極上の悪夢ですね。/3


「何で!お前が!と!帰って来るんだよぉぉ!!!」
クロウの鮮やかな飛び蹴りが遊星にクリーンヒットした。
どうやらクロウを巻いて俺の家に戻って来てたらしいな、あいつ。
気持ちよく吹っ飛んでいく遊星。
同情はしねぇぜ。




「もう、さっきは私を置いて二人で走ってっちゃうからどうしようかと思ったわ」
「ご、ごめん、アキ…」
そーだった。
俺さっき遊星に手ェ繋がれた上にスッゲー爽やかな笑顔向けられて逃げちまったんだった。
ぽつんと残されたアキは仕方ないからそのままガレージに戻ってきたらしい。
で、俺が遊星と出掛けた事をクロウに言っちまった…と。
つぅか男に取り合いされても嬉しくねぇぇえ…。
どうせならアキとミスティで俺を取り合ってくれ。
うは、二人の巨乳に取り合いされるとか!!
マジでマロン。じゃなかったロマン。
「じゃあ、約束どおり買い物行きましょうか」
「あ、ああ…いや、それなんだけど」
ちょっとアキの後ろに乗るのは気が引けて堪らない俺は、遊星の胸倉を掴んでいるクロウに声を掛ける。
「なあ、クロウ。俺らと一緒に買い物行かね?クロウの後ろに乗せてくれよ」
「あら、。私の後ろに乗ればいいのに」
「いやいやいや!流石に腰抱いて体密着させるとかセクハラだろ!俺男だし!!」
後、遊星も正直願い下げ。
ガレージ戻ってくるまでに、何回あいつ道逸れて変なとこ行こうとしたか。
やっぱ見境なくなってて超怖ぇ。
アキがいても何するか分かんねぇし、アキにそういうとこ見られたくねぇし。
「俺なら密着してもいいってのかよ」
遊星を離したクロウが複雑そうに俺を見る。
「いやァ…良いっつぅか消去法?アキじゃ気が引けるし、遊星は願い下げだし」
俺の言葉に遊星がはっとしたように目を見開く。
「何故だ!?」
「お前の胸に聞け!」
しれっと首傾げんな!
そんな可愛いそぶり見せてもダメ!!
「まあそんなわけで。クロウにお願いしまっす」
「…なんか素直に喜べねぇが…ま、荷物持ちくらいはしてやるよ」
嗚呼、なんだろ。
クロウもホント安心するよな。
気配りできる超良いヤツ!
あれ、でもこれって所謂「お友達でいましょう」状態の男に似てなくもねぇよな。
…いや、まあクロウも遊星もお友達はお友達なんだけど。
それ以上でも以下でもないんだけど!
いそいそとブラックバードの後ろに乗り込む。
そこで俺は重要なことに気付いた。
クロウが遊星よりも怖くない理由…。
小さいんだ、クロウって。
元々俺も体が小さい方で、女になって更に縮んだから、遊星に見下ろされるとちょっと怖いんだよな。
その点クロウは…。
いや、これは口にしたらデリカシーがなさすぎる。
同じ背の低い同士ちょっと気持ちも分かるし!
黙ったままの俺を、クロウは変に思ったのか振り返った。
「良いか?行くぜ」
「あ、うん。頼む」
背中に抱き付くようにしてクロウの腰に手を回した。
一瞬、クロウがギクッと体を強ばらせたように感じたけど気のせいかな?
「じゃーな、遊星!ジャックと留守番頼むぜー!」
「…ああ」
思い切り不本意そうな遊星を残し、俺達は出発した。


「とりあえずさぁ、俺、寝間着が欲しいんだけど」
「ああ、遊星にめちゃくちゃにされたからな」
「そーそー」
ってか寝間着代は遊星に請求してもいいんじゃねぇかな。
「最優先は下着よ。ずっとそのままではいられないでしょう?」
「…あ、そっか…」
アキが巻いてくれた簡易のサラシじゃ自分で巻けねぇしな…。
っつーか、その…アレ…着けなきゃいけないのか…。
…ブラジャー…。
あああああ…俺変態じゃね!?
