お気に召すまま/7


昨夜から、なんだかジャックの様子がおかしい。
頼まなくてもベッドへ引っ張り込んでは、どろどろに蕩かされるほどに愛してくれる彼なのに、昨日は疲れたと言って早々に部屋に引っ込んでしまった。
確かに夏休み開始前から番組改編期に向けての撮影が立て込んでいたのは事実。
合間に挑戦者のライディングデュエルを受け、取材を受け……。
キングと呼ばれる彼は望むものを望むままに欲せる人物ではあるが、同時に殆どのプライバシーや自由な時間を奪われているのである。
栄光の輝きの影には常に厚くて暗い闇もある。
彼も例外ではない。
だから、ジャックの『疲れた』という言葉はあながち間違っていないとも言える。
ジャックだって人の子である。
疲れることもあるだろう。
しかし、どんなに疲れていてもジャックはが勤務の時は殆ど欠かさず部屋に引っ張り込んでいた。
セックスが無くとも、ジャックはいつだっての体を抱き枕のようにして眠っていたのだった。
「…」
変だ…とは思いつつも、昨夜はジャックの好きにさせた。
と、いうか基本的にがジャックを好きにさせない日はないのだが。
とにかく問いただすこともせずに、セキュリティの人間に宛がわれている部屋で休んだのである。
だが、ジャックの異変はそれだけではなかった。
朝から何だかよそよそしい。
普段は頼まなくてもを膝の上に載せて朝のコーヒーを飲んでいたりするのに。
今日は何故か向かい側のソファに座った。
「…」
「…」
「……あの、ジャック」
「何だ」
流石におかしいと感じたが声を掛けても普段と同じように返答が飛んでくる。
あまりにも自然な言い方だから、問いかけるのを躊躇ってしまいそうになった。
しかしここで挫けていては進まない。
は意を決して問う。
「何故向かいに座ったんですか。いつもの場所じゃないでしょう?」
「そういう気分だったからだ」
淀みなく返ってくる言葉。
躊躇いがちなの問いかけとは違い、ジャックは確固たる意志があって向かい座ったのだと言い切っているように聞こえる。
そして気分だと言われてしまえばは返答に困ってしまう。
それでなくとも何となく口調の感じから今日は機嫌が悪そうだと気付いてしまって。
「…そうですか」
逆鱗があるわけでもないけれど、面倒なことになる前に彼の役割をこなしてもらわねばならない立場のはこれで会話を打ち切った。
ジャックも別に何も言わない。
静かな部屋で二人会話もなく過ごすことも増え始めている。
だけどこんな空気の中ではないな…と居心地悪く感じながら、はジャックの前に朝食を置いた。
「…今日は要らん」
「え?でも今食べておかないと試合後まで食べる機会がなくなりますよ?」
「それでも構わん」
「…コーヒーはどうしますか?」
「それだけでいい」
短い返事のジャックはやはり機嫌が悪そうで、は黙って食器を持ってキッチンへ戻ろうとした。
とりあえず棄てるのは勿体ないし自分で食べてしまおうか。
ジャックの為に作ったものを自分で食べるというのも悲しい話であるが。
その時、部屋に入ってくるものがいた。
「おはようございます。そろそろお出掛けですよね。ちょっと早く着いちゃいまして…」
留守中に家の掃除を頼んでいる清掃会社の男だった。
「クリーンキーパーさん!丁度良かった、お時間ありますか?」
清掃用の荷物を下ろしながら彼は首を傾げる。
「どうかされましたか?」
「もし良かったら…朝食をちょっと作りすぎちゃって…食べていかれません?」
「はぁ?」
てっきり掃除の用を言い付けられるのかと思っていた男は拍子抜けをしたような声をだす。
「お腹…空いてませんか」
清掃員の様子にちょっと恥ずかしそうにが皿を差し出す。
そこにはバターのたっぷり塗られた厚いトーストと、小振りのオムレツ、トマトとレタスが乗っていた。
「丁度、ジャ……アトラス様にコーヒーを淹れようと思っていて…。キッチンでこっそりどうですか?」
「えっと、…いいんですかね。こんなに美味しそうなら僕本当に食べちゃいますけど」
「いいんです。廃棄されちゃう寸前のもので恐縮なんですが…」
「全然構いませんよ。そういうことなら遠慮なく………」





