まだ、ゆめからさめない


さめないゆめはおわらない

えらぶみちはちがっても

まよいこんだらかえれない






「またこんなところで寝ているの、
淡い声にははっと目を覚ました。
そしてがばっと体を起こす。
「…アキ、ちゃん…」
を起こしたのは猫だった。
妖艶に金色の目を細めて、の膝の上で奇妙な色の毛並みが丸くまとまっている。
「今日が何の日か忘れたの?パンプキンパイの用意は終わった?」
膝の上の猫がに向き直って背筋を伸ばすとその体がにゅるにゅると大きくなり始めた。
胴体が蛇のように長くなり腕も足も長く伸びる。
そのうち毛並みは肌色に変化し、の膝の上には一人の女が馬乗りになっている状態になった。
「あれ?アップルパイじゃなかったっけ…」
「そんな古い記憶は棄ててしまいなさいよ。今を楽しく生きなきゃつまらないわ」
古い記憶…?さっき頼まれたばかりのような気がするけれど…バスケットだって持っているし。
「遊星とブルーノは…?」
「帽子屋なら今日は行方不明よ。犬はさっき新しい女を連れていたみたいだけど」
「行方不明…新しい女…」
「気取って嫌な女だったわ。やっぱり私はが好きよ。従順で…とってもいい子」
を見下ろす金色の目がすうっと細くなる。
そして優しくの頬を撫でたかと思うと、その柔らかな頬に顔を近付けた。
「帽子屋と犬の匂いがするわね。趣味が悪いんだから…。私が消してあげる…」
「きゃ…っ、あ、アキちゃん…っ」
ぺろりぺろりとアキはの頬を舌でなぞる。
ざらついた感触が往復する度にいけない気分を引き出されるようで怖くなった。
「あん、ダメ…。あたしたち…女同士で…」
「つまらないことを気にするのね。いいわ、ならミルクを頂戴」
「み、ミルクって…」
そういえば散々遊星やブルーノに吸われたことを思い出す。
ついさっきの出来事のような気もするし、かなり前にされたような気もする。
だけどはっきりと覚えているのは怖くなるくらい気持ちが良かったこと。
今からアキがそのざらついた舌でそこを舐めると言うのか。
「帽子屋や犬にも散々あげたんでしょう?私にも振る舞って欲しいわね」
さあ、と促すアキは、しかしの服を脱がせるつもりは無いらしい。
膝の上でが自主的に差し出すのを待っていた。
「…う、うん…アキちゃんが、そう言うなら……」
与えられる快感に興味もあるが、それを悟られるのは恥ずかしくアキの所為にすることによっては自らの服を脱ぐ口実を得た。
そして恐らく言う通りにしなければ何時まで経ってもこのままであろうとも予想出来たので。
ぷつんぷつんとブラウスのボタンを外してあわせ目を広げると、は下着をずりあげた。
白い乳房が露わになり、アキは舌なめずりしながらそこに顔を近付ける。
「美味しそう。でも気持ち良くなりたいのを私の所為にする悪い子はこうしてあげるわ」
「えっ」
その金色の目に見抜かれていたようだ。
あわあわと慌てるの乳首をアキは舌先でぺろりと舐める。
「あぁ…っ」
ざらっとした舌が皮膚の薄い敏感な部分を容赦なく刺激した。
途端、尖り始めるそこをアキの舌はちろちろと転がすように舐める。
「あっ!あっ!…アキ、ちゃ、ぁ…っ」
撫で回したり、時折弾いてみたり。
膨らんだ乳首だけを弄ばれてはもどかしく背中をしならせた。
胸が突き出されて強請っているようにさえ見えるが、アキはそれでも口に含もうとはしない。
そのうちミルクがぷつりと滲み始める。
「んふ…あらあらミルク滲ませちゃって。それにこんなに硬くして…感じているのね。いやらしい…」
ぺろぺろと滲んだミルクを執拗に舐め取り、唇で甘く啄む。
「ふあっ、あぁ…あぁぁぁ…」
その感覚がもどかしくて堪らない。
早く唇全体で吸い出して欲しいのに、じわじわと零れ落ちるのを舐められ続けるのはとても辛い。
「あき、ちゃぁんっ…それ、やめ…っ、もっと…っ」
「んン?なぁに?どうして欲しいの?」
意地悪く細められた目がを見つめている。
一瞬怯みそうになるが彼女が与えてくれるチャンスはそんなに多くないだろう。
は自らの胸を掬い上げて見せた。
「いっぱい…吸って欲しいの…お願い、アキちゃん……」
「ふふっ、最初から素直になっていれば良かったのよ。たっぷり飲んであげる」
