恋とは眠る間に実るもの


「嫌よ。やめてよ鬼柳」
「ちょっとくらい良いだろ。お互い初めてじゃねーし」
「そういう問題じゃない!」
周りが男ばかりなのが悪いのか。
鬼柳は欲求不満になるとこうやって迫ってくる。
しかし自身には全くその気はない。
申し訳ないが、彼は性的魅力を感じない。
悪い男では無いけれどにはもう好きな男がいるのである。
多少のお触り程度なら正直どうってことはないけれど、お触りされているところを彼に目撃されるのは嫌だった。
抱きしめようとしてくる鬼柳を必死に押し返す。
「い・や・よ!」
「知ってっか?俺は抵抗されるとスゲェ燃える性質だぜ」
「知りたくないわ。馬鹿じゃないの?離して!!」
ばたばたと騒いでいると、不審に思ったのだろう、のそりと人影が現れた。
この個性的な髪型は…。
「遊星!助けて!!」
助け舟が来た。
は必死で叫ぶ。
遊星で良かった。
彼だったら自分がショックで立ち直れなくなるかもしれなかった。
目の前の遊星はあからさまな溜め息を吐く。
「…、何故お前はいつも鬼柳の呼び出しに応じるんだ。今日も呼び出されたんだろう?」
「仕方ないでしょ!それがあたしの食い扶持よ。ねぇ早く鬼柳をなんとかして!」
「おい遊星、邪魔すんなって」
「…鬼柳、邪魔されたくないならアジトを使うな」
正直とばっちり以外の何物でもない遊星は面倒くさそうにと鬼柳を引き剥がした。
「おい遊星!」
「ありがとう遊星!」
礼を言っては部屋から走り去る。
獲物を逃がした鬼柳は遊星を睨むが、別段遊星は気にしない。
「何故いつもいつもをここに呼び出すんだ。二人きりで会えば良いだろう」
「あいつここじゃねぇと来ねぇんだよ。あークッソ、今日も逃がした」
「鬼柳は…のことが好きなのか?」
「いや?別に。あいつ顔が綺麗だし胸でかいから。あとタダだし」
「…」
やれやれだ。
遊星は溜め息を吐いて首を振った。
鬼柳のこういう感覚はあまり理解できない。
遊星の感覚としては、そういうことは好きな相手としたいと思うのだが。
まあ人それぞれといえばそうなのだろう。








毎度毎度危険な目に遭ってまでがこんな廃墟くんだりまで来るのには理由がある。
「あっ、いた…」
瓦礫の中にお目当ての姿を発見した。
廃ビルの一角、鮮やかなオレンジ色の髪。
薄汚れたソファの上で引っくり返っている姿を見つける。
「…クロウ…?」
小さく声を掛けてみた。
ぴくりともしない。
「…寝て、るのね…」
ドキドキしながら近付くと規則正しく寝息を立てて静かに眠るクロウの姿が目に入る。
「っ!」
やばい。
相当可愛い。
こんなに無防備に眠る彼を見るのは初めてだ。
いつかクロウと不適切な関係になれたら堪能しようと思っていただけにラッキーである。
起こさないようにそうっとクロウの傍にしゃがみ込んだ。
思わず溜め息が漏れる。
「はぁ…可愛い…。クロウ超可愛い。嗚呼…ぎゅうってしてもらって一緒に寝たい…」
相手が寝ていると思うと妄想が駄々漏れになる。
「いつも超格好いいのに寝ると可愛いとか…もーたまんない。キスしたいー…」
いや、この際寝ているのだしちょっと位はいいのではなかろうか。
「ほ、ほっぺたくらいならいいかな…っ」
ほっぺたにちょっと触るくらいで留めておけばきっとバレやしない。
だが万一起こしてしまったら…と思うと踏み切れない。
一番ダメなのはキスの直前に起こしてしまう事。
ありがちだけど、その後のフォローを出来る気がしない。
「あぁ…ダメだダメだっ。このクロウを瞼に焼き付けて帰ろう…。今晩夢に見るくらいに…。夢の中ならキスし放題だもんねっ…」
そのままクロウの傍に15分ほど佇んでいただろうか。
っ!!!見つけたぜぇぇえ!!!」
「ぎゃっ!鬼柳!!お前マジしつけーよっっ!!!」
逃げ出したはずの鬼柳に見つかりは慌てて立ち上がる。
名残惜しいが仕方が無い。
折角の「鬼柳からの呼び出しを受けた」という言い訳も此処までか。
クロウと喋れなかったのは悲しいが、まあとりあえず可愛い寝顔を見れただけで満足しよう。
どうせまた鬼柳は懲りずに連絡をしてくるだろう。
その時にゆっくりと話せばいい。
「…じゃあまたね、クロウ…」
小さく別れを告げて、鬼柳に捕まる前には窓から飛び出した。
サテライトで生きていくうえでコレくらいのアクションが出来なければお話にならない。
…ってかここ一階だから大丈夫なだけなんですけど!
