邂逅 6


※今回は全員で住んでる設定です
(詳細としては遊星・リューナ・ジャック・クロウ・ブルーノが住んでいるところに夢主が来た)
※毎度お馴染み細かいところはフィーリングで











この家の家事は当番制である。
遊星、ジャック、クロウのところにリューナが加わり、更にブルーノが、そしてついにはまで来たので当初のメンバーから見れば当番の回ってくる頻度は1/2になった。
今日はリューナの当番だった。
遊星が手伝うのでも別段手を出さず、ダイニングテーブルのところに座ったままテレビを見ている。
内容は空前のパンケーキブームがどうとかこうとか。
ジャックはそんなの隣に座り一緒に画面を見ているようだった。
が、注意力は散漫のようで。
「夕飯終わった後くらいの時間にデザート系の特集組むのってやらしいと思わない?」
「そうか?」
「リューナちゃんもそう思うよね」
「そうね」
熱心にテレビに見入ると、機械的に返答をするジャックとリューナ。
端から見ればこのぞんざい過ぎる会話にはらはらするのか苦笑するのか。
遊星はそのどっちでもないらしく真剣にリューナから手渡される食器を片付けていた。
「こんなの観たらパンケーキ食べたくなるに決まってるよねぇ」
「そうか?」
「リューナちゃんは?」
「そうね」
全く同じ返答をしている自覚もなく、やはりぞんざいに成り立っていく。
しかしそこに遊星が。
「食べたいのか?」
と、入ってくる。
耽溺する彼女がテレビの中のデザートを食べてみたいというのであれば遊星的には明日にでも材料を買い揃えるのも吝かではない。
そこで漸くリューナは機械的に返答していたことに気付いたようで、はたっと顔を上げると。
「え…?ごめんなさい、集中しすぎてちゃんと聞いていなかったわ」
「パンケーキだよ、パンケーキ。すごく美味しそうじゃない?」
指差されモニターに視線を移せば、白くて分厚いホットケーキのようなものにアイスクリームやフルーツが飾られたものや薄く焼き上げられた丸い生地にたっぷりとクリームが絞られたものが目に入ってくる。
それは確かに美味しそうだし、食後の口に甘い誘惑を感じさせた。
「…確かに、美味しそうね」
「でっしょー?ねー、今度のお休み食べに行かない?近所にちょっと良いカフェあるらしいの」
の申し出にリューナは少し考え込む。
悪くない提案である。
世間的なことには疎いのでこういうことはいつだって任せだが、食べ物に関してハズレを引いたと思ったことはまだない。
的には『ジョシカイ』…女子会というやつらしい。
果たして参加会員数2名の女子会が『会』を冠していいかどうかは甚だ疑問ではあるのだがテレビの中のデザートはとても美味しそうだった。
さてここで気になるのが…。
ちろりとリューナは遊星に視線を向ける。
同じタイミングでも遊星に視線を移した。
「…何故まで俺を見るんだ」
「や、遊星も絶対一緒に行きたそうな顔してるだろーなーって思って」
「リューナもそう思って俺を見たのか?」
「いいえ。でも遊星はいつもこういう時、一緒に来ると言うから。そろそろかしらと思っただけよ」
「…」
リューナとを相手にした、元より勝ち目のない問答だけに遊星は閉口した。
それに返答は決まっているのである。
「行く?遊星も」
「ああ」
「だよねー」
がぶつぶつと何事かを呟きながら指を折り始めた。
予算の計算かそれとも日取りか。
どちらにせよ恐らくは遊星も一緒に誘うつもりだったのだろうとリューナは推測する。
だって、時々こっそりと行われる女子会の時は遊星がいないところで約束が交わされるのだから。
実際そういうときのは非常に聡い。
確実に遊星とジャックに知られない日時を選び、二人が不在の間に帰って来れる。
浮気する男もこれくらい上手くやれば円満に家庭と彼女を両立出来るのだろうなと、恋愛ドラマを見ていて思ったりもする。
はどうして遊星とジャックがいない時が分かるのかしら」
本当に疑問に思って女子会中に聞いてみたことがある。
そうしたらは。
「昔ジャックのマネージメントみたいなことをしてたから、空き時間を見つけるのは得意なの」
と、事もなげに笑っていた。
それなりの苦労があったと推測されるがはその辺の話はあまりしなかったけれど。
「うん、まあ大丈夫かな。じゃあ4人で行けそうな日を選びたいんだけど…」
「…何故俺を巻き込むんだ」
