お気に召すまま 3


重なり合った唇は柔らかくて温かかった。
指を絡め取られベッドに縫い付けられる。
そうやって覆い被さったまま、ジャックはの唇に侵入を果たした。
「っう…んン…」
苦しげに息を吐くのくぐもった声が漏れる。
しかしジャックは容赦ない。
ぬるりと絡め取った舌を優しく吸って愛撫しながら服の上から胸の形をなぞるように撫でた。
「ん、やぁ…ん、アトラス、さまっ…」
昼間のジャックの囁きも、今のジャックの優しいキスも、全部がを本気にさせる。
それでなくても今夜はそういう気分だったのに。
「今日の服は普段着では無いな」
「え…?」
「あの男の為に着たのか?」
「…」
婚約者の為というか、同僚に紹介されると思ったから多少きちんとした服を着ただけだ。
まあそれをあの男の為と言えなくも無いかもしれないが。
「似合っているぞ。今夜のお前を堪能出来ないとは可哀想な奴だ。同情などせんがな」
ジャックに褒められることは単純に嬉しいが、しかしどんな顔をして良いのか分からないほど複雑な気分である。
恋愛感情は薄かったし燃え上がるような関係ではなかったけれど、なりにあの男を愛そうとしていたのに。
「…堪能だなんて…。彼は滅多にあたしをベッドには誘いませんでしたから…」
自嘲気味には呟いて視線を逸らす。
「疲れてるからって言ってたけど、あたしの体なんか必要なかったんです」
「…もういい」
ジャックはの首筋に顔を埋めるようにしてを抱き締めた。
「忘れろ。そして俺を見ればいい」
「…そんな都合の良い事…」
「俺にとっても好都合だ」
「…」
困り果ててちろりとジャックを伺った。
顔は見えなかったが、しかし伝わってくる雰囲気は柔らかい。
首筋に伝わる微かな息遣いにどきっとする。
ちょっと意地悪だけど本当は優しくて顔も良い年下の男。
選ぶだけなら簡単だ。
ほんの少し手を伸ばせば届く距離に彼はいる。
「本当に、あたしなんかで良いんですか。もっと綺麗な人も、力のある人も、アトラス様なら好きに選べます」
「お前以外はいらん。それに他人をあてにして得る栄光などに興味も無いが」
「…物好きなんですね…」
ふうっとは溜め息を吐き、ジャックの腕を抜け出す形で体を起こす。
傍らに寝そべるジャックは視線だけを投げて寄越した。
「…アトラス様のおかげで落ち着きました。あたしで良かったら、どうぞお傍に置いてください」
宜しくお願いします、と行儀良く礼までされてジャックは苦笑した。
「仕事と勘違いしているのではなかろうな?」
「そんなことはありません」
「ならば二人きりでいる時は名で呼べ。敬語も無しだ」
「え…っ」
突然の、そして当然といえば当然の要求には一瞬動揺する。
「今は仕事中ではあるまい。さあ、俺を呼んでみろ」
「そんなっ、突然仰られても…っ!」
「敬語も無しだと言ったろうが。次に敬語を使ったら罰を与えるからな」
「ええええっ」
楽しそうなジャックには困った顔で視線を落とす。
さっきまであんなに優しかったのに、いつものちょっと意地悪なジャックに戻ってしまった…。
「横暴ですー…」
あ。
「そうか、そんなに罰が欲しいか」
「い、いえ違っ…あああちょっと待ってくださいー!!」
心の準備も出来ないままにいきなりそんな。
ジャックはにやにやとしながら体を起こし、と視線を合わせる。
宵の空のような深い紫の瞳がをまっすぐ射抜き、どきっとは体を硬直させた。
「あ、あの…」
一瞬『アトラス様』と呼びそうになったがぐっと堪えた。
これ以上罰が増えてはとんでもない。
そもそもジャックは今からどんな恐ろしいことをにするのだろうか。
びくびくと小動物のように震えながらもジャックを見詰め返す。
「俺の言う事を聞けなかった罰に…」
「っ…」
が息を詰める。
しかし妙に優しいジャックの声色が聞こえて、は余計に困惑した。
ジャックはそのまま続ける。
から俺にキスをするんだ」
「…えっ」
予想外の要求。
そんなこと?と一瞬思いそうになるが、良く考えればからなんて。
この綺麗なジャックの顔に自分の顔を近づけるのか。
自らの意志で。
想像するだけで顔から火が出そうになる。