とりあえずは危険なアジトから素早く走り去ったのである。
「畜生、あいつ猿か!?もう姿見えねぇでやんの!」
またしても獲物を逃がした形の鬼柳。
今度は本当に逃がしてしまった。
足音も荒く部屋を出る。
寝ているクロウへの気遣いの欠片も無いが、そんな鬼柳が出て行った後でクロウはゆっくりと体を起こした。
「…マジか」
その頬は気のせいではなく赤い。
それもかなり。
実はソファの傍にがしゃがみ込んだ時に、気配で目が覚めたのである。
しかしいきなりがとんでもない独り言を発するから起きるタイミングを逃してしまった。
まさかあんなにも色々と駄々漏れに喋るとは思わず、引っ込みがつかなくなり寝た振りを続けていたのである。
キスされたらどうしようとどぎまぎしていたが、彼女はどうやら夢の中で思いを遂げるつもりのようだった。
流石にじーっと傍に居座られるのは居心地悪く、そろそろ起きた振りでもしようかと言うときに鬼柳が突入してきたのだ。
そのままを退場させてくれて助かった。
とりあえずあの独り言をクロウが聞いていたことはばれなかった。
…が。
寧ろ聞かなければ良かった。
次から彼女とどんな顔をして会えばいいのやら。
いや、でもが好いてくれているらしいことはクロウにとっては嬉しい事実だ。
恋愛沙汰に興味は薄いが、ならば話は別だ。
いつもいつも鬼柳に呼び出されて来ているから、多分鬼柳に気があるのだろうと諦めていたけれど。
普段は男に混じって笑ってるような彼女だが、二人きりのときに見せる表情に女を感じてどきっとすることがたまにあった。
今思えばはそういう気分で接していたのだ。
クロウの前で女になってしまう程、それを隠し切れない程に…そういう目でクロウを見ていたのだ。
鬼柳ではなく、クロウ自身を。
そう思い至ると頬が緩んでくる自分がいて。
「…ニヤけんなよ、俺…」
頬を押さえながらクロウは俯き頭を振って気を逸らそうと試みる。
「どうしたんだ、クロウ」
「っ、!?…あぁ、なんだ遊星か…」
「具合でも悪いのか?」
「…あ、いや…何でもねぇ」
不審な行動を見られたけれどクロウは笑って誤魔化した。





「起きてっか、遊星」
真夜中のアジト。
遊星の部屋を訪ねて来たのはクロウだった。
「…どうした、クロウ」
「お前、のアジト知ってるか?」
クロウの言葉に遊星は深い溜め息を吐いた。
「…クロウもか」
「俺も?何のことだよ」
「鬼柳が今日を呼び出して関係を迫っていた。は嫌がって逃げたが…。好きでも無いのに関係を迫る鬼柳の気持ちは俺には判らない」
「ちょ、待て…!俺は…!!」
俺はが好きなんだと口走りそうになってクロウは慌てて言葉を飲み込んだ。
ではなく遊星に告白して如何する。
「?」
「い、いや!その、ちょっと…に聞きたい事があるんだよ。きょ、今日来てたんだったら会えたら良かったんだけどな!」
「…そうか。知っているには知っているが…今からはあまり勧めない」
「急ぐんだよ。教えてくれ。…ってか聞いといて何だけど、何でお前のアジト知ってんだ?」
「前に一度、拾った電子レンジを直して欲しいと依頼を受けた」
「ああ、成る程…」