かつんかつんとの控え目なヒールの音が響く。
無人の廊下はジャックの控え室に続いている。
セキュリティ関係者しか入れない場所であるためこんなに人気がないのである。
「ジャック、準備は出来ていますか?」
撮影やスタジオのことなど殆ど知らないだが、それでもジャックは別格なのだなと感じる瞬間だった。
後ろ盾はセキュリティの長官と考えれば自然なことかもしれないけれど彼はいつだって個別に控え室を与えられていた。
これじゃあ誰かと知り合うことなんて無いのでは…とが言い知れぬ不安を覚えるほどに、ジャックは独りきりを選んでいる。
彼の後見人が望んだことなのかもしれない。
だからこそそこにの入る余地は存在しない。
「ジャック」
声を掛けても返答がない。
不思議に思ったは控え目にノックを3回してみた。
それでも反応はない。
「…ジャック…?」
いつものようにがドアを開けるのを待っているのだろうか。
朝からあまり機嫌が良くなさそうだったし、その可能性は大いにある。
が、足音もしないのはちょっとおかしい。
「ジャック、入りますよ」
そっと静かにドアを開ける。
もしかしてドアの前で仁王立ちしているのではないかとヒヤヒヤしていたが、幸いそんなことはなかった。
寧ろ意外なことにソファに凭れ掛かって眠っているようなのである。
「…寝てたの…」
意味も無く胸を撫で下ろしながら、はそうっとジャックに近付いた。
「……綺麗な顔」
普段は年下の男であることを忘れそうになる程に尊大で不遜だが、眠っている顔はどこかあどけない印象があって微笑ましい。
長い睫毛を惚れ惚れと見つめながら思い出す。
今日は何故か車の中ですら隣に座ることはなく、後部座席に座ってしまった。
本当にどうしたんだろう。
もしかしてこの関係に飽きてしまったのだろうか…と不安が頭を過ぎった。
彼が飽きたのであれば話は簡単だ。
ジャックがの手を離してしまえば片が付く。
だけど、一昨日の夜までは熱烈な愛の抱擁があったのに…昨日一日で何か機嫌を損ねることをしたのだろうか。
全然心当たりがない。
ジャックを心から受け入れるまでとんでもなく待たせたくせに、いざちょっと冷たくされるとこんなに淋しく感じるなんて我ながら都合の良い話である。
そんな気が起こらない日だってあるだろう。
嗚呼、いつまでも見ていたいがタイムリミットが近い。
は惜しく思いながらジャックを起こそうとした。
「あら…」
その時にジャックが額に薄らと寝汗をかいていることに気付いた。
「暑かったかしら」
空調は切ってあったが、そろそろ初秋の今はそれでも肌寒いくらいなのに。
ポケットからハンカチを取り出すと、はジャックの前髪を掻き上げた。
「――っ!、何をするっ…!」
その瞬間びくっとジャックが跳ね起きる。
ばっとを振り解きソファから立ち上がった。
「勝手なことをするな!」
怒鳴られたは驚いたようで体をびくっと震わせる。
「…ごめんなさい。汗をかいているようでしたので…でも」
何かを言いたそうなにジャックは背中を向けた。
話は終わりだということを行動で表したつもりだが、そんなジャックの後ろに近付く気配。
「時間なのだろう」
「いえ、待ってください、ジャック…貴方が昨日からとてもよそよそしかった理由が分かりました。何故隠していたんですか」
静かなの声にジャックは舌打ちで返す。
それは隠し切れなかった自分への苛立ちか、踏み込まれたことへの拒絶の気持ちか。
「ジャック」
拒絶かもしれないが、は怯まない。
「…お前に知れたら試合を休めと言い出すだろう」
「あら、殊勝なお言葉。ジャックはお仕事がそんなにお好きでしたっけ」
棘のある言い方に今朝とは違いジャックがぎくりとする。
なかなか、怒っているようだ。
そんなにもこの体調を隠していたことが気に入らなかったか。
「…心配、するだろう。お前が…」
呟かれるジャックらしくない小さい声に、は目を見開いた。
「心配なんて…そりゃしますよ!!いいじゃないですか!ジャックのことを本気で心配する人間がいても!!…心配させて…くださいよ……」
孤独に進んで飛び込むくせに、夜は抱き締めて離さない。
独りが好きなのか、だけど淋しいのか。
アンバランスな彼が折角見出してくれたんだから、ジャックの『淋しい』を埋めてあげたいのに。
「弱いところも…見せてくれたって良いんですよ…。初めてジャックを受け入れた日覚えてます?あたし、ほんと情けなくて…」
堂々と愛人を紹介された夜のことをきっとは死ぬまで忘れられないと思っている。
それを生涯をかけて癒してくれる存在がジャックなのである。
だから、その傷があってもは平気で生きていけるだろう。
ジャックが傍にいさえすれば。
「でも、ジャックが支えてくれたんですよ!だからあたしはここにいるんです。ジャックも…辛い時は、あたしを頼って欲しいんです」
微笑みながらおずおずとジャックの手を取る
自然に手を取ってしまったのだが、その体温にぎくりと体を強張らせた。
「熱っ…!さっきは一瞬であんまり分からなかったんですけど、やっぱりすごい熱じゃないですか!!帰ったら絶対安静ですよ!!」
「…お前は…」
時々見せる年上の彼女の包容力のある言葉に不覚にも感動していたらこれか。
まあ、こういう彼女を愛したのだが。
熱の所為か淡い眩暈に襲われながらジャックはを引き寄せて抱き締めた。
腕の中に収まる彼女のサイズはもう覚えてしまったほどだ。
今朝からこれがなくて物足りなかったことを思い出してはしっかりと味わう。
「あわわ、ジャックほんとにすごい熱いですよ!!しんどいなら無理しなくても…」
「問題ない。が…試合を早く終わらせる為に協力してもらおうか」
「…何ですか?」
裏から手を回して相手方と交渉とか?
それとも長官への連絡役?
悪い考えが浮んでは消えるにジャックは小さく耳打ちした。
アレの時のような熱い吐息が耳に触れ、の体がぞくりとする。
「えっ…そんなことでいいんですか?」
「いいから早く言え」
「は、はい…!えっと…」
は小さく息を吸い込んだ。
こんな命令口調…いいのかな、と思いながらもジャックが望むのであれば従うのがである。

