こんなに好きなのに


まあ、遠慮を知らない訳ではないが。
ご馳走が食べられるなら、遠慮なぞ引っ込めてしまおうということで。
「本当に良かったのか」
唯一遊星だけがにそう聞いた。
しかしはにこりと笑って頷くのみ。
机の上にはたくさんのご馳走が。
「でも時間足りなくて今からからあげ揚げるんだけどね」
「まだ出てくんのかよ!?」
「ふふっ、たくさん食べて頂戴」
彼等を夕飯に呼ぶのは初めてではない。
今回はブルーノのバイト代のかわりだが、時々彼等を夕飯に招待したりしていた。
まあ…下心がゼロであったかといえば嘘になる。
彼等を呼べば確実にブルーノに会える。
そういった意味で言えば、影ながらブルーノもチームに大きく貢献したと言えよう。
さてさて勝手知ったる他人の夕飯。
回数を重ねるうちに彼等の席も自然に決まっていた。
ブルーノはいつも一番キッチンに…そうに近い場所に座っていた。
「あ、ブルーノ。俺、おかわり」
…おかげで良いようにも使われるが。
別に気にしない風でブルーノも立ち上がる。
もしかしたら彼等の食卓はいつもこんな感じなのかもしれないなと思うとは思わず口許が綻んでしまう。
「あれ?なんか嬉しそう?」
「え?違うの、ブルーノももうちょっと奥に座ればいいのにって。雑用引き受けがちよね。でも賑やかな食卓っていいわね」
昼間のバイトの事を言っているのだろうかとブルーノは思う。
ブルーノにとってのバイトは雑用でも何でも無い。
寧ろ彼女と過ごせる至福の時だ。
まあ、クロウのおかわりは雑用に変わりなかったが。
「良いんだよ。それに雑用じゃなくて仕事、だしね。きちんと報酬も貰ってる」
「もう…優しいんだから」
ああなんて穏やかに笑うんだろう。
実はお互いにそう思っている。
しかしそれは伝わらない。
「…二人の世界だな…」
「あいつら…お互いに判り易すぎるぞ…あれで何故くっつかんのだ。じれったいにも程がある」
「あ!じゃぁこういうのはどうだ?…して、…ってやれば」
「成る程。自然だな」
「というか何故俺達がここまでお膳立てしてやらねばならんのだ…」
何となく二人の世界が出来ている間に、机の方ではこそこそと密談が交わされていることに二人は気付かなかった。



☆★☆



「っはー!旨かった!!ごちそーさんでした!」
「うふ、良かった。たくさん作った甲斐があるわ」
空っぽになった皿を片付けながらはにっこり笑った。
振る舞ったものを綺麗に平らげてくれるのは誰でも嬉しいものだ。
「すごく旨かった。ところで…」
「なぁに、遊星」
「旨い食事の礼に片付けを手伝おうと思ってな」
「え、…ジャックが?」
チームの面々急ににじり寄ってきてちょっと怖い。
と、いうかジャックの後片付けとっても怖い。
「俺ではなくうちのメカニックを置いていく。好きに使え」
「え、ええ!?メカニックって遊星とブルーノ??」
「そうだ…しかし俺はちょっと思いついたプログラムを今すぐ試したい。だから頼んだぞブルーノ」
「え、僕?うん、まあ全然大丈夫だけど…」
急に連携の取れている3人にぽかんとするブルーノ。
それ以上に呆気に取られているのはの方で。
「じゃあ頼んだぜー!」
言いながらさっさと退場していく3人を見送るしかなかったのである。
しかしぽつんと二人残されて、ははっとしたようにブルーノを見た。
「ちょ、いいわよ!悪いわ。大丈夫だからブルーノも帰って頂戴」
何故か帰って欲しいような言い方になってしまうが、流石に気が引ける。
そもそもこの夕飯は報酬なので当然だ。
彼がやらなくていい家事をする必要など何処にも無いのだから。
「ううん、手伝うよ。僕が食器洗ってが拭いて片付けてくれたら早く終わるよね」
「や、ほんと、いいのよ。というかダメよ。だって今晩の夕飯ってバイト代だし」
「いいからいいから」
寧ろブルーノは嬉しいので喜んでキッチンに入ってくる。
は正直恐縮しきりだった。
確かにブルーノと二人になれればいいと思っていたけれど。
それでも食事を見守っていたときよりも距離がずっと近くなって、心臓は跳ね上がる。
「じゃあ、お言葉に甘えちゃうよー?いいの?」
「勿論だよ!」
の目に映るブルーノはやはり穏やかな笑顔を浮かべている。
しかしの目には彼の心の焦燥にも似たざわめきは映らない。

それぞれ思いを抱えながら夜は更けゆく。

お互いにこんなに好きなのに、まだ何も言えないままで。








「こんなに好きってバレバレなのになんで本人同士はわかんねぇんだろーな」

「さぁな。しかしこれで普通に帰ってきたら…俺は二度と協力せんぞ」

「いや流石に何も無いことはないと思うが」

「…遊星の口から“何も無い”とかそんな色恋沙汰の話が出るとはなぁ…明日槍でも降るんじゃね?」

「クロウ…俺を一体何だと…」

「等辺木か朴念仁だろう」

「ジャック、お前にだけは言われたくない」