最上階は永遠


※最終話捏造込み



がその連絡に気付いたのは、仕事が終わってからだった。
「クロウから…」
珍しいこともある。
別に疎遠になったわけではないけれど、頻繁に連絡を取り合う中でもない。
しかし一点の心当たりにはかっと自身の体温が上がるのを感じた。
予感がする。
良い報せにしても悪い報せにしても。
きっと、彼のこと。
そう考えた瞬間に指が震えてしまって、何だったらちょっとパニックにもなってしまって。
あれ、電話ってどうやってかけるんだっけ…なんて指が携帯の画面を右往左往した。
時間をかけてかけ直した電話口ではクロウの声をはやる気持ちで待つ。
『…おう、。待ってたぜ』
「クロウ…、あの、もしかして」
『ああ、帰って来たぞ。今遊星とデュエルしてるけどな』
「…遊星と?」
腕を磨くと出ていったジャックだから、帰ってきて早々に遊星に勝負を挑んだということか。
全く、恋人に会いに来る前に男友達と勝負なんて…。
…ジャックらしすぎて涙が出そう。
「仕事終わったの。今からすぐに行くから引き留めておいて」
『分かった。そろそろ決着もつきそうだしな。待つように言っといてやる』
「お願い…」
クロウの引き受けたという返事を聞いては慌てて職場を後にした。
皆のいる場所はここからそんなに遠くない。
タクシーなんか待っていられず、はそのまま駈け出した。



はっ…、はっ…。
呼吸が止まりそう。
ヒールで走って、何度も転びそうになってる。
でも足が止まらないの。
嗚呼、会いたかった。
ジャック、ジャック、ジャック…。



が到着した時、既に勝負は決していた。
何故分かったかと言えば既にDホイールを降りた遊星の姿があったから。
だけど肝心のジャックの姿が見えない。
「クロウ!ジャックは何処…!?」
息を切らせながら駆け寄るにクロウは明るい表情を見せた。
「お、来たか。ジャックから伝言だぜ。いつものところで待っている、だと」
「いつもの…ところ……」
「来るまで待てって言ったんだけどよ。どうしてもそう伝えろって言って行っちまった」
「…ええええ……」
折角会えると思っていたのに会えなくて肩を落とすに、クロウは更に続ける。
「引き留められなかった詫びに近くまで送ってやるぜ」
「……お願い…するわ……行き、ましょ…」
の返答は走りすぎて途切れ途切れ。
それでもジャックに会いたい気持ちがを衝き動かす。





負けた。
遊星に。
運が無かったか。
腕を磨ききれなかったか。
まあ、そんなことは如何でも良い。
一番勝ちたい男に勝てなかったことは悔しいが、また挑めばいい。
それよりも、色々と決めたことがある。

「ジャック!」

真後ろで上擦った声がした。
やや批判的な色を含んでいるように聞こえるのは恐らく偶然ではないのだろう。
振り返らずともどんな顔をしているか手に取るように分かる。
きっと不満と淋しさをない交ぜにした――。
と、そこまで考えたジャックの体に軽い衝撃が伝わった。
「…
「ジャック…!何であたしに一番に会いに来てくれないの…!?」
「お前は仕事だろう」
「そうだけど…っ、そうだけど…!!」
後ろから抱き付いたの声はやや涙声である。
ずっと音信不通になっていたから当然といえるかもしれない。
ジャックは短く息を吐くと腰に絡みついたの手をゆっくり解いた。
…」
「何…」
自由になった体をの方に向ける。
本当に急いで来てくれたのだろう。
走った後でDホイールに乗ったの髪は乱れていた。
だけど、そんなの髪を優しく撫でるジャック。
「俺はさっき遊星に負けた」
「…そう」
感情の抑揚も薄く無表情に告げるジャックに、は何と声を掛けて良いのか分からず曖昧な返答をする。
そもそもジャックが音信不通になっていた理由はデュエルの腕を磨くため。
それが果たされなかったとなれば、気難しい彼を慰めるのは骨が折れる。
折角帰ってきたと言うのに、不機嫌な恋人を宥める作業から始めると言うのもなかなかである。
しかしジャックは意外にも、翳りの差すの頬に手をやると。
「…既に降りた舞台を、もう一度目指そうと思っている」
「え、…それって…、またキングに…?」
「そうだ。今度は俺自身の実力でな」
敷かれたレールはもうなくなった。
暗闇の中に放り出された手探りのその道を、自ら探し出して歩いてみようと思っている。
いつだって孤独を恐れたことなんてない。
だからその道も、独りでだって歩んでいけるという自負はある。