「あたしの為に3度ターンが回ってくる前に勝ちなさい」






「信じられない…」
「ふ、実力だ…」
翌日の朝。
は普段通りジャックの膝の上に乗せられて新聞を見ていた。
芸能面で昨夜の試合の結果が半面を大きく飾っているのである。
ジャックはの下した命令を見事遂行して見せた。
電光石火の試合…などと書かれているが、本当に一瞬で終わってしまったのだ。
「お前のための勝利だぞ。驚くのではなく喜ばんか」
「ええっ、だってあれはジャックが言えって言ったんですよ」
ジャックは、昨日の朝とは打って変わってご満悦で機嫌よくコーヒーを啜っている。
熱もすっかり引いて、回復した食欲での作った朝食を平らげた後だった。
「でも、具合が良くなって良かったです」
新聞を畳んだがそっとジャックの額に手を当てる。
伝わる体温は同じくらいで、異常な程熱いと感じた昨日の名残はなかった。
「お前は大袈裟だな。あれくらい寝ていれば治る」
「ええええ、でも昨日は凄く苦しそうだったじゃないですかー…」
今思い出しても、あんなにダメージを受けたジャックを見るのは初めてかもしれない。
何とか部屋までは帰ってきたジャックだったが、帰るなりベッドに沈み込み、荒い呼吸を繰り返していた。

『ジャック、しっかりしてください!意識、ありますか?』

『…当然、だ…』

弱々しい返事に普段とのギャップを思い知る。
普段尊大で元気な人間が弱るとこんなにも憐憫の情を誘うのかと。

『着替え!着替えだけしましょう!汗をかいたままじゃ悪化しますから!』

ぜぇぜぇと苦しそうな呼吸を繰り返すジャックのコートのファスナーを掴んで引き下ろす。
そして、はシャツのボタンを丁寧に外し始めた。
徐々に露わになるジャックの肌に、はっとする。
しっとりと汗ばんだ胸板。
熱に浮かされた赤い顔で喘ぐジャック。

『……』

そんな場合じゃないのに、いけない瞬間を想像してしまう。
いつも自分はベッドの上でこんな風になるのだろうか。
これにジャックはそそられてくれているのだろうか。
昨夜放っておかれた体がずくんと疼く。
こんな風に苦しんでいる恋人を見て性衝動を揺さぶられるなんて、酷い女だ。
だけど見下ろすジャックに漂う色気が女の本能を刺激した。

