邂逅 1


「おい、客人を連れてきたぞ」
そう言って、ジャックが扉を開ける。
彼の隣には一人の女性がいて、遊星とリューナの目を引いた。
女性を連れてくるなんて珍しいと二人はジャックと女性を見るが、その姿を認めた瞬間、リューナの眉がひそめられた。
「…?」
どこかであったようなそうでないような。
見覚えがあるようなないような。
目を凝らして記憶の引き出しを手当たり次第に開けていく。
「…?」
それはジャックに連れられた女性も同じようで、彼女もまた同じような顔でリューナを見つめる。
やがてお互いの記憶が合致したらしく、同じタイミングでお互いを指差した。
「「あ!!」」
声を上げるタイミングも同じである。
それぞれの彼氏はなんだなんだと顔を見合わせるが、彼女らの頭に描く記憶は分からない。
不穏な雰囲気ではないことを感じ取ると、それぞれの動向を見守ることにした。
「あの時の…」
「リューナちゃん!リューナちゃんだよね!?」
きゃああひさしぶりー!!という声がガレージに響く。
リューナもつられて彼女の方へ歩み寄って、手をとった。
…本当にひさしぶりね」
「ねー!元気だった?」
、と呼ばれた女性は本当に嬉しそうで。
自分の知らないリューナを見せつけられているような気がするが、いくらなんでも見ず知らずの女性に嫉妬する訳にはいかないと、遊星は抑えることにした。
「…その、二人はどういう仲なんだ」
ジャックも聞きたいことを遊星が代弁する。
取り合った手を解くと、はにこ 、と笑った。
「私がセキュリティとして、潜入捜査で行ったアルカディアムーブメントで会ったの」
「そう。サイコパワーに目覚めたとか言ってね」
いきなりいなくなったから大変だったのよ、と続けるリューナは微笑んでいる。
今では笑って話せる事柄になっていることに安堵した遊星は、黙ってその話を聞いていた。
ジャックも同様で、そういえば自分の秘書になる前はそんなことをしていたと言っていたなと思いだしている。
「…二人が知り合いだということは知らなかった。もっと早く連れてくるべきだったな」
思考を今に戻して呟くジャックの声は優しい。
友人、とも言えるがジャックに愛されていることを知って、リューナは安堵した。
「ううん、私の休みも合わなかったし、仕方ないよ」
はにかむの顔に曇りはない。
純粋に幸せそうな彼女の後ろに立ち、ジャックはの手をとった。
そうして控え目に抱きよせると、遊星に見せつけるように視線を向ける。
「そういえば…アルカディアムーブメントで会ったということは、もサイコデュエリストなのか?」
挑発された遊星だが、リューナの知り合いに当たる訳にはいかない。
だが、デュエルではどうか。
ではなくジャックを狙っても、タッグであれば勝ちは勝ちだ。
合法的に目の前のカップルを叩きのめせる、もしかしたら展開によってはリューナの好感度が上がるかもしれないと企てる遊星は、誘う為にに質問をぶつけた。
「サイコデュエリストではないけど…デュエルはするよ。一応」
予想通りの答えが返ってくる。
よし、と遊星が内心ガッツポーズをしていると、ジャックとリューナが口を開いた。
「…ただなあ…」
「…改善されたと信じたいのだけど」
暗い顔色で、それぞれがを見る。
彼女は彼女で何かを自覚しているらしく、照れと恥ずかしさが混ざった顔でその視線に応えた。
「…?何かあるのか?」
分からない遊星は首を傾げる。
「…弱いんだ。が俺の秘書として傍にいた時に何度かしたことがあるが、が勝ったことはない」
「それは、ジャックに比べたら弱いのかもしれない。だが一概にそうくくってしまっては可哀想だ」
「ううん、私、本当に弱いの」
「謙遜しなくていいんだぞ。ジャックが言ったからと言って同調しなければいけないなんてことはない」
遊星の言葉は心からのもので、それを感じ取ったは彼の優しさを思い知る。
それでも、事実を言っても受け入れてもらえていないことには変わりない。
助け舟を求めるようにリューナを見ると、リューナははあ、と溜息をついた。
「…本当に、どうしてアルカディアムーブメントに来たのか問い詰めたくなったくらい…と言ったら多少は伝わるかしら?」
その目は真剣で。
嘘をついているとは思えない遊星は、まさかそんなと言った気持ちでを見た。
「…という訳で、ここで会ったのも何かの縁だし、が望むなら私がデュエルの指南をつけようと思うのだけど」
「え、いいの?私は全然いいよ!…ジャック、いい?」
「構わん…が、どうせなら実地訓練と行こうではないか」
「実地!?」
最後に声を出したのはである。
どうやらデュエルするなんて思っていなかったらしくて、慌ててデッキを探り始めた。
「…なんだ、デッキはあるのではないか」
「あるけど…心の準備が出来てないよお…」
セキリュティとしてアルカディアムーブメントに行った、と言っていたが、今の彼女を見ているととても真実とは思えない。
デュエルキング時代のジャックの秘書がデュエルが弱いなんてことは、想像も出来なかった。
リューナに連れられ、デッキ調整をしにリビングに向かうの背を見送って、遊星はジャックに話しかける。
「…セキリュティ…なんだよな?」
「…ああ、今でも御影と一緒に働いている」
「弱いと言っていたが…」
「それでも今までやってこれた。どうしてかは知らんがな。…それはいいが俺達もデュエルの準備をするぞ」
促されるまま、遊星はDホイールからディスクを取り出す。
デッキをスタンディング用に入れ替えて、彼女達が降りてくるのを待った。