言って、アキはの胸にかぷっとかぶりついた。
「んぅっ…!あ、っあ、すごい…っ!」
ぢゅうううううっときつく吸われての体がびくびくと跳ねた。
「あぁっ!出るぅ…っ、ミルク、出るのぉ…っ、イイぃっ気持ちイイぃぃ…!」
「んン…っ、ぷは…こんなに溜め込んで苦しかったでしょ。全部飲み干してあげるわ…」
「あっ、そんな…ちゅうちゅう…っ、いっぱい出るう…っ」
ごくごく喉を鳴らすアキに吸い出され、は胸を押し付けてがくがくと体を痙攣させた。
しかしアキはもっともっとと乳房にきゅうっと力を入れる。
「んあぁぁっ!それ、らめぇえっ!!でちゃう!でちゃうううっ…!」
「はぁっ、すごく美味しいわよ…。んぶっ、ん、ん…、ん、く…可愛いわ…」
搾り出される感覚が堪らずは立て続けに何度も背中を仰け反らせた。



「はぁっ…はぁっ…も、出ない…、から…」
「そうね、ご馳走様。立てる?」
「むり…休憩して、帰る…」
あんなに攻められてしまっては腰が立たない。
「そう。私はこれから帽子屋を迎えに行かなくちゃいけないから一緒にいてあげられないの。一人で大丈夫?」
「…ん、まあ…たぶん……」
訳の分からない世界に一人は心細くもあるが、一緒にいてもらえないならば仕方がない。
それにいなくなったという遊星も気掛かりだし。
「早めに帰りなさい…もう月が昇ってる…。吸血鬼に魂を奪われるわよ」
「…え、それって…ジャックのこと?」
「さぁ。魂を奪われる快感に溺れないようにしなさいね。戻れなくなるから」
アキは静かに告げると人間の形になった時のようににゅるにゅると体を縮め…やがて奇妙な毛並みの猫に戻ると薔薇の生垣の小路に消えていった。
彼女がいなくなって改めて周りを見渡すと確かに月が昇っているのが見える。
何時の間に夜になったのだろう。
気付けば暗い小路で独りきり。
導いてくれた不思議な月明かりも今はなりを潜めている。
こんな風になった時、ジャックに出くわしたんだっけ…と思い出す。
この前はどうやってジャックに出会ったのだっけ。
そうだ、小路を引き返そうとした瞬間にジャックにぶつかった。
「…もしかして…後ろにいるのかしら」
「呼んだか」
「きゃああああっ!!!!!」
急に聞こえた低い声には文字通り飛び上がった。
慌てて這いながらその場を離れて振り向くと、黒づくめの男が立っているではないか。
生垣に凭れ掛かっていたいたはずなのにどうやってそこに立ったのだろう。
「じじじジャック!!!びっくりさせないでよね!!」
「お前が呼ぶからだろう。帽子屋はどうした」
「遊星?遊星なら行方不明らしいけど」
「…ほほお。どうりで猫の気配がない訳だ。警告されたはずだが…何故また俺の前に現れたのだ」
「え?何言ってるの…ジャックが急に出てきたんじゃない」
ジャックの言い方ではまるでがジャックに会いに来たように聞こえる。
真後ろから出てきたのはジャックなのに。
「つまらんことを気にするのだな。本質的には変わらんだろうが。俺とお前は今突然出会った。それには変わりなかろう」
「ええええ、でも主語が変わったら全体の意味が変わっちゃうじゃん。あたし、別に意図をもってジャックに会いに来たわけじゃないし…。寧ろジャックが何で来たのって感じだし…」
この世界は面倒くさくて意味不明な屁理屈を良く聞かされて困る。
「俺は影の中を自由に動けるのだ。常にお前の後ろにいるとも言えるし、またそうでないとも言える。後ろにいるのかと聞いたから応えたまでだが」
「!」
しれっととんでもないことを言う。
成る程、その理屈ならばがジャックを呼んだと言っても差し支えないのかもしれない。
まだまだこの世界の常識が分からないままに独り言を呟くのは危険だな…とは思った。
「用が無いなら俺は帰るが…お前も一緒に来ては如何だ」
「えっ、ジャックのおうちに?」
「常闇の中の居城だが、猫がいないのであれば此処に座り込んでいるよりは安全だと思うが」
「アキちゃんがいないと危険なの…?」
「猫が消えた後、犬が女王と一緒になって新しい男を連れ込んでいたようだ」
「ブルーノが…」
さっきアキは新しい女を連れていたと言った。
いけ好かない女だとも。
それが『女王』なのだろうか。
それに新しい男…?