すっげー恥ずかしい!すっげー恥ずかしい!
「大概色々やったけど、俺…これが一番辛いかもしんねー…」
「下着売り場行くなら、俺は夕飯の買い出し先にしてくるかなー」
「ええっ!?クロウ付いて来てくれねぇの!?」
「はぁ?流石に俺が行くのは不味ィだろ。ってか嫌だ」
がぁぁん。
何だよー!じゃあ俺だけが変態じゃね?
付いて来てもらおうと思ってクロウ連れて来たのに!
「俺一人で行かせるのかよォ!何か俺だけが変態みたいじゃん!」
「お前なぁ、今はお前女だろうが。俺が付いてったら俺が変態になるっつーの!」
「…あ、それもそうか」
そーだ、俺女なんだった。
だから下着要るんだもんな。
「っつーわけで、俺は買い出ししてるから、終わったら連絡くれよ」
ひらひらと手を振ってクロウは行ってしまった。
しかし今回はクロウに言ったから断られたけど、遊星だったら普通に付いて来たかも。
顔色も変えずにいつもの無表情で。
う、それはそれで怖ぇ…。
「じゃあ私達も行きましょう」
「はぁ…俺すっげぇ抵抗あるんだけど」
「気にしなくても、今のと分かる人は少ないわ。大丈夫よ」
さらりとアキは俺の手を引き歩き出す。
ドキッとしたけど、端から見りゃ友達同士が手を繋いでるように見えるんだろうな。
折角女の子と手を繋いでるってのに…ちょっと悲しい。
さて、アキによって連れて行かれた先は俺にとって未知の空間だった。
当たり前か。
「どれが良いかしら」
「いや、もう何でもいいんだけど…」
つうか分っかんねー!!!
あっちこっちに下着が陳列されてて目のやり場にめちゃくちゃ困る。
の好みで選んだら?」
「こ、好みって…」
童貞の俺にそれ言うのか!
ってかアキの目の前で、『女の子がこんなパンツ穿いてたら嬉しいなあ』なんて言えるか!!
どんな羞恥プレイだよ。
「いや、俺ホント分かんねーから!アキがいいと思ったやつでいいから!!」
「そう?…じゃあ…」
アキはくすくす笑いながら俺に一着差し出した。
「こんなのはどう?」
「え…っ、こ、これ…?」
「ほらほら着てみて」
「ちょ、待っ…」
ぐいぐいと背中を押されて試着室まで行かされる俺。
ででででも!
ちょっとこれ下着って言うか!
アレだよな…ベビードールとかいう寝間着みたいなやつ。
「これ下着じゃないだろ?」
「あら、良く知ってるのね。何で?」
にこっと笑ったアキ…。
何でって、何でって…!
そりゃ俺だって思春期特有の好奇心とか人並みにありますから!
「ふ、深く考えんなっ!」
「うふふ。、寝間着が要るって言ってたでしょう?きっと似合うわよ」
そんな可愛い笑顔でー…。
でもアキがいいと思ったやつなら何でもと言った手前、とりあえずは着なきゃいけないよな…。
それにアキから、何か有無を言わせない強制力感じるし…。
「うぅ…じゃあ着るだけ…」
「そうそう」
しゃっとカーテンを閉められて、一人きりになるとちょっと決心が鈍る…。
が、意を決して服を脱ぐ。偉い!俺!
試着室のでかい鏡に大映しになる俺の体。
はっきりと見たのは今が最初だと気付く。
「はぁ、まさか初めて見る女の体が自分の体になろうとは…」
正直、超虚しい。
前屈みになるような気分にもならねぇ。
「はは、無ぇよな、当然…」
何となく股間を触ってみたが、つるんとしたもんで。
手馴れた感触は一切ない。
アキに手渡されたベビードールに手を通した。
つるっとした生地はひんやりとしてて結構気持ち良いな。
でもこれスッケスケなんですけど。
何これ。
世の中の女の子って、皆こんなエロい格好で寝てんの?
おっぱいってもうちょっと隠さないと不味くない?
こんな格好の娘を世の中の父親はどんな目で見てんの?