『ジャック、苦しいですか…?』

『これ、くらい…問題ない……』

『でも、薬を飲まないと…。解熱剤、持ってきます』

中途半端にジャックを脱がしたは、急にベッドから立ち上がり部屋を後にする。
急にどうした、と思うジャックだが、その後を追う元気は全くない。
静かにが戻ってくるのを待つ。
暫くしてが水と薬を持って戻ってきた。

『まだ起きていますか?』

『…当然だ…』

『薬、飲めそうですか?』

『…ああ』

コップの水は寝ていては飲むことが出来ない。
ジャックが無理矢理体を起こそうとした。
しかし。

『ああ、ジャックは寝ていてください』

『……何故、…』

問いには答えずにぱきんぱきんと錠剤を取り出してジャックの口の中に押し込めると、はコップに口をつけた。
熱に浮かされた頭が、それでも彼女の意図を瞬時に理解したジャック。
うつすかも…とか、がこんなことをするなんて…とか色んな考えが浮かんでは消える。
しかしそっと顔を近付けてくるを見るのは本当に稀で。

『…っ』

唇が触れ合い、ゆっくりとジャックの口の中に水が流し込まれる。
冷たいそれを薬と共に垂下した。

『…もっとだ』

『え…?』

『少し…喉が渇いた』

熱っぽい流し目で乞われては更にどきりとする。

『はい…』

誘われるままにはコップの水を口に含んだ。
そしてもう一度ジャックと唇を重ねる。
熱い…。
それに、少しずつ流し込まれる液体を素直に垂下して喉を鳴らすジャックが何だかいじらしい。
本当は自分の欲をある程度満足させるためにこの薬を持ってきたのだが、追加を乞われるとは思っていなかった。
全てを飲み乾したジャックからはゆっくりと離れる。
自分を見つめ返している彼は、きっと半分くらいは意図に気付いているのかもしれない。
だって、恐らく自分は情欲に塗れた顔をしているに違いないから。

