「遊星、協力してくれる?」
「出来れば断りたい」
「ええええ!そんなこと言わないでお願い!!!」
「…お前のお願いは本当に気が進まないんだが…」
「ジャックもそう言うんだよなァ…。そんな無茶振りしてる?ちょっとだけ彼氏の振りしてくれればいいだけなのに」
の言葉に遊星は僅かに目を見開いた。
「…お願いってそれなのか」
「そうだよ。結局ジャック逃げちゃったけど」
それをジャックにいの一番に頼んだというのか。
遊星は小さな眩暈を感じつつ、自分も逃げ出したくて仕方がなかった。
と、同時に思い出す顔があり更に気が重たくなる。
「何故俺に頼むんだ。クロウに頼めばいいだろう」
「!な、なんでクロウの名前をここで出すのよ…っ。そ、そのクロウ対策なの!!!」
「対策…?」
嫌な予感が止まらない。
出来れば詳しく聞きたくない。
聞いてしまったら戻れないに決まっている。
馬鹿馬鹿しい事を言い出そうが、突飛な事を言い出そうが、とにかく協力しなくちゃいけなくなるに決まっている。
「く、クロウ…誰の事好きか良く分かんないから…ちょっとどんな反応するのか確かめてみたいの…」
「…」
「男の子の気持ち確かめたいなら嫉妬するかどうか見てみれば?って友達が…」
嗚呼、予想通り本当に面倒くさい事になっている。
誰だこの猪突猛進女に余計な入れ知恵をしたのは。…の友達だ。
いっそ教えてやろうか。
クロウもお前のことが一番好きだと。
そうだ。
回りくどい対策も作戦も何も必要ないのだと教えてやればいい。
勝手に明かしてしまうことに引け目を感じないでもないが、このままだと余計に拗れていきそうだし。
そして正直面倒くさくなってきた遊星が口を開こうとした時、本当に間が悪く彼は帰ってきた。
「おっ、何だ、来てたのか」
と、クロウが言うが週に1、2度は確実に遊びに来ているなので珍しくもなんともない。
夕飯の食い扶持が増えたことがクロウの気掛かりで、すぐに冷蔵庫の中身をチェックしようと階段を昇りかける。
流石に本人がいる前でクロウの気持ちを勝手に打ち明けるわけにもいかず、遊星は開きかけた口を噤んだ。
そうしたら。
「あ、あの!クロウ…!」
あ、嫌な予感。
クロウを呼び止めるに爆弾の気配を感じ取り、遊星は慌てて後ろからの口を押えた。
「んう!」
「…?」
振り返るクロウが怪訝そうに首を傾げる。
見ようによっては遊星に抱き寄せられているようにも見えなくはないだろう。
しかしじたばたと身を捩るとそれを押さえつける遊星の異様な雰囲気はそんな優しいものではなさそうである。
「お前ら…どうしたんだ?」
「…な、何でもない。行ってくれ、クロウ…」
「んーっ!んーっ!!!」
遊星の言葉には頭を振って抵抗した。
あまり見られない光景にクロウは足を止めて何らかを考えているようだ。
「何か隠してんのか?…はっはーん、さては晩飯の後に食おうと思ってたデザート食っちまったんだろ?」
違う。
断じて違う。
「んン?でもがそれを告げ口しようとして遊星が止めるってことは…犯人は遊星か?」
濡れ衣だ。
だけどそれくらいで済むのなら安い。
寧ろ多分誰も勝手に食べてなどいないから濡れ衣はすぐに晴らせるはず……だ…?