そういう方面には万能な男だ。
遊星が教えてくれたのアジトは意外にも近かった。
しかし遊星が勧めないと言った理由も分かる。
まだ制圧していないエリアだ。
名前が売れ始めたチーム・サティスファクションのクロウだとばれると良くないことになるかもしれない。
「俺も付き合うか?」
「いや、いい。何とかなるだろ。一人のほうが身軽だしよ」
「…そうか」
遊星はそれ以上何も言わなかった。
クロウは礼を言い遊星の部屋を後にする。
何か気付いたろうか。
何も見て無いような顔をして色んな事を知っていることが多い遊星には、もしかしたら見通されていたのかもしれない。
アジトを出て闇夜に身を翻す。
は起きているだろうか。
それとも言っていた通り自分の夢を見てくれているのだろうか。
瓦礫の山を走りぬけ、クロウは遊星に教えられたエリアへ向かう。
途中危なそうな連中と額をつき合わせそうになったがギリギリで気付いてやりすごし、何とか誰にも会うことなくのアジトの前に来た。
は廃ビルの地下を根城にしているそうだ。
ぼんやりと光がもれているのが見える。
無用心なようだが遊星はそれはトラップだから気をつけろとクロウに警告していた。
出入り口を別に作ってあるらしい。
遊星に教えられたとおり先ずは廃ビルの2階へ。
突き当たりの部屋が扉を開けた先が奈落になっていて、内側に梯子があるからそれを使えと言う事だった。
「うお、結構深いじゃねェか…うっかり誰かが落ちたらどうするんだよ…」
思わず呟いて、手探りで梯子を探す。
かつんと冷たい感触。
慎重に下りると、成る程結構広い1階の部屋。
そこから更に階段がある。
こちらには灯りが一つも無く、用心深い感じだ。
女のサテライトでの一人暮らしはそれほどに難儀なのだろう。
階段を下りると漸くドアが見えた。
しかしそれは薄っすらと開いており光が漏れている。
用心深いのだか無用心なのだか全く判らないが、ここまで来る人間など早々いないということなのだろうか。
「トラップじゃねぇだろうな〜…」
遊星は警告していなかったが、知らないと言う可能性もある。
声を掛けてみるか、入ってみるかと考えていたら、ドアがひとりでに開いた。
「うぇ!?」
ぎくりと動作を止めれば、そこにはが立っている。
どうやらが開けてくれたようだ。
「クロウ…、何でここに?」
「お前こそなんで俺が来たって判ったんだ?」
「梯子と向かい合わせにしてカメラ設置してるのよ。見知った後姿が見えたから、ね。急にどうしたの?」
ドアに気怠るげに寄り掛かる
服装も何時ものかっちりしたジャケット姿ではなく、緩いシャツに細身のパンツで普段とは雰囲気がまるで違った。
こういうときに女を感じるのだ。
どぎまぎしながらもクロウは少しだけ笑って見せる。
「ははっ、夜這いに来たんだ」
「…え…?」
「今日の昼、別にキスしても良かったんだぜ」
「!」
ぎくっとの体が強張った。
見る間に顔が赤くなっていく。
「うそ…」
「悪ィ…起きるタイミング逃しちまって…」
「聞いてた、の?」
「…おう」
ばっとが両手で顔を覆ってしゃがみ込んだ。
死にたい。
死にたい!
駄々漏れの妄想を聞かれていたとは!!!