「女王は首をはねるのが趣味だからな。つまらん言いがかりで首を失くすかもしれんぞ」
「ええっ、な、何それ!」
「間違えて白い薔薇を植えた兵隊や時間に遅れた兎、その他ありとあらゆる言いがかりで嬉々としてギロチンにかける女だからな」
はくらりと眩暈を感じた。
そんな人間がのさばっているのを許しているこの世界の住人もどうなのだろう。
「…ジャックは…言いがかりつけられたことないの…?」
「影の中を自由に行き来できる俺を捕まえておける訳がなかろう。だが、いつかは俺の頭も落としてみたいとほざいていたな」
「…そ、そう…」
押さえ込まれて胸を吸われるくらいの実害かと思いきや(何となく慣れ始めているがこれも大概酷い話である)、いきなりの血生臭い話には縮み上がる。
そしてそんな危険な女とブルーノが一緒にいるなんて。
ガレージは相当危なそうだ。
「じゃあ、ジャックと一緒に行ってもいい?」
急にガレージに戻ることが怖くなったの申し出にジャックはにやりと鋭い牙を見せて笑う。
「勿論だ。我が居城に招待してやる。丁度パンプキンパイも用意しているようだしな。都合が良いことこの上ない」
ジャックはバスケットを拾い上げるとに押し付けた。
ずしっと重いそこには確かアップルパイが入っていたのではなかったか。
「ジャック違うよ、これアップルパイだよ」
「禁忌の木の実がこんなところにあるはずなかろう。さあ、行くぞ」
ジャックがを抱き寄せてばさりとマントでを覆った。。
包み込むようなその行為にどぎまぎしていると、すぐにマントが取り払われる。
「ふえっ!?も、もう着いたの?」
ぱちぱちと目を瞬かせるは既に薔薇の生垣の小路にはいなかった。
燭代がずらりと並ぶ薄暗い廊下。
ああ、確かに吸血鬼様が棲むにはぴったりね…と思うだだっ広いホールには立っていたのである。
天窓の月明かりがスポットライトのように差し込むホールはまさしく城の入口といった風情だった。
「うっわ、すっごい!ジャックこんなとこに住んでるの!?」
「ああ」
「へー…すごいなあぁぁ…」
ぐるりと見渡して感嘆の声を上げるを怪訝そうに見下ろしながらジャックは彼女の手を引いた。
「さて支度をするぞ」
「へ?何の?」
「俺の居城に相応しい格好にするための支度に決まっている。まずは風呂だ。さっさとしろ」
「ええええっ、や、待って、お風呂って…!」
ぐいぐい手を引っ張られて長い廊下をずるずると引きずられるように歩かされる。
廊下の端々に据えられた調度品の絵画に微笑まれ、像に見送られ…ようやく辿り着いた場所は。
「こ、これがお風呂…」
見たこともないような真っ白の大理石で造られたプールのような風呂だった。
乳白色のお湯がたっぷりと張られて湯気を立ち上らせている。
水面には色とりどりの花が浮かべられていた。
「お、おとめちっくすぎて怖いよ……何これ、ジャックいつもこんなお風呂に入ってんの…?」
「何を馬鹿な。俺がこんな風呂に入ると思うか。御託はいいからさっさと入れ。10分したら迎えに来る。その前にあがったら奥の棚の中の服を好きに着ろ」
「う、うん……」
「お前は犬と猫の臭いが強すぎる。しっかり落とせ」
えええええそれなんて暴言ですか。
でも先程アキにも似たようなことを言われたのを覚えている。
この世界の住人はそんなに鼻が利くのかな…などと考え込むを置いてジャックは風呂場を出て行った。
残されたは。
「うーん…でもまあいっか。お風呂には入りたい気分だったし!」