「しっかり聞いてるってことは行きたいってことでしょ?あたし夜勤控えてるから丁度一週間後でいい?」
一言でジャックを黙らせたにリューナと遊星も無言で頷いて見せる。
「じゃあ明日予約しとくね」
約束を取り付けたは満足したらしくまたテレビに向かった。
既に話題は別のものに変わっていた。





「ジャック、ジャック…!ファスナー上げて!!」
「…一人で着れる服にすれば良かろう」
やれやれといった顔でのワンピースを摘み上げるジャック。
大人しく従うジャックも面白いが、それでぴたりと動作をとめるも何となく面白い。
「う…っ、やだ、太ったかな…。なんかキツいような…」
ファスナーを上げてもらったあと、きゅっと腰の辺りに手を当てて状態を確認する。
「はっ、今から元凶を食いに行くくせに何を言う」
「うー…食べたいものは食べたいんだから仕方ないじゃない…!」
「だから服が入らなくなるのだろう」
どれ…とジャックが、さっきがやったように彼女の腰にぎゅっと手を当てた。
むにゅむにゅとお腹のあたりを掴まれて、が「もおおっ!」と声を上げる。
「止めてよー!!」
「ふ、まあまあじゃないか?ここも…」
おもむろに腕を掴んでノースリーブのワンピースから覗く二の腕をむにゅむにゅ摘む。
「やだー!もう止めてぇえ…!」
悲壮な声が響くけれど、何処か楽しそうなので止めるものはいない。
寧ろそれを眺めつつ何となく誘発された遊星は。
「…」
「………何の真似かしら」
「…ジャックの…」
一緒に二人を眺めていたリューナの頬をぷよぷよとつついて見たりして。
「…程ほどで止めて頂戴ね」
「…はい」
うーん、なんか達と違う。
だけどソファでエンドレスぷよぷよをされるリューナの隣にが座り込んできた。
「もー、朝っぱらから二人ともラブラブなのねー!」
「貴方たちには到底及ばないと思うのだけれど」
「照れない照れない!」
照れてない。
時々は照れがある時もあるけれど、今日は断じて照れていない。
「ね、ちょっとだけあたしにお化粧させてくれる?」
「すればいいと思うわ。場所を替わればいいのかしら」
の言葉を別のベクトルで捉えたリューナに、は首を振った。
「そうじゃなくて、リューナちゃんにお化粧させて欲しいの」
「私に?」
「ちょっとだけ…と、言うか実は買ったんだけど使わないリップカラーがあって…。リューナちゃんに似合いそうだから試しついでに…ちょこっとだけよ」
「…」
彼女の『ちょっとだけ』は若干疑わしい。
ちょっとだけのつもりがとんでもないことになることも…。
リューナはちらりと時計を見た。
「予約の時間まであまりないと思うのだけれど」
「15分で済ませるから…!」
食い下がると押し問答をしてこの15分を粘っても良いけれど、一応今日のスポンサーでもあるわけだし…。
と、いう事でリューナは仕方がないわね、と頷いた。
まさかリューナが素直に頷くとは思っていなかったと遊星は一瞬目を見開くと。
「ありがとう!」
「待ってくれ!」
同時にそんな言葉を発した。
「何?」
「俺もする」
「遊星も!?」
上から、遊星、リューナである。
的にも「遊星も!?」という気分だったが(ついでに言えば遠巻きに眺めているジャックまでもが「お前がか」と思っていた)先にリューナに言われてしまって言葉を飲み込んだ。
しかし化粧などを施したことがないであろう遊星にやりたいと言われても…。
「うーん…まあ遊星手先器用だから……あっ、そーだ!!超適役があるわ!!」
ふとしたことを思いつき、にんまりと笑うにリューナは許可を出したことを後悔する。
遊星が手出ししてくる話題ではないだろうとの判断だったが早まったかもしれない。
彼女がこうやって楽しそうな顔をした時はいつだってかなりろくでもないことを考えているからで…。
「て、適役って…、が全部やってくれる方が安心なのだけど…!」
「俺がするのは嫌なのか」
「だ、だって貴方、お化粧なんかしたことないでしょう」
不満げな遊星と恐々として後ろを振り返るリューナと。
だけどは笑ったままリューナの前髪を留め始めた。
「大丈夫大丈夫。手先が器用な遊星ならあたしより巧くやってくれるかもよ」
「…え、?」
「まあまあ。とりあえず遊星は見てて頂戴。まずは化粧水からねぇ」
コットンを湿らせたがゆっくりとリューナの顔をコットンで撫でた。



「うーん、若いってイイ!!!素材が抜群だと映えるねぇ」
ぺたぺたと顔を触られ続けるリューナには何が何だか。
