箱庭幽霊


あたしの恋人、病気なんです。
それも相当な。






チームメイトはもう諦めているのだろうと思った。
このあたしの存在を。
あたし、端的に言って幽霊なんです。
「…ねーブルーノ、あたし退屈だよォ…」
足をばたばたさせて訴えてみた。
「じゃあおやつでも用意しようか?」
「や、もうそれはいいから自由をください」
「自由?あ、トイレ行きたいの?」
「そうじゃなくて」
ちゃらりと手首から続く鎖をブルーノに揺らして見せる。
「ねぇ、こんなので繋がなくても大丈夫だからさァ。家に帰してよ」
家というか、サテライトの廃墟のねぐらだけど。
「なんで?此処の方が快適でしょ?」
「それとこれとは違うよー。ね、もっと健全な交際しない?」
こんな鎖に縛られた関係じゃなくてさ、と言ってみた。
「だって、とずっと一緒にいたいし。は僕とずっと一緒にいるの嫌なの?」
するとブルーノは少し悲しそうな顔になり、首を傾げてそんなことを言う。
嗚呼、そういうことを言ってるんじゃなくて。
それにブルーノとあたしの『ずっと一緒』は多分考えているところの意味が違うだろう。
『ずっと一緒』は嫌じゃないけど、『四六時中一緒』は良くない気がする。
この部屋の中、二人きりで閉じていく世界。
記憶喪失のブルーノは驚く程に外の世界への興味が薄い。
これと決めた宝物だけを手元に並べ、愛しむ。
その中の一つが多分あたしで。
偏ったやり方だけど、彼はきっとそういう人で。
何となくそれを理解しているあたしは、ブルーノに何も言えなくなる。
黙り込むあたしを、ブルーノは優しく抱き寄せた。
「鎖の有る無しってそんなに問題?本当に嫌なら外しちゃうよ?」
耳元でブルーノが囁く。
ドアの方を見ながら。
そう、実はドアも施錠されている。
ブルーノの言うとおり、鎖の有る無しに関わらずあたしはこの部屋から出ることは出来ない。
「何、その言い方。あたしが鎖付けて欲しいって言ったみたいじゃない」
とっても、心外。
あたしは一言もそんなことを請うたことはない。
ブルーノは耳元で少し笑った。
「そうだね、一度も言ったことないよね」
「そうよ」
「じゃあ、鎖は外してセックスしようか」
直接的なブルーノの誘い文句にあたしは顔を赤らめた。
「…確かに退屈って言ったけどさァ…」
もうちょっとムードとか、あるでしょ?
メカオタクに何言っても無駄かな。
「さ、手を出して?」
「…はい」
左手を差し出すと、ブルーノは胸のポケットから小さな鍵を出した。
そうそう、アナタいっつもそこに鍵入れてるよね。
カチリと乾いた音がして、あたしの手首から金属製の拘束具が落ちる。
結局ドアの鍵は閉まったままなんだけど。
「これで良いかな?」
後ろからぎゅっと抱き締められる。
「ずっとこうしてくれれば良いのに…」
「え、ずっとぎゅっとされたいの?それならそうと言ってくれれば」
「そうじゃなくて、鎖外していて欲しいって言ってんの」
「だから、それは…うん、まあいいや。退屈なんでしょ?楽しませてあげるね」
あたしの服の裾からブルーノの手が潜り込んできた。
下着の上からブルーノの手が、あたしの胸を包み込む。
緩やかな手付きで揉みしだきながら、あたしの耳元に息を吹きかけてきた。
「ひゃうっ…あ、ン…ブルーノ……」
優しくブルーノの唇があたしの耳朶をなぞる。
甘く 食みながら舌先が輪郭をなぞるように滑った。
「可愛いよ、
あたしの情欲を煽るようなことをして、なのにまだ穏やかな声をかけてくるブルーノが憎らしい。
かき乱されるのはいつだってあたしの方。
ブルーノの手が下着を軽く押し上げて乳首の先に触れる。
「はぁ、っん!」
中途半端に押し上げられた下着は胸の上部を押さえつけて、露出した部分を強調するかのよう。
膨らみ始めた乳首をつまみ上げられるだけで鋭い快感があたしの腰に走った。
「嗚呼、固くなってきた…おっぱい気持ちイイ?」
「んんっ、ばかァ…っ、あっあっ!」
今日に限ってなんでそんな直接的な言い方…!
