零児さんと靴職人ちゃん


それは、ほんの気紛れのつもりだったけれど。
彼女があまりにも熱視線を送るから。
つい。

「好きにしたらいい」

そんな言葉を呟いてしまっていたけれど。
恭しく跪く姿に堪らない気分になったことは記憶に新しく。





あの初めての感触を覚えた瞬間を、零児は生涯忘れないであろう。






足への口吻けは隷属で、爪先が崇拝、脛が服従であるのなら、唇に含んだ彼女は更に何を欲っしているというのか。
「社長」
「…どうした」
「お電話が入っております」
誰かに声を掛けられても考えるのは衝撃的なあの出会い。
脳内にちらつく彼女の唇がおずおずと足に触れたあの瞬間。
思い出すだけで下半身が熱くなる。
彼女からの連絡を待ち続けている間、何度か下卑た捌け口にさせてもらったけれど罪悪感があまりないのは。
「…彼女からだな」
既にその彼女が。
自身のものであると言うことを本能的に悟っているからである。



キャンセルできる予定を全て後回しにした零児は僅かに逸る気分で彼女の元へと向かっていた。
努めて顔には出さないが、ただ二人きりの工房で彼女によって僅かに開かれた扉がすぐそこにあるような気がした。
出来上がった頃に彼女しかいない瞬間を見計らって訪れるつもりだったのに、想像よりも随分と早い。
勿論これは仕立て屋に依頼した仕事なのだから、早いのであれば必然的に評価も高くなる。
そして何より短い期間に彼女が自分を思って仕上げてくれたのだとしたらとても嬉しい。
きっと、今日も彼女は独りで待っているはずだ。
思いを込めて仕立てた靴と一緒に。
果たしてその予想は狂うこともなく、彼女は工房の前で零児を待っていた。
車から降りた零児は、軽く手で付き人を制すると。
「此処で待て」
と、告げて、彼女の後ろを黙ってついて行く。
「…お待ちしておりました」
この前の小部屋に通された零児は、あの時のことを鮮明に思い出していた。
話に聞く以上に熱心な職人の女性、というイメージが一瞬で塗り替わったあの日。
彼女は見事に仕立てられた靴を零児に差し出す。
「零児さんの、ご注文の靴です」
「…ああ、見事だな。私のことを考えて作ってくれたのだとしたら尚嬉しいのだが」
「!…も、勿論…零児さんのことだけを考えて作りまし、た…」
零児は恥ずかしそうに俯く彼女の顎を軽く掴み、視線を合わさせる。
目尻がほんのりと赤く染まることに気分が良くなるのを感じた。
「ならば…それは君が好きに私に履かせてくれ」
「…は、はい…!」
そっと靴を傍らに置き、零児に座るよう促す彼女。
記憶の中の彼女がしたように、今の靴を丁寧に脱がせると。
「…零児さん、わたし…あの日のこと何度も思い出すんです…」
恭しく跪いてそっと足の甲に唇を押し付けた。
やんわりと舌先が甲の部分をなぞり爪先まで辿っていく。
「…そうか」
可憐な桜色の唇が自身の爪先を含む瞬間に、ああこれを待っていたのだと零児は深く理解する。
ぬめる舌先が暖かく指先を包み込み、労わるように撫でさする。
「私も、君の唇が忘れられなかったよ」
「…ん、っ…本当、れすか…」
「君は仕事も早く、また正確で素晴らしい」
褒める言葉に彼女はやはり恥ずかしそうに俯きながら足首の辺りを唇で食んだ。
「何か、特別な……そうご褒美をあげたいと思っている」
「!」
少し唇が離れた隙を見計らい、零児が爪先で彼女の胸にやんわりと触れた。
ふにゅりとした触れ心地に零児は目を細める。
「ん、あ…っ、れいじ、さぁん…」
「可愛らしい声だ。では、始めようか」
零児の膝に縋る彼女はその言葉にゆっくりと頷くと。
震える指先で零児のベルトを掴んだのである。
職人であるはずの彼女の指先はまだ繊細で美しく、零児はほんの少しだけ息を飲んだ。