「お待たせ」
「お待たせー」
とことこと階段を下りてくる。
リューナの顔は今からのデュエルを楽しみにしているかのように笑みを湛えていたが、はというと自信なさげに、笑うしかないというように微笑んでいた。
「タッグデュエルでいいかしら」
「構わん」
「…なら俺のパートナーは」
リューナだ、と遊星は手を伸ばそうとする。
その手がお目当ての人物に届く前にジャックに掴まれて、遊星は驚いたように金髪の幼馴染を見上げた。
「俺だな」
「え」
自分でも間抜けな声だなと思った。
思ったが、仕方ない。
まさかパートナーを変えられるなんて思っても見なかったから。
遊星は目を白黒させるが、それ以上にの顔には混乱の色が浮かんでいた。
「えええ…本当にやるの…!?」
、さっきのアドバイスをきちんと身につけたか確認させてもらうわ」
「ええええええ…リューナちゃん…無理だよお…」
「無理じゃないわ。大丈夫、フォローするから」
さっさと相手を見なさい、と背をはたかれて、はしぶしぶとディスクを構える。

「おい…ジャック…」
「ええい女々しいぞ。の為だ、我慢しろ」
「…」
遊星は遊星で思い切り不満をぶつけるが、上手くかわされる。
そのやりとりの中でジャックは準備を整えたようで、遊星もやれやれといったようにデッキをシャッフルさせた。