遊星やブルーノや、果てはアキにまで色んなことをされてしまったから。
ぽいぽいと服を脱いでお湯の中に体を沈める。
「あー…すっごい気持ちイイー…。なんか良い匂いだし。お花浮いてるからかな?」
こんな童話の中のお姫様のような風呂に入れるなんて、変な世界も偶には楽しい。
いや、これが本当の世界なのだろうか。
最近どうにも記憶が曖昧だ。
そもそも最近ってなんだっけ。
近い記憶と遠い記憶の境界線が見つからない。
「…うーん、まぁ…いいか…。気持ちイイし…」
花から落ちたのであろうひらひらと浮いている花弁を手にとって眺めてみた。
淡い桜色がしっとりと水に濡れている。
…あれ?そういえばこのお風呂には定番の…。
「薔薇は…ないのね」
浮いている花も花弁も。
全てが新鮮な色味で浮んでいたが、薔薇を見つけることは出来なかった。
薔薇と言えばあの奇妙な色の毛並みの猫を彷彿とするけれど…。
「そういえば…あの猫……なんて名前だったっけ…」
とても親しかった気がするのに。
花の芳香にくらりとしながらは目を閉じる。
乳白色のお湯の中に体も思考も何もかも蕩けていくような気分だった。
たっぷりと時間を使ってお湯に身を任せていると不意にすぐ傍から足音がする。
「…10分経ったが、まだあがっていなかったか」
振り返るとジャックが迎えに来たようだった。
「…じゃ、っく…。何か、このお風呂…不思議なの……」
乳白色のお湯の中に沈んでいるとはいえ、体を隠そうともせずにはとろんとした視線をジャックに向ける。
ぼんやりと思考に霞みがかったような不思議な気分。
ジャックは大理石の浴槽の淵ぎりぎりにしゃがみ込むと、そんなの顎を軽く掴んだ。
お湯によって暖められたの体はほんのりとピンク色に染まり、血色の良くなった肌が透明の雫を光らせている。
「いい具合のようだな。さああがれ。味見をしてやる」
「味見…?」
ジャックの言葉の意味が分からずきょとんと首を傾げたらジャックの腕がざぶんとお湯の中に入って来た。
そしての両脇に手を差し入れると、力任せに裸のをお湯から引き揚げたのである。
「っ、きゃぁ!」
幼児を抱き上げるような格好で裸のままお湯から引きずり出されては悲鳴を上げる。
しかしジャックは自身が濡れることも構わずに、そのままを抱き寄せた。
やはり幼児を抱っこするように腕の上にのお尻をのせて、空いた手で背中を支える。
するととジャックの視線の高さが近くなった。
とはいえややの方が上である。
「やだ…見ないでよォ…」
恥ずかしそうに体を丸めて腕で胸を庇った。
帽子屋や、犬、猫に散々色々された体だがそれでもやはり羞恥心というものは残っている。
「少し味見をするだけだ」
「だから…味見って……っ!?」
何のこと?と聞こうとしたの声は、息とともに喉の奥に飲み込まれた。
ジャックが鋭い牙をの肩口に突き立てたからである。
「は、あ…っ」
ちくりとした痛みの直後に甘美な快感が襲ってくる。
ジャックの唇がちゅうっと何かを吸い出すように動く度には背中をしならせた。
何度か吸い出した後で、ジャックはゆっくりと突き立てた牙を引き抜いて笑う。
「知っているか?今日は悪戯をされる日なのだぞ」
「んっ、違うよ…!それにあたし、バスケット用意したのに!」
中身はアップルパイなのだかパンプキンパイなのだかは知らないが、とにかくお菓子も用意したというのに。
