「クロウ、駄目ですよ。まだ途中です」
「いーじゃん、一口くらい」
「もう…仕方ないですねぇ…」
はい、どうぞ。
苦笑しながらはクロウに箸を差し出した。
それに食いついてから思う。
これっていわゆる『はい、あーん』ってヤツじゃね?
そう思うと俄然恥ずかしくなってきた。
「う、旨いな!コレ!」
「そうですか?良かった…」
照れ隠しにちょっとオーバーに誉めてみたが、はそのまま誉め言葉として受け取ったようで、はにかむように微笑む。
嗚呼、花も恥じらうとはこのことを言うんだろう。
不意に見せるの可愛さが、クロウには眩しくて悲しかった。
急転直下とは、彼女の為にある言葉だろう。
薄暗い地下の一角で彼女に出会った瞬間は暫らく忘れられそうに無い。
そもそも久し振りにマーサハウスに立ち寄らなければ彼女を発見することなどなかったのだ。
「肝試しねぇ…。で?誰が幽霊見たって?」
まあ、子供の頃にありがちな可愛い嘘だ。
大人の気を引きたい、他の子供と違うところを見せたい。
「殆ど全員だよねぇ?」
「たまに泣き声も聞こえるし…」
「…全員?」
普通に考えて幽霊なんかは気のせいというもので、怖いと思う気持ちが不意に聞こえた物音を幽霊に思わせたりするだけである。
仮に本当にそういうこの世のものではない何かを見るものが本当にいたとして、それが子供達全員に及んでいるというのは不自然な話だった。
「全員、姿を見たのか?」
「大体見たよね。こっちをじーっと見て、しばらくしたら奥に走ってくの」
「…」
それは、十中八九、幽霊などではない。
ナワバリを追い出された誰かが住み着いたのか。
それとも元々ねぐらを持たない浮浪者か。
「おい、誰かそこ案内しろ」
「クロウも肝試しやるの?」
「まァ…そんなとこだ。だから中までは付いてくンじゃねぇぞ!」
にやっと笑ってクロウは立ち上がった。
まとわりつく子供達の中から二、三人の子供がそれに続いて立ち上がり、クロウの手を引く。
「こっち。結構近くだよ!」
「よしよし」
手を引かれながら考える。
何もせずじっと見ているだけ、ということなら頭のおかしい人間が流れて来た可能性は低い。
気性が乱暴でナワバリを追い出された者でもないだろう。
そういう輩であれば子供達をタダで返すはずは無い。
もう一つ、ナワバリを追いだされる可能性があるのは、足手まといになった子供だ。
クロウはその可能性を強く感じていた。
子供であるならば、クロウに放っておくなんて出来ない。
「ほら、ここ。ここの地下だよ」
どこにでもある廃墟である。
クロウがアジトにしている廃墟も似たようなものだ。
危険な気もするが、マーサが許しているのならクロウに是非はない。
今から確認して危なそうなら告げておけば良い。
「んじゃ、行くか。お前等、帰っていーぞ」
「えー、クロウが帰ってくるの待っててあげようと思ったのに」
「ってか、ビビって出てくるとこ見られたくないんだろ?」
子供ならではの好き勝手。
まあ、これはこの際仕方がないか。
「お前等なァ…。危ねぇ奴らがいるかもしれねぇから帰っとけ。中入っちまったら助けてやれねぇぞ?」
帰れ帰れ。
身振り手振りで何とか子供達を追い帰す。
何らかの理由でナワバリを追い出された人間が潜んでいるなら、タチの悪い人間がうろついていても不思議はない。
全体の可能性から考えてそういうことは無さそうだが、危ないことからは遠ざけておくべきだろう。
さて。
向き直った廃墟は、静かである。
人の気配もない。
そろりと中を見れば、すぐに階段が見えた。
地下、と子供達は言っていたが、成る程地下へ向かう階段の方だけぼんやりと光が見える。
電気系統が僅かに生きているから子供達は地下へ行けたのか。
暗闇の中をどうやって遊んでいるのかと不思議だったが、これで合点がいく。
クロウは地下への階段を降り始めた。