だけど、一つだけ我儘な贅沢を言いたい。
、俺はしばらくしたら日本を発つ」
「!」
「こんな小さな島国ではなく、世界の頂点に立つつもりだ」
「…ジャック…」
見上げてくるの顔色が翳りを通り越して蒼白になっていく。
それもそうだろう。
ジャックはもう傍にいないと同義の宣言をしたのである。
の心臓が嫌な緊張で鼓動を速めはじめた。
見下ろすジャックに不安そうな視線を送る
そうしてしばらく見つめ合っていたが、ジャックの無言に耐えきれなくなったがおずおずと口を開いた。
「…あたし…また独りで待っていればいいの…?」
時折くれる連絡を待ちながら、ジャックを心配して。
そしていつしか成功するであろう彼をモニター越しに確認して応援すれば良いのだろうか。
「…」
の問いかけに答える前に、ジャックはゆっくりと体を屈めた。
そのままの目の前に片膝をつく。
よりも相当背が高いジャックだけれど、跪けば流石にの方が背も高くなる。
今度はジャックがを見上げる形になった。
「独りにする気はない」
「え…」
恭しく膝をつくジャックが意外な言葉を口にする。
アーククレイドルの件が落ち着いた後、ジャックは『デュエルの腕を磨いてくるから待っていろ』とに告げて出ていった。
そこにの要望も意見も存在はしなかった。
ジャックが決めたからそうなった。
それに、結局淋しく思いつつも彼が望むならと受け入れていた。
しかし今。
、お前はずっと俺を支えてくれた。ずっと傍にいて途切れそうな俺の道を照らし続けてくれた」
「…、っ」
「これからも俺の傍らで…その輝きで、俺を導いてくれ」
「ジャッ、ク…」
「生涯をかけて愛し抜くと誓う。…、俺の妻になって欲しい」
「!」
想像もしていなかったジャックの告白に、の心臓は一層早くなった。
しかしそれはさっきまで感じていた嫌な緊張感とは真逆のものである。
、愛している」
優しく手を取るジャックが、そっとその唇をの手の甲に押し付けた。
嗚呼、信じられない。
まさかこんなことが――。







日本を発つまでが、もう本当に慌ただしかった。
とりあえずの入籍を済ませた後は式らしい式を挙げる時間なんか全然なくて、結局お別れ会がそのまま披露パーティーのようになった。
「うっわ…すごい。いいの?こんなにしてもらっちゃって…」
「当たり前でしょう。大事な仲間の門出よ。色んな意味でね」
当日にアキが運んできたのは大きなケーキだった。
丸ではなく四角い土台のようなケーキの上にはフルーツが飾られており、ふにゅふにゅとチョコレートのペンで何かしらの模様(?)が描かれていた。
「この模様って何?」
覗き込むの言葉にアキは「ああ…」と苦笑を浮かべる。
「チョコレートで『結婚おめでとう』ってメッセージを書いたんだけどね…」
「…読めないね。あ、でも『でとう』くらいはなんとなく…」
「男の子に任せちゃダメねって思ったわ…」
「誰に任せたの?」
「クロウと遊星…。私がフルーツ買いに行ってる間にお願いしたんだけど、当番逆にすれば良かった」
それでも何となく二人が四苦八苦しながら必死でこれをやってくれたのだと思うと微笑ましい。
どちらがメインで書いたのかは分からないけれど、やってる間の二人の苦い表情が思い浮かぶようだ。
「わ、すっげー!こんなでっかいケーキ初めて見た。…でもこの模様何?」
目聡くケーキを見つけて駆け寄ってくる龍亞がと全く同じ質問をする。
それを見ていたクロウと遊星がばつの悪そうな顔をした。
嗚呼、想像通り。
「んふふ、読めなくても嬉しい。ありがとね、皆」
「そう言ってもらえると助かるわ。さあ、皆食べるわよ」
アキの声にジャックと龍可もケーキの傍へ。
これで全員が揃ったことになる。
「まずは主賓のジャックとから。はい、ジャックこのスプーンを持って」
「スプーン?フォークではないのか」
「披露宴のちょっとしたお遊びの真似事よ」
くすくす笑うアキ。
内容を知っているもにこにこしてジャックを見ている。
「さあ、『ケーキの食べさせあい』よ。旦那様は可愛い花嫁さんの小さな口に愛情を込めてケーキを食べさせてあげて」
皆の前でケーキの食べさせあいとは…成る程甘ったるい遊びである。
まあ、は甘いものが好きだし、こうやって愛情の有無を見せ付けることに抵抗は薄い。
仲間の誰かが彼女を狙っているなどと考えたこともないが、の所在をはっきりさせることを怠るつもりは全くない。
「メロン乗ってるところ取って欲しいな」