『…もっと、飲みますか…?』

『ああ、全部だ』

薄暗い部屋の中で繰り返し行われたこの行為。
薬を飲ませるだの、水を飲ませるだの言い訳をしながらも二人はこれが口吻けと気付いていた。
昨夜から発覚までに生まれた隙間を埋めるための………。
「――何を思い出している」
ジャックに声を掛けられははっとして顔を上げる。
そこにはにやにやといやらしい笑みを湛えたジャックがいて。
「べ、別に…何も…」
「ほほお。俺はてっきり俺に薬を飲ませた時のことでも思い出していると思ったが」
「…」
当たっている…というか、昨夜の印象的な出来事はそれしかない。
コップの中身を干した後はジャックを何とか着替えさせて、そのまま寝かせたのだから。
「今日のスケジュールは」
「え?先程お伝えした通りですが…」
「確認だ」
「…ジャックの体調不良を長官にお伝えしたところ、全てが別日に回されました」
そう、昨夜ジャックが休んでいる間に、体調不良を上司に報告しておいたのである。
今朝までには後見人である長官にまで届き、スケジュールを調整したと連絡が入った。
先程からジャックの機嫌がすこぶる良いのはこういう理由もあったからだった。
「名実共に今日は休みと言うわけだな」
「はい」
思わぬ臨時休業。
まあ確かに仕事と思っていたところが急に休みになったら嬉しいものである。
そして今日が自分の当番の日で本当に良かったとは思った。
これが非番の日であったなら、休業状態のジャックに呼び出されたに違いないから。
今のジャックと全く逆の状況に陥っていたかもしれないのである。
「ならば、時間を気にせず昨夜の続きが出来るな?」
「えっ!?」
時間を気にせずって!
そもそもアナタ、時間を気にしたことないじゃないですか!
そういうマネージメントは全部あたしや深影がやってるんですからねっ!
と、言いたいけど言えないこの雇われの身。
くうぅと歯痒い思いをしていると、ジャックの手がの顎を掴んで視線を合わせられる。
宵色の視線が鋭くを射抜いた。
そしてゆっくりと顔を近付けられる。
まあ、ここは従っておくのが吉だろう。
それに昨夜から体を持て余し気味なのは事実である。
ジャックが寝ている間に一人でしようかとも思ったけれど、何となくこの家の中で自慰を行うのは躊躇われた。
彼の気配があるこんな近くでなんて、気恥ずかしすぎて無理だったのだ。
ジャックの淡い吐息を感じゆっくりとが目を伏せる。
そして降ってくるであろう感触を大人しく待っていると。
「いや…止めておこう。まだうつすかもしれん」
珍しく殊勝な事を言って離れるジャックには伏せていた目をぱちぱちと瞬かせた。
いや、これは殊勝な一言では決してない。
言葉の内容は確かにを気遣うそれであるが、意図するところは全く逆である。
間違いなく反応を伺って楽しんでいるのだ。
だけどここで怯んでは女が廃る。
は意を決して微笑みを返すと、ジャックの頬に手を添えた。
「一昨日の一晩でも貴方に冷たくされて、あたしがなんとも思わないって思ってます?」
昨夜を再現するようにゆっくりと顔を近付ける。
「淋しかったんですよ…あたしも……」
そしてそのままジャックに唇を重ねた。
もしかしたら拒否されてしまうかな?とも考えたがそんなこともなく。
寧ろ優しく触れ合わせた唇を、ジャックがやんわりと食んできた。
「んっ…」
ぷにぷにと感触を味わうようなジャックの唇の動きにぴくんと肩が震えた。
そんな僅かな反応にすら気を良くしたジャックは、逃げられないようにの後頭部を掴みぬるりと舌を侵入させる。
「んは…っ」
昨夜も本当はこうしてやりたかった。
がこれを求めていることも分かっていた。
だが、言い訳を考えたは恐らく自分の体を気遣っているのだろうと察して、敢えて何もしなかった。
そしてまさか淋しがっているなどと想像すらせず。
「はっ…、はぁ、…っ」
角度を変えながら深めていくキス。
絡み合った舌先からじんわりと広がるジャックの味。
溢れそうになる唾液を飲みこんで応えていたら、ちゅっと舌先を吸われて解放された。
「ふ、…っ、あ…、っ!」
制服のジャケットの襟ぐりからジャックの手が滑り込んでくる。
胸の形を確かめるようにカーブを撫で下ろしていく手。
「あ…ん、こんなところで…っ」
明るいリビングで行われようとしていることを責めるようにはジャックの手を掴む。
勿論制止のためだったのだが、傍目に見ればが積極的にジャックに胸を触らせているようにも見える。
それにこれはまだおふざけもいいところなのだ。
ジャックとしても人の出入りが多いこの家で、私室とバスルーム以外の場所で彼女と致すのは本意ではない。
「こんなところ、でなければ良いのだな?」
「…っ」
改めての確認をするジャックの意地悪さには視線を逸らしながらも控えめに頷いた。
拒絶の言葉が多いから素直に求められるとは思っていなかったジャックはほんの少しだけ驚く。
何だかんだで部屋に連れ込んでしまえばどうとでもなると思っていただけに、この可愛らしい催促に思い切り欲情した。
「部屋に行くぞ」
「は、はい……きゃっ!」
可愛いとか普段は素直じゃないのにとか、言葉で揶揄う余裕もなく、膝の上のを抱き上げてジャックはソファから立ち上がった。