肌色のクリームを塗られたり、肌色のパウダーを塗られたり…それって何か意味があるのだろうか。
結局馴染んでしまって元の顔と変わらない気がする。
「ま、肌も綺麗だし厚塗りしなくても全然大丈夫そう。さって、遊星の出番よぉ」
じっと一連のを眺めていた遊星に声が掛かる。
は遊星に細い刷毛を渡した。
「まずはこれでリューナちゃんの唇にこのリップクリームを塗ってあげて」
「…分かった」
「はい、リューナちゃんは遊星の方を向くー」
「えっえっ…」
それってソファに座ったままで遊星と向かい合わせになれという事か。
ちょっと待ってそんな恥ずかしいこと…。
「さぁ、リューナ…!」
「さぁじゃないわ…!」
嬉々として誘う彼氏と目の前の元凶とに挟まれてリューナはおろおろと視線を彷徨わせた。
助けを求めてジャックに視線を移しても素知らぬ顔でこちらを眺めているのみである。
今度遊星関係で何かあっても助けないからと心に決め、リューナは意を決して遊星の方に向き直った。
「はい、口と目ェ閉じてー」
「目?目も関係あるのっ?」
「大有りよー。これからあたしがアイシャドウ軽く乗せるから。時間無いから遊星と同時進行でね!」
「…っ」
仕方が無くリューナは目を伏せて遊星に向き直ったまま唇も閉じた。
そんなリューナを見た遊星はちょっとだけ息を飲む。
どう考えてもキス強請られているようにしか見えないし、がそう仕向けたことは明白である。
「…これは…」
「なかなかねえ…」
「なっ、何が!?時間がないんでしょう!?早くしなさい…!!」
「はいはーい。じゃあ遊星、はみださないように綺麗にね」
「ああ」
刷毛でリップクリームを取り、桜色のリューナの唇にゆっくりと乗せる。
柔らかそうな唇が刷毛でぷよっと弾力を示すのにこっそりとドキドキしながら形を丁寧になぞった。
はそれを邪魔しないようにごく軽く瞼の上で刷毛を動かす。
「ン…」
くすぐったいのかリューナが僅かにもらした声に更に遊星の心臓は跳ね上がった。
アノ時…とはまた違う柔らかな声。
唇で触れた時とも指先で触れた時とも違うこの感触。
夢中で刷毛を動かす遊星にから声が掛かった。
「遊星、それくらいでいいわ」
「!…そう、か」
もう終わりなのかと遊星が残念そうにに視線を移す。
それはもう分かりやすい雰囲気である。
「終わった?」
リューナからも声が掛かる。
しかしは首を振ると。
「まだよ。次はこれを…」
「それくらいにしておけ」
二人に刷毛で顔を撫でられ続けているリューナに漸く救いの声が掛けられた。
遠巻きにこれを見ていたジャックである。
「もー、まだ10分しか経ってないじゃない!今からが楽しいのにー」
の言葉にリューナはぎくりと体を強張らせる。
と、同時に『超適役』という言葉を思い出していた。
まだ遊星に何かさせる気なのだ。
「他人の準備をしてやるのは結構なことだがな。お前はその格好で出発する気か」
「…あっ、そーだ、まだストッキング穿いてない…!」
突っ込まれて自分の姿をはかえりみれば、ノースリーブのワンピースを着ただけの状態で。
ストッキングもまだならば、羽織るつもりのカーディガンも部屋に置きっぱなしだ。
「遊星、後任せるわ!同じ要領でこれ塗ってあげて!それがメインなんだから!!」
化粧品をがちゃがちゃとポーチに無造作に突っ込むと慌てて階段を駆け上がっていった。
任されてしまった遊星は、残されたリューナと渡されたリップカラーを交互に見る。
薄らとアイシャドウを施されたリューナの目が物憂げに開かれる。
ああ、うんざりなのだなと一瞬で悟ってしまう遊星の悲しい性。
「…止めておく、か…?」
断腸の思いで提案する遊星に、リューナは重く首を振った。
「塗らないと後でうるさそうだし…ね」
はい、と唇を閉じる。
もうアイシャドウは無さそうだから目も閉じなくてもいいだろう。
と、思ったのが間違いで。
「…っ」
真剣な表情で遊星はリップカラーを刷毛で取ってそっとリューナの唇に乗せていく。
これがとんでもなく恥ずかしい。
遊星はいつだってリューナに真摯に向き合うし、注いでくれる視線も熱が篭っているけれど。
「…」
「…」
愛おしいものを撫でる手つきで刷毛を動かす遊星と、それを施されている自分の絵を想像すると顔から火が出そうだ。
早くと急かしたいけれど、はみ出たら困るのは自分だし。
そのうちが降りてくる足音がした。
「んー…絵になるぅ…」
やめて、そんなこと言って眺めないで!!!