可愛いリクエストも聞き入れて、ジャックはくるりと大きなケーキの上に小さな穴を作った。
クリームの部分がやや多いが、遊びなのだから問題ないだろう。
「口を開けろ」
「もー、そこは『あーん』って言ってくれなきゃー。あーん」
文句を言いつつも素直に口を開けたの口内に、ジャックはスプーンを差し入れる。
全員に見守られながらケーキを頬張るなんて気恥ずかしいけれど、これを乗り越えなければお楽しみが達成できない。
「わ、美味しい…!誰が作ったの?クロウ?」
「流石にここのオーブンでこんなサイズ作れるかよ。買ったに決まってるだろ」
ピンポイント過ぎる名指しにクロウは一瞬アキを見て、直ぐに窓の外へ視線を投げた。
その先にはジャックが通いつめるカフェが。
クロウの視線の意味を理解したは二重の意味も込めて。
「えーなんか申し訳ないー。でも美味しい!ホントありがとね、皆」
と、言って微笑んだ。
「その『申し訳ない』にちょっと悪意を感じるけどいいわ。次はの番よ。ジャックに愛情サイズのケーキを食べさせるの」
「はーい。あーこれ早くやりたくて堪らなかったのよね」
「楽しみにしててくれたなら良かったわ。そうそう…言うのを忘れていたけど、この一口は大きければ大きいほど花嫁さんの愛情が深いんですって」
白々しく伝えるアキがに差し出したスプーンは、さっきジャックが渡されたものよりも大きい。
いや、大きいっていうか。
「おい、それはスプーンではなくシャベルと呼ぶものだと思うのだが」
スプーンのサイズを見て口元をヒクつかせるジャックの言う通り、それはシャベルのデザインの巨大なスプーンだった。
土を掘り返すと思えばかなり小さいけれどケーキを食べると思えばかなり大きい。
「クック、こりゃいーや。おい、、遠慮せずに食わせてやれよ!」
「勿論!」
ざっくりとシャベルがケーキに突き立てられる。
そしてジャックが先程あけた小さな穴の横にはこれでもかというサイズの穴があいた。
「そんなものが入るか!」
「だいじょぶだいじょぶ。買った後一回あたしの口に入るか試したけど、ギリギリ入るか入らないかくらいだったから」
面白そうに笑ってジャックににじり寄るだが、その実験時はシャベルスプーンの上には何も乗っていなかった。
積載量いっぱいのこのスプーンを口に入れるのとは訳が違う。
「おい、無理だと言っている!」
「あらー、あたしの愛情サイズが頬張れないって言うの?」
じりじりと後ろに下がるジャックとスプーンを持ったままにじり寄ると。
しかしこのまま逃げられたのではいつまで経ってもこの遊びが終わらない。
「…クロウ」
「おっ!お前から言い出すとは思わなかったぜ。…やるか」
「ああ」
遊星とクロウが頷きあって逃げるジャックをがしっと横から掴んだ。
「っ、貴様ら!!」
「観念して食べるといい。彼女の愛情は物凄く大きいようで何よりじゃないか」
「そーそー。食わせてもらえって。彼女からのあーんなんてサイコーだろ?」
「ふふっ。遊星とクロウってばナイスタイミングよ。はい、ダーリン!あーんして!」
「くっ…。貴様ら、覚えてお…っ、ぅぐ、っ…!!!!」
喋っている隙を見てがシャベルスプーンをジャックの口の中に押し込んだ。
当然ながら入りきらないケーキが零れ落ち、ジャックの口の周りにはクリームがべっとりである。
それでも容赦なくはスプーンを突き立てて口いっぱいにケーキを詰め込んだのだった。
「ふ、ふふふ…、あのジャックが、こんなことされるなんてねぇ」
その様子を心底おかしそうに眺めるのはアキである。
誰のせいだ誰の!と言いたかったがケーキを詰め込まれて呼吸すら苦しい。
「はい、ジャック。顔にクリームべったりよ」
恐らく龍可も今回の内容を知っていたのだろう。
いつの間にやら用意したタオルを差し出してくれた。
「あはは!だーいせーいこーう!!友達の結婚式で見てさ、あたしがやるときは絶対シャベルでやろうと思ってたんだよねー!」
そう、普通はちょっと大きめのスプーンでやるのである。
こんなに零れることも珍しいし、口に入らないほどになることは少ない。
しかし今日のは何処かに依頼したわけでも決められたスケジュールがあるわけでもなく。
良くも悪くも完全に自由である。
その為。
「さー、皆のケーキ切り分けるわよー!!ケーキ入刀しちゃうから!」
口の中のものを必死で胃に押し流すジャックを尻目にてきぱきと主賓自らケーキの切り分けなんてことをやってのけたのだった。