「んっ、ン…っ…ジャック、あ、あぁ…」
荒々しくベッドに押し付けたの上に覆い被さってもう一度唇を重ねる。
湿った音が部屋に響いて、その深さを物語った。
「は、ぅ…ジャッ、…ぅン…、ん…」
このまま全部食べつくしてしまいたいくらい可愛い。愛しい。
くにゅくにゅと舌先の感触をたっぷり味わって一度体を離す。
激しいキスに呼吸を乱してベッドに体を預けるは、昨夜のジャックと同じ状態であることに思い至った。
自分もあんな風に色っぽい雰囲気で相手に眩暈を感じさせているのだろうか。
「ジャック…」
ゆったりと上半身を起こしたの傍に、コートとシャツだけを脱いだジャックがあがってくる。
「何だ」
「…ジャックは、病み上がりですから。あたしがします」
「…何?」
の言葉の意味が良く分からずきょとんとするジャックの足の間には蹲った。
ベルトを掴まれて初めてその意味を察する。
「っ、お前…」
「良いから…あたしにさせてください…」
手際よくベルトを外してジャックを脱がせていく
そういえば昨夜も彼女に同じことをされたのだが、そんなつもりは全くなかったから意識もしなかった。
しかし今、細い指先がファスナーを下ろしていく仕草だけでとんでもなくいけない気分になる。
ズボンと下着を引き下げられてによって取り出されたそれは、既に大きく膨らんでおりジャックが興奮していたことをに教えた。
「嗚呼…ジャックったら…ちょっとは期待していてくれたんですか?」
「…、別に、そんなつもりなど…」
「嘘ばっかり。でもこんなにしてくれて嬉しいです、あたし…。ん、ふ…っ」
躊躇いもなくその先端を桜色の唇で覆う。
にゅるんとした感触は腰が蕩けるような快感をジャックにもたらした。
想像以上の感覚に、ジャックは思わず腰を引く。
「んふっ、あん、逃げちゃダメですよォ…」
追いすがって頬張ろうとするを見て、捕食される小動物のような言い知れない気分が込み上げた。
ちゅぽっと淫猥な音を立てて熱い口内に勃起が飲み込まれていく。
こんなを見せつけられて、視覚的刺激にジャック自身は更に膨張した。
「んン…おっきくて…入りきら、ない…すごい……」
獣のような荒い呼吸を繰り返しながらは口に頬張ったソレをずるりと引き抜いていく。
「う、く…っ」
体内の感触とは違って締め付けがあまりない代わりに、ぬめる舌がねっとりとジャックのものに絡みつく刺激は能動的で的確だ。
意図を持って蠢く舌は確実にジャックの感じるポイントを攻めてくる。
「はァっ…、、っ…う、…っ」
ぴくぴく跳ねるソレをは愛おしそうにぺろぺろと舐める。
特にじんわりと滲んだジャックの先走りの粘液を舐め取ることに執心しているようだ。
先端をくすぐるように何度も舌で撫でられてジャックは苦しげに目を細めた。
「く…、っ…」
ぞわぞわともどかしい感覚がジャックの中に生まれる。
先端だけでなくもっと深く咥えこんで欲しい。
辛そうに眉根を寄せるジャックを上目遣いに見上げては悪い微笑みを見せる。
「あは、もっとして欲しそうですね…。良いですよぉ…いっぱい感じてください…」
にんまりと笑ったはじゅぶっといきなり深く飲み込んで、頭を上下させ始めた。
合間に裏筋を舌で撫で回す。
「――っ!!」
声を上げることだけは何とか我慢したものの、鈍い刺激で焦らされ続けたジャックには絶大な刺激である。
背中をしならせ下唇を噛んで快感をやり過ごす。
「んっ、く…、んくっ…」
夢中で奉仕を続けるは、時折引き抜いた時にカリの裏側を擦るように舐めるのだが、それがまたとんでもなく気持ちイイ。
自然に荒くなる息と、込み上げる射精感。
「…っ、く…。、っ…これ、以上は…っ」
思わず腰が浮くほどにせり上がってきているが、は止めようとしない。
寧ろじゅるじゅると吸い上げてジャックを促すかのようだった。
「ダメだ、っ…、う、は…、出す、ぞ…っ!」
膨らんだジャック自身がの口内でびくんと脈動した。
「んぐ…っ!」
その瞬間どぶっと勢いよく放出されるジャックの精液。
びゅくびゅくと脈動を繰り返しながらたっぷりとの口内を犯す。
「ん、ン…んく、っ…」
断続的に吐き出されるそれをゆっくりと飲み込んで、はジャックを見上げた。
はぁはぁと荒い息で見下ろしてくるジャックと目が合う。
「…ご馳走様です」
なんて言って余裕たっぷりに微笑んで見せる。
すると悔しげに表情を険しくしたジャックがの体をベッドに押し付け、馬乗りになった。
そしてのブラウスを下着ごとたくし上げる。
「ひゃっ!?」
馬乗りのままでジャックはの胸を鷲掴みにした。
やや乱暴な仕草だが、力加減が絶妙に痛みを感じさせないところは流石である。
「次はの番だ」
「えっ、あたしは病み上がりじゃないですよ…?!」
「黙れ。この俺に好き勝手したのだ。覚悟は出来ているんだろうな」
言って体を屈めて掴んだの胸にがぶっとかぶりつく。
「はうぅっ!あっ、そんな、いきなり…!」
乳房を頬張るかのようにしてかぶりついた後は舌先での乳首を弾く。
ジャックに舐められる前から屹立していたそこは敏感で、爪先がぴんと硬直するくらいの痺れをに与えた。
「あ!…はぁんっ、やァ、っ…ン!」
感じさせられていやらしく背をしならせる様は、さながらジャックにもっとと乞うているようでもあり…。
「そんなに感じて何が嫌だ。確かめてやろうか」
するりとジャックがの足を軽く抱えて内股を撫でる。
さわさわと皮膚の薄い箇所を指先が伝い、はぞくっと体を震わせた。
与える刺激に、敏感に反応するが可愛らしくジャックはちょっと虐めてやりたくなり、咥えた乳首をきゅうっと唇で強く食んだ。
「あうんっ!!あぁぁあ…強いですぅう…っ」
「ふ…悦んでいるくせに何を言う」
下着の上から割れ目を辿ると、湿った感覚がはっきりとジャックに伝わる。
「ぐしょぐしょだな。俺に奉仕している時からこうなっていたんだろう?」
「っ、やだぁ…言わないで、ください…っ」