と、言う声も出せず、リューナはぎゅっと手を握るだけだった。
しばらくそれを眺めていただったけれど。
「そんな感じで良いかな!想像通り似合ってるわ」
にこにこと遊星から刷毛だけを受け取る。
「そのリップカラー、使えそうだったら使ってね」
「……ええ…」
出かける前からどっと疲れたリューナだが、目の前の遊星は充実した顔をしている。
今すぐにでも食べちゃいたい気分、ということも何となく読み取れてしまうけれど気付かない振りをした。
しかし出掛けにつまらなそうに呟いたの言葉にリューナも遊星もジャックも硬直することになる。
「ホントはリューナちゃんに遊星の唇にアレ塗ってもらってひとしきり笑った後、口移しでリューナちゃんにリップカラー塗ってもらうつもりだったのになー。これはまた今度ね!」
「お断りするわ!!!」
珍しく声を荒げるリューナは遊星の「止めておくか」という気遣いを振り切って本当に良かったと思っていた。
塗っていなければ確実にこれを実行させられただろう。







「女性客ばかりね」
「そりゃそーだよー。こういうとこで昼間の女子会やるんだしさ」
が予約した店はものの見事に女性客だらけだった。
もうそこかしこから黄色い声や笑い声が響いている。
一週間前のパンケーキの特集が功を奏したのかどうかは知らないけれど、予約席だけがぽつんと空いていた様は『空前のパンケーキブーム』という言葉を裏打ちしているようだった。
「気になる?」
一応がジャックや遊星に聞いてみる。
「やかましいが気にはならん」
「ああ、そうだな」
流石、心臓に毛が生えているなぁとはこっそり思った。
全員で別々のものを注文し(と、いうかこれもサクサクとが仕切った)今日の夕飯の話しなんかをして待つ間を過ごした。
「クロウとブルーノに悪いから今夜なんか別個でおかず付けてあげようかなーって思ってるんだけど」
「良いんじゃないかしら」
「何が喜ぶかな」
「お肉なら何でも喜んでくれそうだと思うのだけれど…」
互いに彼氏を隣に置いて(それもなかなかの独占欲を見せる)別の男を喜ばせる話などをする二人も恐らく心臓に毛が生えていると思われる。
あの二人にあからさまな嫉妬心を感じるわけではないが、それでもちょっとだけ面白くなかったりして。
「別に放って置いてもいいと思うが」
ぽつっと言い出したジャックに遊星までもが乗っかる。
「今日はDホイールで来ていないし、買い物の荷物は少ないほうがいい」
「そうだな。それでなくとも6人分だ。持ちきれんぞ」
「また次で良いんじゃないか」
即座に反応する幼馴染力。
荷物持ち役の二人に言われてしまいとリューナは顔を見合わせる。
「…そうかなあ」
「そうだ」
「そうかしら」
「ああ、間違いない」
ジャックと遊星に力強く言い切られ、釈然としないながらもそういうことにして話題は別のものへと変わっていく。
そうこうしているうちに注文の品が運ばれてきた。
「あー、すっごい美味しそうっ!!」
ふっくらしたキツネ色の生地の上にこれでもかと盛られた生クリーム。
零れ落ちるほどのフルーツが乗ったそれは、テレビで見たものと品は違えど劣らない。
「見ただけで胸焼けがする…」
「何言ってるの、ジャックのはさっぱり系でしょ。クリームもないし。食べ切れなかったらあたしが食べるけど」
の言葉にジャックはじっと彼女の二の腕を見た。
悪意のある視線を振り切ってはフォークを掴む。
いただきまーす、と彼女が言い、リューナや遊星もフォークを握る。
ふんわりと柔らかくて軽い食感のそれは口の中で解けるように崩れていった。
「美味しい…」
「でしょ?ここ当たりだよね!」
思わず呟いたリューナの言葉を拾ってもにっこりと笑う。
「胸焼けするなんて言ってるけどジャックも食べてみなよ。美味しいから」
さくさくと一部分を切り取って、ご丁寧に添えてあるアイスクリームもたっぷりと載せてはフォークを差し出した。
一緒にショッピングモールに出かけたときも二人はアイスクリームをこうやって食べさせあっていたっけ…とリューナは何となく思い出す。
抵抗も無いようで、の手からパンケーキを食べさせてもらうジャックだが、やはり彼にはとても甘かったようで僅かに眉を顰めた。
