春の青さに僕、負けた


「外科は専門外だけど…こんなことならもうちょっと考えて選べば良かったかな?」
ぱちん、と包帯を静かに切って困ったように笑う。
「あんまり無茶しちゃダメよ。安静が一番の近道だからね」
穏やかにクロウに微笑みかけた。
「悪ィな、
「良いのよ。監視も兼ねてるんだし」
先日の事故で怪我をしたクロウを往診するように、はここ連日ガレージに顔を見せている。
遊星やクロウよりも早く孤児院を卒業して行った
今は小児科医として孤児院を回っているそうだ。
経済的弱者のが医師になるには相当の苦労があったに違いないと誰もが思っていたが、知る者は少なかった。
「さて、今日は少し時間があるの。ついでに皆診てあげるわ」
鞄から聴診器を取り出し、おもむろにクロウの服を捲り上げる。
「うわ、いきなり何するんだよ…!」
「はい静かに。クロウが終わったらジャックと遊星だからね。コートとジャケット脱いどいてね」
振り返ることも無く言う
ぺたりとクロウの胸に聴診器をあてており、返事を聞くつもりはなさそうだ。
「深く吸って……そう、吐いて…」
真摯で静かな声の声と、衣擦れの音が響く。
邪魔をしてはいけないと思うのであろう。
遊星もジャックも無言でその様を見ていた。
「ちゃんと食べてる?」
「おう」
「睡眠は?」
「…まあ、ちょっと朝が早い時もあるけど」
「最近どっか調子悪いなーって感じたことある?」
「ねェ」
簡単な質問を投げるにクロウも短めな答えを返していく。
結局のところ、病魔というものは本人が自覚する以外に見つける方法など殆ど無いのだ。
勿論触診で見つかる異常もあるからこうやって体の音を聞いたりもする。
が、それ以上に普段の自覚症状というものが大切で。
「いつも言ってるけど、調子悪いなって思ったら隠さずに言うのよ。言いにくいなら電話でもメールでも何でもいいから」
「分かってるって。聞き飽きたぜ、その台詞」
服を直しながらクロウは苦笑した。
「ま、確かに今は健康みたいだけどね。はい、じゃあ次はジャック」
クロウの前を離れ、はジャックの前に立つ。
「ほんっとに背が伸びたわよね…ジャックは」
「それも聞き飽きた」
「…ホント、口が減らないわねぇ…」
この3人を小さい頃から知っているは一種姉のようなもので。
苦々しい表情を浮かべながらジャックの服を捲り上げた。
「はい吸って…止めて…」
クロウの時と同じくギャラリーは静かにしている。
しかし遠巻きに眺めていると、こうやって聴診器を大人しくあてられているという光景はなんとなく面白い。
特にあのジャックが。
「ちょっと痩せた?ちゃんと食べてる?」
「ああ、別に食事に変化は無い」
「そう…気のせいかな。遅くまでデッキ触ったりしてない?」
「何故俺の場合はそう限定的なんだ」
クロウの時は寝不足かどうかを聞いたくせに。
「だって、ジャックはお昼寝の時間もなかなか寝なくて。カードばっかり触ってたじゃないの」
「何時の話をしている!」
「あのね、ちっちゃい頃の習慣ってなかなかなおらないのよ?」
笑いながら言うは恐らく仕返しをしているのだろう。
気付いたジャックが溜め息を吐きながら「していない」と答えた。
「調子悪いとことかある?」
「無い」
まあ大概この返答である。
何だかんだ馴染みの付き合いで、ジャックもクロウも調子が悪ければ顔を見たときに素直に打ち明けてくれることの方が多いのだから。
この辺は本当に素直に育ったなぁ…とマーサの手腕を改めて凄いと思う。
「はい、ジャックも健康です。じゃ、最後は遊星ね」
「…ああ」
「遊星は聞くまでも無く寝てないんでしょうね。あんまり無茶するなら寝かしに来るわよ」
ジャックの前から移動したが遊星の顔を覗き込む。
眼が充血していないかどうかを見ただけだったが、強い蒼の視線に少しどきっとさせられただけだった。
「心配してくれなくても大丈夫だ」
抑揚も薄く返してくる遊星の服を捲り上げ、やはり同じく聴診器を当てる。