と、ここまで考えた遊星は腕の中に押さえていたの体から急激に力が抜けたことを感じ取る。
「お、おい…」
クロウもの異変に気付いたのだろう。
ずる…と遊星の腕の中で崩れるに駆け寄ってきた。
しまった、そんなにきつく口を押さえていたつもりは無かったのに。
白い頬から血色は然程失われてはいなかったが、呼吸困難で意識を失ってしまったのかと慌てての肩を抱き声を掛ける遊星。
「…!」
するとはぱちっと目を開き、駆け寄ってきたクロウの方を向くと。
「あたし、遊星と付き合うことにしたから」
自由になった口で開口一番。
ぴしっと遊星とクロウの間の空気が凍り付く。
こいつ気絶した振りしやがったとか違うクロウこれは嘘だとか、物凄い色んな言葉や思考が遊星の頭を通り過ぎる。
しかしその一瞬の合間に、クロウが先に言葉を発した。
「………そ、っか…」
はっと遊星は顔を上げる。
「クロウ違」
「お前がここに通ってたのは遊星目的だったんだな!良かったじゃねぇか!」
遊星の言葉を掻き消すようにクロウは言い、踵を返した。
勿論先程と同じく冷蔵庫の中身をチェックするためである。
それを見送る遊星。
クロウにかけるべき言葉も見つからず嫌な汗を流しながら、拗れさせた張本人を絶望的な気持ちで見下ろす。
「…お前は…」
「まあまあ。ちょっとの間だけだから。よろしくね、ダーリン」
誰がダーリンだ誰が。
数日後、憔悴した風の遊星に声を掛けるジャックがいた。
「胃薬でも用意してやろうか」
「……」
果たして、は偽りの彼氏である遊星に会うため、そしてクロウの様子を探るため、あれから毎日ガレージに来ていた。
あれからクロウの様子に変化は全くない。
お陰様で更にいたたまれない気分を遊星は味わっていた。
もっと何故だと問いただしてくれればの計画も打ち明けられたろうに…。
それをしないクロウに「お前が嫉妬を覚えるかどうかをが試したがっていた」などと最高に嫌味の利いた言葉を掛ける勇気は全くなかった。
「安易にの願いなど聞き入れるからだ」
「…ジャックは逃げたとは言っていたな」
「………戦略的撤退だ」
「逃げるとどう違う」
遊星的にも物凄い勢いで巻き込まれただけである。
過去最高に拗れたこのチーム間はに寄ってでしか修正はなされないであろう。
しかし…。
「あ、遊星!今日はどうだった?」
これでクロウと上手くいくと思えるを本当にすごいと思う。
というか、絶対に上手くいくはずがない。
それとも性差と言うものがこれで大丈夫と思わせるのであろうか。
女って分からない。
「別に、何の変化もない」
「そう…」
「、もう終わりにしないか」
「ええええまだ始まったばっかりだよー。もうちょっと、お願い!」
ねっねっ?
と、は遊星の手を強請るように軽く握って見せる。
しかし遊星はそれを思わず振り解いてしまった。
今はクロウの姿がないから良いものの、正直クロウにこんな状態を見せたくはない。
なのにはそれを遊星の拒絶と受け取ったようで。
「お願い!もう少しだけ!!」
がしっと遊星の腰に抱き付くが、遊星は何をするんだとばかりに無理矢理引き剥がした。
「、こんなことをしても上手くいかないと俺は思うんだが」
「いいから、もうちょっとだけ協力して!駄目なら駄目で次のプランが…」
えええええ。
次って何だ。次って何だ!?
それを聞いたジャックも僅かに後ずさる。
「悪いがしばらく俺はお前の計画には加担したくない」
「えー」
「あと整備点検だけでもしたいから、今日は俺を放っておいて欲しいんだが」
「あそっか、遊星はWRGP関係忙しいんだったね。忘れてたよ」
何となくジャックへの悪意を感じなくもない言い方だが、これについてははまあまあ物分かりがいい。
それは恐らくクロウも出場する大会だからだろうとも推測されるけれど言及は控えておくことにする。
触らぬに祟りが無かったらいいな…なので。
「じゃあ遊星頑張ってねぇ」
ひらひらと手を振っては階段を上がっていき、ジャックもまた巻き込まれたくないのでガレージを出ていった。
クロウが上にいたかどうかを遊星は知らなかったが、いるならはしばらく降りてこないだろう。
恐らく様子を見るはずだから。
背後にちょっとだけ警戒しつつDホイールの傍らに蹲った遊星。
しかし幾らもしないうちに二階から降りてくる足音が聞こえて遊星は振り向かざるを得なくなった。
クロウはいなかったのか、と思っていた遊星は息を飲む。
「!」
降りてきたのは意外にもクロウである。
「おい、遊星」
「…何だ」
「何だじゃねーよ。もうちょっとに優しくしてやれよ」
「…」
姿が見えないと思って安心していたが、上から先程のやり取りを見ていたのかと遊星は溜め息を吐いた。
恐らく振り解いたあの瞬間を見られていたのだ。
もしかしたら引き剥がした瞬間も見られていたかもしれない。
そして、残念なことに声は聞こえていなかったようである。
それにしてもの思惑通り、確実にクロウからは嫉妬のオーラを痛いほどに感じる。