意外に明るい階段だったが、降りた先はもう少し薄暗かった。
切れた電灯もかなりあるようで、確かに気持ちの悪い場所だ。
もっとも、廃墟とはこのようなもので、クロウのアジトも大概手を入れてやっとまともに暮らせるくらいになったのだが。
暗い通路にクロウの足音が響く。
目に付いたドアは片端から開けてみたが、開かないものが多かった。
「…?」
不意にクロウはぴたりと足を止める。
今、物音が聞こえたような。
「…ユーレイか…?」
きょろきょろと辺りを見回すが、人影はない。
クロウはもう一度歩き出す。
注意深く自分の足音を聞いていたが、それに混じって時折小さな物音がする。
間違いない。
絶対に誰かがこの先にいる。
クロウが確信を持った瞬間、先が突き当たりになっているのが見えた。
どうやら左側に通路が折れているらしい。
「っ…!」
ぎくりとクロウは足を止めた。
その左側に続く通路側の壁に人の指先らしきものが見えたからである。
息を飲むクロウがそれを見ていると。
クロウのいる通路を伺うように人間の頭がにゅっと現れた。
「!」
目だけを見せたその頭にクロウは一瞬びく、と体を強ばらせる。
ばっちり目が合った…。
「…」
「…」
見つめ合うこと十数秒。
痺れを切らしたのは幽霊の方で。
不意にさっと通路の方へ消えたのである。
「…あっ、おい!待てよ!」
思わず叫んでクロウは走り出した。
左側の通路、長い髪を乱して走る後ろ姿。
幽霊は女のようだ。
足はどうやらクロウの方が早い。
「待てって!!」
追いすがり、その腕を掴んだ。
一瞬すり抜けたらどうしようと思わなくもなかったが、幸い実体だった。
「っ、嫌…っ」
か細い声が拒絶を訴える。
クロウから逃れようと暴れるが、弱すぎて抵抗にもなっていなかった。
「何もしねぇよ。お前、何処から来たんだ」
出来る限りクロウは優しい声を心がけ、声を掛けてみる。
抵抗を見せた幽霊の動きが少し悪くなった。
「……何も、しない…?」
「ああ。場合によっちゃあ力になるぜ?」
「…」
幽霊は信じられないものを見たような顔をクロウに向ける。
そこで初めてきちんと幽霊を見た。
髪も乱れ、やつれてはいるが、きちんとすれば普通の女の子であろう面影が見て取れる。
「…うそ」
ぽつっと呟いた幽霊はクロウの手を振り解いた。
しかし逃げる様子もない。
「でも、もう…嘘でもいい…」
力無く言った幽霊の体が崩れ落ちる。
「お、おい!」
慌ててその体を抱き留めるが、想像以上の軽さにクロウはぞっとした。
腕の中でぐったりとするその体。
普通ならもっと重く感じるはずなのに。
ぴくりとも動かない幽霊に、クロウは背中に冷たい汗を掻く。
「おいっ、起きろ!!おい!!」
大声で呼ぶと僅かに瞼を震わせるのが確認できた。
しかし今にも死んでしまうのではないかと思うほど弱々しい反応である。
「っ、…」
クロウは幽霊を抱えて元来た道を走り出した。
嗚呼、ブラックバードを置いてきたのが悔やまれる。
そんなに遠い道のりでもないが、走るよりずっと早いのに。
もう分かっているがこの幽霊は生きた人間だ。
それもクロウが想像した類の人間ではないかもしれない。
見た目で判断できるほどサテライトの世界は甘くは無いが、何となく住む世界が違うように思われて仕方が無い。
「っはぁ、…はぁ…っ」
階段を駆け上がり瓦礫の間を抜け走る。
明るくなった視界の先でクロウを安堵させるのは、幽霊の胸が浅く上下しているのが見えること。
血色が悪く疲れきった顔をしているのが少し気になる。
とはいえ、今すぐ死んでしまうようなことはなさそうだ。
先に子供の姿が見える。
子供の方もクロウに気付いたようで、朗らかに手を振って見せた。
「クロウー!!おかえり…、…?」
しかし、走って向かってくるクロウが、何かを抱えていることに気付いた瞬間。