「嗚呼、もう向こう3か月分くらいは笑ったかも」
お別れ会の色が強いパーティーだった。
結婚式のお遊びを織り交ぜつつも、全体的にはおふざけとお遊びが強くかった印象である。
ところで結婚式というものは『新婦』が立てられて『新郎』はその引き立て役になることが多いセレモニー。
お陰様でジャックは非常に疲れたようにベッドにひっくり返っていた。
「ねぇ、ジャック。お土産開けてみようよ」
最後にアキが『二人で食べて頂戴』と小さめの箱を渡してくれた。
まだ何かしてくれるのかと思いつつ、ありがたく受け取って帰ってきたのである。
「ジャックってば」
「…勝手にすれば良かろう」
「そう?じゃあ開けちゃうよ?」
丁寧にかけられたリボンを解き、包装紙を慎重に開けると真っ白な箱が。
既製品の雰囲気が薄いので恐らくこれも用意してくれたのだろう。
それを更に開けると…。
「わっ、うっそ。超有名店のチョコレート…!もー、ほんとこんなにしてもらっちゃって皆が結婚する時は絶対あたしもめっちゃお祝いしよう!」
「…嗚呼、俺もそう思っていたところだ…」
こんなにも色々いじくられて、遊星やクロウの時は必ず仕返しをすると決めた。
そうだあんな可愛いサイズのシャベルスプーンではなく、本物の園芸用のスコップでも用意してやろうではないか。
同じ目…いやそれ以上の目に遭わせてやる。
の決意をジャックも違うベクトルで受け止める。
しかし、そのニュアンスの違いに気付かないはチョコレートを嬉々として取り出した。
「あれっ…?底にまだ何か……」
箱の中を漁るがぴたりと無言になった。
がさがさと紙袋が擦れる音だけがしたと思ったらその後は静かになったのだ。
「……」
「……?」
「…」
不気味なまでに静かになったに声をかけてみるが返答はない。
「おい、
流石に不審に思ったジャックはベッドから起き上がり、机の前に佇んでいるを覗き込んだ。
ちらりと視界に入った机の上にはが取り出したのであろうチョコレートと…封筒?
「ジャッ、ク…」
「っ、、お前…」
覗き込んだはぼろぼろと涙を零しておりジャックはぎょっとする。
「手紙…入ってたぁぁぁ……」
「…手紙?」
「…これ、っ…」
泣きながらが差し出す紙を受け取る。
文面の字はクロウのものであると一目で分かった。
何だかんだ長い付き合いである。
「…」
「こっちは、アキちゃん、で…こっちは遊星……」
双子ちゃん達もだよぉ…なんて言ってまたは涙を溢れさせている。
「あた、あたし…今日はお遊びだよね、て…思ってて…皆と、離れるって…全然、っ、自覚なくって…」
「…そうだな、俺もだ」
「でもっ、でも…っ、みんな、こんなに、あたし達のこと…っ」
零れ落ちる涙で手紙が濡れてしまわないように、机の上に避難されたそれをジャックが手に取る。
全体的に皆、別れを惜しむ言葉と祝いの言葉、以降の生活へのエールのようなものが綴られていた。
「…俺は、仲間に“も”恵まれた」
「ん…。幸せだね、あたし達」
「…分かっていないな。…お前に出会えたことが一番だと言っているのだぞ」
「ふえっ?」
手紙を無造作に机の上に放り出しジャックは体を屈めると、に素早く口吻ける。
不意打ちに少し強張るの体をきつく抱き寄せ、その存在を腕の中で存分に味わった。
「ふ、…ン、くすぐった…」
ちゅ、ちゅ…と何度も触れるだけのキスを繰り返すジャックに目を細める
優しいジャックのキスに涙も引っ込んでしまった。
「…だが何故全員『ジャックが無体を働いたら匿ってやるから帰って来い』と書いてあるんだ。納得いかん」
言葉のニュアンスは違えど全員の手紙に似たような文言が書かれている。
「あは、ホント、良い仲間持ったよね!」
「どういう意味だ!」






「んー…美味しい…」
あれこれ色々食べてもう食べられないと思っていたけれど、このチョコレートは別腹だった。
本当にチョコレートの魔力と魅力は毒の罠だと思う。
「嗚呼、勿体ない…。でももう一個だけ…」
「確実に体に蓄えられているな」
「んっ…意地悪。美味しくなくなるようなこと言わないでよね」
「不味くなるのか」
「全然。ダメって思えば思うほど美味しいけど」
いけないものは魅力的な甘さを孕む。
癖になる蜜の味はひっそりこっそり味わうからこそ深みが出る。
ごめんなさいごめんなさいと誰に謝っているのか分からないが、そんな呪文を呟きながらはもう一つ箱から取り出して口に含む。