「全く。可愛げないわね……ん?」
ぺたりと押し付けた聴診器をもう一度当てなおす。
「…遊星」
「何だ?」
「……ううん、いいわ。はい、吸って…」
医師に言葉を濁されると言うものは存外怖いもので。
「お、おい。言いかけて止めんなよ。遊星どっか悪ィのかよ…」
「違うわ。あてるところ間違えてちょっとどきっとしただけ。ごめんなさい」
改めてぺたぺたと聴診器を移動させる。
ヒヤリとした感触が遊星の肌に断続的に押し当てられていく。
「遊星は隠しがちだから…、調子悪いの隠してたりしないわよね」
「していない」
「……ま、信じましょ。倒れるまで根詰めちゃダメよ」
「ああ。分かっている」
ジャケットを着る遊星を尻目には聴診器をバッグの中にしまい込んだ。
代わりに携帯を取り出してポケットに入れる。
「じゃあ私そろそろ行くわね」
「おぉ。送るか?」
クロウが居住まいを正すに声を掛けた。
この後は孤児院まで行くのであろうと予測しての言葉だったがは首を横に振った。
「今日は車なの。でもありがとう。クロウはいつも優しいわね」
にっこりとが微笑み返す。
照れたように頬をかくクロウと、そしてジャックと遊星を順番に見てはガレージを出て行った。



「…」
車に乗り込んでは携帯を取り出す。
短いメールを作成して、それを送った。


相手は、遊星。




少し高揚感を感じる帰り道。
帰り際確認した携帯に、遊星からの返事がきていた。
内容は了承したというもの。
味もそっけもないと言えばそうかもしれないが、も送ったメールには何一つ用件を盛り込みはしていなかった。
ただ家に来て欲しいとだけ伝えたのである。
少し早めに帰って来たが、マンションの駐車場に赤い影が見えた。
見間違える訳がない個性的なシルエット。
慌てて車を停める。
「やだ、早かったのね。待たせてごめんなさい」
「来たところだ。何の用なんだ」
「…うん…中で話そうと思うんだけど…」
「…」
歯切れ悪く言いよどむ
そのまま先立つに遊星は黙ってついていく。
部屋に入るのは初めてではないが久し振りである。
最後に遊星がの部屋に入ったのは、がパソコンを購入した時だった筈だ。
「話す前に夕飯にしましょうか。昨日の残りみたいな感じなんだけど、遊星も付き合ってね」
「だが…」
「遠慮しないのよ。遊星の悪い癖よね。こういう時は甘えればいいの。生活、結構大変でしょう?」
多分、孤児院から筒抜けなのだろうと遊星は直感した。
クロウが骨折した時も結局連絡しなかったのに、は何処からか聞きつけて飛んできたし。
それならば、と遊星は了承する。
コートと白衣をハンガーに掛けてはキッチンへ向かった。
「遊星はそっちに座ってて。何か飲む?」
と、声を掛けながら遊星の返事を待たず牛乳の入ったグラスを前に置いた。
素早い動作が何となく面白くて遊星は漸く表情を和らげた。
「返事を聞かないところが変わらないな、は」
「え?そうだっけ?」
「ああ、いつもはお菓子をいるかどうか聞きながら、返事を待たずに差し出してた。今日だって」
「今日?」
「クロウの返事を待たずに服を捲り上げたじゃないか」
遊星に指摘されて記憶の糸を手繰り寄せる。
しかし全く覚えていない。
無意識に行った行動の詳細など覚えているわけがない。
だけど、その癖はあまり良いものではなさそうだ。
時と場合にも寄るだろうが意識的に気をつけるべきなのかもしれない。
他人の印象に残っているわけだし。
「…全然覚えてないけど…気をつけるわ」
「いや…別に直して欲しくて言ったわけじゃない。変わらないなと思って…」
言って遠くを見るようにに視線を向ける遊星は、その後ろに記憶の中の彼女を見ているようだった。




「はい、お待たせ」
殆ど温め直すだけの作業で終わったので、待ったというほど待ってはいない。
「簡単なものばっかりで悪いけど…」
の言葉に遊星は首を横に振った。
「それでもまともだ」
「……あなた達の食生活を聞くのが怖いわね…。ええっと…」