ぎくりと体を強張らせてみせる。
「っ、クロウ…?な、何連れてきたの…?!そ、それ幽霊じゃ…」
「ちげーよ!マーサ何処だ!?」
「お、奥にいるよ…」
「そーか!さんきゅ!」
すれ違い様に礼を言い、怯える子供を置いて孤児院の中に駆け込んだ。
「マーサ!!」
「…クロウ、廊下は走るんじゃないって…」
廊下を駆け抜ける音を聞いて不快そうに顔を顰めたマーサの表情が、クロウを見留めた瞬間変わる。
「こいつ、看てくれ!!」
肩で息をしながらクロウは幽霊を差し出した。
「…クロウ、どうしたんですか?そんなにお腹、空きました?でもご飯がまだ炊けてなくて…」
さらりと髪を撫でたクロウをは振り返る。
結局、あの後数日ではかなりの回復を見せた。
ビックリさせられた割にけろりとしていたを見て、思わず笑ってしまったものだ。
「ちげーよ。いや、お前に会った時思い出してさ。マジで死ぬんじゃねぇかと思ったけど、お前スゲー勢いで回復したよな」
「…混乱しすぎて前後不覚だったんです…!ただ、死にたくない一心でしたから…」
今でも思い出す。
あの掴んだ腕のか細さを。
クロウは掌を開いてみたり閉じてみたりした。
更にそっと手を伸ばしての腕を掴んでみる。
「…今度は何を思い出しているんですか」
「あの時はお前、怖くなるくらい痩せてて…血色も悪くて…」
ふにふにと柔らかな腕に触れながら体温を確かめてみる。
あの時だって呼吸はしていたし、体温だってあったはずだけど。
記憶よりもずっと鮮明な今のに安堵する。
「私が今こうしているのはクロウのおかげですよ。本当に、感謝しています…」
腕を掴むクロウの手を取って優しく握る。
じんわりと触れ合う温かさには目を細めた。
その様が、真実満足しているように見えて、クロウは苦しくなる。
「…こんなところ嫌だって思わねぇのか…?」
今、二人がいるのはマーサの孤児院ではない。
回復を待ってアジトに帰ろうとしたクロウにが付いてきて今に至る。
なので、今二人がいるのはクロウのアジトだ。
当然、孤児院のようなきちんとした家ではない。
人の手は入っているが、孤児院と比べれば廃墟も同然である。
「…はシティから来たんだしよ…」
目が覚めたと聞かされて、会いに行った時。
ベッドの上で所在無さ気に俯くを見たときに直感した。
シティから消された人間が流れ着いたのだ、と。
サテライトに住んでいればそんな人間を見ることは少なくない。
にも同じ匂いを感じた。
そして、それは今も変わらない。
丁寧な物腰や、時々見せる教養に育ってきた環境が違うとこうなるのだなという差のようなものを感じる。
「クロウ、私はクロウが助けてくれなかったら、遅かれ早かれ死んでいたんだと思います」
殊更穏やかな口調ではクロウに声を掛ける。
「シティで私は裕福な生活をしていたと思います。でも、その輪から外れた時誰も助けてくれませんでした」
ぎゅう、とクロウの手を握るの手に力が篭った。
「助けてくれたのは、クロウだけです。助けを求める事さえ出来ない私に手を差しのべてくれたのは…クロウだけ」
「それは…でも、偶然が重なっただけっつーか…」
そもそも孤児院に行かなければ出会うこともなかったろう。
前提としてあの日子供達から幽霊騒ぎを聞かなければ、きっとの言うとおりになっていたに違いない。
可哀想な彼女は誰に見つかる事もなく、あの薄暗い地下で、そう独りきりで…。
「結果としては、そうかもしれません。でも、あの一瞬でクロウは私を助けてくれたじゃないですか」
不気味に相手を伺うだけの自分に手を差しのべたのはクロウだけ。
にとって、クロウの動機や理由などが問題なのではなく、結果自分を助けてくれたということが重要なのだ。
「私がクロウとずっと一緒にいたいんです、って言った意味…判ってますか?」
「え…」