「「「「デュエル!」」」」
引き金となるこの言葉を口にする。
もう後戻りは出来ないと、も腹をくくることにした。


「フン、レッド・デーモンズ・ドラゴンでダイレクトアタックだ!」
「えええ!ええと…リバースカードオープン!リビングデッドの呼び声!グングニールを蘇生するね!」
「違うわ今じゃないって…!」
「ええっ」
ジャックの声がしたかと思えばが伏せカードを発動する。
発動して、グングニールが召喚されたかと思えばリューナが止める。
やいのやいのと和やかな、賑やかな雰囲気の中で、その声はリューナの、普段見せない焦燥を伴って響いた。
「まだ私達のライフは減ってないわ…ここは受けていいところよ」
「えっ」
「…今の状況を確認しましょうか。今のターンプレイヤーはジャック。あちらのフィールドにはレッドとスターダストとドッペルトークンが2体」
こくり、とが頷く。ここまでは理解したらしい。
「こちらのフィールドは、今貴方が発動させたリビングデッドの呼び声と、もう1枚伏せカード」
「…うん」
「今出そうとしたグングニールは攻撃力2500…スターダストと同じよね。今ジャックはレッドで攻撃してきた。これをやりすごして、スターダストの攻撃宣言に合わせて発動したら追撃を防げるの」
「…どうして?スターダストで攻撃して、グングニールも破壊されるってことも…」
随分大きな内緒話だが、遊星とジャックは聞かないふりをしてやる。
モンスターも互いに顔を見合わせるが、それぞれはあくまでデュエル中であるということで、指示があるまで待つことにした。
「…確かに戦闘破壊はされるわ。…でも、スターダストも相討ちになって破壊されるのよ?その後2体のドッペルトークンで攻撃しても私達のライフは削りきれない」
「…」
「せっかくの効果破壊を無効に出来る子をみすみす墓地に送って、あっちにメリットはあると思う?」
「…ない、かも」
「…レッドの効果でエンドフェイズに破壊はされちゃうから、確かに攻撃してくる可能性はあるわ。私達が受けるダメージも一緒(3000+400+400or500+2500+400+400)。それでもスターダストに合わせて発動したら、スターダストが戦闘もしくはレッドの効果で破壊されるか、レッドがスターダストの効果で破壊されるか、…どちらか1体はほぼ確実に潰せる訳」
「うんうん」
「もしスターダストがレッドの効果で破壊されたらチャンスよ。次の私のターン、グングニールの効果でレッドを破壊することができる」
「…おい、もういいか」
聞こえてきた、レッドを破壊という言葉に反応したジャックが語気を荒げる。
慌てたが立ちあがると、今のなし!とカードを再び伏せた。
グングニールの姿もあわせて消える。
「…いつもなら許されないが今日は許してやる。レッドの攻撃をその身で受けるがいい!」
「っきゃあ…!」
腕で顔を庇うに、レッドの灼熱の掌底が襲いかかる。
もう少しで届くという時に、彼女の前にリューナが躍り出た。
「そうしろって言ったのは私だものね…!」
突然のことでジャックにも遊星にも、にもレッドにもどうしようもない。
炎がを庇った彼女を包む頃、遊星は分からないようにジャックを睨みつけた。
それに気付かないジャックは、動揺を隠して指示を出す。
「スターダスト!お前もダイレクトアタックだ!」
「…今、よね、リビングデッドの呼び声発動!」
冷風が巻き起こる。
ひゅおおおと高い鳴き声と共に現れた氷龍は、スターダストを一瞥した。
今まさに音波を放とうとした星屑は一旦動きを止める。
グングニールの視線を受け止めると、どうするのか、と主人の隣の人間の様子を窺った。
「…ふん、貴様らはさっき、レッドを破壊すると言ったな。ならどうやって破壊するか言ってみろ!スターダスト!攻撃だ!」
相討ちを指示されたスターダストは、それに従って音波を放つ。
グングニールも同じタイミングで氷の息吹を吐きつけて、スターダストを迎え撃った。
がりがりとお互いのエネルギーが削られる。
ぱあん、とそれがはじけ飛ぶと、そこには星屑も氷もいなくなった。
「さらにドッペルトークン2体で攻撃だ!」
それでもジャックは手を緩めない。
トークンにも攻撃を支持し、ライフを削ると、そのままターンを終了させた。
「…なら、私のターンね」
デッキからカードをドローする。
リューナは自分の引いたカードを見ると、にやりと口角を釣り上げる。
「氷結界の伝道師、召喚!」
現れた老齢の男性は静かな目でレッド・デーモンズ・ドラゴンを睨む。
杖を掲げて天にかざすと、彼の姿は消えた。
「伝道師の効果、このカードをリリースすることで、墓地に存在する氷結界と名のついたモンスター1体を特殊召喚する!出なさい!」
もう一度、氷を纏う龍が降臨する。
冷たい風が遊星とジャックを穿つが、二人はひるまずにグングニールを睨みつけた。
、行くわよ!」
「う、うん!」