「あ、そんな顔するぅ。…ね、ジャックのも頂戴」
「…そら」
既にそう言われることが分かっていたのだろう。
待ち構えるようにパンケーキを切り取ってあったフォークをに差し出す。
「んー、こっちも美味しいね」
上機嫌で飲み込んだは自分のパンケーキに戻ると、それをまたさくさく切り取る。
そして、その後予想外なことをしたのだ。
「はい、遊星にも一口」
差し出されたフォークに遊星はぱちぱちと瞬きをした。
何故に自分に。
するならリューナにかな、と漠然と思っていただけにとても驚いた。
何となくリューナに悪いような気がして横目でリューナを確認すると。
「…貰ったら」
抑揚も薄くそんなことを。
嗚呼、普段リューナが言う「助けて遊星」の気分が分かる気がした。
「早く食べてよー。クリーム垂れちゃうじゃないの」
「……、じゃあ…」
差し出されたフォークを口に入れた。
「どう?どう?」
どうと言われても。
「…美味い、と思う」
そう答えるしか。
「ねー、ホント美味しいよねー。じゃあ、リューナちゃんにも」
「え。私は…」
遠慮するわ、と言いかけたリューナの言葉に被せるように(と、言うより確信犯的に被せたに違いない)が口を開いた。
「別の女が遊星と間接キスなんてやだもんねぇ」
「っ…!」
そんな言葉を被せられてしまい『遠慮する』と言い辛くなってしまった。
いや正直に言えば、別に全然気にしない。
もう皆が家族みたいなものだし。
だけど、ここで拒否すると後で遊星が拗ねるような気がして。
分かりにくく拗ねられるのも面倒なら、しなくていいご機嫌取りも面倒である。
「はい、あーんして?」
「……」
こればかりは「助けて遊星」が通用しない。
だって丁度こめかみの辺りに熱烈な視線を感じる。
『間接キス』をそんなに期待されても困るのだけれど。
もしかしたらの助け舟を求めてジャックに視線を移してみたが、知らない顔でコーヒーを啜っている。
今度遊星関係で何かあっても絶対の絶対に助けないからと心に決めたリューナは大人しく口を開くことにした。
リューナに合わせて控え目に刺さったパンケーキの切れ端を口に含む。
「どう?」
「…美味しいと思うわ」
遊星と全く同じ答えを返し(はそれが可愛くておかしくて仕方が無かったが笑うことは我慢した)、早めに胃の中に流し込む。
しかしここで問題が一つあることに遊星は気付いた。
リューナが口を付けたフォークは誰が使うのかという事だ。
あ、と思ったときにはが次の一口をフォークに刺しており。
「んふふ、じゃあリューナちゃんとの間接キス頂きまーす!」
「なっ…、何変な事言ってるのよ、…!」
「えー?美少女との間接キスプライスレスでしょー?」
「意味が分からないわ!」
ええ、本当に。
彼女には付いていけません。
俗事やカップルの常識などに疎いリューナは心底そう思っている。
目の前のはまたジャックと交互にパンケーキを食べたりしているし。
に何か目論見があるのかどうかは分からない。
だけど。
「…リューナ」
「……何かしら」
4人でこうやって出掛けると遊星に変な知識が植わってしまうのである。
今も熱の篭った声で名前を呼ばれてしまった。
あああああ。
多分目の前のカップルと同じようにパンケーキを食べたいと言う事なんだろう。
それが嫌なわけではないけれど…気恥ずかしいのもまた事実。
ちょっとした逡巡の後、黙り込む遊星に一瞥も与えず黙ったままで、リューナはさくさくと自分のパンケーキを切り分けた。
そしてそれをフォークに刺すと。
「……食べたいのかしら」
甘ったるい声で『あーん』とは言えないリューナの精いっぱい。
遊星はまさかの行動にぱっと明るい表情になる。
「…構わないのか」
「確認しないで頂戴」
早く、と視線で訴えれば遊星がフォークのパンケーキを口に入れる。
「…凄く美味い」
「そう。良かったじゃないの」
今度は本当の意味で照れ隠し的にそっけなく答えると、遊星のフォークも差し出された。
「…お返しだ」
「……ありがと」
俯きがちに遊星のパンケーキを咀嚼するリューナには見えなかったが、二人をが輝ける視線で見つめていたのだった。
「これ、これこれ!!!これが見たかったの!!」
「こんなの見てないで自分の分に集中したらどうかしら!?」