「淫乱な体だな。俺が躾けてやる」
ジャックはのショーツを引き下ろすと、その足の間に指先を埋めた。
同時に胸への愛撫も再開する。
「ひあっ!あ、うそ…っ、あ、あぁぁっ…」
ちゅぷちゅぷと乳首を刺激されながら、敏感な突起までも攻められる。
強い快感に身を捩って逃げたくなるが、ジャックは空いた手でしっかりと腰を抱き締めていて敵わなかった。
逃がす場所もない性感がずきずきと下腹の奥にわだかまって脈動する。
「あっ、こんなっ…!感じ、すぎますうっ…!だめ、おね、が…っ、やぁぁぁあっ!」
口での抵抗も空しくジャックに駆り立てられるかのようにの体は呆気なく絶頂に震えた。
縋りついたジャックの腕に爪を立ててびくびくと背中をしならせる。
「あはぁぁ…イ、っちゃった……」
腕の中で恍惚の表情を浮かべるの突起から指を離したジャックは、つぷっと入口に指先を浅く埋め込ませた。
「あ…、だめ、だめです…ナカはまだ……」
「覚悟しろと言っただろうが。拒否は許さん」
ちろりと盗み見るは拒否をしながらも気持ち良さそうに眉根を寄せて淡い吐息を零している。
それが首筋をくすぐる感覚が愛おしくて堪らなくて。
「だめだと言う割に…きゅうきゅう締まって悦んでいるようだが」
ついつい意地の悪いことを言ってやりたくなってしまう。
事実、反射的に収縮を繰り返す体内がジャックの指を美味しいそうに咥え込んで離さないのだ。
柔らかく絡みつくこの中に自身を突き立てたらさっきの口淫に匹敵する快感が得られるのだろうと想像すると下半身が熱くなる。
ゆっくりと挿入した指を増やしぬかるみの中で蠢かせると、腕の中から艶めかしい声が上がった。
「はぁっ…あ、あぁ…広げたら…、っ…溢れちゃいますぅ…っ」
内股を伝う温い体液の感覚にすらぞわりとする。
「はしたない涎が止まらんな…。塞いでやろうか。んン?」
指を引き抜いて、広げたの入口に催促するように自身の先端を押し当てた。
ぬちゅりと湿った柔らかな粘膜に触れ、ソレは更に上を向く。
いやらしく入口をつつかれたは刺激に腰を震わせた。
期待に下腹の奥がきゅうっと疼いて収縮する。
「はい…っ、ジャックので…、あたしのナカ、いっぱいにしてください…っ」
「ふ…、良いだろう。たっぷり味わえ…っ」
ジャックの言葉が終わるか終らないかの瞬間に一気に貫かれた。
「うあっ!!」
ずむっと体に走る衝撃には仰け反る。
深々と突き立てられたジャックの楔は容赦なく膣壁を押し広げた。
「はぁあんっ、すごぃい…っ!おっき、い…っ」
その大きさに戦き、きゅうきゅう締め付けながらはジャックを受け入れる。
口淫程の的確性は無いが、熱いぬかるみが勃起の全体を余すところなく舐め扱く感覚。
これはこれでとんでもなく気持ちがイイ。
「はぁっ、動かすぞ…っ」
馴染む間も待たずジャックはの足を掴んで腰を引いた。
「あぁぁぁ…抜いちゃ、嫌です…っ、深いの、シて下さいぃ…っ」
「…っ、く、…この淫乱が…っ。俺以外の前では、許さんからな…っ」
既に理性の崩れたのお強請りがジャックを煽る。
これでもかと何度も深く打ち込んだ。
「はぁんっ、おく、奥、すごいのォっ…ジャック、ジャック…っ、もっと…!」
じゅぶじゅぶと愛液が掻き混ざり、密着した体がぶつかる音が部屋に響く。
時折ベッドが軋んで、行為の激しさを物語った。
「く、っ…、っ…」
の体内は熱を孕んで絡みつき、ジャックを苛む。
覆い被さるジャックが苦しげに目を細めて背中を反らせた。
「んうっ、は…っ、ジャッ、ク…っ、ジャック…っ」
彼が自分の体で快感を得ている様を見せられたは思わずジャックに腕を回して唇を押し付ける。
突然与えられたキスにジャックは一瞬驚いたが、すぐにの体に腕を回すとその舌先を滑り込ませた。
「ふ、っ、く…、はぁっ、ジャック、イイです、っ、ん、んっ、はぁ、あぁぁっ…」
息継ぎの合間ももどかしく、差し出した舌先を絡めながらぎゅうっと抱き締め合う。
密着した肌がどろどろに溶けてしまいそうだ。
「、…、そろそろ…っ」
きゅんきゅんと収縮を繰り返すの体内がジャックを緩やかに導き始めている。
「はい、もぉ、あたしも…っイっちゃいそ、ぉで…っ」
「は、…ならば、一緒に…っ」
ぐ、とジャックの手がの腰を掴み更に激しく打ち付ける。
体内の奥を深々と突き上げられて、はジャックに爪を立てながらゾクゾクと身を反らした。
「あっ、は…!それ、激し、っ…!あ、あぁっ…!」
そして、ぎゅうううとの膝がジャックの腰を挟み込む。
「あ!あ!イく、イく…っ、あぁ、っ!イくうぅっ…!」
「――っ、出、す…ぞ…っ!」
最奥を突き上げられた瞬間にがくがくとが体を震わせた。
同時にジャックも息を詰めるように小さく呻き声を上げる。
じゅわ、と迸る体内の熱。
「んン…っ、いっぱい、出てますぅ……」
びゅくびゅく脈動しては放出を繰り返されて、収まりきらなかった精液がの体内から押し出された。
「すごい…、こんなに……」
うっとりと呟くからジャックが体を離す瞬間、自身を引き抜いたら更に零れた。
自分が出したもので汚れる彼女も淫猥であるが、このままは困るので。
「…とりあえずシャワーだな」
「そうですね…シーツも替えなくちゃ」
通常運転に戻ったらしいは手早く濡れたところを拭うと、さっさとベッドのシーツを剥ぎ取った。
「ジャック、先にバスルームに行っていてください。終わったらあたしも行きますから」
「…ああ」
普段よりも燃えたセックスの後なのにこの切り替えの早さ。
情緒も何もあったもんじゃないな、と思うジャックがの言葉に従おうと部屋を出ようとした時。
「ああ、そうだ」と思い出したように声を掛けられて振り向いたら。
は熱の籠った視線をジャックに投げかけて微笑んでいた。
「体はすぐに洗っちゃだめですよ。洗いっこ、しましょうね」
前言撤回。
まだ余韻を引きずっているようである。


