貴方だけがマグダラに変える


※地縛神終了直後から




は走り出す。
嗚呼、神よ。
彼が生きて戻ってくれて良かった。






彼の友人が連れ出す前からサテライトは不穏だったけれど、クロウがいなくなってから状況は更に激化していた。
…いや、実はあまり良く覚えていない。
ただ逃げ回る事に疲れて、澱んだ地下の空気が懐かしいような気にすらなって。
たった独りで廃屋の地下室に隠れたような覚えはある。
そこに良い記憶など何もないはずなのに、馴染みや慣れというものはそら恐ろしい。
クロウと一緒にいた時は二度と戻ることなどないと思っていた埃とカビに汚れたフローリングの上で、いつの間にか蹲っていたのだから。
どれくらいそうしていたかも覚えていないし、合間に何かとんでもなく恐ろしい夢を見たような気もする。
なのに目覚めの時は心が軽かった。
傍にいないはずのクロウがずっと傍にいたような気分だった。
不思議な気持ちで外に這い出ると朝陽がを迎えた。
「…いつの間に夜が明けたのかしら…?」
僅かなうたた寝の間に夜が明けてしまったというなら、自分はどれだけぐっすり眠っていたのやら。
孤独だったというのに我ながら図太くなったものだなぁ…なんて。
原因であり功労者はやはり…。
「…クロウの、せいなんですからね」
本当なら隣にいるはずの彼を責めてみても返答は無い。
嗚呼、彼は何処に行ってしまったんだろう。
自分はともかく子供達を置いてさえ。
とぼとぼと歩き出すに行くあてなどあるはずもない。
だから自然と足はクロウと暮らした家の方へ向かっていく。
子供達もいつの間にやら帰ってこなくなってしまっていたけれど、誰か一人でも残っていてくれれば…。
希望的すぎるだろうか。
この土地でいなくなったという事は永遠の別離の可能性だってある。
それにクロウが当てはまらない事をずっと何かに祈っている。
宗教などは既ににとっての拠り所にはなり得ない。
それでも形の無い何かに縋ってでもクロウに会いたかった。
クロウだけがの総てだと本気で思える。
嗚呼、彼は本当に何処に……。
「…あら、…?」
の足がぴたりと止まった。
漸く見え始めたダイダロスブリッジの辺りで動く人影が見えたような気がする。
子供達が帰ってきているのだろうか。
無事で良かった。
もしクロウが二度と帰ってこなくとも、彼の忘れ形見が一人でも生きているのならそれを放っておくことは出来ない。
は走り出す。
もしかしたら、もしかしたらという思いで地面を蹴る。
手を広げる御子の母像を思い出していた。
皆、こういう時に神を見るのかもしれない。
救いの瞬間に誰しもがマリアの温もりに触れるのかもしれないと息を切らせながら。









―――それからしばらくして、居を移すことになった。
経済的に子供達までを見ることは出来ないから、二人だけで。
…と、思いきや。
「み、皆さんで…住むのですか……」
子供達の代わりに知らなくもない顔が二人程。
一人は忘れもしない、クロウを連れて行ってしまった男だった。
そして一人は有名すぎて知らないはずもない男である。
「じゃ、ジャック・アトラス…さん、…?あ、あの、ご本人ですか」
「このジャック・アトラスがこの世に二人と存在するはずなかろう」
傲慢な受け答えながら、なんとなくピントのズレた返答でもある。
まあでも意味は伝わるので曖昧に微笑んで首を縦に振った。
「貴方は、確か不動さんでしたね。あの時は…えっと、どうも…」
正直過ごした時間が短すぎてこれくらいしか掛ける言葉を思いつかなかった。
はっきり言って彼に対しては恨み言の方が多いくらいである。
何故クロウと勝手に何処かへ行ってしまったのか。
何故あれきりクロウが帰ってこなくなったのか。
そもそも一体何があったのか…。