その桜色の唇がやんわりとチョコレートを包み込み舌先が迎え入れる瞬間を見計らって、いけない甘さを享受したの唇を奪った。
「んむ…!」
滑り込むジャックの舌が口内で溶け始めたチョコレートを掬い取る。
キスというよりは口移しのようなジャックの舌先。
の体温と唾液に混ざるそれは殆どをジャックに舐め取られてしまった。
「んはっ…、ちょっと…!殆どジャックが食べちゃったじゃない…!」
「一番美味く食べようとしただけだ」
「なっ…!」
「そら、もう一口」
今度は唇にチョコレートを咥えたジャックがに文字通り口移しでチョコレートを食べさせる。
勿論そのままで終わりなどではない。
ぬるんと滑り込んできたジャックの舌先がチョコレートを含まされたの口内で、それをゆったりと溶かしていく。
「んっ、んっ…」
「…ふ、甘いな」
「んン…っ、ばか…味分かんなくなっちゃう……普通に食べさせてよ」
抱き寄せるジャックをやんわりと押し返しては唇を尖らせる。
「ならば後でゆっくり食え。俺はチョコレートよりも、もっと甘い物が食べたい気分だ」
押し返された体を改めて寄せると、今度はが押し戻せないくらいの力強さで彼女の体をしっかりと抱き締める。
ジャックが何を要求しているのかを一瞬で感じ取ったは、抗議の声を上げようとするが素早く唇で塞がれてしまった。
「っ…!」
行き場を失った言葉を飲み込まされて、一瞬息が詰まるかと思った。
だけどそれ以上に深い口吻けがを襲う。
ゆったりと口内を味わい尽すように隅々まで舌先で撫で回された。
本当に息が詰まるのでは…と思う頃にようやくジャックが離れてくれた。
「はぁっ…はぁっ…もおぉ、窒息するかと思った…」
涙目で睨みつけての抗議だが、そんなものジャックにとっては痛くも痒くもない。
ただ、愛おしい存在に見つめられているだけだ。
そう思うと火の付き始めた体が更に勢いを増す。
「ひゃ…っ」
無言のままにジャックがの耳元に唇を近付けて息を吹きかけた。
くすぐったさに身震いして顔を逸らし体を強張らせる。
…」
顔を逸らしたことで無防備になったの首筋をジャックの唇が優しく伝う。
「は、っ…、あ…、やぁ…だめ…」
「何がだめだ」
「なに、がって…」
「お前はもう俺の物だろう」
言ってジャックはの体を軽々と抱き上げると、先程まで自分が沈んでいたベッドの上に下ろした。
ついでにご機嫌を取るようにちゅっと額に唇を押し付けられて抗議の言葉も出せなくなった。
「構わないな?」
不遜な態度。
あのプロポーズの瞬間のジャックは何処に行ったのだろうと思いつつ、結局は傲慢で自信家なジャックも好きだと思わせるから性質が悪い。
「…優しく、して…」
精一杯のイエスの言葉はいじらしくて、真逆のことをしてやりたくなる気分だった。
しかし初夜も同然のこの夜にいきなり乱暴なことは可哀想だろう。
「…分かっている」
答えると言うよりは自分自身に言い聞かせて、ジャックはコートを脱ぎ捨てた。
そしてに覆い被さってくる大きな影。
恋人同士だった頃から何度も重ねた体なのに、今夜は特別ドキドキする。
「…あ、ン……」
大きな掌がやんわりとの胸を包み込んで撫でた。
遠慮がちともいえるそのタッチは形を確かめているかのようでちょっともどかしい。
体重を掛けないようにの体を跨いで体を屈めるジャックは、優しく何度も唇で頬に触れてきた。
「ん、くすぐった…あふ!」
唇の感触に目を細めて体を身じろがせたの唇を、ぱくりと食むジャック。
ちゅうっと少しだけ吸い上げて離れるその行為はキスとは違い、捕食されるかのようで。
「ホントに、食べちゃうつもりなの…」
思わず聞いたらジャックが楽しげに目を細めた。
「当然だ。残すなど有り得ん」
つう、とジャックの舌が頬を撫でるように舐め上げた。
そのまま目尻に優しくキスを落とすと、の服を脱がせ始める。
不遜でやや傲慢なジャックはこういう時、意外な程丁寧だったりする。
抱き上げてのワンピースのファスナーを下ろすと、大きな手がするりとストラップを肩から下ろした。
着崩れていく様相は視覚的効果としてジャックの男性の本能を鋭く刺激する。
「全部…俺のものにしてやる」
ごくりと喉を鳴らしたジャックはの下着をずりあげると、柔らかく零れ落ちるそれを掬い上げてかぶりついた。
「ひゃぅんっ…!」
熱くぬめる感覚。
乳首をぬろぬろと這いまわるジャックの舌。
「あぅう…っ、は、あ…っ、あァ…、それ…っ」