「貴方を…好きになったからですよ」
「!」
頬を赤く染めてはにかむは、やはりとてつもなく可愛くて。
でも何故だろう。
いつもはその笑顔に悲しさを感じていたのに。
今は、その感覚が全く無い。
「…」
「恩だけじゃ、ないですよ?この短い間で、クロウが優しくて人の為に何でも出来る人なんだって知ったんです。住んでる土地なんて関係ありません。クロウの傍にいたいから、私はここにいさせてもらってるんですよ?」
初めて聞かされるの意外な胸の内。
いや、彼女の甘えるような視線は時折感じていたけれど。
気付かない振りをしていただけかもしれない。
クロウはによって握られた手を自分の方へ引き寄せる。
「…あ、っ」
当然引っ張られる格好になったはクロウの方へとよろけるように足を動かした。
それを抱き留めるような形でクロウは抱き締める。
「俺は、お前が思ってるような男じゃねぇよ」
「…そんなこと、ありません」
クロウの腕の中にいるという事実がの胸を高鳴らせる。
ドキドキと早鐘を打つ心臓は嫌でも体温を上昇させて、頬が熱くなるのを感じた。
しかし、好きな男に抱きしめられると言うのは想像よりも良いものである。
「…その証拠に…」
「え、あ…」
クロウによって顎を掴まれ上を向かされる。
瞬時に何をされるのかを理解したは緩やかに目を伏せた。
もしかしたら抵抗を受けるかもしれないなと思っていたクロウは逆の意味でギクリとする。
が、もう後に引く事など出来はしない。
クロウはゆっくりとに顔を近づけた。
「…っ」
ふわりと重なる柔らかな感触にびくっとは肩を震わせる。
息を詰めてそれを受け入れるはドキドキしすぎて倒れるのではないかと自分で自分が心配になる程だった。
「は…っはあぁ…」
触れるだけのキスからクロウが離れたとき、息を詰めていたは深く息を吐いた。
それをみてクロウは小さく笑う。
「き、キスの最中の呼吸って、いつのタイミングでするべきなのでしょうか…。初めてだから判りません…」
赤くなった頬を押さえながら言う。
感想でもなく、愛の言葉でもない…そんな内容がらしい。
「お前の気持ち知った上で、何にも言わずにこんなことしちまう俺も好きなのかよ」
「え、?ええ、はい。好きですよ?」
さも当然だという風に見上げてくるに、クロウは視線を逸らしながら手を額に当てた。
「…お前には参るね、どーも」
「?」
クロウの言葉の意味が判らないは首を傾げるだけである。
しっかりと向き直るため、の腰に回した腕をの肩へ移す。
真剣そのもののクロウの表情にどきっとする。
「お前の気持ち、めちゃくちゃ嬉しいぜ。…俺も、が好きだ。そうやって俺に言ってくれる、が好きだ」
だからこんな廃墟に連れて帰ってしまったのだろう。
無理矢理にでも孤児院に置いてくることだって出来たはずだ。
しかし一緒に行きたいというの言葉を受け入れたのは、きっとその時にはもうが好きだったからで。
可愛くて可哀想なを守りたかったからで。
「お前の事、これからは俺が守ってやるよ。ずっとだ」
「…クロウ、嬉しいです…。どうも、ありがとう…」
感激に声を震わせるがぎゅうっとクロウに抱きついた。
細い腕で縋りつかれると本能が揺さぶられて仕方ない。
このままもう少し深く触れ合ってしまっても良いだろうか…。
クロウが手を伸ばしかけた瞬間、後ろで小さな電子音が鳴る。
「…ん?何だ、この音…」
「あっ、忘れてました!」
「…え?」
弾かれたようにがばっとクロウから体を離したは慌ててコンロのガスを止める。
そして満面の笑顔で振り返ると。
「ご飯、用意しますね!」
「……えっ?」
「ようやく炊けましたから。お腹、空いてるでしょう?」
「えええ…いや、えーっと、マジで?」
屈託の無い笑顔を向けられて、クロウは思わず情け無い声を出す。
結構いい雰囲気だったのに!