悲しいくらい大成功だ。
しかし今傍にはいない。
当然だろう。
クロウはの為に、彼女が傷つかない方法を選んで遊星に声を掛けているのだから。
…これではいつまで経ってもこの役を解放してもらえないのではなかろうか。
幼馴染のが可愛くないわけじゃないし、冷たくしようと接しているわけでもない。
ごく、普通に接しただけだ。
普段ならクロウも気にはしないだろう。
だけど嫉妬というフィルターと『が遊星の彼女になった』という事実がクロウにこんな行動をさせてるのだろうと分かる。
申し訳なく思いながらも遊星は思わず本音を零さずにはいられなかった。
「…面倒だな…」
遊星的には『のことが面倒』になったのではなく『この状況が面倒』なのであるが、それでなくとも遊星の溜め息を悪い方へ捉えていたクロウの神経を思い切り逆撫でした。
「お前、面倒って何だよ…!」
そのままの勢いでクロウは遊星に掴みかかる。
しまったつい本音が、と思ったがクロウは相当怒っているようで。
それは彼女を遊星に盗られたと思い込んでいるわだかまりも籠っていたに違いない。
当然のように振り上げられる腕を遊星は何となく他人事のように眺めていた。
理不尽なことこの上ないが、ここ数日クロウには申し訳ないことも多かったのでもうそれでいいだろうと。
彼の気が済むならこれくらい受けてやろうかと。
「――待ってっ!クロウ…っ!!!」
しかし。
振り上げられた腕をがしっと引き留めるものがあり、それが遊星を傷つけることは無かった。
「…っ」
「っ!?」
降りてきたクロウを時間差で追いかけてきたのだろうがそれを止めたのである。
「遊星を、庇うのかよ…っ」
「違うの!あたし…っ…!」
流石にこんなクロウを見れば自分の思惑は成功したことは一目瞭然で。
漸くは『人を試す』ということの結果を思い知ったわけだが、真剣に怒ってくれているクロウへの言葉が見つからない。
いきなり全てをばらすのは深くクロウを傷つけるような気がして涙を浮かべながら言葉を探していたけれど。
「っ…、ちょっと来い!!」
「え…っ」
振り解くのではなく制止したの手を掴みなおし、引きずるように階段を駆け上がっていく。
「ま、待ってよクロウ…!」
危うくつまずきそうになりながらもは引っ張られていく。
それを見送りながら遊星は不思議な気分だった。
離れて行く心など有りはしないのに、ほんの少しだけ淋しいような。
だけど確実に言える。
「漸く、役目を終えられたらしいな」
嗚呼、全く。
彼女のお願いというものはいつも唐突に始まり唐突に終わる。
「憑き物が落ちたようだな」
タイミング良くジャックが遊星に声を掛けた。
出ていったのではなかったのか、それとも向かいにまで声が聞こえていたのか。
まあ遊星にはどちらでも構わない。
「嗚呼、やっと俺は振られたらしい」
「それで清々しい顔とは薄情なことだ」
「…多少の淋しさは感じないでもないさ」
遊星が小さく呟いた言葉をジャックは信じられないものを見るような目で見た。
「そんなに驚く事か?」
「いや…まさかお前、を…」
「どうだろう。それはあまりピンとこない」
どちらかと言えば、出来の悪い妹が離れていったかのようなイメージである。
血の繋がりも何もないにそのイメージを抱くのは間違っているだろうか。
不思議な気分で遊星はクロウとが駆け上がって行った階段を見上げた。
を部屋に連れ込んだクロウは部屋に入るなり真後ろを振り返ると、びくりと身を震わせるをドアに押し付ける形でドアを閉めた。
だん、と背中に走る軽い衝撃。
怒っている時でもクロウは力加減を間違えたりしない。
「…っ、俺の方が…っ」
堪えた何かを吐き出すように苦しそうな表情で見つめてくるクロウ。
しかしそれ以上の言葉を吐き出すことは出来なかったらしい。
代わりに素早くの唇に自分のそれを重ねる。
「!」
触れ合った瞬間にの体は電流でも流されたかのように跳ね上がったが、を押さえつけるクロウの腕の力は怯むことはなく。
確実に重ね合わせてゆっくりと離れた。
「……クロウ…」
罪悪感を滲ませるクロウが視線を外す。
「悪ィ…」
「ううん、あたしこそ…ごめんなさい…クロウ…」
「謝んなよ!!…スゲー惨めじゃねぇか…俺…」
「違うの…!遊星と付き合うって嘘なの!!!」
悲鳴のようなの言葉にクロウは目を見開く。
「…は、…?」
「だ…だから…、遊星とは、別に付き合っても恋人でも無くて…」
驚愕の表情でゆっくりとを見るクロウの顔をまともに見ることが出来ず、今度はが罪悪感に視線を外した。
まさかここまで効果が出るとは思っておらず、今日だって遊星に次のプランの説明をしに来たはずだったのに。
「ほ、ホントは…その、あの…クロウの事が好きだったから……あの、遊星と付き合ったって言ったらどうするかな…って………」
「…はァァァア!?」
「ご、ごめんってば…!だだだだって!こ、こんなことになるなんて、あの、思ってなかったの…!」