敏感に膨らみ始める乳首を舌先で捏ね回されては背中をしならせた。
甘い快感が足元から湧き上がってくるようだ。
「んっ…あ、あ、…っ、ジャック、あはっ…」
刺激に跳ねるの背中をぎゅっと抱きしめると、の腕がジャックの首に回された。
強請るかのようなの行動に気を良くしたジャックは更に、ぷっくらと硬くなった空いている方の乳首も抓み上げる。
「んーっ!」
強い刺激にはびくびくと背中を震わせた。
じんわりと足の間が熱を帯び始めるのが分かる。
「はぁっ、あ、っ…ジャック、…気持ち、イイの…」
浅くなる呼吸を繰り返しながら、ジャックが与えてくれる快感を素直に訴えた。
そんなに無言で応えるかのようにジャックが愛撫を強める。
撫で回すだけだった乳首をきゅうっと吸い上げては舌先で弾き、指先で抓んだ乳首は軽く引っ張り上げた。
「あぁっ!あ!はぁっはぁっ…!強い、よォ…っ、感じちゃうぅ…っ」
ちゅうちゅうと吸い上げられて爪先が痺れるような感覚がある。
体はジャックによってしっかりと抱き留められている筈なのに、これだけで崩れてしまいそうだ。
「んぅう、ジャ、ック…!」
きゅうんと切なく足の間が震えて、ぶるっと体を震わせた。
軽い絶頂にも似た眩暈がの頭をぼんやりと霞ませる。
「お前の舌触りが堪らん…。ここはどうだ」
「はぁ、ん…っ!や、ぁ、くすぐったいぃ…っ」
ジャックは乳房から口を離して、の体を横たえるとその白い脇腹に噛みついた。
そして、刺激に弱い滑らかな皮膚をきゅうっと吸い上げる。
「あ、っ!あ…っ!」
何度も何度も繰り返され、唇の後が花弁のようにの体に散らばっていく。
その合間に体に纏わりついていたワンピースも全て脱がされ、ジャックの手は好色な動きでの内股をさすっていた。
「やっ、おへそ舐めちゃやだぁっ…!」
脇腹から腹を伝うジャックの舌がの臍の窪みまでも丁寧に舐める。
そんなところを舐められるのは初めてで、の体が緊張に強張った。
「嫌がられるともっとやりたくなるな」
「ばかぁっ!変な感じがするから、やめて…!」
ぞわぞわする感覚には必死でジャックの頭を押し返した。
その抵抗に不満を覚えつつもジャックは更に舌を辿らせていく。
下腹を撫で回してやはり痕を残した後は、優しく内股にかぶりついた。
「はう…、っ…!」
反射的に足を閉じようとするが、ジャックが押さえていてびくともしない。
足を開いたままで固定されているということを思い知っては顔を赤くした。
「ここが一番美味そうだ…」
ぷにゅ、とジャックの指先が下着の上からの花弁に触れる。
つうっと割れ目を伝う指先の湿った感覚…。
「っ…恥ずかし、ぃよぉ…っ、見ないでえ…っ」
下着を濡らしてしまっていることに羞恥心を隠しきれず、は両手で顔を覆った。
「何を今更…。俺に感じたということだろう。俺はお前が可愛くて堪らんぞ」
ニヤニヤしながら言うジャックを、は見ることは無かったが。
しかしそれでも言葉の中に隠れ切らない含み笑い…。
半分はからかっているのだろうとにも知れる。
「いいい意地悪するなら止めるからね!」
「止める?ふざけたことを…。止めて辛いのはお前だと思うが」
「…あ、っ!」
言うなりジャックの指先が、意地悪くの下着の隙間に潜り込んでくる。
くちゅりと濡れた感触を伴って柔らかな内部に指先が埋まり込む。
「は、ぁあ、ん…っ!そこっ、…!」
その指先は体内に埋まり込むのではなく、先にの一番感じやすい部分を探り当てた。
小刻みに蠢く指先がその部分を撫で回し始める。
「あ!あ!やぁんっ…、あぁ…あぁぁ…」
「ふ…可愛らしい声も出せるではないか…」
敏感な部分を攻められて、ベッドの上で身を捩る
足をジャックが押さえているので逃げることは敵わない。
しかしぞくぞくと込み上げる快感の波に溺れてしまいそうなのが怖くて、ベッドの上で何度ものたうった。
肢体が波打ちいやらしく仰け反る様をじっくり眺めた後で、ジャックはの足を抱え上げた。
ずるんと下着が足から引き抜かれる。
「あっ、やだ、待って…!」
「今更聞けん…!」
抵抗するように逃げようとしたの腰を抱えて、ジャックは割れ目を押し開くと顔を近付けた。
ジャックの荒い吐息が粘膜に触れる。
「はうんっ…!!」
触れる瞬間にの体が跳ね上がった。
それを増長するかのように、舌先は先程まで指先で刺激を与えていた突起を捉える。
接触の瞬間とは比べ物にならない刺激に思わずはジャックの頭を押し返そうとした。
