えなど一蹴してしまえるだろう。
荒々しく組み敷かれて激しく奪われたなら抵抗など出来はしない。
だってこんなにも遊星が欲しいと思っているから。
それでも、それを押し殺す。
経験がないのは却って好都合で、好奇心や遠慮から遊星が自ら行動を起こすことは無いと思えた。
「ふふっ、遊星…凄い」
馬乗りになっているは遊星にぐっと腰を押し付ける。
内股に触れる固い感触。
わざと遊星に見せるようにいやらしく腰を揺らめかせた。
時々ぴくんと跳ねる感触さえに伝わる。
「っ、こんな風にされたら…嫌でもそうなる…」
眉根を寄せて、ともすれば不快そうにも見えるが、羞恥の裏返しであろう。
は少し笑うと、とうとう遊星のベルトに手をかけた。
かちゃりとした金属音に遊星の体が強張る。
「…、っ」
思わずの腕を掴む形で遊星は彼女の行動を妨げた。
しかし彼女は緩慢な動作で遊星をゆっくりと覗き込む。
「怖がらなくて良いのよ。今から遊星を口で気持ち良くしてあげるわ」
言いながら唇を軽く嘗めてみせる。
妖艶な赤い舌が覗く様を見せられて、未知の快感を想像させられ遊星は小さく喉を鳴らした。
「遊星、手を離してくれるわよね?」
に促された遊星は一瞬躊躇うような仕草を見せたが結局素直に手を離す。
自由になったは行為を再開した。
器用にベルトを引き抜くと、遊星のズボンの前を寛げる。
ファスナーを下ろされる時は緊張で冷や汗をかく気分だった。
そろりと下着ごとズボンを押し下げられ、彼女の手が直に触れる。
「…っ」
自分のそんなところをが触っていると思うだけで猛烈に興奮した。
しかし彼女は更に口にくわえると言う。
今、は感触を確かめるように遊星自身を上下に軽く擦っていた。
自慰とは違う、他人の手によるもどかしい快感すら未体験の遊星。
息を詰め、唇を噛んで辛うじて声を押さえ込む。
「声、聞かせて欲しいわ…」
「…断る…、っ」
熱い溜め息と共に遊星は首を振った。
恥ずかしがる様も本当に可愛い。
「いいわ。じゃあたっぷり味わってね」
体を屈めて握り込んだ遊星の勃起をぞろりと舌で撫でた。
「う…っ」
びくっと遊星の腰が跳ねる。
苦しそうに表情を歪める遊星を余所にはソレをつるりと口に含んだ。
「っはあぁ…」
思わず漏れた遊星の溜め息が堪らない。
ぬるりとした柔らかな舌が滑らかに遊星自身を撫でさする。
自慰の最中に女の体の中を想像したこともあるが、体験は想像を遥かに上回る快感だった。
好きな女がそれを行っていると思えば尚更である。
「ん、っ…は、…。大きいのね…凄いわ、遊星…」
うっとりと言われ、遊星は不思議と緩やかな充足を感じた。
少しだけ緊張が解ける。
としては殆ど本心からの言葉ではあったが、先程意地の悪い質問をした埋め合わせのつもりもある。
自信がつけば、尊厳も守られるであろう。
「んはぁっ、どう?ん、ン…気持ち、いい…?」
ゆったりと口の中に出し入れしながらは上目遣いに遊星に問う。
口の中でびくびくと跳ねるのを感じているので聞くまでもないが、遊星の口から是非聞きたい。
「…っ、く…、あぁ、イイ…っ」
眉根を寄せて苦しそうに、しかし強請るように時折腰を浮かせながら遊星は快感を口にした。
掠れきったいやらしい声で。
ぺちゃぺちゃと先端を舐め回しながらは微笑む。
じわりと先走りの粘液が滲み出しているのを感じ、既に遊星の射精が近そうなことを知った。
「素直なイイ子には…ご褒美…」
妖艶に笑って、は遊星を深々と飲み込んだ。