器用にベルトを外す手を見つめながら、自分の爪先を含んで見せた唇が今度はもっと直接的な欲望に触れるのだ。
金具の擦れる音が小部屋に響く。
そしてトップボタンを外した後、彼女はその唇を使ってファスナーを下ろして見せた。
「…そんな方法を何処で覚えてくるんだ」
「……零児さんが、望んでいるかと思って…。あの、嫌でしたか…?」
「まさか」
零児の言葉に彼女は少しほっとしたようで、そっとズボンと下着を引き下げた。
彼女の指先が触れる瞬間、零児は僅かに視線を泳がせたが彼女がそれに気付くことは無かった。
自分の足を舐める彼女を思い出して何度か自慰をしてしまったけれど、こちらの視覚的効果もなかなかだ。
加えて物理的刺激まで有している。
「零児さんの…失礼します…」
控えめに彼女が呟き、そっと口内へ零児を招き入れた。
「っ…」
爪先を舐められた時とは違う刺激が零児の腰に走る。
「ン…っ、ん……」
鼻にかかった甘い声を漏らしながら彼女は口の中でくちゅくちゅとそれを優しくしゃぶる。
途端に彼女の口内で膨らみ始める零児のそれ。
「んふっ、は…っ、あ、ン…っすごい…」
むくむくと質量を増していくそれが含みきれなくなり、彼女はずるりとそれを引き抜くと先端に唇を被せた。
ちゅぷちゅぷと小さな音を立てて先端を舌先で撫で回す。
「は…、君は、こういうこともなかなか優秀だな…」
「んンっ…あぃがとう、ございまふ…」
ぬるつく唾液が滑りを良くして、いやらしく這う舌。
つうっと裏筋を舐め上げる瞬間、上目遣いになった彼女と目があった。
欲情の色を湛えて零児を見つめ返している。
思わずぞくりとして、自身を舐める彼女の頬を撫でた。
すると、彼女は嬉しそうに目を細め。
「れいじさぁん…いっぱい、だして…くださいね…」
言うなり零児を深々と頬張ったのである。
「…ぅ、く…」
予想外の行動に零児は思わず声を零しかけるが、ギリギリで堪えた。
「んっ、ン…っ、んふ…っ」
唇で扱くように上下運動を加えられ腰が蕩けるような快感を覚える。
とはいえ溺れきっているところを彼女に見られるのは抵抗があるので、零児はきゅうっと下唇を噛んだ。
彼女の舌先はねっとりと絡みつくような的確さで何度も刺激を繰り返した。
「んくっ…は、…んむぅ…っ、しゅご、い…こんなに、おっきく…」
うっとりとしながら彼女は零児を唇で一層扱き立てる。
思わず浮きそうになる腰を必死で抑えるものの、彼女が与えてくれる絶大な快感は感じたことのないものだった。
近くなる絶頂を感じ、零児は彼女の頭を押さえつける。
「んうぅっ…」
苦しげな彼女の声を聞きながらきゅうっとその喉が零児を締めた瞬間、彼女の喉の奥で零児は欲望を解放した。
「!っ、んっぐ…ん、は…、はぁっ…」
「…は、…」
僅かに息を吐いて存分に彼女の口に吐き出すと、漸くその手を離した。
むせそうになりながらもどうにか全て飲み込んだ彼女は、僅かに涙目になった視線を向ける。
「君は…まだ、足りなそうだな」
彼女自身も興奮を感じているのだろう。
恥ずかしそうに膝を擦り合わせる彼女は、しかし、またしても零児の足元に跪く。
「もう少しだけ…私にこうさせてください…。まだ、貴方は畏れ多くて…だから」
おずおずと爪先にキスをして、彼女はやんわりと零児の爪先を唇に含む。
しかし、零児はもうそれを見ているだけでは満足しない。
「っ、あ…!」
彼女を床に押し倒すと。
「散々君の好きにさせてやったな?今度は私が君を好きにしてもいいだろう?…異論は聞きたくない」
困ったように眉を下げる彼女の唇に長い指を押し当てると、その首筋を優しく唇でなぞり始めるのだった。



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手慣れた顔して童貞の零児君が萌えます。