「予想出来なきゃ何しても良いって法はねェェェェエ!!!!」
「ごごごごめんなさいいぃぃぃっ!!!」
肩を掴んで(彼女に対してと言うならば)珍しく声を荒げるクロウには縮み上がった。
「じゃあ何か!?さっきの俺は!!」
「うん、勘違いで遊星殴るとこだったね」
「諸悪の根源がしゃあしゃあと言うんじゃねぇぇえ!!!」
ひとしきり混乱を吐き出しきってからクロウは力なくずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
「うおおおおマジかよ遊星あいつ何で抵抗しねーんだよ普通言い訳とかするだろ普通はよー」
ぶつぶつ呟くクロウを見下ろしながらは心の中で遊星にゴメンネと謝る。
今度何かケーキでも奢ってあげよう。
それだけじゃ足りないかもしれない。
だって今回の功労は本当に本当に大きい。
行動によって示されたクロウの気持ちは最早疑いようもなく。
「…ねぇ、クロウ」
も視線の高さを合わせるためにクロウの傍にしゃがみ込む。
「…順番が変な感じだけど……さっきのキス、返事と思って、良い…?」
「!」
おずおずとやや申し訳なさそうに問われてクロウはかっと顔を赤くする。
あの突発且つ短絡的な行動…ついさっきのことだから鮮明すぎるくらいに覚えていて、何だったら遊星への嫉妬とかがない交ぜになった気持ちまで覚えていて。
正直恥ずかしすぎて。
「……ダメだ!」
「ええっ!?な、何で…」
折角互いの気持ちが通じ合ったのに、訳の分からない拒絶が来た。
おろおろと視線を彷徨わせるの肩をクロウが掴む。
「…い、今からのが…返事だからな!」
「え、……」
怒鳴るようにまくし立てた直後、クロウはの肩を乱暴に引き寄せた。
その胸に倒れ込むを抱き留め改めて唇を重ねる。
「…ン、っ」
今度は電流のような衝撃を感じはしなかったけれど、代わりにもっとじんわりと熱い体内の奔流が生まれたのを感じた。
触れ合った部分が柔らかくて熱い。
「ふ、っ…」
そっとクロウが角度を変えた瞬間に唇がゆっくりと舌先でこじ開けられては体を強張らせる。
滑り込んでくるそれを拒絶することも出来ず、かと言ってどう受け入れて良いのかも分からない。
「んぅ……」
ただ、僅かな息苦しさを感じながらも口内に広がるクロウの味に舌先を戦かせるだけで。
その震える舌先さえもクロウに優しく絡めとられた。
「…、んふっ…、ふ…」
小さく零れる吐息は甘ったるくクロウの耳元をくすぐる。
堪らない気分を煽られて小さな舌先をちゅくちゅくと何度も軽く吸い上げた。
「は、ぁ…っ、ン…」
最後に唇を軽く舐めて離れたクロウ。
たっぷりと奪われたは頬を上気させ、ぼうっとした視線を向けていた。
淫猥な色をじっとり含むその視線にクロウは獣のように喉を鳴らす。
「…、…」
頬をゆっくりと撫でさすると、ぴくっと睫毛が頼りなげに揺れた。
影を落とすほどの長い睫毛はぱちぱちと瞬きを繰り返し漸く自分が何者かを悟ったかのように、意思を宿してクロウを見る。
そんな彼女の意思の矛先をクロウが窺い知ることはない。
しかしまさに今まで触れていた唇をそっと親指でなぞると、の唇はその指先を受け入れた。
「はむ…っ、ん、ン…っ」
ぷちゅりと先端を含んでほんの少し尖らせた唇から覗く舌。
指先をちろりちろり繰り返し舐めるの行動は、もっと別のいやらしい行為を彷彿とさせる。
誘われるように、クロウはもう一方の手をに伸ばした。
「ん、ッ…!?く、ろ…っ」
「うわ…すげ、埋まる…」
むにゅううう…と柔らかく埋まり込む感覚。
下から掬い上げるようにしての豊満な胸をやんわりと掴んだ。
「は、恥ずかしいぃ…。あっ、あんまり…動かさないでぇ」
誰にも触られたことのないような部分を触られての顔がかあっと赤く染まる。
これが遊星をダシに自分の気持ちを試した彼女なのだろうか。
普段からは想像も出来ないような切なげな表情で恥ずかしそうに体を丸めている。
(やべ…勃ってきた…。こいつめちゃくちゃ可愛いな…)
込み上げる性衝動がクロウの背中を押す。
恥ずかしそうにしてはいるが拒みはしないにもう一度顔を近付けた。
「あ…っ」
頬を撫でていたクロウの掌がそっとの顔を上向かせる。
吐息が混ざり合う程の距離にどきっとしている間に、クロウによる口吻けを与えられていた。
「んー…、ふ、…」
さっきよりも遠慮なくクロウの舌先が口内に潜り込んでくる。
触れ合った唇は暖かいのに、それ以上に熱い舌先で口内を余すところなく舐められた。
「う、…はぁ…っ」
息苦しくなったが逃げるように唇を離した時には、銀の糸が二人の唇を繋いでおりその深さを物語る。
離れても尚、を追いかけるクロウはちゅっちゅっとの頬や唇の端に何度もキスを繰り返した。
「やん、くすぐった…。ね、ねぇ…クロウ」
「ンだよ」
「あ、あの…その…えええ、えっち、する…の…?」
此処まで来てその確認かよっ!?