まさか夕飯に邪魔されるとは思わなかった。
時々天然だと思っていたが、こんな時に発揮されるとは。
いや、確かに空腹といえば空腹ですけどね!
クロウは力なく椅子を引く。
と住むようになって良くなったよなァ、と思ったのは主に掃除面と食事面だが、今回ばかりは恨めしい。
しかしはそんなクロウの前に皿を並べながら。
「頂いたお米、無駄にするわけにはいきませんから」
「…まあ、そーだな」
「続きは後で、ですね」
「…!?」
の言葉に驚いたような顔をするクロウに、はいつもどおりはにかんだ笑顔を見せたのだった。
そういえば、夕食の後はいつもは他愛無い話をして過ごしていたっけ。
今から考えればなかなかの耐久レースじゃないか。
相手への気持ちを然程自覚していなかったにしても、二人っきりなのに。
「お、お待たせ…しました…」
食器を片付けたがおずおずとクロウの部屋に入ってくる。
普段ならここではなくキッチンがある部屋で過ごすのだが、今夜からはもしかしたらこっちがメインになるかもしれない。
手招きされてはゆっくりとクロウに近づいた。
続きは後、なんて言ってみたけどこんなことは初めてである。
もしかしたらドキドキしすぎて死ぬかもしれない。
「続き、良いんだよな?」
にやっと笑ったクロウが意地悪く質問を投げて寄越す。
返事を待つ気は余り無さそうで、すでに腰を抱き寄せ体をくっつけてきているが。
恥ずかしそうに視線を逸らしながらも、は首を縦に振る。
緊張するしドキドキするし恥ずかしいけれど…先を望む気持ちは本物だ。
ちゅっとクロウの唇が頬に触れる。
「っ、ん…」
くすぐったい感触にぴくんとの肩が震えた。
しかしクロウは構わず更に額や頬に唇を落とす。
「あ、ん…クロウ…くすぐったいです…」
「そうか?じゃあ…」
「…んふ…っ」
抗議の声を受け入れたと思ったら、素早く唇を奪われた。
先程の重なるだけだった優しいキスとは違う。
「ふぁ…っ、ん、ん…っ!」
舌先で唇を割り開かれて、侵入してきたクロウの舌が口内を這う。
ぬるりとした感じたことの無い感触に体が強張るのが分かった。
つぅ、と混じりあった唾液が顎を伝う。
それを優しく舐め取って、初めての濃厚なキスが終わった。
「はぁ…、な、なんか…ふわふわしちゃいます…」
ついでにドキドキもしちゃっている。
ちょっと足が震えるのは多分気のせいではないだろう。
キスだけで足下が覚束なくなるなんて、可愛いにも程がある。
またしても男の本能とか尊厳とかそういうものを揺さぶられた気分だ。
クロウはを軽く抱き上げて、ベッドに下ろした。
「…あっ、あの!クロウにお願いがあります!」
「何だ?」
「あの、その…で、電気を…消してください…。恥ずかしい…です…」
今から奪われる体を庇うように、は胸元の服をぎゅうっと掴む。
「…ああ、分かった」
本当は全てを曝け出させて堪能したいところだが、初めては出来るだけ優しくしてやりたい。
でも完全に姿が見えないのはちょっと寂しいので、ベッドの上の間接照明を点ける。
「これくらいなら、いいだろ?」
言いながら部屋の電気を落とした。
暗い部屋にぼんやりと間接照明の灯りだけが浮かぶ。
「…そう、ですね…これなら…」
頷くの元に戻る。
細い肩を掴んで、そっとベッドに押し付けた。
体重をかけるのは気が引けるので、の横に肘をついた。
そしてもう一度キスを交わす。
「っ…」
