極上の悪夢ですね。 5


、起きろ。インストールが終わったらしいぞ」





暖かい微睡みを壊したのはジャックの声だった。
俺を優しく揺さぶる手が更に覚醒へと導いてくれる。
「…う、ン…」
「さっさと起きろ。クロウが待っている」
「ふぁ…分かった…」
眩しい朝の日差しが部屋を白々と染めている。
殺風景な部屋が目に入ってきて、そういえばジャックの部屋にいたのだったと思い出した。
あとなんか大事なこと忘れてるような。
何だっけ。
もぞもぞと布団から這い出て小さく伸びをした。
「なっ…!貴様は何という格好をしているっ!?」
「…え、…あっ!!!」
そーだったそーだったぁ!!!
アキにすりかえられたベビードール着てたんだったぁ。
咄嗟に俺は体を庇う様に自分を抱き締めた。
「違っ、好きでこんな格好してるわけじゃなくてっ!!」
「良いからとっとと服を着ろっ!!」
言いながらぶわさっとジャックが俺にコートを投げ付ける。
あれ、これいつもジャックが着てるやつ…?
「そんな格好で降りてきたら承知せんぞ!」
「あ、ああ…」
コートを俺に投げ付けたまままま、捨て台詞だけ残してジャックは部屋を出て行った。
もしかしてコートで体隠してくれたの?
…何だよ、ジャック超紳士じゃね?
なんか…このチームの見る目変わるなぁ…。
でもってなんか超目ェ覚めたー…。
ベッドから這い出して俺は急いで身支度をする。
マジでやれやれだ。
起こしにきたのがジャックで良かったぁ…。
服を着て、ジャックのコートと一緒に階段を降りた。
そこにはもう全員の姿が揃っている…もしかしてこいつらずっと起きてたんじゃね?
ソファにジャックの姿を確認して俺は駆け寄った。
「あの、ジャック…コートありがと」
「全く…貴様は危機意識が足りん。無事でいたいならあんな格好で眠るのは止めることだな」
「…」
俺の所為じゃないのにぃぃいいい!!!
「ジャック、あんな格好とはどういうことだ」
う、しかも遊星食いつくし。
何か遊星の横のブルーノもにこにこしながらこっち見てるんですけどっ!
嗚呼、嫌な予感しかしない。
俺はそっとクロウの待つブラックバードの近くへ移動した。
「クロウ、行こうぜ」
「ん?ああ。でも俺も気になるな。お前どんな格好で寝てたんだよ」
「深く考えなくていいからっ!ほらっ、行こうぜ!!」
下手すると今この場で着替えさせられる恐れがあるぞ。
俺はブラックバードに勝手に乗ってクロウを促す。
しかし、そんな俺の肩をがしっと掴む手が…。
「僕も気になるなぁ。ねぇ、教えてよ!」
ブルーノ!
お前そんな無邪気な笑顔で!
「や、教えるっていうか…」
しどろもどろになりながらも俺はブルーノの手を振りほどこうと身じろぎするが…。
何こいつ!
いっつもジャックに殴られてるひ弱君じゃねぇの!?
びくともしねぇんですけど!
「マジでそんな大した格好じゃ…」
「あれ、そうなの?」
苦し紛れの俺の言葉に意外な反応を示してくれたブルーノ。
このまま興味を失ってくれるようにたたみかけちまえ。
「おう!わざわざ聞く必要もないくらいの…!」
「そうなんだぁ。じゃあ別に言っても平気だよね?」
「え」
あああああ!そーじゃねぇぇえ!
クッソこいつわざとか?
俺としたことがこの無邪気な笑みに騙されたのか!?
「で、どんな格好だったの?」
「…いや、えーっとそれは…」
ループしてますね。
結局ふりだしですよね。
…言いたくねぇ。
やっぱり嫌な予感しかしねぇ…。
俺は前にいるクロウの肩をばしばし叩いて大声で言った。
「ククククロウ!!!貸り一だ!今すぐ逃げてくれたらお前の言う事なんでも一つ聞く!!!」
「お、そりゃ良い取引だ。じゃあ行くか!」
ブラックバードが唸りを上げる。
ちょ、お前準備してたのかよ!
お前も確信犯かよ!!
当たり前だが、流石に勢い良く発進したDホイールまでは捕まえて置けないブルーノを振り切って、俺達はガレージを飛び出した。
息が止まりそうなほどの風が俺の頬を叩き、髪をはためかせる。
「ずっりぃ!お前発進準備してるんじゃねぇか!」
「はははっ、貸しは貸しだぜぇ。何してもらうかなー」
「クッソ!」
あーでもこういう軽口ってあの頃に戻ったみたいだよなぁ。
昔は遊星達と結構こうやって馬鹿やったけど、結局俺は一匹狼が性に合ってたんだよなぁ。
でもまあ結局タッグ組んでりゃおんなじか。
昨日派手に散財したからこのままクロウとタッグで稼いで帰ってもいいかもな。
「なークロウ」
「何だよ」
「このままちょっと稼いで行かね?俺結構派手に昨日DP使っちまったから」
「良いぜ。そういやタッグ久しぶりだな」
「クロウが忙しいからだろ。最近俺の家来なかったじゃん」
WRGPに俺は正直関係ないが、遊星やクロウ達は出場するから忙しい。
誘われたりもしたけれど実はあんまり興味なくて。
応援くらいは行こうかなって思ってるけど一緒に出るとかは有り得ない。
そもそも俺のデッキはタッグ専用だし。
Dホイールもあるけどライディングデュエルよりも、スタンディングのストリートデュエルの方が楽で良い。
「お前が来て欲しいって言うならいつでも行くぜ?」
「何だよそれ。もうガキじゃねぇし」
お互いの生活が出来た今、これが一番普通の距離なんだ。
でもそれってちょっと寂しいよな。
なんて俺がつまんねぇこと考えてたら、後ろに見知ったDホイール。
「あ、忘れてた」
「何だ?」
「アキだ」
そういえばこっそり抜いた俺の荷物届けるって書いてあったっけ。
「クロウ、悪ィ。先に俺の部屋向かってくれ」
「アキに用事か?」
「用事って言うか、なんていうか」
今朝のトラブルの大元だ。
ってか俺がクロウに貸りを作ることになったのも元はといえばアキの所為…。
あーでも俺女の子にきつく言うなんて出来ねぇ…。
後ろでぐぬぬと歯噛みする俺をクロウは変な目で見ていた。