のそんな気持ちを読み取ったのであろうか、目の前の男は首を少し横に振ると。
「…クロウを長い間連れ出してしまってすまない。危険な目には遭わなかっただろうか」
「えっ…、や、あの、…実は、あまり覚えていなくて…」
まさかの謝罪がきた。
しかも気遣われてしまった。
そんなにも恨みがましい目で見てしまったのかとは自身の頬が熱くなるのを感じる。
「…?顔が赤い。具合でも悪いのか」
「ひぇっ…!!」
真顔で覗き込まれたは更に赤くなって身を竦ませた。
一瞬蒼い視線と交わった瞬間、文字通り心臓が跳ねて慌ててクロウの後ろに回り込む。
そんなの反応にクロウは半眼で遊星を見た。
「感動の再会の直後にいきなり関係にヒビ入れようとすんのやめよーぜマジで」
「ヒビ?誰と誰の関係のことだ」
「天然だから余計性質悪ィよな、お前って。もいつまで顔赤くしてンだ」
「ちちち違いますこれは」
見咎められたと思ったが罪悪感とか良く分からない不条理さにやはり顔を赤くしてクロウを見上げた。
その先に既にジャックの姿はない。
「あ、あら…ジャック…さんは…」
テレビのモニター越しではない今、彼を呼び捨てにするのは失礼だろうと取り繕ったようにさん付けをしてきょろきょろ辺りを見回す。
その言葉にクロウも辺りを見た。
「あ、クソ、あいつ逃げやがったな」
「逃げる?」
「仕事しねぇから俺の仕事手伝わせようと思ってたのによ」
「あ!なら私が…!私も仕事はしていませんし」
にこやかなに悪気は全く無い。
純粋な善意である。
だからこそ。
(甘やかすと付け上がりそうだな)
と、クロウと遊星の思考がシンクロしたことにも全く気がつかなかった。


「それにしても、配達のお仕事なんて…。真っ当なお仕事をさせてもらえるなんて嘘みたいです」
元々シティ側から流れてきたとはいえのサテライト歴もまあまあだ。
マーカーを持たないおかげで傍目には分からないが、例えば昔の知り合いなどに出会ってしまったならその瞬間におしまいだったはずだ。
その瞬間にサテライトの住民と言う被差別的な目で見られた筈だ。
今までであれば。
だけど、シティとサテライトと言う階級社会を築いた男が失踪してからはそのバランスが大きく崩れていた。
サテライトの出身であろうときちんと食事が出来て、住むところにも困らず、夜の寒さに震えることもない。
そんな生活がまた戻ってくるなんて。
「これで最後ですか?」
「おう。っつっても終わったら買い出しだけどな」
「今晩は何にしましょうか…。何となくお魚が食べたい気分ですけど、お魚はちょっと高いですよね」
そんなことを言いながらもシティは物価が安定しているのを知っている。
仕入れが安定しているのだから当然のことだが、サテライトではそういうことすらままならなかった。
「お前が魚が良いならそれでもいいぜ。とりあえず金のことはお前は気にしなくて大丈夫だからな」
すっかりサテライトでの勘定癖が染みついてしまったが、常識の範囲内であればどうとでもなる。
食料の話はこの限りではないが、極端な話偽物を掴まされる心配もないのだから。
「うーん…でも共同生活を送る以上勝手にお金を使うわけには…」
「お前より性質悪ィのがいる。まずはそいつが節約するとっからだ」
クロウの言葉に現在の共同生活の面々を思い浮かべてみる。
サテライト出身で、今回シティに移り住むことになったのが遊星とクロウ。
シティ出身でサテライトに流れ着き、シティに戻ってきたのが
サテライト出身にも拘らず、シティの上流階級まで上り詰めたのがジャック。
……何となく、一人しか心当たりが生まれない。
後ろで苦笑していたら、頬に当たる風が目に見えて弱くなった。
最後の配達先に到着したのだ。
そこは家ではなく店舗だった。
「お店だったんですね」