「やだー!うそー!嘘と言ってぇぇええ!!!!」
恥ずかしすぎる。
穴があったら埋まりたい。
「全部、聞いた…の?」
「おう」
「ああああ…いやぁ…恥ずかしいぃぃ…」
ぶんぶんと首を横に振って悶える
確かに逆の立場なら同じ事をしただろう。
しばらくそうやってきゃーとかわーとか黄色い悲鳴を上げていたが、ふとクロウに向き直って。
「…あれっ、でも夜這いってどーゆーこと?」
「や、そのまんまの意味だぜ」
「……えっ?」
またしてもの顔が赤くなる。
今度はほんのりと。
急に可愛いな…とクロウが思っていると、はゆっくりと立ち上がった。
「…そういうことなら…どうぞ」
くるりと踵を返しては先に立って歩き始めた。
クロウは黙っての後について行く。
ドアの奥は短い廊下のようなつくりになっており、右手にかなり大きな空間が出来ていた。
そのコンクリートに囲まれた広い部屋の一角に、カーテンで仕切られた場所がある。
は迷わずそのカーテンをあける。
そこには簡素ながらもきちんと整えられたベッドがあった。
「っ…」
生々しい想像をしてしまいクロウが息を飲む。
はそっとその上に腰をかけた。
ぽんぽんと隣を叩いてみせる。
クロウに此処へ座れと言っているのだろう。
「さ…、こっちに来て」
「あ、ああ…」
「クロウ…一個だけ聞きたいの。何て答えても拒むつもりは無いから正直に答えてくれる?」
「何だよ?」
「あたしの気持ち…分かったわよね?その上で簡単に足開きそうだと思ったから性欲処理に来たの?それとも全部受け入れてくれるつもりで来たの?」
静かに言ったの言葉にクロウはかっと頭の中が熱くなる。
恐らく鬼柳が取った行動がにこの質問をさせているのだろう。
「あたし、クロウが好きよ。正直性欲処理でも喜んで貴方に付き合うわ。でも…もしそうじゃないなら…一言だけ、聞かせて欲しい」
の、普段の凛々しい瞳が頼りなく揺れる。
不安そうな表情に淡い色気を感じて、クロウはどきりとした。
「決まってんだろ!その、俺は…が好きだから来たんだよ…!」
言いながらクロウはの手を取る。
「お前いっつも鬼柳の呼び出しでアジトまで来てたから、鬼柳に気があると思ってた。でも今日ソファの前で俺に言ってくれた事、スゲェ嬉しかったんだ。その、俺、の…か、体が目的じゃねぇんだ。ソファの前で言ってくれた事…してぇなって…おも、って…」
上擦る声で想いを口にするクロウを思わずは抱きしめていた。
大好きな気持ちがじんわりと溢れてくるようだった。
「ありがと…凄く、嬉しい」
ぎゅうっと強く抱きしめられてクロウの胸にのふくよかな胸が押し付けられる。
柔らかいそれに意識を奪われて体温が上がるのを感じた。
ずくんと下半身が反応しそうになる。
「あー…、悪ィ…」
「え、何が?」
「…やっぱ、体も目的かも…」
ばつが悪そうに視線を逸らすクロウにはくすりと笑って見せる。
「あはっ、此処まで来て抱かないって言われる方が悲しいわよ。あたしもね、クロウの体も欲しいのよ」
にこっと笑ったがそっとクロウの唇に自らのそれを重ねてきた。
抱き合ったままで交わされる唇。
密着したところから熱が上がってくるようだ。
「んっ、…ふ」
ぬるりとの舌がクロウの唇を割る。
柔らかな舌がクロウの舌を絡め取った。
「っ、…」
クロウが小さく息をのむ。
官能的な感触に思わずを抱きしめる手に力が篭もった。
はクロウの舌を軽く吸い、混じった唾液を飲み込んだ。
角度を変えながら深く浅く。
熱い吐息が交じり合う。
「はぁ、クロウ…素敵…」
少しだけ唇を離したは溜め息混じりに呟いた。
そしてシャツのボタンを外し始める。
、俺…その、こーゆーこと初めてで…」
目のやり場に物凄く困りながらクロウは視線を逸らして口にした。
「あら、そうだったの。鬼柳に危ない界隈に連れて行かれてると思ってたわ」
「や、俺、鬼柳みたいに暇潰すために女のとこ行ったりしねぇし」
「あぁ…誠実でますます格好良いのね、クロウって」
うっとりとした視線をはクロウに向ける。