鞄の中から手帳を取り出してぱらぱらとページを捲った。
「来週の月曜なら時間出来そうだから、改めて皆でいらっしゃい。夕飯食べさせてあげるから」
「いや、そこまでして貰うのは…」
「良いのよ。独りで食事するのもつまらないしね。まあ、あたしが作るから、昔食べたようなものばっかりだけどね」
ある程度の年齢になった頃、は料理を積極的に手伝うようになった。
それはいつか独り立ちせねばならないことを漠然と感じていたらかである。
医師を志した彼女はいつからか急に大人になったことを遊星は何となく覚えていた。
「なら、皆にも伝えておく。ありがとう、
「ふふっ、改まれると照れるなぁ。ほら、食べて食べて。冷めないうちに!」
「ああ。…いただきます」
遊星が箸を手にしたのを見ても箸を持つ。
やはり誰かがいる食卓とは良いものだと思った。
暫くは遊星を相手にが他愛もない話をぽつぽつとしていたが、そろそろ食事も終わろうかという頃のことである。
遊星が急に表情を曇らせて口を開いた。
、今日俺を呼び出したのは…昼間のことでなのか」
「!」
鋭い遊星の言葉にはぎくりと体を強張らせる。
「やっぱり、そうなんだな」
「えっ、やっぱりって…」
目聡くの緊張に気付いた遊星の言葉には狼狽した。
呼び出した理由に気付いているというのか。
まさかそんなと早鐘を打つ心臓を抱えては必死で平静を装った。
遊星は僅かに表情を曇らせて視線を逸らす。
「WRGPには…絶対に最後まで出場したい」
「え、う、うん」
がダメだと言っても俺は…」
「ちょ、待っ…、なんであたしがダメって言うのよ」
「え?」
「え?」
どうやら、会話のポイントがずれているようである。
それに気付いた遊星はきょとんとしながらに言葉を続ける。
「俺は…病気なんじゃないのか?」
「病気?なんで遊星が病気なの」
「今日俺を看た時様子がおかしかったじゃないか」
「…!」
「だから呼び出したんだと思っていたんだが…」
遊星の視線が戸惑うように宙を泳ぐ。
確かに呼び出した理由はそこにある。
しかし、遊星の体に異常があるから呼び出した訳ではなかった。
「呼び出したのは昼間のことでだけど、遊星が病気ってわけじゃないのよ。確かにあのタイミングのメールは意味深だったわね。ごめんなさい」
「用件すら書いていなかったから、メールでは言えないことなのかと…」
「それは間違いないわ。メールでは言えないことを伝えるために呼び出したの」
「…良く、分からないな。一体何の用事なんだ」
「…」
詰め寄られ、は黙り込む。
言葉を探して口を開くが、言葉にはならなかった。
「部屋で…話すわ」
「…」
丁度食器も空になったところだった。
そんなにも深刻な話なのか。
遊星に心当たりなど全く無い。
食器を流しに片付けるの後姿を眺めながら穏やかではない胸中を探れども、何一つ引っかかる物など見つかりはしなかった。


の私室の中は、どちらかと言えば殺風景だった。
しかしここに入るのは初めてではない。
前にパソコンを設置したのはこの部屋である。
は椅子がないからと遊星をベッドの縁に座らせると、自分もその隣に座った。
「遊星…間違ってたらごめんなさい」
「?」
「もしかしたら自惚れているだけなのかもしれないけど、遊星……あたしのこと、好きでしょう?」
「!」
びくんと体を緊張させて遊星がを見る。
怯えと羞恥の入り混じる表情を浮かべている遊星にも視線を返した。
「…急に、何故…」
「一度…ね。男の子を看たの」
遊星への返答には記憶を辿り始める。
それはそんなに遠い記憶でもないが、印象的な記憶だった。
「その男の子はただの風邪だったけど、看てる間に…女の子が様子を見に来てね…。駆け寄ったかと思うと男の子覗き込んで『早く元気になってね』だって。微笑ましいなーって思ってたんだけど、聴診器当ててぎくってしたの」
「…」
「尋常じゃなく脈が速くって…最初は危険な病気を疑ったわ。だから色々聞いて見たの。でも、脈が速い以外に変なところは無くてね。そのうち…その脈も通常に戻っちゃって」