「「氷結界の龍グングニールの効果発動!」」











「…」
「…」
地に膝をつけた女性二人を、男性二人が見下ろす。
それぞれの彼女の手を引いて立たせてやった。
リューナとは顔を見合わせてくすりと笑う。
負けたは負けたが、共闘することでお互いを分かりあったようだった。
「あーもう…負けちゃったわね」
「ねー。ジャックが手加減しないんだもん」
「貴様が弱いんだ」
「だが、デュエルの中でどんどん腕を上げていった。楽しかったぞ」
「遊星は優しいのね…ジャックもこういうこと言ってくれてもいいのに」
不満を漏らすがジャックの顔は崩れない。
俺に一度でも勝ったら褒めてやる、と言うと、そのまま顔を逸らした 。
「私は勝ったことあるけど…褒められたことってあったかしら」
「え!リューナちゃんジャックに勝ったの?」
「ええ。まぐれかもしれないけど」
「えええ!!それでもすごいよ!教えて!デュエルもっと教えて!」
せがむ友人を無碍にはできない。
リューナはの手を取ると、もう一度リビングに上がろうとした。
が、それを遊星が阻止する。
「…もう一度しないか」
その瞳は嫉妬に満ちている。
これはまずいとリューナは思うが、の手を取った以上どうにも出来ない。
しかし、この状況を打破したのはほかならぬ彼女で。
「うん、その方が上達するの早いかもしれないしね。リューナちゃんを相手にしたら何か分かるかもしれないし、私ジャックと組むね」
遊星の思惑通りのその発言に、彼は誰にも分からないようにほくそ笑む。
分かった、と言うと、ジャックに準備を整えるように促した。
お前に言われなくても分かっている、とジャックは言うが、そう言って遊星を見る顔と、の横に立って彼女の顔を見つめる顔は全く違う。
優しいというよりも見守る気持ちを含んだその顔で、やはりが大事にされていることを感じ取ったリューナは、羨ましさ半分で横に立つ自分の恋人を見上げる。
遊星の顔も、ジャックに負けないくらいに優しくて、思わず赤面してうずくまった彼女に、自分の彼氏の視線に気付かないが「どうしたの?」と駆け寄った。



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個人的に仲良くやりとりさせていただいているマリアマリー様とのメールの中で、
「リューナ夢が読みたい」「リューナとダリアを仲良くさせたい」という話が出まして。
なら書いてみようかーということで書きました(軽)。
自己満足ですが、メールで送りつけたところ喜んで頂いたのでこのたびサイトに載せることにしました。
マリちゃん(メールではこう呼ばせて頂いてる)いつもありがとうね!

※マリアマリー様のサイトの夢主が登場している関係で、お持ち帰りはマリアマリー様に限ります。
ご了承ください。



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と、いうわけで頂いちゃいました!!
やばい、もう最高!!!
お願いしたのは冰覇様のサイトの固定ヒロイン、リューナちゃんとの交流でした。
どうしてもあたしはリューナちゃん相手の夢が読みたかったんです。
あまりにもリューナちゃんが可愛くて、あたしは既に名前変換では読まずにリューナちゃんと言うキャラクターを楽しませてもらっています。
仲良くしてもらった描写が嬉しすぎてどうにかなりそう。
あたし自分のキャラクターをどなたか様に書いていただけるのって本当に初めてなんですが、すごく嬉しいものですね!!
そして超固定ヒロインでした。反応も喋り方もそっくり。
冰ちゃん、本当にありがとうございましたー^^!!
是非ともまたお願いします!(自重しろ)