…たまには風邪も悪くないかもしれない。











一通り風呂でふざけた後は部屋でごろごろすることにした。
そういえば…と隣に寝そべったジャックがを抱き寄せて思い出したように呟く。
「昨日お前の作った朝食を食えなかったのが残念だった」
「そんな大袈裟な…。いつでも作りますよ」
「あれはどうしたんだ。棄てたのか」
「あれですか?いつも頼んでるクリーンキーパーさんが丁度来てくれたので彼に食べてもらいましたけど」
「!」
男に食べさせたのか!!と声を上げそうになるのを必死で押さえ込んだ。
元はと言えば食べなかった自分が悪い。
次からは如何に食欲がなかろうとも、訳の分からない男に取られるくらいなら自分で食べようとジャックは心に誓う。
でもやはり収まらなくて、抱き寄せたに八つ当たりに近い噛みつくようなキスをしたのだった。


…やっぱり、風邪はだめだ。











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ふろっぴ様、40000hitのキリバンリクエスト本当にありがとうございました。
頂きましたリクエストは「風邪引き」だったのですが、ラブシーンではもう風邪治ってるっていう…。
病気って、『看病』という美味しいシチュエーションがあるのに、そこぶっ飛ばしたあたしを許してください。
力不足すぎる結果になってしまったかもしれませんが、お楽しみいただけていたら幸いです。


こちらの作品はふろっぴ様へと捧げさせて頂く作品となっております。
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