「どうしてをクロウが送っているのよ」
Dホイールを停めるなりアキは驚きと何故かやや不満げにクロウに言った。
「つーかアキ、お前なんで俺の荷物抜いたんだよー。おかげですっげー大変だったんだぜ」
しかしクロウの返事をさえぎって俺がアキに精一杯の不満を言う。
「や、話が一番見えない俺にそんな不満そうな顔されてもよ…。結局何があったんだお前ら…」
蚊帳の外からクロウが頬を掻きながら困惑した顔をする。
三者三様の主張だ。
が!俺としてはマジでアキがあんなことをしたのか知りたくて仕方がない。
とりあえず二人を部屋へ入れる。
あっは、そーだった。
昨日出てった時のままだもんな。
ベッドの上の裂かれた寝間着を見て俺は異様に腹立たしくなった。
つーか元を辿れば遊星が俺の寝間着めちゃくちゃにしたからじゃねぇか!
「つーか…なんかもう全部遊星が悪いんじゃね?」
「えぇ?いきなりどうしたの?」
「あいつが俺襲わなかったら、俺ジャックにベビードール姿披露することもなかっただろ」
「えぇ!?ちょっと待って、昨日の事の起こりからもう一回説明して!」
「ベビードール姿って…あ、もしかして今朝のあれってそれか?」
端折ってアキに説明した俺が馬鹿だったんだな。
最初に言っときゃ今朝のトラブルは防げたかも。
とりあえずアキに最初から話しがてら、流れついでに今朝の一件もクロウに話して聞かせる。
一連の流れを神妙な様子で聞いてくれたアキ。
しかしここで俺の疑問が浮上する。
「で、俺が一番聞きたいことアキに聞いていいか?」
「なぁに?」
「何で俺の荷物抜いたんだよ。おかげで大変だったんだぞ…」
クロウに貸りは出来るし…と、俺はちろりとクロウを見た。
視線の意味が分かったらしいクロウは僅かににやっと笑う。
クッソ。
「まさかが帰らないとは思わなかったんだもの…。朝一番に来て可愛いを起こしてあげようと思ったのに…」
「や、もう女になってる時点で色々トラブってんですよ。これ以上トラブル増えそうな行動止めてくださいよ…」
「ごめんね」
謝りながらえへっと笑うアキ。
クッソ、可愛いなぁぁ…。
アキは散々俺のこと可愛いとか言うけどアキのが断然可愛いしな!
女になってからの方がなんか距離近い気がするけど、アキってそういうんじゃないよな?
ただ親身になってくれてるだけだよな?
「で、は結局遊星が悪いって結論なのか?」
「うーん…何となく一発デュエルで殴りたい気分なのは事実だな」
「あら、私は寧ろのベビードール姿を一人だけ味わったジャックを殴りたいわ」
「それは逆恨みだから止めてやってくれ…。ジャック、俺に超紳士的だったし…」
っつーか、あのガレージはメカニック共がやべぇ。
これから夜道気をつけよう。
真っ赤なDホイールには特に。