「っつーか…以外に興味無かったっていうか…」
「!」
素直すぎる。
は頬が熱くなるのを感じた。
嗚呼、何故もっと早くこうしなかったんだろう。
想うだけの時間も勿論無駄ではなかったけれど、もっと早く勇気を出して同じ時間を共有すれば良かった。
「大好きよ、クロウ。あたしをクロウのものにして」
「…、っ、」
シャツを肌蹴させたがクロウの手を掴んで自らの胸に押し当てた。
ふにゅんとした柔らかな感触。
未知の触り心地にクロウは一瞬息を飲む。
刹那湧き上がるオスの本能がクロウを突き動かした。
シーツの海にの体を押し付けて覆い被さり、深く口付ける。
噛み付かれるような荒々しいキスだった。
「んっ、ん…!」
何度も角度を変えて貪られ、溢れた唾液がの頬を温く伝う。
それだけではない。
クロウの手がの下着をずり上げて直接肌に触れた。
形を変えるように捏ねられては思わず小さく声を上げる。
「はっ、あ…、あっ…!」
やや乱暴な愛撫だが、興奮したの体にはそれくらいで丁度良い。
寧ろ激しく求められた方が嬉しいし感じる。
「あぁ…っ、ん…はぁっ!」
ぷくりと膨らんだ乳首を摘み上げられ、びくっと体が反応してしまう。
クロウの指先がそれを抓るように捏ねている。
「んっ!あぁっ…!はぁぁ…ぁぁん…っ」
「…、体すっげー跳ねてるな。これそんなにイイのか?」
「はぁ…あぁぁ…、クロウに、されてるから…んっ、余計に…感じちゃうのぉ…っ!」
「おまっ、何言ってんだよ…っ」
慌てたようにクロウがから手を離した。
熱くなり始めた体が、刺激を失い切なく疼く。
「ああ…止めないで…もっと、お願い…」
はしたなくも愛撫をせがむの視線は熱っぽくクロウを誘う。
含まれた色香にどきりとしながら、もう一度胸を掬い上げた。
浅い呼吸で上下する胸はクロウの手の中でゆったりと震えている。
「…こ、こんなのは…どう、だ?」
「え、あっあはぁぁぁ…っ」
恐る恐る唇を押し付けたクロウ。
ぷちゅりとぬるむ口の中に敏感になった乳首を含まれて、は溜め息と共に嬌声を上げ背中をしならせた。
強請るかのように胸を押し付ける格好のにクロウも本能が揺さぶられる。
唾液を含ませた舌で丁寧になぞり、ちゅうううときつく吸い上げる。
「あっあっ…!はぁぁっ!!」
そのまま舌先で弾かれると、下腹の奥がきゅうんと疼くのが分かった。
疼きはの足の間を熱く湿らせる。
中からじわりと愛液が染み出すのが分かった。
「あぁぁ…クロウ、はぁっはぁっ…あぁん…っ、クロウ…っ!」
ちゅ、と小さく音を立てて、クロウが唇を離す。
そして態勢を戻すと、の頬に軽くキスをして抱き締めた。
いや、それだけではなかった。
抱き締めながら首元に顔を埋めたのだった。
「はぁ…、すげー良い匂い。…声もエロくて堪んね…」
「そういうクロウも…すごくやらしい声してるわよ…」
欲望に枯渇した掠れた声。
餓えていると言うことは求められているとも同義語だ。
欲しいままに貪られたい。
「ん…」
顔を近づけて来たクロウの唇を素直に受ける。
啄むように何度も軽く触れた。
その合間には自分を抱き締めるクロウのジャケットを脱がせ始めた。
袖がないので簡単に抜ける。
それをベッドの下に落とし、インナーシャツにも手をかけた。
脇腹を擽るような仕草で捲り上げる。
「ね、クロウ…あたしもう…」
素肌に触れるの指が熱い。
焦れた腰が疼くのか、の膝はきつくクロウの腰を挟み込み時々強請るように身じろぎする。
少し恥じらう視線がクロウを欲しいと訴えかけていた。
「…」
クロウは無言での太股を撫でた。
「んっ…」
ぴくんとが反応する。
好色に這い回るそれがの衣服に掛けられた。
力強く腰を抱き上げられて、簡単に脱がされてしまう。
それを投げ捨てたクロウの指が遠慮がちにショーツの上から、ふっくらとした丘をなぞった。
「はあぁ…」
なぞる指先は、そのまま溝の方を辿っていく。
「…濡れてる」
「やぁ…恥ずかしい…」
下着越しでも分かるほどにの体は悦び、涎を垂らしていた。
今まさにはしたなくも濡らしていることをクロウに知られただけで、また奥から溢れさせてしまう。