ブルーノの指先がつまみ上げた乳首を転がすように刺激してくる。
敏感なところを弄られて足の間がきゅうんと疼いた。
もやもやするような重い疼きと、鋭く駆け上がる強い快感。
思わずもじもじと膝を擦り合わせてしまう。
「ふふ…腰、揺れてるね。本当に素直で可愛いよ…」
あたしの胸を愛撫する指先が、片方離れてつーっとあたしのお腹の真ん中を伝い降りていく。
器用に片手でショートパンツのトップボタンを外して中に入ってきた。
でも、焦らすようにショーツの中には入ってこない。
下着の上を辿って、あたしの溝にブルーノの指先が埋まった。
「はあぁぁん…っ」
濡れ始めたそこは柔らかくブルーノの指を受け入れてしまう。
尤も、下着越しなのでそんなに奥までは入ってこない。
それが逆にもどかしくて、もっと快感が欲しいあたしの本能を揺さぶってくる。
「どう?おっぱいもココも気持ちでしょ?」
下着越しにあたしの一番感じるところを責めるブルーノの楽しそうな声。
「あっ、はぁぁ…っ、やだっ、あんっ!」
やだ、とか言いながら、あたしはもっと気持ち良くして欲しくてはしたなくもだんだんと足を開いてしまう。
ブルーノの指に一番気持ちイイところが当たるように腰を揺らめかせながら。
乳首を弄られる度に走る快感が、突起を捏ねられる刺激と伴って腰を駆け上がった。
下着越しというもどかしさはあるけれど焦れったい感覚があたしの貪欲さを引き出してくるようで。
「あぁ…っ、ブルーノ、お願い…ちゃんと触って…、お願い…!」
気付けばあたしははしたないお願いをブルーノにしていた。
下腹にわだかまる快感の渦をどうにかして欲しくて。
「もうイきたいの?もっと僕を味わってよ」
意地悪くブルーノは手をショートパンツから抜いてしまった。
嗚呼、どうして。
こんなにも疼いて足を震わせているあたしからそっと体を離すと、向かい合わせになるようにあたしの体を反転させた。
「あぁ…ブルーノぉ…止めちゃいやぁ…」
縋るようにあたしはブルーノに絡みつく。
ブルーノの腰に腕を回し、少し性の色が見え始めたブルーノにキスをした。
ちゅ、と小さな音を立てて吸い付く。
柔らかな唇を優しく舐めて、ブルーノの口内に舌先を潜り込ませると、待ちかまえていたブルーノの舌があたしの舌を絡め取った。
「んふ…っ、ん、ん…」
くちゅくちゅと唾液を混じらせている間も、ブルーノを誘惑することを忘れない。
服越しだからどれだけの効果があるかは分からないけど、抱き締めるような形で彼の胸板に胸をぎゅうっと押し付ける。
そして片手でブルーノの股間に触った。
上からカタチを確かめるように掌でなぞる。
完全に、とまではいかなくてもある程度は勃起しているようであたしは嬉しくなった。
「は…っ、こんなに僕を誘惑して、はエッチだね。いいよ、そんなに望むならイかせてあげるね」
唇を離したブルーノがあたしを床に押し倒した。
服を捲り上げて、先程まで弄っていたあたしの乳首にしゃぶりつく。
「あはぁっ!」
唾液を含んだブルーノの舌、という指よりも強い快感にびくんとあたしの背がしなった。
ちゅうちゅうと強く吸い上げては先端部分をちろちろ舐める。
敏感になった部分を転がされると足の間から愛液がじゅわりと染み出すくらい気持ちイイ。
「はぁんっ、ブルーノ、あぁぁ…っ」
びくびく跳ねるあたしの腰を抱いたブルーノはするりとショートパンツごとあたしショーツも脱がせてしまった。
既に染みが広がったそれは下着の体を成してはいない。
遮るものが無くなったあたしの溝に、ブルーノの指が埋まる。
「っ、すっごいね。ぐちょぐちょだよ」
いやらしく舌なめずりしながらブルーノはあたしの胸から顔を上げた。
いつもの人畜無害じゃ微笑みは成りを潜め、男の本能を滲ませたブルーノがそこにいる。
「ほらっ、これが良かったんでしょ…?」
肉を掻き分けてブルーノがあたしの敏感な突起に直接触れた。
痺れるような快感があたしの全身に走る。
「あーっ!あぁぁ!イくっ、イくイくうぅ!!」
先程まで弄られていたあたしの体は、いとも簡単に絶頂に達してしまった。
がくがくと体が震え、ぷしゅっと透明な液体を噴き出してしまう。
「あはっ、お漏らししちゃったね。そんなに気持ちよかった?」
「はぁっはぁっ…はぁあ…い、言わないでよォ…」
絶頂の余韻に浮かされながら、あたしは両手で顔を覆った。
潮噴いちゃった…恥ずかしい…。