「さあ」
「そ、そんな…でもあの、あたし…」
「俺を受け入れると決めただろう?それともやはり仕事と同じようなつもりで受け入れたのか?」
仕事なら、仕事だったら。
ジャックの我が儘もはいはいと受け流して良かった。
無茶な要求も断って良かった。
さほど深く考えていたわけではないが、しかし頭のどこかでまだジャックとの関係を整理出来ていなかったのは確かかもしれない。
「っ…」
そこを突かれた気がしては一瞬言葉を失った。
しかし。
「違います!」
言ってはするりとジャックの首に腕を回した。
そして。
そっと伸びをするようにジャックに顔を近づけて…。
「…っ」
柔らかく触れ合う唇。
重なり合ったのを感じた瞬間には離れようとしたが、それより早くジャックがの腰を抱き締めて更に後頭部を押さえてしまった。
「んンっ!?」
離れようにも離れられなくなった
慌てている間に、ジャックがぬるりと舌を侵入させてきた。
角度を変えながらたっぷりと味わわれる。
「んっんっ…は、…っ」
呼吸が苦しくなってくる頃、漸く解放された。
つう、と唇の間を銀の糸が繋ぐ。
「はぁっ、何を…なさるんですか…!」
「結局敬語が直らんから、ちょっと罰を重くしてやっただけだ」
「だからって!」
「嫌だったか?」
しれっと言い放つジャックはきっと答えを知って言っているに違いない。
翻弄されるのは悔しいが結局は彼には敵わないのだ。
だから無言で小さく首を横に振った。
「ふ、素直なのは良い心がけだ。まあ暫らくは敬語には目を瞑ってやってもいい。だが…」
腰を抱くジャックの腕に力が篭った。
「名は、絶対だ」
「っ…」
吹き込まれるように耳元で囁かれ、の心臓が跳ねる。
彼の甘い囁きには魔力すら感じる。
こうやって言い聞かされているうちにきっと何もかもジャックの思い通りになってしまうのだろう。
それはそれで良いかもしれないと感じてしまうは、何時の間にかジャックの虜囚になっていることに気付いた。
「さあ、今度こそ俺を呼べ」
求められて用も無いのに彼を呼ぶ。
とても気恥ずかしいが、は意を決して口を開いた。
「……ジャック、…」
小さく、しかしはっきりと名前を口にした
漸くが思い通りになったことにジャックは満足気に息を吐いた。
「そうだ、それでいい。これから二人きりの時は仕事中だろうが俺を名前で呼ぶのだぞ」
「ええっ、し、仕事中も…ですか?」
「そうだ」
確かに基本的には御影と二人交代でやっている仕事ではあるが、二人きりになる時はそんなに多くない。
なんと言っても彼は忙しいキングという立場の人間なのだから。
「善処、します…」
「ああ、精々間違えんことだ。間違えたら俺は容赦なく罰を与えるからな」
「…!」
横暴ですー!!!という叫びがジャックの部屋に響き渡った。




「あ、あの…自分で脱げますから…」
「ダメだ。俺がする」
「あう…」
するりと羽織っていたジャケットを脱がされワンピースのファスナーを下ろされた。
ノースリーブのワンピースなので肩の部分を下ろされればすとんと下に落ちてしまう。
「…ほう」
「あっ、やだ…見ないでください…!」
忘れてた!
思わず体を丸めて体を隠すように庇う。
今夜は婚約者を誘おうと少しだけ際どい下着を選んだのだった。
色こそ奇抜なものではなく白であるが、華美な総レースの下着はどうみても普段用の物ではなく…。
、お前は普段からそういう趣味の下着を着けているのか」
「ち、違います!こここれは…っ」
あの男を誘惑するため…などど素直に言えるはずも無く口ごもるしかない。
しかしそこまで言ってしまえば白状したも同然だった。
ぎらりとジャックの視線がきつくなる。
「そうか、成る程。あの男の為に選んだいうことか。なかなか妬けるではないか」
言葉とは裏腹にジャックはにやにやとしている。
結局事実だけを見れば、今はジャックの前にいて男の元にはいないのだから当然か。
「好いた女が他の男の為に選んだ下着を脱がせることになるとはなかなか倒錯的だな」
「ううう、言わないでくださいよぉ…」
それにジャックが昼間あんな風に誘惑したりしなければこんな下着など着けなかったのに!