ようやく慣れてきたのだろうか。
キスの度に体を緊張させていただが、今度は甘く受け入れる素振りである。
侵入してきたクロウの舌を迎え入れて恐る恐る舌で触れてきた。
それをにゅるりと絡め取り優しく吸うと、苦しげに眉根を寄せる。
「んっは…!クロウ…、苦しいです…!」
息継ぎはまだ慣れないらしい。
抗議の声を笑って流し、クロウはのカットソーの中に手を滑り込ませた。
滑らかな素肌の腹をさらりと撫でてみる。
「あ、っ…」
途端に緊張が走る。
まあ男に体をまさぐられたなら当然の反応か。
「…怖ぇか?」
「い、いえ…寧ろ…恥ずかしいです…」
他人に触られた事の無いようなところに触れられている。
それが大好きなクロウだと思えば嫌悪は無い。
はしたないから口には出来ないけれど、寧ろ少し興奮するような気がする。
「く、クロウ…あぁ…っ」
下着の上からやんわりと胸を掴まれた。
ふっくらとした丸みをなぞるように、ソフトタッチで撫でられる。
その手つきは形を確かめるいやらしさを孕んでおり、性の色にはぞくりとした。
じわりと足の間が熱くなる。
「…すっげ柔らかいのな」
熱っぽく耳元で囁くクロウの声。
そのまま耳を舐められた。
くすぐったいような感覚に背中がしなる。
更に足の間のもやっとしたわだかまりが存在感を増したようだ。
自分の体のことながら、未知の感覚でもありは居心地悪そうに膝をすり合わせる。
「ひゃぁっ!…っ、やぁ…だめ!」
下着を押し上げたクロウの手が、直に胸を包み込む。
ふにゅふにゅと指先が埋まり、軽く揉みしだかれた。
かあっと頬が熱くなる。
「クロウ…っ、や、恥ずかし…っ…!」
顔を逸らし身を捩らせるだが、クロウの手が逃げられないようにの肩を押さえつけた。
そしてカットソーの裾を捲り上げられる。
「っああ…!」
室内は薄暗いから、そんなにはっきりは見えていないはず。
しかし僅かでも見えているということは、肌を晒している事に他ならず悲鳴のような声が出てしまった。
胸にクロウの視線を感じる。
「ああ…あんまり、見ないで…くださ、い…っ」
「…そんなに恥ずかしがるなよ。美味そうに震えてるぜ?」
「えっ、あ!あぁぁっ…!!」
言うなりクロウはの胸にかぶりついた。
震える先端を口に含み舌先で捏ね回す。
膨らんで敏感になった乳首に与えられる刺激に、は背中をしならせて反応した。
「はぁっ、や…っ、クロウ…!クロウ…っ!!」
ぞくぞくと冷たい快感が背中を駆け抜ける。
怖くなるほどの波にはクロウの背中をぎゅうっと抱きしめた。
図らずしも胸を押し付けられる格好になったクロウ。
頬に触れる柔らかな感触がじわりとクロウの体を煽る。
「…そんなにイイのか?」
「わかりません…!で、でも…っはぁぁ…っ!」
空いた方の乳首を指先できゅうううと摘んだら、の腰がびくっと跳ねた。
その拍子にの体がクロウに触れた。
「っ、う…」
柔らかなの内股が反応を始めたクロウ自身を挟むように触れる。
これはクロウにも未知の感触だ。
しかし悪くない。
好きな女の体の一部が、服越しとはいえ触れるというのはなかなか興奮する。
「…クロウ…?ん、あ…どうか、しましたか…?」
あどけない表情で覗き込んでくる。
そんな顔をされると、ちょっと苛めたくなってしまう。
「今、の足が俺のに触ったの、分かるか?」
「…えっ…」
『俺の』という言葉の示唆する内容がわかったはぎくりとして腰を引いた。