何となく、その話のオチが見えてきた。
話が終わりに近づくにつれて遊星はだんだんと頬が熱くなるのを感じる。
「あたし、男の子に聞いてみたのよ。『さっきすごくドキドキしてたんじゃない?どうかしたの?』って。そしたらその子ね、さっき来た女の子が好きなんだって教えてくれたの。だからドキドキしちゃったって。先生に心の中聞かれちゃって恥ずかしいって」
確かに、恥ずかしい。
実感をもってそう言える。
思わず俯く遊星の肩をが抱き寄せた。
「今日の遊星、その男の子と同じだったの。あたしが目を覗き込んだ時、何でもないような顔して…」
「っ!…もう許してくれないか…」
読まれた胸の内を他人の口から吐露されるのがこんなに恥ずかしいものだとは。
俯いた顔を手で覆い、消え入りそうな声を出す遊星。
そんな遊星が可愛らしくては腕を伸ばす。
「だから最初に謝ったの。勝手に心の内を見てしまって、ごめんね。…でもね」
宥めるように遊星の体を優しく抱き締めて、そっと遊星の耳元に唇を寄せた。
吐息がかかってしまうようなそんな距離まで近付く。
「嬉しかったの。ね、遊星…あたしも遊星が好きよ。小さい頃からずーっと…」
の言葉に俯いた顔をあげる遊星。
そんな遊星の耳元で、は更に続けた。
「目を覗き込んでドキドキしたのは遊星だけじゃないわ…あたしだって……」
そう、紺碧の瞳を覗き込んだ時にドキッとした。
真摯に見つめ返す遊星に。
立場が逆であったなら、胸のうちを読まれていたのは自分だったかもしれない。
そして境遇が同じで立場だけが逆だったならきっと遊星も同じ事をしたのではないだろうか。
「遊星…」
そっと遊星の頬にの手が触れる。
優しく自分の方を向かせるとゆっくりと顔を近付けた。
、…っ」
何をされるのか理解した遊星が怯えたように名を呼ぶがは止まらない。
そのまま唇を重ねる。
その瞬間を拒絶するかのように遊星が肩を掴んだが、結局押し返されることは無かった。
遊星に肩を掴まれたままで触れ合うだけのキスを交わす。
柔らかくて暖かな感触に、ずっと触れていたい気分にさえされるが、暫くの後名残惜しい気分では遊星から離れた。
そっと視線をあげると戸惑ったような遊星の表情が目に入る。
「…、本当に…俺のことを…」
「ええ、愛してる」
その言葉を求めるような質問をしたくせに、素直なの言葉に遊星は体を強張らせて頬を僅かに染めた。
いちいち反応が可愛らしくて堪らない。
遊星はきっと知らないのだろう。
女の中にも恐ろしい獣が眠っていることを。
それを初めて遊星に教えるのは自分なのだと思うと愉悦の寒気すら感じるほどだ。
後ろ暗い欲情の波が緩やかにの背中を押す。
「ね、遊星…。今日は、帰さないから」
「!」
「楽しいこと、教えてあげるからね」
衝き動かされるままには言うと、遊星が抵抗する前に彼の体をベッドへと押し倒した。




っ、ま、待ってくれ…!」
容赦なく絡み付いてくるの体。
体重を掛けられれば服越しに柔らかさが伝わってくる。
病気の宣告を受けるのだろうと思って、色々な決意と覚悟をしてこの部屋に来た筈だったが、こんなことになろうとは思ってもいなかった。
流石にこんな心の準備などしていない。
首筋に顔を埋めたの唇がくすぐるように皮膚をなぞっている。
「っ、あ…、!」
ぞわぞわと感じたことも無い感覚が遊星の背中を駆け抜けた。
「大丈夫、怖くないわ。気持ちよくしてあげる…」
甘くて優しいはずなのに艶めきを含んだ囁きにすら不思議な震えを呼び起こされてしまう。
足の間におさまったの太股が下半身に押し付けられていることに遊星は恐怖と羞恥を感じた。
平静のうちは良いけれど、隠し切れなくなってしまったらどうすればいい。
そんな遊星の焦燥を他所に、は遊星のジャケットに手を掛けた。
「うわ、っ…、やめ…っ」
「脱ぐの恥ずかしい?なら…これならどうかしら」