「う…これなんか興奮するな…」
下着に指先を引っ掛けたクロウが呟く。
女性の下着を下ろすなどそうそう出来る体験ではない。
とてつもなく悪いことをしているような気分と、普段は隠されている未知の女性という器官を覗くのだという好奇心が綯い交ぜになる。
どきどきしながらそれをも取り払い、の足の間に体を入れて自分もベルトを外した。
「はぁ、ん…クロウ…」
取り出されたクロウ自身がの足の間に押し当てられる。
覆い被さってきたクロウの名を、は期待を込めて呼んだ。
「ここ、か…?」
緩やかに腰を使ってぬるぬると溝を上下するクロウ。
「あんっ、あんまり動かしたら、はぁぁ…っ」
クロウのアレを擦り付けられていると思うと、それだけで劣情が沸き上がってしまう。
「はぁ、ここ、よ…」
はそっとクロウに手を添えて、自らの入り口に導いた。
擦られる感触をもっと堪能しても良かったが、どうせイかされるならクロウをたっぷりと味わいたい。
折角のクロウとの初めての夜なのだから。
「…行く、ぜ…?」
「ん…」
ぐぶ、とぬかるみに埋まるクロウ自身。
「はぁんっ…!!」
「うわ、すっげ…」
無遠慮なまでに膣壁を押し広げて沈み込んでくる質量にの体は戦慄く。
どすんと体の奥を突き上げられる衝撃が走り、クロウが最奥へと到達したことがわかった。
「はっ、あー…滅茶苦茶気持ち良いな…」
恍惚の声が降ってきたが、それはも同じである。
与えられたクロウの大きさに逞しいオスを感じて内壁が震えるように彼を締め付けた。
「っく、これだけでイっちまいそーだ…」
「はぁ…はぁ、あぁ…クロウ、…」
背中に手を回したが急かすようにクロウを呼ぶ。
どろんと蕩けた視線とだらしなく覗く舌が、彼女の快感を表しているようだった。
そんなにも感じているのか、と理解すると本能が疼く。
「……っ」
ベッドがぎしりと音を立てた。
「あはぁっ、あっあっ…!」
の足を抱え上げて、腰を引く。
突き上げるように打ち込むとは背中をしならせて嬌声を上げた。
その時にの内壁が強くクロウを締め付けるのである。
「っう、あ…!…っ、すげぇ、良いっ…」
持って行かれそうなのを我慢して、クロウは更に深くを犯す。
「はぁぁあ…、クロウ…っ、あぁ、んっ!あっ!やぁ…っ、激し…いぃっ…!!」
結合部からは溢れた愛液がぐちゅぐちゅと卑猥な音を響かせていた。
ぬめるそれがスピードを早めていくのにのそこは更にきつくクロウを締め付けてくる。
「クロウっ、あたし…もう、もうっ!!」
ぶるりとの体が震え、腰が跳ねた。
「んんっ、はぁっ、あぁぁあっ!!」
がくがくとの体が痙攣して一際強く内壁が収縮する。
「う、わっ…!」
搾り取るかのような蠢きに、堪らずクロウも押し付けた腰を震わせた。
どくりと脈動する自身に合わせて荒い息が漏れる。
「うっ…は…、はあぁ」
「はぁはぁ…凄く、良かった…」
好きな男と想いを遂げたので当然であるが、じんわりとの中に充足が広がっていく。
欲望を吐き出して、力無く隣に崩れたクロウをぎゅうっと抱き締めた。
「ね、クロウ…さっき言ってたことって本当?」
「さっき?俺何か言ったか?」
「あたしが言ってた独り言、全部実現してくれるって」
そう言えば。
しかし全部実現すると言ったわけではなく、言ってたことをしたいと言ったような。
「ちょっとニュアンスが違う気もすっけど、まあどっちでもいいや」
「ふふっ、じゃあ、今夜は帰さない。朝までこうやっていましょうね」
妖艶に微笑みながら、はクロウの頬にキスをした。



それから。
は鬼柳の呼び出しに一切応じなくなった。
理由が分からない鬼柳は苛ついていたようだったが、男女のつまらないとばっちりを受けなくて良くなった遊星は涼しい顔だ。
代わりにクロウがいなくなることが増えた。
その理由を遊星が知っていたかは定かではない。











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