ばっかりはずるいから、僕も良くしてくれるよね?」
疑問型で聞いてくるが、ブルーノにあたしの返事を待つ気は無さそうであたしの足の間に体を捩じ込んでくる。
そして取り出した男性器を押し付けて、緩く腰を揺らめかせた。
ぬるぬるとブルーノ自身があたしの溝を行き来する。
猛った逞しいソレが絶頂を迎えたあたしの体をまた火照らせ始めるんだ。
「ああ、また濡れてきたね。ぬるぬるしてる。僕のコレで興奮した?」
言ってあたしを手を掴んで熱く脈打つブルーノ自身に触れさせる。
それは固くて大きく、今からそれがあたしの膣の中を押し広げながら侵入してくるのだと思うと、与えられる快感を想像して腰が震えた。
「はぁん…ブルーノ、おっきい…」
「ほら、欲しいでしょ?自分で入れてみて」
促されて、あたしは自ら指で花弁を掻き分けブルーノを入り口に押し当てた。
グプ、とぬかるむあたしの入り口にソレが埋まる。
「はぁっ…の中に、入ってくよ。ああ…凄く気持ちイイ…」
少し入れたら、後はブルーノが腰を使ってくれた。
恍惚の表情であたしを犯すブルーノ。
ちょっと苦しいくらいに大きいソレが深々とあたしを突き上げて、繋がる快感。
「んはぁっ、おっき、ぃ…、あっあっ…!」
侵入を果たしたブルーノはすぐに律動を始めた。
ぎりぎりまで引き抜いたソレが内壁を擦りながらまた奥へ到達する。
「はぁっはぁっ、ああ、凄い、っ…」
体を激しくぶつける音が部屋に響いていた。
「はぁっ!あっ!ブルーノ、っ、はぁぁっ!」
イったばかりのあたしの体は浅ましくもまた上り詰めようとしている。
激しくなるブルーノの愛の行為に溺れながら。
びくびく跳ねるあたしの腰を抱いたブルーノ。
押し付けられる体に彼も絶頂が近いのだと感じる。
「あっ、、はぁっ、愛してる、よ!っ…!」
「あたしも!ブルーノ、ブルーノ!!あぁっ、イっちゃう…!」
ブルーノがあたしの最奥を貫いて、がくがくと体を震わせながらあたしは二度目の絶頂に達した。
さっきよりも鋭い快感があたしの全身を駆け抜ける。
きつく収縮する内壁がブルーノを思い切り締め付けた。
「うっ、は…!」
ブルーノもびくんと体を震わせた。
どくんと内部で脈動する感覚。
気持ちよさそうにたっぷりと彼が注いでいる。
じんわりとお腹の中に広がる熱がそれを証明していた。
「はぁ…、あぁ…。気持ち、良かった…」
ぼんやりとする視線をさまよわせて、あたしは床に体を投げ出す。
ひんやりとした床があたしの体の熱を奪ってくれる。
荒い呼吸で床に座っていたブルーノは、改めてあたしに足を開かせると、愛液と精液と…とにかく色んなモノでぐちゃぐちゃのあたしのそこを拭ってくれた。
ついでに潮で濡れた床も拭いている。
あたしはぐったりとしたまま視線を動かした。
先程ブルーノが外した拘束具が目に入る。
長い鎖がついた金属のそれ。
「…、服着なよ」
「うん」
そうそう服を着ないと。
言われたとおりあたしは脱がされた服を着る。
ショーツだけは新しいものに穿き替えた。
そして。
床の上の拘束具を手に取る。
これを着ければまたあたしはこの部屋の幽霊になるのだ。
ブルーノのチームメイト達は、彼が部屋に女を、あたしを囲っていることを知っているはずだ。
まだ誰にもあったことはないけれど。
だって彼等があたしのことを「幽霊」と呼んでいるのを扉越しに聞いたことがある。
そう、あたしはこのブルーノの部屋という箱庭から逃げられない幽霊。
逃げることを選ばない幽霊。
手に取った拘束具をあたしは無言ではめた。
分かっていた。
自由が欲しいなんて言いながら、この不健全なブルーノの愛があたしにとって最大の幸福であることを。
かち、と乾いた音がする。
ちゃらりと鎖が揺れた。
ブルーノは満足そうにあたしを見てる。
、鍵の場所知ってるくせに絶対に勝手に外さないもんね」
優しく抱き寄せてあたしの髪を撫でるブルーノ。
「そんながとっても可愛いよ」
そっと左手にキスをしながらブルーノはあたしに囁いた。




あたし、病気なんです。
あたしが相当な病気なんです。
こんなにもこんなにも。
ブルーノが好き過ぎて。
離れられなくて。
本当は繋がれていたくて。
この狭い箱庭の中で。







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ここまで読んでくださってありがとうございました。