更にきつく根元を握り混み、頭の上下運動に合わせて扱く。
「っ、ああぁ…!」
あまりの快感に遊星はがくがくと震えるように何度も背中をしならせた。
「…んうっ!ん、…ン!」
溢れた唾液がの顎を伝うが構わずじゅぷじゅぷと繰り返す。
口の中は遊星でいっぱいで呼吸も苦しい。
だけど遊星がを求めるかのように頭を押さえ込んで来るのが嬉しくて。
は夢中で遊星をしゃぶりたてた。
「はあっはあっ、っ、あっ、出そう…だ…っ」
「んんっ…!」
「くぅ…っ、はあぁぁっ、出る、出る…っ!」
口の中で膨らむ遊星の裏筋を舌で強く刺激すると、腰を震わせて遊星は達する。
「っ…!!」
声にならない遊星の渇いた喘ぎ声を聞いた瞬間、口の中が勢い良く放たれた精液で溢れかえる。
「…ん、はぁ…」
それを垂下しながら断続的に射精を続ける遊星自身をゆるゆると扱いた。
搾り取るような動きで残さず飲み込む。
「…たくさん出したわね。すっきりしたでしょ?」
唇を放したが遊星に笑いかけるが、遊星は複雑そうな表情だ。
…最初に『今晩はこれで許してほしい』と言ったが、これとは今のことか?」
「…ええ。そうよ」
思うことあって、何となく遊星との関係を吹っ切れない。
だけど、切ない懇願を拒否も出来ない。
ふっとが遊星から視線を外した。
嗚呼、またそうやって知らない世界を思い出す。
遊星の入り込めない世界に目を向ける。
今は二人きりの筈なのに。
何がをそうさせるのかは分からないが、遊星はいつもこの瞬間に猛烈な嫉妬を覚えるのだ。
「…許さない」
「え…?」
は自分勝手だ。俺だってに気持ち良くなって欲しいのに」
真っ直ぐな視線で射抜くように見つめられた。
嗚呼、その目をされると何とも弱い。
「…それともやっぱり子供の俺に興味がないのか?」
「そんなことないわ。でも…」
たじろぐの隙を縫い、遊星はをベッドに引き込んだ。
遊星の腕が力強くを抱き締める。
「何も言わずに抱かせてくれないか。…が欲しい」
「…っ、ゆうせ、」
素直な気持ちを熱っぽく囁かれ、不器用に唇を押し付けられて。
の中の女の部分が激しく揺さぶられる。
「ダメ、ダメよ…」
手探りで掻き抱く遊星の激しさには体が熱くなるのを感じた。
ぎゅうううと抱き締めながら密着する遊星の体が昴ぶっている。
先程導いたばかりなのに、遊星の若さには戦いた。
…、俺だけのものにしたい…」
首筋に顔を埋め、唇を辿らせる遊星が吹き込むようにに囁く。
気持ちだけならとっくに遊星のものだ。
求められてこんなにも嬉しいのに。
「…あたしは、遊星のものよ…」
の言葉に、遊星はゆっくりと顔をあげた。
蒼い目がをじっと見据える。
「…それは半分嘘だ。は時々俺の知らない世界を見ている。そこに俺はいないし、入り込むことも出来ない…」
僅かな哀しみを滲ませる遊星の言葉にはぎくりと体を強ばらせる。
「捨てて欲しい訳じゃないんだ。がどんな世界を持っていても俺は構わない。ただ…その世界ごと、が欲しい」
言い終わると同時に、遊星はにキスをした。
ふわりと重なった遊星の唇は優しくの唇を 食む。
「ん、っ…子供のクセに、女の過去ごと背負いたいなんて生意気よ」
しかし言いながら、決意が崩れていくのが分かった。
本気の遊星に絆されたことを悔しく感じながらもどこかでほっとした自分がいる。
決別の時が来たのかもしれない。
世界を塗り替えてくれる相手が現れたということかもしれない。