「元はといえばジャックが悪いんです!そ、それに…これ選ぶ時だって…ジャック思い出してこの色にしちゃったし…」
顔を赤らめながら素直に白状する様は、それと気付いていないかもしれないがジャックを誘惑するには十分であった。
言わなくてもいい事を言ってジャックを思い切り煽ったことには気付かない。
「…お前はそんなに俺の理性を崩壊させたいのか」
「ええええ!?な、なんでそうなるんですか!…あぁっ、やぁ…っ!」
乱暴にベッドに押し倒されて、の口から小さな悲鳴が上がった。
しかし今度は抵抗したりしない。
どきどきと緊張はするが、与えられる口づけをややもすればうきうきとした気持ちで受け入れていた。
「んっ、は…ジャック、…」
一瞬、愛の言葉が口をつきそうになった。
しかし今それを口にするのは白々しい気がして飲み込む。
ジャックは額や頬に何度もキスを落としていたが、熱っぽい視線を落とすと。
「漸く、俺の物になる…」
溜め息のように呟いて、の鎖骨の辺りに顔を埋めた。
「…ん、っ…」
ぴくん、との体が小さく震える。
ちくりとした痛みを感じるくらいにきつく吸い上げられて、彼の印を残されたのだと分かった。
「ふぁ…ジャック…、あ、やぁ…」
胸の上にジャックの掌が重なる。
そこで気付いたが、ジャックはまだ服を一枚だって脱いでいない。
グローブ越しの感覚は、布が擦れる微妙な感覚を以っての震わせた。
「っあ!やぁ…、嫌…、ジャック、直接…触って…」
胸を浅く震わせながら懇願されて、ジャックはそういえばまだ服さえ脱いでいなかった事を思い出した。
どれだけ煽られたんだと自嘲気味に笑う。
「ああ、悪かった。があまりにも可愛いことを言うから忘れていた」
「…あたし…何か言いました…?」
「いや、気にするな」
ばさばさとコートを脱ぎ捨てグローブを放りブーツを脱いでベッドのに圧し掛かる。
見下ろしたは恥ずかしそうに、そして無防備に体を投げ出していた。
首筋に浮き上がる先程付けた印が鮮やかな花弁のようだ。
が浅く呼吸する度に柔く震えるふっくらとした胸。
誘われるように、ジャックは胸を掬い上げるように掴んだ。
「あ…っ」
長いの睫毛が震える。
いじらしくて可愛い。
ジャックは体を屈めて柔らかな胸にかぶりついた。
「っんぁ…っ!!」
僅かに背中がしなり、ジャックに胸が押し付けらる。
強請るような錯覚を起こさせるそれに導かれるまま、ジャックは舌を動かした。
「あっあっ…!や、ああぁ…」
ねっとりと捏ねられては波立つような快感を腰に感じる。
そもそもセックス自体が久し振りである。
性欲を持て余すほどではないにしても、丁寧なジャックの愛撫は堪らなく気持ち良い。
腰をくねらせて快感を素直に表すにジャックは充足を感じた。
「可愛いぞ、…。これだけでそんなに感じるのか」
「っ、はぁ…!あ、っ…だって…!」
強い快感で苦しげに眉を寄せるの目元に涙が見えた。
ジャックは体を起こしてその涙を唇で拭う。
合間に指先で乳首を愛撫することも忘れない。
「んっ、…どんどん、ジャックを好きになるんです…。好きな男性に触れられるのは…気持ち良いですから…」
予想外の告白に加え照れたような視線を向けられた。
それがやはりとてもいじらしく見え、ジャックは堪らない。
「お前という奴は…」
ジャックはそうっと唇をに押し付けた。
もう慣れたものだ。
可愛らしく逃げるの舌を追い掛けて、つるりと絡めとる。
「は、ぁん…っ」
交じり合う唾液を飲み込んでもっともっとと求めると、少し苦しくなったのか、がジャックを押し返した。
「っは!…窒息するかと思いました…!」
「これくらいで何を言う。俺の愛はこんな物ではないぞ」
「…身が持つか心配になってきました…」
青くなるを余所にジャックはもう一度の胸元に顔を埋める。
しかし今度は乳首を弄っていた方の手で太股を撫で始めた。
確実に核心に近づくジャックの手の感触には少し緊張を感じる。
が、先程のように胸を愛撫されると思考がじんわりと溶かされてしまい、ジャックのこと以外考えられなくなってしまう。
「んっ、あ…っ…はぁ、っ!」
きつくジャックの肩を掴み、込み上げてくる快感を必死で追った。
じわりと足の間がぬかるんできたのが分かる。
きゅうんと疼き始める体の奥の熱に、は居心地悪そうに膝を擦り合わせていた。