遊星の反応には体を起こして腰に跨った。
とりあえず彼女の足が離れたことに遊星はほっとしたが、次の瞬間目の前のは自分の服を捲り上げたのである。
隠されていた白い肌が露になる。
更にはスカートも器用に脱いでしまい、下着姿で遊星の上に座って見せた。
「二人とも裸なら気にならないでしょ?」
事も無げに言ってのけるが遊星的にはそういう問題ではない。
それに目のやり場にも困る。
遊星が無言で視線を逸らすのを見ては更に遊星を苛めたくなった。
返事をしないのを良いことに遊星のタンクトップを捲り上げる。
そして、身を屈めて遊星の下腹に唇を押し付けた。
「っ!」
息を詰めた遊星がぴくんと反応する。
おそらくはくすぐったかったのだろうと想像し、しかし更にくすぐるように舌先で滑らかな肌を撫でた。
ねろねろとぬめった舌が遊星の下腹の上を移動する。
緩やかにお臍の周りをなぞり、時々脇腹にかぶりついては跡を残してやった。
きっとが唇の跡を残していることには気付いていないだろう。
ただただ荒い呼吸を隠すかのように口元を腕で隠しては、時折漏れそうになる声を押し殺しているようだ。
そんな可愛い事をされると余計に声が聞きたくなるというもので。
は下腹を辿りながら遊星のベルトに手を掛けた。
「止めろ…っ」
流石に体を起こして遊星はの手を掴んで制止する。
「頼む…もう…」
「やめて欲しいの?こんなになってるのに?」
いやらしい笑みを浮かべたは、掴まれていない手でズボンの上から遊星の股間を撫で回す。
軽く撫でるだけでも分かるほどに遊星は昂ぶっていた。
「…っ、からかうのは…やめてくれないか…」
「だって遊星がいちいち可愛い反応をするから…。でも意地悪したいんじゃないのよ?愛してあげたいの」
加虐的な気持ちを煽られたことは事実だが、愛情だって本物だ。
遊星が望むならどんなことだってしてやりたい。
望みを知らないならば教えたい。
「遊星、少しだけ…あたしに体を預けてみて。怖くないわ。本当に嫌なら止める。でも、ちょっとだけあたしを信じて…ね?」
掴まれた手を解きながら諭すは遊星の返事を待たずベルトを緩めていた。



「うふ、すごい…美味しそう」
の呟きに遊星は恥ずかしすぎて死ぬかとすら思った。
好きだという気持ちは勿論のこと、憧れのお姉さんのような存在でもあるにこんな状態になった下半身を晒す日が来るなんて。
ゆっくりとの唇が近付けられるが頬張られる瞬間を直視するなんて出来なかった。
「う、あっ…」
それでも敏感に膨張した自身に触れるぬるりとした暖かな感触は刺激的で思わず声が出てしまう。
視線を逸らした分余計に感じてしまったのかもしれない。
「ン…おっき…」
の呟きに恐々と視線を遣れば、やや苦しげに息を吐くはそれでも満足そうに飲み込んでいる。
堂々と勃起を晒しただけではなく、ソレを彼女が口内に含んでいるという視覚的効果が更に刺激的だった。
口から出し入れされるソレが自分の体の一部だとは思えないくらいなのに腰から這い上がる快感は本物である。
自慰で得られる快感とは全然違うことを思い知らされた。
「はぁっ…遊星、気持ちイイ?嫌じゃないでしょ?」
ぺろぺろと先端を舐めながら根元を扱くの手。
いけないことをさせているような気分になるが、ここまでされてもう止まれない。
遊星は控え目に頷いて見せた。
「良かった。じゃあもっとしちゃうね」
ちゅぷんと先端を口に含みくびれた部分を丁寧に舌でなぞる。
そしてざらざらと裏筋を舌で撫でさすりながらじゅぷじゅぷと音がするほどにしゃぶられた。
「っ、あ…っ、あぁ…っ!」
他人から与えられる性感に慣れない遊星の体はじわりと粘液を滲ませる。
口の中で跳ねる遊星自身を愛おしく感じて更に舌を絡めた。
「う、ぅっ…、っ…そんなにしたら…っ、出るっ…!」
「ん…、ふ、ふふ…早いわね、良いわよ…ん、っ…飲ませて…」
早いと言われて遊星は恥ずかしくなるが、気持ち良すぎて込み上げる射精感を押し殺すことが出来ない。