「いいわ。そんなに求めてくれるなら…全部あげる。来て…遊星」
は自らカットソーの裾を掴んで捲り上げて見せた。
豊満な白い胸が遊星の目の前に晒される。
「…」
の行動を受けて一瞬遊星は驚いたように目を見開いたが、僅かに躊躇った後、おずおずとその胸に手を触れさせた。
形を確かめるように丸みをなぞる。
「あ、ん…」
本心に忠実になるなら待ちに待った瞬間だ。
は自分の胸に上の遊星の手に自分の手を重ねる。
「遊星、大好きよ。全部欲しいと言ったからにはたくさん愛して頂戴ね」
「…ああ、当然だ」
遊星の体がに重なった。
先程のように首筋に遊星が顔を埋める。
瞬間、かじり付かれるような甘い痛みを感じた。
「あん…、っ」
きつく吸い上げられ、証を残されたことを知る。
合間に遊星が下着をずり上げた。
直に触れる遊星の手。
緩やかに揉みしだかれてはぴくんと体を震わせる。
少しずつの体が遊星に感じ始めているのを見て取った遊星は、を見下ろして。
「何処が気持ち良いんだ?子供の俺にも分かるように教えてくれないか?」
ニヤニヤしながらに問う。
しかしその指先は既に膨らみかけた乳首を摘み上げて捏ね回している。
明らかなる仕返しだ。
そんなに子供扱いされたのが気にくわなかったのか。
「っ、行動と、台詞…合ってない…っ、はぁん…っ!」
きゅううっと乳首を強く抓られた。
強い刺激にの背中がしなりあがる。
良い反応をするを満足気に見て、遊星はの胸にかぶりついた。
「あぁ、っん!」
弄ばれて敏感になった乳首が遊星の舌で優しく撫でられる。
弾くように何度も往復される刺激が、甘くの腰に響いた。
「んっ、は…、あは、あぁん…っ」
先程遊星を口で愛した時からずっとくすぶっていた熱がまた勢いを増すのが分かる。
足の間がじわりとぬかるみ、疼くように体の奥がきゅうんと収縮するのだ。
「ゆ、せいっ、あ、あっ…!」
遊星の頭を抱き締めるようにして胸を押し付ける。
しなった背中を抱いて、遊星はその求めに応えた。
空いた手でそろりとの太股を撫でてみる。
滑らかで吸い着くような手触り。
そのままの女の部分に指を辿らせていく時、の秘密に触れるような気がして遊星は密かに興奮した。
「あ、っ、だめェ…」
弱々しい拒絶の言葉を無視して下着の隙間から中に指を差し入れた。
ぐちゅりと熱く濡れたそこはぴくぴくと震えながら遊星を迎える。
「やぁっ…!」
「こんなに濡れているのに…熱い…な」
ぬかるむの秘部に指を埋めたとき、不意に先程の口淫の感覚が蘇った。
初めての経験だったがぬるりと温かな柔らかさは腰が蕩けるほど気持ち良かったことを覚えている。
またあの快感が味わえるかもしれない…。
生々しく思い起こされる記憶に遊星は更に自身が膨張するのを感じる。
「んはぁっ…!」
ぐうっと押し込まれる遊星の指。
望んでいるモノでは無いが内壁が押し広げられる感覚に快感を覚えて更に愛液が溢れ出した。
ゆっくりと探るように蠢く指が焦れったくて堪らない。
「はぁ…遊星っ、だめ、っ…焦らさないでぇ…!」
体温を上げる体が絶頂を欲しているのに、決定的なモノを与えられないもどかしさ。
「遊星、遊星を頂戴…!遊星のが欲しいの…っ」
思わずは遊星にすがりつくように懇願していた。
遊星は視界がくらりと歪んだような気分を覚える。
求められるだけでこんなにも欲情するものなのか。
理性にヒビが入る音が聞こえる。
っ…」
荒々しくの下着を剥ぎ取り足の間に体を捩じ込んだ。