と、言いたくても言えないクロウはぐっと言葉に詰まった。
確認したと言うことは多少以上の抵抗を感じているのだろうか。
『スキ』と『セックス』は女と言う生き物にはイコールではないようにも思える。
だからこそクロウはそれはそれはもう驚異の精神力で抑え込むことを覚悟した。
「お、お前が嫌なら…しねぇよ……」
いやもう頭の中ではヤりたくてヤりたくて堪らないわけだけれども。
先程遊星に言った『もっとに優しくしてやれ』という言葉もクロウを縛り付ける。
しかしはクロウの言葉を聞いて困ったように眉を下げると。
「や、じゃ…ない…よ?」
媚びるようにクロウを見上げ、未だ胸を掴んでいるクロウの手に自らの手を重ねて見せた。
「で、でも…えっと……出来れば、ベッドで…」
ベッドと言う単語が一層生々しく感じられるほどにの声はか細く震える。
言われてはたりと気付いたが、二人してフローリングの床に座り込んでいるのだ。
しかも扉を真後ろにして。
少なくとも致せる場所では無かったな…と、の申し出に救われた気分になりながらクロウはの手を取って立ち上がった。
「改めると…やっぱり恥ずかしい、ね…」
ショーツだけの姿で布団を胸元まで引き上げたが視線を泳がせる。
クロウはまだ上半身しか脱いでいなかったけれど、そんな風に目の遣り場を探されると自分も気恥ずかしいような気分になって。
「こ、これからもっと恥ずかしいことするんだろーが…」
「っ、やだ…言わないでよォ……」
俯くに圧し掛かる形で組み敷いたクロウは、布団を素早く剥いだ。
白い肌が目の前に晒される。
見下ろすクロウはごくりと喉を鳴らしての細い首筋に顔を埋めた。
「うわ…お前めちゃくちゃいー匂い…」
髪なのか肌なのか分からないが仄甘くて柔らかい香りにくらくらと眩暈を感じた。
耳元ですんすんと鼻を鳴らされるのがくすぐったく、は肩を竦める。
「あは…っやだ、クロウ…っ!くすぐったいぃ…」
身じろぐの手を押さえつけて唇を辿らせ、鎖骨のラインをすーっとなぞった。
肌理の細かい皮膚は滑らかでやはり甘やかな香りを立ち上らせている。
ちゅ、ちゅ…と何度も唇を押し付けるけれどやはり気になるのはその下の柔らかな膨らみ。
「…、…」
触ってもいいか、なんて今更確認するのもおかしいかと思ったクロウは恐る恐るの胸を両手で掬い上げた。
「ん…っ、あ…!」
「…す、っげ…」
息を飲むクロウの声には触られていることを意識してしまいドキっとした。
好きな男性に意図をもって体を撫でられる…。
女の本能が疼いて仕方がない。
「あ、ん…っ!」
胸を揉みしだくクロウの指先がきゅむ、と乳首を抓み上げた。
それだけで微弱な電流を受けたかのような刺激を感じる。
「あぁぁぁあ…」
溜め息のような喘ぎ声がクロウの耳をくすぐる。
嗚呼、想像通りこんな可愛い声も出すのだ。
いけないとは思いつつも、遊星の彼女となったはきっとこうやって遊星に愛されてるのだろうと想像していた。
ベッドの上で白い肢体を波打たせながらその体の中に受け入れているのだろうと。
実際になってみればその立場にいるのは自分だった。
だけど。
「…おい」
「ん、…なぁに…?」
これだけでとろんとしてしまった視線を向けられ、何故だか嫉妬心が戻ってくる。
真似事だったのかもしれないけれど実際のところは誰も知らないわけだし。
「遊星にこんなことさせてねぇだろうな」
「!」
「どーなんだよ」
「遊星とはなんにもないよぉ…、どしたの?嫉妬?…ふふ、かっわい」
くすくすと笑われてクロウはかっと頭の中が熱くなる。
誰のせいで!と罰を与える気分での胸にかぶりついた。
「はぅんっ!あ、やぁ…っ」
ぷっくりと膨らんだ感触を舌全体でねっとりと撫でる。
すると、先程以上に甘い喘ぎ声がの唇から零れだした。
鼻にかかった甘えるような可愛らしい声を誰にも聞かせていなくて本当に良かったと思う。
これを知っているのは自分だけでいい。
滲み出る独占欲に任せてちゅううっと先端を吸い上げたらの体がびくびくと跳ねたのが分かる。
「くぅん…っ、それっ…!お腹の奥が、苦しくなるぅ…」
浅く呼吸を繰り返すはもどかしそうに膝を擦り合わせた。