「…あっ、あっ!う、あァ!イくイくっ…でるうぅっ!」
深く飲み込んでいるの頭を押さえつけながらびくびくと腰を跳ねさせて射精する。
びゅうぅっと勢い良く迸る遊星の精液をは喉を鳴らして飲み込んだ。
「あっ…はぁ、あぁぁ…」
断続的に脈動を繰り返してはびゅくびゅくと放つ量にはうっとりと遊星を見上げた。
ほんのりと頬を上気させともすれば苦しそうに顔を顰めてはいるが、欲情の色がありありと浮かんでいる。
口元から零れ落ちる浅い吐息が獣のようですらある。
しかし先を請うことも行為に及ぼうともしない辺りに遊星の不慣れを感じた。
逆のことを遊星も感じたのだろう。
吐き出しきった遊星がようやく整い始めた呼吸と一緒に苦々しく呟く。
「慣れて…いるんだな……」
「…まさか、凄くどきどきしてるわ。でもね、遊星の前ではもう少しお姉さんでいたいの。いさせてくれるわよね…?」
初めてではないが経験が多いわけでもない。
だけどそれ以上に遊星が可愛くて可愛くて。
体の下に重ねた遊星の胸板に唇を押し付ける。
つう、と舌で辿ってぷっくりと膨らんだ遊星の乳首をちゅっと吸いあげた。
「っあ…!」
敏感に背をしならせて声をあげる遊星。
その胸に女のような膨らみと柔らかさは無いが、胸板を撫でながら空いた方の乳首も指先で捏ねる。
「く…ぅっ…」
唇を噛み、声を抑えようとする姿に男のプライドを感じる。
しかしそんなことをされるとまた苛めたい衝動が沸々と込み上げてきて。
「可愛い、遊星…。ココ、感じるのね」
ねろねろと舌を這わせながら、跨った内股で遊星の下半身をぐりゅっと刺激した。
先程射精したばかりなので硬さは感じなかったが、それでもぴくんと反応するのが可愛くて愛おしい。
そのまま腰を揺らして刺激を与え続ける。
「あっ…、あぁ…っ」
「気持ちイイ?おっきくなってきたね」
「…言わないで、くれ…っ、はぁ、あぁぁ…っ」」
遊星の食いしばった歯の間から抑え切れない吐息が切なげに零れている。
強請るかのようにの腰を掴む遊星だが、それ以上どうすれば良いのか分からないのだろう。
ただただの与えてくれる快楽を教授していた。
「ン、ふ…遊星…愛してるわ…。可愛い遊星…」
優しく囁いてちゅうっと乳首を吸い上げた後、は体を起こす。
そして足の間で充血して震えている遊星の勃起にそろりと手を伸ばした。
「っ…!」
敏感に膨らんだ輪郭を冷たい指がなぞり、遊星は息を飲む。
「遊星、初めてなんでしょう?…あたしがもらっちゃってもいい?」
控え目な確認に意外そうに遊星はを見た。
じぃんと熱を帯びた体は遊星の意志とは関係なく、彼女に蹂躙される事を望んでいる。
きっとこのまま嵐のように奪われるのだろうと思っていたのに。
「そんな確認…いらない…」
「遊星?」
「俺は…になら何をされたって…」
やおら体を起こして恥ずかしそうに俯く遊星が、呟きながらおずおずとの体を抱き締めた。
逞しい腕にドキドキしつつ遊星を覗き込む。
すると視線を合わせるように顔を上げた遊星の唇がに重なった。
「ン…」
まさか遊星からキスをしてもらえるなんて。
不器用に重なるだけのキスを幸せな気分で受け入れてはそっと腰を浮かせる。
そして、遊星を跨いで一気に体重を掛けた。
「ンうっ!」
「っんあぁ…っ」
遊星の体がビクンと跳ねて、を抱き締める手に力がぎゅうっと篭った。
「は、あぁっ……すごいっ…」
「遊星も…おっきい、あっ…当たるの、わかる…?」
ぐりぐりと腰を深く押し付けては気持ち良さそうに背中をしならせた。
断続的にきゅうきゅうと締め付ける感覚と先端がの奥に擦り付けられる感覚。
「はぁっ…ああ、イイ…っ、、…っもっと……っ」
未知の快感に遊星は思わず素直に請うていた。
「もっと?こう?」
意図的に遊星を締め上げたが腰を揺らす。
絡みつくようなの内壁が遊星をいやらしく舐めた。
先程の口淫を髣髴とするが、それよりもずっと気持ちイイ。
「ああっ!…あ、あぁぁっ、…っ!!」