「そーだな。個人名だから家かと思ったぜ」
駐輪場にブラックバードを停めて、店舗に入る。
レジ内にいたのは男だった。
「こんにちわ。お届け物です」
努めてにこやかにが声を掛けると女の店員も出てきた。
対応は彼女がしてくれたので、クロウが荷物を下ろしてサインをもらって、それでいつもの流れである。
先にいた男の店員はその流れを無言で眺めているだけだった。
何となく上司と部下的関係なのかな、とだけ感じた。
先にも何軒か店舗を回ったが、肩書がある人間は部下に対処を任せているところが多かったので。
「ご利用ありがとうございます」
小さく礼をして挨拶をして、これで今日の配達は全て終了……の、はずだった。
が、駐輪場に戻った時、伝票を確認したクロウが顔を顰める。
「しまった、控えの伝票渡すの忘れちまった」
「あ、じゃあ私が」
「何言ってんだ。俺の仕事だろ」
「良いんです。クロウはここで待っていてください」
伝票を持って、もう一度店舗に回った。
ドアを僅かに開けた瞬間、レジ内の男の声がの耳に入ってくる。
「価格安いと思ったらサテライトの業者だったとはなァ」
「何で分かるのよ」
「あのマーカーだらけの男の顔見ただろ?シティの業者にあんなスタッフいるかよ。クソ、今度から割増しでも身元調べて宅配業者選ばねぇとな」
ぎゅっと心臓を掴まれた気分になった。
思わず開けかけたドアの影に隠れるようにして体をかたくする。
に気付かないのであろう、二人の店員は会話を止める気配もない。
「安けりゃ良いじゃないの」
「馬鹿、コソ泥の集団みたいな連中だぞ。中身抜かれたり最悪届かなかったら困るだろうが」
ドクンドクンとの鼓動が早くなる。
緊張感と不安のない交ぜになったような気分は体温をも上昇させるようだ。
実際頬が熱くなるのを感じる。
貴方達が、クロウの何を知っているんですか。
何故、彼にマーカーがあんなにも刻まれているか知りもしないで。
クロウはいつだって誰かの為に。
クロウはいつだって私の為に…!
喉元まで出かかる言葉をは必死で飲み込む。
そして。
「すみません!」
自分でもちょっと大きな声が出てしまい、驚いた。
店員の方はもっと驚いたような顔だった。
たった今まで批判的な話題で話していたからだろう。
女の店員は気まずそうに視線を逸らし奥へ入って行った。
「…お控えをお渡しするのを忘れてしまいまして」
微笑みながら男に紙切れを渡す。
本当は机の上に叩きつけたい気分だったが、サービスを受ける側と提供する側の差はこんなものだ。
クロウに聞かれていなかったことだけが救いだと思った。
男はあからさまに安堵の色を滲ませながらそれを受け取る。
聞こえてなかったと思ったのか、それともクロウがいなかったからほっとしていたのか。
どちらにせよこんな男には殴る価値もないのだろう。
腹を立てることさえ勿体ない。
だけど、とは思う。
サテライトとシティの階級社会は、社会制度が崩れたからと言って簡単に払拭できるものではないらしい。
足早に店舗を出るは、今までの顧客たちがそれを表面に見せなかっただけなのだと思った。
ただ、優しい人間に出会っていただけなのだと。



その夜。
クロウが帰還した後、すぐに居を移すことだけは決まっていたので引っ越し作業に追われ続けて今日。
実質二人きりになったのはクロウが戻ってきてからでは初めてである。
それなりに部屋の数はあったので、部屋を別々にしてはどうかとクロウが提案してくれたが、はクロウと同室を望んだ。
普通は逆のような気もしつつ本音を口にするのは恥ずかしかったけれど、また離れた時に『こうしておけば良かった』という気分にはなりたくなかったのである。
二人して潜り込んだベッドの中、手探りでを掻き抱くクロウの腕に震えるほどドキドキした。