足の間にじんわりとした熱を感じる。
「なんか…っ、お腹が熱い……」
訴えられれば気にもなる。
クロウは胸を掴んでいた手をそっとの下腹に移動させた。
胸に負けず劣らず滑らかで柔らかな肌が掌に吸い付いてくるかのようだ。
「んうぅ…っ、あ、っ…クロウ、…っ」
やや苦しそうではあるが、嫌悪の様子は見て取れないので更に撫で回すと時折の腰が軽く浮くことに気付く。
そう、丁度乳首への刺激を強くしたときが顕著だった。
催促めいたものを感じて、クロウはの下腹からゆっくりと指先を辿らせていく。
「!」
ぷにゅ、と足の間に指先が触れたのを感じた瞬間、の体が強張った。
「そ、ソコは…っ」
自分でも殆ど触ったことのない部分である。
「嫌、か…?」
クロウも流石にいけないことをしている感にちょっと怯みそうになるが、好奇心を抑えきれず、きゅっと指を埋め込ませた。
瞬間、の体に鋭い刺激が駆け抜ける。
「ひぁんっ!!」
今までに一番目に見えた反応だった。
同時にじわりと濡れた感覚が。
「…濡れるって、マジなんだな…」
多少の知識はあれど本物を経験するのは初めてである。
の胸から顔を上げたクロウは、彼女の膝を掴むとその足を割った。
「やだぁっ…」
あわあわとが顔を両手で覆い隠す。
清潔感のある白いショーツは、今や彼女自身の愛液によって染みができ、ピンク色の割れ目が薄らと透けていた。
その猥褻な光景にクロウは息を飲む。
「すげぇエロい…。なァ、俺もう我慢出来ねぇよ」
ショーツに手を掛け、それを一気に引き下ろした。
そして割れ目をやんわりと押し開くと体を屈める。
「く、クロウ…なに、やっ…!待って、あっ、あぁ…っ!」
いきなり屈みこんだクロウが何をするかと思った瞬間、熱い吐息を感じたは悲鳴にも似た声を漏らす。
ねろりとクロウの舌先が触れたのはその直後だった。
「あァっ、うそ、だめ…っ」
舐めるなんて!
信じられない気持ちになりながらは必死でクロウの頭を押し返そうとした。
しかし舌先が与えてくる快感に力が抜けて上手く押し返すことが出来ない。
「き、汚い、からっ…!やめ、やめてぇえ…っ」
「何言ってんだ。お前の体で汚ェとこなんかあるかよ」
精いっぱいの抗議をしてみても、クロウは自身の言葉を証明しようとするかのように愛液を啜りあげる。
押し広げた花弁や入口をたっぷりと舐め回し、膨らんだ突起を舌先でつついた。
「はぁっはぁぁっ…、気持ち、いいよォ…っ、はぁ、あぁっ…」
その度にはびくびくと何度も背中をしならせる。
押し返そうとしていた手は、いつの間にかクロウの髪に指先を絡めてもっとと強請っているようでさえあった。
そして、とうとう。
体内に舌先が潜り込んできた。
「ひっ…、あ…!あはぁぁぁ…ナカ、っすご、いぃぃ…っ」
ちゅぷちゅぷと卑猥な水音をさせながら膣壁を少しずつ広げられる感覚。
ぞくぞくと冷たい快感が背筋を駆け抜けは背中をしならせる。
「はぁっ!あはぁっ!そんな、舐め、ちゃ…っ!あぁぁっ、感じ、るうぅ…っ!」
素直に声をあげるままにいやらしく腰をくねらせる。
時折彼女は浅く宙を蹴りながら内股を戦慄かせていた。
その際に溢れる愛液を舐め取りながら蠢く膣壁がきゅうんとクロウの舌先を締め付ける。
「んう…、は…ァ、…」
ぬるんと糸を引いてクロウの舌先がの体内から引き出された。
甘やかな彼女の味が口内に広がる。
それをゆっくりと垂下して、クロウはに覆い被さった。
「はーっ…はーっ…、はぁ…、優しく、してね…」
荒い呼吸を繰り返しながらこの先に起こることを想像して、はほんの少しだけ不安そうに眉を下げる。
「……、努力は、する」
先程のの体内の蠢きを今度は下半身で味わうのだと思うと興奮で脳内が沸騰しそうだ。
ぬかるむ入口に押し付けた先端から伝わる柔らかさも、この先に潜む未知の快感を伝えてやまない。
獣に豹変しそうな自分を必死で抑え、クロウはぐっと腰を押し付けるように進めた。
「う…」
「…ん、!」
熱い。
狭くて熱い。
先端を柔らかなぬかるみがぎゅっと握り込むかのような不思議な感触。
思わず腰が浮いてしまいそうになるが、絶対に抜きたくない。