痛い程張り詰めた自身を取り出し、の入り口に押し付ける。
「っ、…」
突き立てるように侵入してきた遊星の質量には息を飲んだ。
「はあっ…、っ…凄い…!」
口淫よりもきつくて柔らかく温かい内壁が遊星を迎え入れた。
「うあっ、…あぁ…あー…っ」
声を抑えられない程の快感が遊星の体を駆け抜ける。
射精感を堪えて遊星は背中をしならせた。
「はぁんっ…ゆうせぇ、大きい…っ」
の甘い喘ぎ声が耳をくすぐる。
いつものしっかりした声ではなく、甘えるような蕩けた声。
焦らしたらもっと縋ってくれるだろうか。
そんな気分になって遊星は緩慢な動作で腰を引いた。
「んン…っ、ああぁ…」
ぬるりと引き抜かれたソレがゆっくりと押し込まれていく。
快感を生み出す動作というよりは探るような動きだ。
「あっあっ…、遊星…はあぁぁ…」
深い溜め息を吐いて、は遊星を見上げる。
を組み敷いた遊星は伏せ目がちに視線を落としていた。
「…、苦しそうだが…大丈夫、か?」
「ん、…遊星が、焦らすから…。もっと…激しく犯して…」
甘えた視線で強請られて遊星は充足を覚えた。
そう、もっと縋って甘えて頼って欲しい。
「もっと?こうか?」
遊星はに覆いかぶさり足を抱えた。
ぎしりとシーツの波が揺れる。
「あ!っ、あぁ…っ、はぁっ…そうっすご、い…!もっとシて…ぇ!んンぅ…っ」
堪らなくなって声をあげるの唇を奪った。
唾液を交わらせながら獣のように唇を貪る。
「んっ、ふ…はぁっ、ゆうせ、あっあっ…んはぁ…!!」
っ、…イイっ…、はぁあっ…!」
規則的に体のぶつかる音がする。
行為の激しさを物語っているようだった。
「はぁっはぁっ…あぁぁ…遊星、あたし…っもう…!」
突き上げられる度にびくびくとの中が震える。
遊星が深くの最奥を突き上げた瞬間。
「あぁぁあっ!!!」
「っうあ…!」
体を震わせて絶頂に達するの体がきつく遊星を締め付けた。
断続的にが腰を跳ねさせるたびに締め上げられて、堪らず遊星も押し殺していた欲望を開放する。
「く、っは…はぁ…っはぁあ…っ」
今晩2度目も目が眩むほどの快感だった。
荒い息を吐きながらから体を離す。
見下ろしたは困ったように笑っていた。
「…やっぱり、遊星はまだ子供ね」
「…何を…」
「我慢出来なかったんでしょう?中で出すなんて」
「!」
そういえば夢中で忘れていたけれど。
「いいのよ。別に。責任取れなんて言う気はないし。あたしも気持ちよかったから止めなかったしね」
そんなの言葉に遊星は二の句が告げなくなる。
「やだ、遊星ったらそんなにショック受けないでよ。あたし気にしてないわ」
「いや…夢中だったとは言え、の体を気遣えなかったことにショックを受けているんだ。…済まない、
真摯過ぎる遊星の言葉には一瞬ぽかんとする。
まさかこんな言葉を聞けるとは。
ちょっと意地悪を言ってみたかっただけなのに、遊星の愛情を感じて不覚にもときめいてしまったではないか。
「子供が出来てもが産んでくれるなら産んで欲しい。どんなことをしてでも二人を守り抜くから」
「…遊星…。もう、本当にアナタって…」
愛した蒼い目に射抜かれる。
きっともう離れられない。


嗚呼、こうやって知らされるなんて。
彼は強い人だったんだ。










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ここまで読んで下さってありがとうございました。