「…、クロウ…、待って…」
「おいおい、お預けとか言うんじゃねぇよな。…こんな久々で待てるワケねぇだろ」
抱き寄せたの体の柔らかな感触だけで興奮が収まらない。
それ以上に鼻先を押し付けたの首筋からは、甘やかな彼女の香りが立ち上っていて勝手に呼吸が浅くなる。
このまま組み敷いて思うまま貪りたい衝動に駆られる。
しかし腕の中のはやんわりとクロウの腕から抜け出すと、布団を押し退けて体を起こした。
「違うんです…。クロウに、私を見て欲しい…」
呟くような、小さな声。
トーンを落としたサイドボードの明かりだけがそれをぼんやりと映し出す。
寝そべったままのクロウの目の前で俯くが寝間着のボタンを全て外した。
無防備にも肩から滑り落とされる寝間着。
息を飲むクロウの目の前で白い裸身が晒け出された。
「…、お前、これ…っ」
その肌を見たクロウが目を見開く。
久しぶりに…本当に久しぶりに一緒にベッドに入ったはとても緊張しているようだった。
クロウ的にも多少緊張を感じないではなかったが、それは違和感を覚えるほどで。
何かあるなと思いはしたけれどが服を肌蹴た時の衝撃は予想以上だった。
の真っ白な脇腹の辺りに黒い女が手を広げている絵が張り付いていたのである。
いや、張り付いていたのであれば良かったが、それは皮膚にしっかりと刻み込まれている。
「流石にマーカーとまではいきませんけど…何か同じような印が欲しかったんです」
を置いて遊星と出て行った(それが結果的に巻き込まれるような形であったとしても)クロウにも多少の負い目や罪悪感はある。
しかしまさか、がこんなことをするなんて想像もしていなかった。
何故だとを見上げるクロウに、は僅かに眉を下げる。
「やっぱり…嫌ですか」
「…が決めた事に口出す権利なんかねぇだろ」
「クロウ…」
「ンな顔すんなよ……」
視線を戻したクロウは指先でその痕をなぞる。
「……黒い、マリア、か…」
刻み込まれたそれは、既に皮膚の一部となりクロウが辿るままに皮膚と同調した動きをした。
引っ張ればついてくるし擦ったところで消えるわけもない。
そうしているクロウを見つめていたは、結局無言のままだった。
交わすべき言葉は無い。
既に決意の証を刻み込んだ。
それに後悔は全くない。
クロウは暫く指先を徒に動かしていたが、やがて小さく息を吐くと、のマリアに唇を触れさせた。
「確かに驚いたけどよ……綺麗だぜ」
「あ、ン…」
脇腹にクロウの唇が押し当てられる感覚はくすぐったいが、それよりもは小さな嫉妬心を覚えていた。
そこにいるマリアをマグダラに変える唇。
嗚呼、とキスをする前に彼女と先にキスをするなんて。
「クロウ、だめ、だめです…」
「何が?」
「え、えっと…。キスをするなら、そこじゃなくて…。あの、ちゃんと…」
裸で居心地悪そうにもじもじとするは今まで見たことがないくらいに可愛らしい。
幸いの嫉妬の矛先には気付かなかったようで、クロウも体を起こすと、の上に圧し掛かった。
「きゃ、っ…」
「そういう格好であんまりカワイーこと言うと知らねーぞ!」
「え、っ?…んあ、ふ…ンっ…」
強請った通りの唇の感触を与えられてはうっとりを目を伏せる。
ベッドに押し付けられるくらいのクロウの体重が愛おしい。
「ふ、…ン、ん…っ、クロウ、あん…!」
唇だけではなく、頬や耳朶のすぐ下にも繰り返されてくすぐったかった。
ふざけるように時折唇で柔く啄まれるのも楽しくて思わず笑ってしまう。
「やん、もう…!そんなことするとこうですから…!」
先に脱いだの肌に触れるスウェットの感触を邪魔に感じ、はクロウのスウェットの裾を捲りあげた。
クロウの背中を撫で、胸板を滑らせるように体を露わにさせていく。
「…何だよ、お前何処でこんなカワイーこと覚えたんだ?」