そもそも『トリック オア トリート』の言葉すらなく悪戯だけされるなんて割に合わない。
「俺は菓子も悪戯も希望でな。さあ、湯冷めする前に着替えさせてやる」
「えっ……」
散々裸を見られた訳だが、着替えさせるなんてそんな更に恥ずかしいことをされるのか。
流石に下着くらいは自分で着たいと、あわあわ腕の中で身じろぎをするの目の前でジャックがぱちんと指を鳴らす。
「なななな何これっ!?」
瞬間、はジャックの腕の中で完璧なる装いに変身していた。
濡れていた体も、髪も、きちんと整えられて真っ黒なドレスがの体を包んでいる。
ぼふんっといった効果音すら聞こえてきそうだった。
ちょっと!!ヴァンパイアって魔法使いの親戚なのですか!?
「なかなか似合っているぞ」
満足そうなジャックに見つめられてはどきんと心臓を高鳴らせた。
綺麗な顔で見つめられた上に褒められてしまうなんて…。
「そ、そうかな…。こんなお姫様みたいな…あたしに似合うなんて思えないけど…」
「何を言う。俺の見立てに間違いはない。それにお前は姫と呼ばれても遜色ない程に可愛らしいぞ」
「!」
ぼわっと湯気が出るのではと思う程にの頬が瞬間的に赤く染まった。
思わず両手で熱くなった頬を押さえる。
「きゅ、急に…どうしてそんなこと言うの…!?」
「未来の妻を褒めて何が悪い」
「なっ、み、未来の妻ぁ…っ!?ど、どうしてそんないきなり話が飛躍して…っ」
「何故も何も女王が犬といる限りお前は帽子屋のところには帰れんだろうが。ならばこのまま俺の妃としてこの城に住めばいい。安心しろ、嫌と言う程可愛がってやる」
舌なめずりするジャックはを抱きかかえたままで風呂場を後にした。
ジャックの理屈に頭がついて行かないは、眩暈を感じながら薄暗い廊下を運ばれていく。
とはいえ、確かに犬が女王と一緒にいる限りはの入り込む余地を見出せそうにない。
それに…そもそも犬と帽子屋と自分の接点は何だったのだっけ。
風呂に入ってから記憶は更に曖昧模糊としたものになっている。
犬と猫に臭いを移されたから風呂に入れとジャックに言われたのは覚えているから、恐らく自分は犬や猫と遊んだに違いないのだが…。
「変なの…頭がぼーっとする…」
「のぼせたか?」
「ん…そうかもしれない…」
そっとジャックに寄りかかり、は眩暈でほんの少し痛む目の奥を宥めてやろうと目を閉じた。
その瞬間を見計らったかのように、ジャックが素早く唇を寄せる。
ふわっと重なった瞬間、は目を見開いた。
「!…っ、なななな何するの…っ!!」
「催促だろう?」
「違うよ!!」
悪びれもせずに顔を近付けたままでニヤニヤ笑うジャックは確信犯としか思えない。
だけど不思議と嫌な気分でないのは何故なのだろう。
風呂上がりの熱気の所為ではない熱を頬に感じて、両手で顔を押さえるをジャックは更に運んでいく。
「…何処まで行くの…?」
「最上階だ」
「…え?でも全然上がってる感じしないけど…」
長い廊下を運ばれているのだと思っていたがきょろきょろと周りを見る。
丁度突き当りの扉らしきものが見えてきた。
「ならば自分で確認するがいい」
可笑しそうに微笑んだジャックが勝手に開いていく扉を潜り抜けると。
濃紺の空を天井代わりに、見たこともない程の大きな月と星屑の煌めきがを出迎える。
そこは夜の冷たい空気が吹き抜ける最上階のテラスだった。
広いテラスの柵側にはテーブルと二脚の椅子がある。