しかし追い縋るようにクロウはに体を押し付ける。
「はっ、あんまり可愛いからよ…。痛ェくらい勃っちまった」
「…!」
いやらしい言葉で嬲られ、は顔を真っ赤にした。
如何していいか分からず両手で顔を覆う。
「また、可愛い反応するよな、…堪ンね…」
「…ばか…っ!」
クロウの興奮した声に、自分の中の女の部分が反応している事も知らず、は頭を振った。
そしてまた…足の間がじわりとぬるむのを感じる。
下腹の奥がきゅうんと切ない。
抑えきれず腰を揺らめかせるを見止め、クロウはのスカートの中に手を差し入れる。
「っ、クロウ…っ」
足を撫でるクロウの手を弱々しく押し返してみせる。
それは羞恥からの行動だと分かっているので、敢えて手を止めたりはしない。
寧ろ…。
「…濡れてンな…。どうしたんだ、コレ」
「やっ、そんな…っ」
意地悪く問いかけながら下着越しにの溝をなぞった。
じわ、と広がる染みがの快感の答えであろう。
下着に指を掛けてゆっくりと引き下ろす。
脱がされることにの体は緊張したが、抵抗はしなかった。
「んん…っ、クロウ…あぁ、っ、はぁん…っ!」
柔らかく蕩ける花弁を押し広げてクロウの指先がぬかるむ蜜壷に埋まりこんだ。
濡れた感触がクロウの指先を迎え入れる。
愛液を纏わせた指で、クロウはの突起に極軽く触れた。
「ンーっ!!!」
びくびくっとの腰が震える。
駆け抜ける鋭い快感。
思わず仰け反るは、白い喉を惜しげもなく晒した。
「っはぁ…、あ、何…?何、ですか…今の…?」
荒い呼吸で胸を浅く上下させながらは快感に潤んだ視線をクロウに向けた。
恐らくは軽く達したのであろうと思われたが、は初めてのことでそれが絶頂と分からない。
「イったんだろ、多分」
「イ、イった…?それって…、あ!あぁっ!」
「いいから。ほら、もっと気持ち良くしてやるよ」
「はぁぁっ、あ、あぁっ、はぁんっ…!」
くちゅくちゅと小さな水音を立てながら、優しい手つきで突起を撫でる。
初めて与えられる刺激には声を上げて腰を震わせる事しか出来ない。
体の奥から熱が溢れてくる、言い知れないもどかしさ。
きゅうんと疼くその正体も分からぬままに、クロウの手によって導かれようとしている。
「やっ!何、だめ…っあぁぁあっ!!」
がくがくとは体を痙攣させた。
クロウは、それと分かる程にはっきりと絶頂に達したを満足げに眺める。
こぷりと溢れた愛液が内股を伝った。
「はぁっはぁっ…!はぁぁ…っ」
余韻に体を震わせながら、は虚ろな視線を宙に向けた。
「何…もう、訳判らなく、て…」
惚けた表情で溜め息を吐く。
嵐のような初体験だ。
「これで、終わり…ですか?…」
ふわふわと浮き上がるような浮遊感を感じながらはクロウに問いかけた。
「これで終わられるとちょっと辛ェなァ…」
苦笑しながらクロウはの足の間に体を入れた。
そして取り出した自身をに押し付ける。
「っ、!」
その熱の塊には体を強張らせた。
そうだった、まだクロウが…。
あまりの気持ち良さに訳が分からなくなっていたけれど、彼と繋がるという行為が残っているでは無いか。
「力、抜けるか?」
一気に緊張したに優しく囁いてキスを落とす。
「ん…っ」
優しく触れる唇にの体が少しだけ緊張を解いた。
その瞬間を見逃さず、クロウは腰を推し進める。
散々クロウに愛撫され柔らかくぬるんではいるが、やはりきつい。