、どう?」
アキの声が外からかかる。
「どうもこうも…。これ着てる方が恥ずかしい気がする」
「着たところ見せてくれる?」
「良いけど…」
男の時に体見せるわけじゃないから何の抵抗もない。
寧ろ俺の体じゃねぇみたいだし。
「ああ、凄く可愛いわ、。これも着てみて!」
「はいはい」
怖いもんで、一回着ると何か結構平気になる。
恥ずかしいの最初の一回だけだ。
結局、アキがあれこれ持ってくる下着やら寝間着やらを着せられているうちに疲れてきた俺。
一通り着たものの中からアキが選んでくれた物を買った。
アキも何か買ったらしい。
「お揃いで、ね」
と、笑って言われた。
お揃いって…下着の?
それを俺が確認できる日は来るんだろうか。
出来れば男の時にお願いしたいもんだ。
「とりあえず、一着着ていく方が良いわ」
「そーだな。アキ悪いけどちょっと待っててくれ」
この試着の間に慣れたもんだ。
最初はアキに手伝ってもらったけど、もう大丈夫…って俺、男なのに何でこんなこと出来るようになっちゃってんだ…。
「悪い、待たせたな」
「良いのよ。クロウにも連絡しておいたわ」
「おっ、さんきゅ!」
ちょっと胸元が苦しいけど…。
女の子っていつもこんなの着けてんのか…大変だな。
「あ、お待たせクロウ」
「おー、どーだったよ?」
「試着いっぱいして疲れた」
素直な感想だ。
「服も少しだけ買いましょう。せめてサイズが合うものをね」
「うー…分かった…」
面倒だが仕方ねぇ。
それにさっき気付いたんだけど、この服…確かに大きいし。
あんま着るものとか気にしねぇけど、そんな俺でもちょっと変かなって思う。
でも、下着が女物になったせいか…あんま抵抗ない自分がいる…。
スカート以外なら大丈夫かも。



、これはどうかしら」
アキはとりあえず普段俺が着ていそうな服を選んでくれる。
「いや、寧ろこういうの着ろよ」
クロウは面白そうにワンピースやらスカートやら持ってくる…。
「着ねぇよ!スカートは嫌だって言ってんだろ。ジーンズ欲しいな。俺の普段着ぶかぶかだから」
「もう夏だし、ジーンズじゃなくてショートデニムにしたら?涼しいし女の子の間しか着れないわよ」
「うーん…アキがそういうなら着てみる」
涼しいのは確かに魅力的だ。
でもちょっと短くないか?
男の時は足をこんなに見せることねぇからちょっと落ち着かない。
「おっ、すっげ可愛いな!」
「…そ、そうか?」
「とっても似合ってるわよ」
うーんそんなに褒められるとちょっとくすぐったいっつうか。
「じゃあ、これにしようかな…」
ちょっと足がすーすーするけど…まあ確かに涼しいかも。
男に戻ったら着れねぇけど、女物のサイズじゃ結局どれも着れねぇしな。
「ニーハイ合わせたら完璧ね」
「…うぅん…」
ますます変態かも。
その他にもう何着か選んで俺の買い物は終わった。
「あーめちゃくちゃ疲れた…」
「そーだ。もアキも一緒に飯食ってけよ。お前等の分も買っといたんだぜ」
「マジで!?さんきゅ!!」
独りで食べるより絶対賑やかな方が良いもんな。
本当にクロウってイイ!!
「あ、ごめんなさい、クロウ。私今晩はダメなの。このままガレージに寄らずに帰るわ」
「そうかなのか?そりゃ残念だ」
「アキ、今日はすげー助かったぜ。ありがとな!!」
「良いのよ。じゃあ、またね」
優雅に手を振ってアキは帰って行く。
今日は世話になっちゃったなぁ。
何かお礼しなきゃな。
その内美味しいイチゴでも差し入れしよう。
「じゃあ俺らも帰るか」
「おう。頼むぜー」
さぁて、ガレージか。
ジャックとかブルーノ今の俺の姿見たら何て言うのかな。
ブルーノは別に何も言わずににこにこしてくれてそうだけどジャックはなぁ…。
ちょっと、会うの気が重いかも…。