「お、覚えてなんて…。た、ただ…クロウの肌の感触が…、その、恋しくて…」
ずっと淋しかった。
子供達と一緒に寝れば体温は分かち合えるけれど、クロウに感じる渇望とはまた別ものだ。
恥ずかしそうに視線を伏せるの睫毛が影を落とす。
その先は儚く震えているが、そういうものを男の本能は得てして蹂躙したくなるものだ。
、お前、…マジでどうなっても知らねーぞ」
スウェットを脱ぎ捨てたクロウがに襲い掛かる。
無意識に浅くなる呼吸に獣でもなったような気分だった。
目の前の、呼吸で柔らかく上下する胸を掬い上げると思い切りかぶりつく。
「んんんっ…!!!」
いきなり与えられた刺激に跳ねる体を押さえつけ、含んだ部分をねっとりと舌でなぞる。
「あ、あ…っ、クロウ、あ、んン…っ!」
口内でぷっくりと象徴するの乳首の感触はこの上なく可愛らしかった。
甘やかな肌の味もそのままだ。
「はぁっ…可愛いぜ、…あぁ、滅茶苦茶にしてやりてぇ」
唾液を含んだ舌先が乳首を弄んでいる。
空いた方も指先できゅっと引っ張りあげられた。
「あぅん…っ、あぁ、クロウ…っ、!」
「ん、は…。痛ェか?」
久しぶりで手加減が難しい。
余裕を失わせる色香を湛えながら体をくねらせるを見下ろすと、彼女の脇腹にいる女が視線を僅かに逸らして手を広げている。
不敬虔な気分を煽られてクロウはの乳首に歯を立てた。
「はうぅっ…!」
唇で敏感になった乳首を何度も啄まれ、は仰け反りながら膝でクロウの腰を挟み込んだ。
背中がしなった時に触れるクロウの昂ぶりにはっとする。
彼がこの体に欲情しているのが嬉しかった。
「はぁっ、クロウ、お願いが…あるんです…」
与えられる愛撫に呼吸が乱れ、途切れ途切れの言葉を絞り出す。
「何だ?」
「…あの、私に…させてくれませんか……」
快感に震える唇のなんと健気な動きか。
一瞬意味が分からず、しかしすぐにの言葉の意味を察したクロウが思わず指先に力を篭めてしまったことは致し方ないことと言えるだろう。
「っあぁん!!だめぇ…っ」
「あ、わ、悪ィ…で、でもお前…」
びくびくと過剰に反応したからクロウは慌てて手を離す。
その隙にやんわりとクロウの胸板を押し返した。
覆い被さっていたクロウの上体が起こされるに伴い、も体を起こす。
「…私も…クロウに気持ち良くなってほしいんです…」
押し返した胸板に爪の先で円を描いた。
少し辿らせては、また円を描いて…それを繰り返しながらの指先は確実に下へと辿らされていく。
止めさせようと思えば簡単に止めさせられただろう。
しかしクロウは小さく息を飲んでそんなの挙動を見守るしか出来ない。
屈んだの丸い肩に流れる髪が一房胸にかかり落ちた。
それを気にすることもなく、はゆっくりとクロウのスウェットパンツを下ろしたのである。
「…こんな風に、なるんですね…」
セックスの回数はそれなりにあるが、こうして男性器を間近で見るのは初めてである。
それも、平常時とは違う、勃起状態であれば尚更のこと。
クロウはを気持ち良くするためにたくさん愛撫を繰り返してくれたが、に何かを望んだことはなかった。
「い、嫌なら別に無理しなくてもいいんだぜ…」
「全然嫌じゃないです。でも…どうしたら良いんでしょう…。こう…?」
最中に興奮の極まったクロウが時々していたような気がする…と、やんわり握り込み上下に手を動かしてみた。
「、っ…!」
瞬間、クロウが息を詰める。
男性器を不思議そうに見つめるが小さな手で自分のそんなものを握っているなんて。
「痛いですか…?」
「い、いや…全然…っ、寧ろ、っ…く、くすぐってぇな…」
柔くもどかしい愛撫だが猛烈な興奮が欲情を助長する。
「あら…何か出てきました」
鈴口から滲み始めた先走りの粘液。