「っ、はぅ、ん…!」
強い圧迫感と鈍い痛みには思わず声を上げた。
「痛っ…、はぁ、あぁ…っ」
内壁を押し広げられる圧迫感がを苛む。
今までの快感を全て引き換えにしたかのような錯覚さえ感じる。
「クロウっ、クロウ…っ」
思わず背中に爪を立て、はクロウに縋りついた。
が引っかいた背中がじんわりと甘い痛みを持つ。
いや、寧ろ痛みではなく気持ち良いのかもしれない。
そう錯覚させるほどに、の狭い膣内はクロウをねっとりと受け入れ、蠢いていた。
「っ、う…、は、…はぁっ…入った、ぜ…」
緩やかに腰を使い全て埋め込んだクロウが深く息を吐く。
「はぁっ…はぁ…、クロウと、繋がったんですね…」
「…、ああ、そーだ」
「で、でも…もう、私…っ、だめ…」
好きな男と一つになる、と言えば聞こえは良いが正直は限界だ。
「早く、終わらせてください…」
「ははっ、分かった。実は…俺も結構やべぇんだ…」
初めて知る女の体は想像以上に気持ちが良い。
相手がだから余計にかもしれない。
自分で慰めるときとは全く違う快感に、気を抜けばすぐに持っていかれそうだ。
射精感を押し殺してクロウは腰を引く。
「んんっ…!!」
律動を始めるとが苦しそうに身を捩った。
それを申し訳なく思いつつも、腰を動かす事で生まれる快感がクロウを絡め取る。
「はぁっ、すっげ…!はぁっはぁっ…!」
優しくしてやりたいのに本能がそれを許さない。
ベッドを思い切り軋ませてクロウは夢中でを貪った。
「はぁっ、クロウ…や、何…、だめ…はああ…ぁあ、んっ」
しかし苦しそうだったの声色に、僅かな快感の色が見える。
どうやら奥を突き上げる瞬間に何かを感じているようだ。
「ここ、か…?」
が甘い声を出すところを重点的に攻める。
「はぁっ!あぁ!…や、ダメぇ…っ」
「うっ、わ…締まる…っ」
更に苛むようにの内壁がクロウをきゅうきゅう締め付け始めた。
「やぁっ、クロウ…っ、また、私…っ…!」
2度も絶頂を味わっているの体は、覚えたばかりの快感を追い登りつめようとする。
それはクロウさえも導こうとするようにきつく収縮した。
「だめっ!はぁ、ああっ!あぁぁああっ!!」
クロウを咥え込んだまま、は絶頂を迎える。
びくびくと腰が跳ね、断続的にクロウを締め付けた。
「く…っ、う…、出る…っ」
の腰に自らの腰を押し付けて、クロウが軽く体を震わせる。
同時には自分の体の中で熱が放出されるのを感じた。
「はぁぁ…っ、あースゲー良かった…」
射精を終え、自身をの中から引き抜いたクロウは呆然と呟いた。
ベッドにぐったりと身を横たえる。
全部が全部気持ち良かったと言えるわけではなかったが、不思議と満ち足りた気分である。
きっとこれが幸せというものなのだ。
横たわるの横にクロウも身を沈めてきた。
そして、そっとキスをされる。
ああ、如何しよう。
ますます満たされる。
「ん、…クロウ、私、とっても幸せです」
「…俺も」
「ずうっと傍にいてくださいね」
幸せそうにはにかむ。
その微笑みにクロウはもう悲しみを見出したりはしない。
の在り処は自分だという事が分かったから。
終
==================
ヒロイン拾うところが長すぎたのが敗因です。
いつか書こうと思ってた不良少年×お嬢…。
絶対クロウで!と思っていました。満足です。
ここまで読んでくださってありがとうございました。