しかし這いまわるその動きが与えてくる快感に力が入らない。
くたりと力の抜けたその手は寧ろ強請るかのようにジャックの髪に指を絡める。
「はぁっ、ああっ…!」
ねっとりと粘膜を舐め上げる舌先が熱い。
「ジャ、ック…っ、ん、は…っ]
比例するように体温を上げ始める体内がはしたなくも涎を零すのを感じたが、止められやしない。
拭うかのような仕草でジャックが入口を舐め上げる。
「いやらしい味だな。もっと俺に味わわせろ」
「そんっ、な…ばか…っ、あっ!あぁぁぁっ!!!」
言うなりぢゅうぅぅぅっと突起を吸い上げられた。
愛液を啜りあげるなんて程の可愛らしい刺激じゃない。
強すぎる刺激には思い切り背中をしならせて、シーツを握りしめた。
「…イったな」
「いきなりっ、強くするから…っ!」
だが、涙目の抗議の声も聞き入れず、味わわせろとの言葉の通りにジャックは蠢く体内に舌先を潜り込ませた。
「んっ!あ、はぁ…っ、だめぇ、っ、いれちゃ、あ、あ、あああ…っ」
びくびくとの腰が震え上がる。
愛液が頬を濡らすのも構わずに、ジャックはの体内をゆっくりと出入りした。
これをセックスと言うことは無いが、もしかしたらそれ以上に猥褻な粘膜接触に眩暈を禁じ得ない。
「じゃ、っく、…っそんな、ああっ、はぁはぁはぁ…っ、もぉ、あたし…っ、ジャックが…欲しい、っ…」
性感帯を攻め続けられることに限界を覚えた
蠢く舌先も確かに感じるけれども、疼きの収まらない体内の奥をジャックに宥めて貰いたくて。
決定的なやり方で繋がりたくて。
「お願い…ジャック…、意地悪、しないで…」
震える声にジャックは顔を上げる。
はしたないお願いをしてしまったは恥ずかしそうに両手で頬を押さえていた。
いじらしくて可愛くて堪らない。
獣のように喉を鳴らしたジャックは、体を起こすとベルトに手を掛けた。
金属の擦れる音には僅かに緊張する。
衣擦れの音がして、ややの後にジャックがに覆い被さった。
急にジャックの顔が近くなり、別の意味で緊張してしまうようだった。
「…これからも、お前はずっと俺だけのものだ」
欲情に掠れた声で呟いて、ジャックは反る程に勃起したものを押し付ける。
「…待って!」
欲望を突き立てて今度こそ蹂躙しつくしてやろうと思った矢先の制止の言葉にジャックは不満げに顔を上げた。
視線の先のは頬をじんわりと赤く染め、本当に可愛らしい様相である。
制止を強引に振り切ろうかとすら思うジャックには、しかし消え入りそうな声を掛けた。
「ジャックのものにする前に…好きって言って…」
足元に押し付けられる熱いジャックの猛りに蕩かされそうになりながら、微かに残る意識をかき集めた言葉だった。
可愛いお強請りにジャックは軽く頬にキスをする。
そして。
「…好きだ」
「足りない…もっとォ…」
「…ならば、愛している…、っ」
「――っ、やぁぁっ!」
先端を僅かに押し当てただけの状態で堪えろと言うのもなかなかである。
抑えきれなくなったジャックはが許可を出す前に彼女の体を貫いた。
その衝撃にの背中がしなり上がる。
「は、あ…ぁあっ!!」
「く…っ」
の体内がびくびく蠢いて喜ぶ。
「あー…っ、!!すご、…深いぃ…っ」
一気に打ち込まれたジャックの先端が苦しい程に奥を抉る。
「は…、咥えこんで、離さんとは…。いやらしい体だ…」
微かに嬉しそうな響きを交えながら、見下ろすジャックは更に深くまで到達しようと腰を揺らした。
ぐっぐっと奥を突かれると腰に響くような感覚になる。
「あぁんっ、おくっ…!だめ、だめぇ…」
髪を乱しながらいやいやと首を横に振って見せるので、ジャックは一度体を引いた。
同時に、苦しい程の快感の波が引いていく。
「はぁ、はぁ…はぁあ…、――うあっ!!」
しかし勿論ジャックが体を引いたのはを解放するためではないので、改めて打ち込まれる楔の衝撃にまたしてもは震え上がった。
快楽に蕩かされた頭の中が霞みかかったようでぼうっとする。
「あっ、あっ…!ジャック、ジャック…っ!」
規則的な動きでを翻弄するジャックの首に腕を回して、必死で縋りついた。
…、…っ」
縋りつくの体をぎゅっと抱きしめたジャックは、そのまま抱き上げる形で自分の太股の上に腰を据えさせる。
「はぁっ、これ…おくに、当たるぅ…っ」
自分の体重で深々とジャックを飲み込んだが気持ち良さそうに腰をジャックに押し付けた。
向かい合って座るような体勢になれば、上に乗せられる分だけ視線の位置も近くなる。