は先程一房かかり落ちた髪をそっと耳に掛けると、その粘液を唇で拭い取ったのである。
「―――っ!!それ、…っ!」
「…え?これ?ですか?」
クロウが肩を竦めて荒い呼吸を繰り返している。
もしかして感じてくれたのだろうかと思い、ちろちろと鈴口を舌先で撫でた。
正直快感を得られるには程遠いのに、興奮だけで射精に至れそうだった。
「うっ…!あ、っ、も、もっと…口全体で覆ってくれ…っ」
「は、はい!こう、れふか…っ?」
堪らず指示してしまったが、は言われた通りに唇を覆い被せる。
不思議な弾力が口の中に入って来た。
「んっん…はふ…っ」
ちゅっちゅっと吸いながら先端全体に舌を絡めた。
くびれた部分に舌を這わせ、張り出した部分は唇でやわやわと挟んだ。
「はぁっはぁっ…、あ、ァ…っもっと、奥まで…っ」
「ん、わかりまひた…」
ぐぶっと飲み込まれる瞬間、彼女の体内に入る時にも似た快感がクロウを襲い、射精感が込み上げる。
が、まだ味わっていたいと唇を引き結んで必死に堪えた。
口内に飲み込まれたものをは一心不乱にしゃぶり立てている。
時折唾液を飲み込む瞬間には。
「ああっ…!やべぇ、締まる…っ」
流動する口内がきゅううっとクロウを締め付けて苛んだ。
ぞくぞくと背中を走る快感に何度も体を仰け反らせながら、からの奉仕を貪った。
「んっふ…、はぁっ、あ……」
「…もう、いいから…っ」
息継ぎの為に一度クロウを口から引き抜いた時に、クロウが腰を引いてしまう。
先端から糸を引く光景と、不思議そうに見上げる上目遣いは本当に破壊力が凄まじくて心臓が跳ね上がる気分だった。
思わずの足を抱え上げて彼女をベッドの上に押し倒した。
「く、クロウ…?あの、まだ…」
「いいからっ…!こんなことされて我慢できるか…!!」
腰を押し付けると、の足の間を性器が滑る感触がする。
「あうっ…!あ、そんな、擦ったら…あっあっ…!」
にゅるにゅるとぬかるむそこは、クロウを咥えている間に勝手に準備をして待っていたのだ。
性的な素質を暗に感じてしまい、普段の丁寧で淑やかな彼女とのギャップに更に興奮する。
「すげ、勝手に…入ってく…、あぁぁ……、めちゃくちゃ気持ちイイ…」
先端を埋め込んだだけで吸い付くように飲み込んでいくのに、久しぶりでキツく締まる。
ここにも二面性を感じてしまった。
白い脇腹で両手を広げる聖母にはもしかしたらこんな裏の顔があるのかもしれない。
「はぁぁぁ…クロウ…、奥まで、届いて…っ!はぁっ…だめぇっ」
ぴっちりと飲み込んだ部分からは溢れた愛液が零れ落ちている。
ベッドの上に身を投げて、男に下敷きにされて、なのにいやらしく目尻を染めて、気持ち良さそうで。
「ダメじゃねーだろ…っ」
肩を押さえつけての唇を強引に奪った。
息を飲むの唇をこじ開けて強引に押し入る。
「んっ!…ん、ンっ…!」
密着した腰をもっと押し付けると、自身の胸の辺りで潰れるの胸の柔らかさを感じる。
彼女は本当にふわふわした何かで出来ているようだ。
「はっ…、、ん、は…っ」
息継ぎの為に角度を変えては繰り返す。
そうしている間にどちらからともなく腕を互いの体に回しあって、温かな体温を分け合った。
「俺、…もう…。動いてもいいか…?」
「はい…っ、クロウの好きに、して欲しい、です…!」
微笑む今の彼女はまさしくマグダラのマリア。
たぶらかされたクロウはの足を抱えると律動を始めた。
「ああっ…!あっ、!や、あ、あぁっ…!」
シーツをきつく掴み、髪を乱しながらクロウを受け入れる。
久しぶりの快感に体内が戦慄くのが分かった。
「はぁっ…あー…、イイ、…、お前のナカ、熱くて…っ、キツくて…っ」
屈みこみ、興奮を極めるクロウはもう一度にキスをする。
「ぷあ…っ、わ、私も…っ、はぁっ、はぁっ…すごく、イイ…っ!」