だって。
「――っ…!!めちゃくちゃ…イイ…っ」
びくびくと蠢く体内はやはり想像以上の感覚だった。
絶大な快感に眩暈すら覚える。
「んんんぅう…っ」
シーツをきつく掴み、は下唇を噛む。
体内の違和感はすさまじく痛みもさることながら異物感が強い。
生まれて初めての侵入を受け入れる体の抵抗には必死で耐えていた。
「はっ…はっ…」
苦しげに浅い呼吸を繰り返すを、せめて労わるようにクロウは優しく抱きしめた。
その体を健気に抱きしめ返してくるの弱々しい腕。
「だ、大丈夫、か…?悪ィ、俺、もう止められそうも…」
「んっ、だいじょ、ぶ…。止めないで…、あたしも、嬉しいから…っ」
腕の中の中のが困ったように微笑んでいて、クロウは胸をきつく掴まれたかのような気分を感じた。
「ん…っ!な、なんか…圧迫感が強く…?」
「っ!気のせいだっ!」
不覚にもいじらしい彼女が可愛すぎて、とは素直に言えないクロウである。
狭い体内を広げるようにやわやわ抜き差しを繰り返していると、少しずつ馴染んできたのかの体から力が抜け始めた。
「あ、あぁ…何…、なんか…」
ぞくぞくと腰を刺激する甘い何か。
連動するようにもっと奥の方がもどかしいような切ないような、そんな感覚を伴って震えた。
「う…は…、あ、あんまり…刺激するなよ…」
「そんなこと、言われて、もぉ…っ、あ、あっ!」
耳元で呼吸を繰り返しているクロウの息遣いが目に見えて荒くなる。
それに比例するように侵入も深くなり…。
ついには。
「うぁん!!」
悲鳴のような声を上げての体がしなり上がった。
収まり切ったのだと思うよりも早く体内のクロウが密着していた体を浮かせる。
「ふあぁっ!くろ、う…っ!!」
「はぁっ…、悪ィ…、俺もう…っ」
の顔の横に手をついたクロウは余裕を失くした表情でを攻めはじめたのである。
ギリギリまで我慢してくれていたのだなと思えば愛しさも込み上げてくるが、しかしそうは言っていられないほどの衝撃には激しく仰け反った。
「あっあっあっ!!やぁぁぁ…っ、いきなり、激し…いぃっ…!」
堰を切ったような律動には戦き、クロウを抱き締めていた手に力を篭める。
ぎり、と縋るの爪が背に食い込む痛みすら愛しくて仕方ない。
「辛い、か…っ?」
「わ、わかんなっ…、でも、なんか…お腹の中がじぃんってする…っ」
クロウの腰を挟み込むの膝が時折ぎゅうっと力が籠る瞬間がある。
その瞬間、彼女の体内が一際強くクロウを苛む。
脳が蕩けるかと思う程それは気持ちが良く、手の下のシーツをクロウはきつく握りしめた。
「んあっ、!ひ、は…っ!あぁぁ、あっあっ…!」
規則的なの喘ぎ声が生々しく聴覚を刺激する。
体の下で彼女は今、攻められるままに声を上げているのだ。
その痴態を眺めて見たくてクロウは薄らと目を開ける。
「はぁああ…っ、あー…っ、あっ、あっ…」
熱に浮かされたように唇を開け、対照的に目はぎゅっと瞑られている。
ひっきりなしに喘ぎ声を漏らしては浅い呼吸で上下する胸。
しかし今クロウの与える動きによってその胸も呼吸とは違うリズムで揺れている。
ぷるんぷるんと別の生き物のように揺れ動くそれは、自身には無いものであり男性の感じる視覚的効果としては相当にいやらしい。
興奮を駆り立てられたクロウは、その先端に思い切りかぶりついた。
「ひぃっ!!それっ、うそ、そんなのォ…っ!!!」
瞬間、の目が見開かれ体内が今まで感じたことがない程にきつく収縮した。
それは一瞬のことであったけれど、鮮烈なる感覚でもってクロウの脳裏に刻まれる。
「これが、イイ、のか…っ?」
注挿する腰を休めることもせず、クロウは更にぢゅるるるっと乳首を吸い上げた。
ぷっつりと張りつめたそれを口内でぷちゅぷちゅと弾くように舐め回す。
「あっあっ!!あはぁぁ…っ!!それだめ、っ!!だめだめだめぇえ…っ!!」
ダメだと言う割に体内はクロウを咥えこんできつく締まる。
きゅんきゅんと震えるの体内がその収縮の感覚を短くしていくにつれ、は苦しげに体を捩った。
身悶えする体を押し付けながらクロウは夢中で腰を振る。