そんなの太股を撫で内股をくすぐるジャックの手。
「っあぁ…!!」
が甘い声を上げてびくっと背中をしならせた。
ジャックの指先が、とうとう下着越しにの溝を軽くなぞったのである。
頭の中がかぁっと熱くなった。
「ふ、しっかり期待はしているようだな」
「っ!や、っ…言わないで、ください…っ」
湿った感覚がジャックの指先に伝わる。
焦らす様に溝を上下に往復させてみた。
「はあぁぁ…、やぁ、んっ…だめ…!」
まだなぞられているだけなのにじわじわと染みが広がっていくのが感触で分かる。
疼き始めた体の奥が切ない。
核心に触れられないとおかしくなってしまいそうだ。
「ジャック…焦らさない、で…」
堪らずはしたないお強請りを口にする
「触って欲しいか?」
なのに意地悪く問うのがジャックである。
普段のならここで黙り込んでしまうかもしれない。
しかし色欲の熱に浮かされたは小さく頷き。
「触って…下さい……」
顔を赤く染め、恥ずかしそうに請うたのだった。
素直にが従ったのでジャックは満足げに息を吐く。
「望み通りにしてやろう」
指先をショーツにかけて引き下ろす。
無防備に秘部が曝され、強請ったものの、流石に恥ずかしくは手で顔を覆った。
かあっと頬が熱くなる。
そんなを愛おしそうに見てジャックが指先をぬかるみに埋め込んだ。
「ああっ!」
びくんと体をしならせてが声をあげる。
じっとり熱く濡れた感触がジャックの指を迎え入れた。
戦慄く花弁を掻き分けて敏感な突起に触れられた瞬間。
「はあぁぁっ!!」
体を小さく痙攣させながらの背がしなる。
これだけで軽く絶頂を迎えてしまった。
余韻に震えるをジャックは更に追い詰めるように指を動かす。
「あ…!ダメぇっ、はぁっ…あっ!ダメです…!イったばっかりなのにぃ…っ!またイくっ!!」
「感じやすいな、は。可愛いぞ」
「やあぁぁぁっ!」
殆ど悲鳴のような嬌声をあげては続けて絶頂に達した。
がくがくと体を震わせながら、ぷしゅっと透明な体液を噴き出してしまう。
「嫌、嘘…っ」
まさか潮を噴いてしまうなんて…。
ジャックの手を濡らしてしまい、は恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだった。
「ああ、ぐしょぐしょだな。いやらしい奴だ。だが俺の指だけで満足されては困るな」
耳元で甘く吹き込まれ、絶頂直後のの体はそれだけで思い切り感じてしまう。
下腹がきゅうんと疼いて腰にもどかしい熱の波が生まれた。
それを見抜いたかのようにジャックの指がの膣内に挿入される。
「あはぁっ!あっ!あぁっ…!ジャック…っ!!」
「ふ、慣らす必要もなかったな。どうだ?気持ちイイか?」
「はぁんっ、イイです…っ、あっあっ!」
はジャックの背中に爪を立てた。
既に受け入れる準備は整っているようで、すんなりと二本の指をくわえ込んだ。
掻き回すように指先が不規則的に蠢く。
膣壁を広げられるような快感がを襲う。
緩やかに抜き差しをされて、無意識には腰を揺らめかせた。
「はぁ、あぁっ…」
切なげに溜め息を吐き、断続的にジャックの指を締め付けるの中。
愛液を掻き出すような動きは気持ちが良いけれど、少し物足りない。
もっと奥まで、逞しいジャックの雄で深く貫かれたい。
「ジャック…、あっ…もう…。お願いします…、っん…!貴方のものに…してください…っ」
湧き上がる欲には勝てず頬を赤く染めてはしたないお願いを口にした。
お強請りを引き出したジャックは満足気である。
の中から指を抜くと、纏わりついた愛液を目の前で舐めとって見せた。
「あぁ、…そんな…嫌…」
「嘘を吐くな、感じているくせに…」
さらりと震える内股を撫でられた。
確かにジャックの行為に感じていたはびくびくと爪先をふるわせるしかない。
衣擦れの音に混じり、かちゃりと小さな金属音。
ベルトを引き抜いたジャックがの足の間に体を入れる。
取り出されたジャック自身は既にこれ以上ないくらい膨張していた。
「入れるぞ」
ぐっと押し付けられた質量には息を飲む。
熱い強張りが膣壁を押し広げながら埋まり込み、はぞくぞくと腰を駆け上がる快感に翻弄される。
「ひあぁぁっ…!あっ!あっ!」
腰を使って最奥に達するジャック。