他人の手によるもどかしい快感に追い縋るようにの腰を掴んで遊星も腰を揺らす。
突き上げられると自重も手伝ってより深く咥えこまされた。
「ひゃぁ、あぁっ…ゆう、せ…あんっ、動いちゃ…、あっあっ…!」
「すま、ない…っ、はぁっ…止まらない…っ、はあっ…は、あぁ…」
抱き合った体がしっとりと汗ばんでいる。
それでも更に高まる体温を分け合いながら、抱き合った遊星には唇を重ねた。
首に腕を回して遊星の舌を絡め取る。
「んふ、っ…はぁ、あっ…」
柔らかな感触と遊星の味を堪能しながら、は更にベッドを軋ませた。
押し付けられた胸の柔らかさや直接的な膣壁の刺激が遊星を煽る。
…、っ…は、あ…っ融けそうだ…、熱いっ…」
「あたしも…っ、すごいの…、遊星、遊星…っ…!」
ずぶずぶと乱暴に突き上げる遊星が奥を貫くたびに腰が震えた。
気持ちよくしてあげようと思っていたのに、これではいけないと思いつつも遊星の逞しい質量に骨抜きにされてしまいそうな自分がいる。
「あっあっ、そこォ…、ゆうせぇ、イイっ…すっごく…いいよおっ」
貪欲に飲み込みながら甘く求めると、中の遊星が膨らんだ気がした。
もうすぐということなのだろう。
「イきそうなら…我慢しなくていいからっ…!遊星の、いっぱい頂戴っ…!」
「!」
「中で…いっぱい出してェ…っ」
頬に手を添え遊星を覗き込むように請うの劣情に塗れた顔。
こんないやらしい顔をした彼女は初めて見る。
ごくりと遊星は喉を鳴らした。
「うあっ!」
そしての腰をきつく掴むとぐじゅっとぬかるんだの奥を深く抉る。
「あぁぁああ…深いいぃ…ゆう、せぇ…っ、はぁっはぁっ…あぁぁイイぃ…っ」
「う、く…っ、はぁあっ、の中…っ、びくびくして…っ、はぁっ…」
「だってぇっ!はぁっ、感じる、ンだもん…っ!遊星っ、イイのォ…っ、すっごく…!」
じゅぷじゅぷと卑猥な音を響かせて注挿を繰り返す。
嘗め尽くすように絡みつくの膣壁がそんな遊星を導いた。
「はぁっ、…もう…イきそ、うだ…」
「ん、イって…!頂戴っ、遊星が欲しいっ…!」
ぎゅうううとが遊星を抱き締める。
同時に彼女の中が搾り取るかのように遊星を締め付けた。
「――っうあ!出る…っ!」
「はぁぁんっ!」
がくがくと遊星の体が震え、乱暴にを突き上げる。
熱い脈動が伝わって、もびくびくと体を震わせた。
ぞくぞくと駆け抜ける快感を味わいながらはうっとりと遊星を見上げる。
「…っ、あはあぁぁ…あたしも、イっちゃった…」
「凄く、中が…っ震えて…」
「ン…だって、遊星が気持ちよくしてくれたから…」
なし崩しにしちゃってごめんね。
と、悪びれない笑顔では遊星にキスをする。
「好きよ。遊星…」
「…俺も…が好きだ…」
漸く遊星が口に出来たその気持ちをは幸せそうに受け取ったのだった。






さて、果たして遊星の病気とは恋の病であったといってもいいだろう。
何となくそんなことを思ってしまったけれど、は口にはしなかった。
しかし乙女チックすぎる考えに思わず微笑むに遊星は首を傾げる。
「どうしたんだ?」
「んー、どうってわけじゃないんだけど。幸せだなって」
情事後、何をするでもなくベッドでごろごろ抱き合っていた二人。
「あたし医者になって良かったなー。遊星には悪かったけど」
「…」
知らず知らずのうちに心の中を読まれてしまったのは不本意である。
それがどんなに良い結果を生んだとしても。
「…今度は俺がの音を聞きたい」
「あたしの?」
「ああ」
「えー…遊星のエッチ」
「…何故そうなるんだ」








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今回はヒロイン側が超手が早かった。
これ、本当はもうちょっとお医者さんごっこやろうと思ってたんですが。
最後の方、ちらっと書きましたが遊星さんに診察されるのもいいですよね(これが延長戦フラグか)
こんなところまで読んで頂いてありがとうございました。