見つめ合うよりも先にどちらからともなく唇を重ねる。
「んむ…っ、ン、んんっ…」
深く重なる唇の隙間から舌先が触れ合った。
ちゅくちゅくと絡め合わせて貪るように唾液を交換する。
混じり合った唾液がの顎を伝い落ちていった。
「んっ、…!ンっ…、は、あぁっ、ジャック、っ、好き、大好き…!」
「…俺もだ…、愛している、…っ」
ずぷうりと飲み込んだままでいやらしく腰を揺らめかせるのお尻の丸みをやんわりと掴むと、ジャックは下から彼女を攻めはじめた。
「くぅぅんっ、あっ、それぇっ…!ふあっ、あっあっ…!!」
体を揺さぶるジャックの動き。
体内を深く抉るジャックの先端がごつごつとした感触でのナカを蹂躙する。
「あァ、あ、あぁぁあ…っ、いいィィ…っ、じゃ、っくぅっ…イイよォ…っ!!」
体を仰け反らせては快感を訴えた。
弓なりにしなったの胸が突き出され、ジャックの攻めに合わせて揺れている。
それは誘っているかのようにも見え。
ジャックは柔らかく揺れるその胸にかぶりついた。
「ひっ!あ、っ…!」
瞬間、の体内がきゅうんとうねり、声にならない嬌声が上がる。
「…ふ…どうした、感じたか?」
「あぁっ、喋らないで…っ、息が…っ、感じ、ちゃ…」
ジャックが触れる吐息すらもどかしい快感を生み出していた。
蕩けきった全身が全て性感帯になってしまったかのようである。
ちろちろと舌先で乳首を捏ね回されながら、深々と犯されてはそろそろ限界だった。
「はぁっ、ジャック…っ、あたし、もうっ…イっちゃい、そぉ…っ」
「っ、は…、ならば、こうしてやる…っ」
獣のようにジャックはをベッドに押し倒すと細い腰を掴んで荒々しく腰を振り始めた。
壊されるかと思う程の動きにの体は戦いて震える。
「あっ、うそっ…激し、…っ!あ、あぁっ、!!」
激しい動きにじゅぶじゅぶと掻き出された愛液が溢れ出して内股を伝い落ちた。
腰を掴むジャックの腕を掴んで爪を立て、は絶頂の予感に背中をしならせる。
「…っ、すき、っ…!ジャック、じゃ、っく…!あっ、あぁああぁぁっ!!!」
爪先までがぴんと硬直し、直後にしなったの体がぶるぶると震えた。
「くっ…」
イったの体内がきゅうきゅうと断続的に締まり、ジャックも導かれるように射精に至る。
何度か出し入れを繰り返し、たっぷりとその体内へ吐き出した。
「はーっ…はー…っ……」
愛しい脈動が繰り返されているのを感じては何となく下腹をさすった。
それは精を受け止めたことをジャックに強く思い知らせているかのようで刺激的にジャックには映ったが、更にとどめの一言をは放つ。
「…これで、赤ちゃん出来ちゃったらどうしよっか」
こんなことを言いだした彼女はどんな意図で……なんて問題ではない。
催促のようなことをするのが悪いのだ。
「…それは催促か?良いぞ、お前がその気なら存分に付き合ってやる」
「えっ!や、そんなつもりじゃ…」
しまった余計なことを言った。
圧し掛かったままのジャックの体の異変を察知する。
「待って落ち着いて!違うのあたしそんなつもりじゃなくてね!」
「俺はそういうつもりになった。朝まで子作りといこうではないか」
「朝までって!明日あたしたち日本、発つ…っ!あ、あぁっ、まだナカは敏感だからぁぁ…っ、だめなのォ…っ」







…結局、飛行機はギリギリ間に合ったんですけど、疲れすぎてぐっすりでした。
えーん、ジャックと雲の上の風景楽しんだり初めての飛行機満喫するつもりだったのにー…。
でも、こんなジャックを愛してます。
子供は…十月十日のお楽しみなので、気長に報せを待とうかなー…なんて!










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千鶴様リクエスト分でした!
プロポーズ部分は完全なる蛇足でしたね。
っていうか最終回後のジャックが何処に飛び出してったんだかあんまり良く分かってないんで捏造しちゃいましたが…。
モニター越しのジャックって日本にいてたのかな?
多少遊星さんと被っちゃったんですが…初夜メインということでちょっとパーティーの様子も書いてみました。
最近の結婚式で実際に行うことを書いてみたんですが、司会者不在だとすごくおふざけですよね。



こちらの作品は千鶴様へ捧げるリクエスト小説となります。
ご本人様以外のお持ち帰りなどは厳禁です。
閲覧のみで宜しくお願い致します。


ここまで読んでくださってありがとうございました。