すごくきつく飲み込まれているかのようで、じゅぶじゅぶと溢れる愛液が纏わりつく感覚は言葉に出来ないほど気持ちが良かった。
ベッドを軋ませるクロウの背中には更に深く爪を立てる。
もしかしたら苦しいのを堪えてくれているのかも。
それを我慢してくれているのかも…と思うと、が可愛くて堪らなくなった。
もうのことをすべて食べつくしてしまいたい。
こんな無理矢理に体を繋げるだけでは飽き足らない。
もっとどろどろに溶けあうくらいの何もかもの区別がつかなくなるくらいにと…。
そう考えたら居ても立ってもいられなくて。
クロウは込み上げてくる感情のままにの乳首をやや乱暴に齧った。
「―――!!」
瞬間、の背中が跳ね上がり収縮と緩和を繰り返していたはずの体内が一気に締まる。
押し殺した何かが溢れるような反応に驚く。
同時に彼女の体の中が搾り取ろうとするかのように蠢いて。
「…う、く…っ」
思わず、の膣奥に精液を叩きつけていた。
深々と突き立てられたものが脈動を繰り返す感覚を感じながらは張りつめていた体を少しずつ弛緩させる。
「はー…っ、はー…っ」
どくっどくっと繰り返される感覚が暖かくては思わずお腹を自らの手でなぞった。
「あったかい…」
の声にクロウはぎくっと体を強張らせる。
夢中になりすぎて彼女の中で…。
「うわ!俺中で…っ」
慌てて腰を引くと、先端から糸を引いて白い液体がの体内から零れ落ちた。
「…いーよ、あたしも…全然そこまで考えてなかったし…それにね……」
は熱の冷めないままの視線を細めて見せた。
「なんか、もう…幸せすぎて…」
「…悪かったな、遊星」
翌日、ばつが悪そうに遊星に声を掛けてきたクロウ。
あの後クロウは部屋から出てこなかったが、もいなくなったようだったので、恐らく誰もいなくなった頃送っていたのだろう。
それにしても、本当にあんな作戦で上手いこといったことに驚きである。
「気にしなくていい。それにクロウの所為じゃない」
これは本心である。
クロウが悪いことは何一つない。
全てが計画し、遊星が断れなかっただけである。
実はからもお詫びに何か奢るねという趣旨のメールを受け取っている。
おすすめの店の名前も列挙されていて、どうやらそこに誘ってくれているようだった。
しかし…このお誘いは懲りないと言うか何と言うか…。
と、言うのが遊星の本音である。
申し訳なさそうなクロウに遊星は「それなら一つ頼みがある」と切り出した。
「おう!何でも言えよ!!」
「…実は今日、1つ依頼を受けているんだがどうしても別の用事で行けそうにない。悪いが代理で依頼人に会って仕事を受けてきて欲しい」
「そんなんでいいのか?」
「ああ、そうしてもらえたら物凄く助かる」
「まあ、お前が良いなら引き受けるけどよ…」
でもこんなことなら別にいつだって引き受けるんだぞ?と、クロウは言う。
遊星的にもこれくらいのことをクロウが引き受けてくれるだろうことは重々承知である。
が、その依頼人が問題なのであって。
「急だから助かった。じゃあ、依頼人には代理人が来ると連絡しておく」
と、言いながら遊星は端末に届いたからのメールを開いて返信をタッチした。
そして
『今日14時に二つ目の記載されていた店で』
とだけ書いて送信する。
ああ、はどんな顔で現れたクロウを迎えるのだろう。
もうちゃんと通じ合ったのだから、他の男を不用意に誘うなという遊星の気持ちが伝わるかどうかは分からないけれど。
端末を置いた遊星はクロウに向き直った。
彼がしっかり釘を刺してくれればいいなと思いながら。
「…依頼人は14時に来る。待ち合わせの店は…」
終
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アシナ様リクエスト分でした!
嫉妬をぶつける相手が間違っているような気もするのですが…^^;
クロウ相手の夢主はこういう暴走傾向強いうちのサイトでして…。
多分クロウがしっかりしてるから……。
こちらの作品はアシナ様へ捧げるリクエスト小説となります。
ご本人様以外のお持ち帰りなどは厳禁です。
閲覧のみで宜しくお願い致します。
ここまで読んでくださってありがとうございました。