ぎりぎりまで腰を密着させての奥の奥に自身の先端を押し付ける。
「あぁぁぁあっ、だめェ…っ!奥に、当たって…!!」
疼くところを直接刺激するかのような行為には髪を乱してジャックに爪を立てた。
感じすぎておかしくなりそうだ。
「っ、きつい…な…」
先程までの余裕の表情は成りを潜め、苦しげにジャックは息を吐いた。
ぎゅうぎゅう締め付けてくるの内壁に搾り取られてしまいそうなのを堪える。
「堪らんな…動かすぞ…っ」
ベッドが大きく揺らいだ。
「あはあぁぁっ!ああっ、はぁん!凄いぃっ…!」
想像以上のジャックの雄がの中を擦りながら打ち込まれる。
突き上げられる瞬間は苦しいくらいなのにそれが瞬時に快感に変化する不思議。
「はぁっ、嗚呼、イイぞ…っ、…!」
眉根を寄せて険しい表情を浮かべたジャックの掠れた声。
自分の体で興奮してくれているのだと思うとジャックを受け入れている器官がきゅうんと収縮した。
「うっ、く…」
キツくなるの中に持って行かれそうになるのを押し殺してジャックは更に速度をあげる。
「ああっ!!あっあっ!」
体をぶつけ合うような激しい動きには絶頂の予感を感じる。
腰を駆け上がる震えるほどの快感。
その波が大きくなりの思考を押し流すように体の中を駆け抜けた。
「あぁぁぁあっ!イくっ!だめ…っ、イくイくっ!!ああぁぁぁぁっ…!!」
背中を仰け反らせたかと思うとの体がびくびくと跳ねる。
「っ!…俺も、出す…ぞ…っ」
の絶頂に導かれるように、ジャックもの最奥に自らの欲望を解放した。
断続的にたっぷりと吐き出された精液が収まりきらずに溢れ、の内股を伝う。
「…はぁっはぁっ…やっぱり、身が持つか心配です…」
久し振りのセックスの余韻に浮かされながらはぼんやりと呟いた。
そもそも中でイったのが初めてである。
今まで付き合った男たちの数も決して多くはないが、誰一人に女性の快感を教えてはくれなかったのである。
「褒め言葉として受け取っておく。朝も近いがシャワーを浴びるか」
言いながらジャックはを抱き上げた。
腰が立ちそうもないには有り難かったが、彼の体力はどうなっているのだ。
自分はこんなにくたくたなのに。
「疲れたろう?俺がきっちり洗ってやる」
にやにやと覗き込んでくるジャックには冷たい汗を覚えた。
「えっ…や、じ、自分で出来ますよ…?」
「遠慮する必要などないぞ。腰が立たんのだろう?俺が助けてやるから安心して体を任せろ」
ちゅ、と優しく頬にキスまでされた。
しかしながらその優しい仕草とは裏腹なジャックの行動に、は叫ばずにはいられなかった。


「横暴ですー!!!」







「何だ、仕事は辞めんのか」
ジャックはつまらなそうに視線を外に向けた。
「辞めませんよ。上司も愛人がいたなら婚約破棄も仕方がないと言ってくれましたし」
本当なら顔に泥を塗られた格好の上司から理不尽なペナルティを与えられても受け入れようと思っていた。
しかし幸い理解をしてくれる上司で良かった。
今はまだ婚約破棄の申し入れを相手側にしたところであるが、恐らく向こうも二つ返事であろう。
このまま縁が切れるのは時間の問題と思われる。
「俺と結婚して辞めれば良いではないか」
「それはそれでとても魅力的ですけど…」
は曖昧に笑う。
「もう少しこのままでもいいじゃありませんか。恋人気分、味わいましょうよ」
ね?と言われてしまうとジャックは反論出来なくなり黙り込んだ。
何だかんだ言って、結局の意向を汲んでやりたいのがジャックなのである。
「そろそろ時間ですね。車、回してきます」
言って部屋を出て行くの後ろ姿を見送ってからジャックはこっそりと溜め息を吐いた。
「概ね計画通りなのだがな…」
実はジャックは、危険の伴う可能性のあるこの仕事からを遠ざけたくて堪らない。
彼女を手にれることも勿論計画の内だったが、後は彼女が自ら仕事を辞める決断をして初めてゴールを迎える計画なのだ。
「上手くいかんものだな」
気長に行くか、とジャックは呟いた。
このジャックの本心にが気付く日は遠い。






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一段落です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。