キスを繰り返しながら、先程下敷きになっていた胸を片手で掬い上げた。
「んふうっ…!あ、それ、だめ、だめですぅ…っ!」
小刻みに指先が乳首を捏ねる。
ぞくぞくと痺れる快感が背中を駆け上がって、は体内を蠢かせた。
「うは…コレ感じるのか…、めちゃくちゃ締まった…」
「やっ…!言わなくて、良いんです…っ!あっ、やぁん…っ!!」
徐々にスピードを上げていくクロウの体が更に深く打ち付けられる。
「あは、ああぁぁ…っ、クロウっ…私、あっ、イ、っちゃう…っ」
突き上げられながら胸を刺激され、急激に駆け上がるの体。
彼女の体内の脈動の感覚が短くなるこの瞬間は、クロウも余裕を失う。
「俺もだ…っ、、一緒に…っ!」
ぶる、とクロウの体が震えた。
体内のクロウが一瞬膨らんだ気がする。
「あぁっ、だめ、イく…っ、イくっ……!!」
強くなった圧迫感と突き上げにの足が空中を蹴った。
背中を仰け反らせながらはがくがくと体を痙攣させる。
「う、あっ…!」
声にならない声を出して絶頂するの体内が断続的に収縮した。
搾り取られるような蠢きに堪らずクロウも上り詰める。
「あぁっ…、熱い…」
脈動と共にびゅくびゅくと溢れる感覚がの体内を満たしていた。
収まりきらなかった分が接合部から滴り落ちる。
「はーっ…、はーっ…」
糸が切れたようにクロウはの隣に沈み込む。
余韻が甘ったるく支配するベッドの上ではクロウと向かい合うように体をずらした。
「…クロウ」
「…ン…?」
「本当に、生きて帰ってきてくれて…良かったです」
ずっと言いたかったことだった。
「それは俺の台詞だぜ…」
「え…?それはどういう…」
「何でもねぇ」
今のは地縛神のことを覚えてはいない。
これから以降も教えるつもりは全くない。
「帰ってくるに決まってるだろ。俺もお前の隣が帰ってくる場所なんだぞ」
くしゃ、との前髪を掻き上げながら呟くクロウは…。
「あの、顔…赤いですよ」
「…お前こそ」
「…」
「…」
暫くの静寂の後、控えめな二人の笑い声が部屋に響き、やがてその影が一つに重なった。






それから約一年。

誰にも見えないところにその聖母は佇んでいた。
白い肌を晒す相手にしか見えない二面性の彼女。
「はい、クロウ。いってらっしゃい」
微笑むに鞄を差し出されクロウは礼を言ってそれを受け取る。
被差別の立場にあった彼は今やセキュリティの所属である。
クロウ本人が知らないところで受けた屈辱をは生涯忘れられないだろうと思っていた。
しかし、もはやそれは些末な問題でもある。
「今日は遅くなるんでしたね。新人さんとふざけすぎないように」
「何だ、ソレ」
「牛尾さんとばったり会った時、ちょっとだけ聞いたんです」
隠しても無駄ですよ?と微笑むにクロウは頬を掻いた。
そこにはやはり消えない印が残っている。
意味合いは違うが、の体にも消えない痕が残っている。
両手を広げたマリア。
此処に帰ってきてほしいと、願いを込めて。







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藤助様リクエスト分でした!

今回の小説には車の中で聞いているBGMにインスパイアされた要素が入っておりまして…。
今回の内容は曲の歌詞には全くそぐわないのですが、マリアの刺青の部分だけいいなぁ…と思ったのです。
マイナーな曲ですからお耳に入る事はないと思います。
でも、マリアの黒い刺青について歌っている唄を何処かで聞かれたなら「これかも」と笑ってやってください。

こちらの作品は藤助様へ捧げる8万打のリクエスト小説となります。
ご本人様以外のお持ち帰りなどは厳禁です。
閲覧のみで宜しくお願い致します。


ここまで読んでくださってありがとうございました。