恐らくは景色を見ながら使用するのだろうと思われたが、生憎と空以外は真っ暗だった。
「うそ…」
呆然と呟いたを抱えたままでジャックはテーブルに近付いていく。
何かが置いてあるようだと目を凝らしてみると、が持っていたバスケットだった。
中身はどうやら取り出されたようで、豪奢な絵皿の上にパンプキンパイと紅茶のセットまで置いてある。
「…やっぱり、アップルパイじゃない…ね」
「先程から拘っているが何か不都合があるのか」
「ううん…無い…と思う」
そもそも何故アップルパイと思ったのだったかすら良く分からない。
もやもやとしたものは残るもののはジャックに横抱きにされたままで椅子に座ることとなった。
正確には椅子に座ったのはジャックだけで、は抱き上げられたままである。
ジャックは鈍い銀色に月の光を反射しているフォークを手に取ると、器用にパイをさっくりと切り取りの方へ差し出した。
「あ、ありがと…」
差し出されたからには食べろと言うことだろうと素直に口に入れる。
「美味しい」
「そうか」
飲み込んだらカップに入った紅茶を差し出され。
「これも美味しい…」
上げ膳据え膳とはまさにこのことか。
ジャックによって口に運ばれるパイを美味しく食べ、そして紅茶を啜る。
視線を外せば幻想的な星空の天井。
贅沢な気分になりながら、は与えられるパイを全て飲み込んだ。
「あれ?そういえばジャックは何も食べなかったね?」
食べつくした後に言うのもアレかな、と思ったが当然のようにジャックは一口も自身の口には運ばなかったことが気掛かりになった。
ちゃんと二切れあったのにそれを平らげたのはだった。
「俺は今からだ」
「…」
何となくそういう答えが返ってくるのではないかと思っていた。
だって先程ジャックは『味見』と称しての肩口に牙を突き立てたのだから。
「さて…じっくりと味わわせてもらおうか」
横抱きにしていたの体を向かい合わせに抱き直したジャック。
おもむろにドレスの襟ぐりを力任せに引き下げて、の白い首筋に遠慮なくかぶりついた。
「っ、あ!」
ぷつっと皮膚を貫く鋭い痛みにはびくっと体を震わせる。
しかしその痛みも一瞬のことで、ジャックの唇が押し当てられているところからじんわりと甘い熱を帯び始めたのが分かる。
「あ…ぁ、ジャック…っ」
この世界で初めてジャックと出会った瞬間の記憶が蘇ってきた。
あの時は訳の分からぬままに吸われてしまった。
甘美な快感の記憶は鮮烈だが、追体験中の今ではそれすら霞むほどに。
「はぁっはぁっ…あ、あぁっ…、すご、いっ…!」
「お前はこの前と変わらず甘やかだな…」
牙の突き立てられた箇所から滲むものを惜しむように舐め取るジャックは、ドレスの上からやんわりとの胸に触れた。
大きな手がゆったりと輪郭を何度もなぞる。
「は…っ、やんっ…じゃっ、く…そんなとこ、触っちゃ…」
「そんなに甘い声で嫌がっても説得力は無いぞ。婚前交渉は背徳的で堪らんだろう?」
「くぅう…ん…っそんな、っ…こと…」
ふるふると首を横に振ってみるが、ジャックの言う通り説得力は皆無に等しいと自分自身で分かっている。
何故なら、彼が首筋を愛おしそうに吸い上げるたびにぎゅっと縋りついてしまっているのだから。
「あっ…ジャック、っ…いいっ、気持ちイイ…っ」
熱い吐息を首筋に感じつつ、は何度も背中をしならせた。
合間にジャックの手がドレスの中に侵入し始める。
太股の上を好色な掌が這い回った。
「はァ、ん…くすぐった、い…」
「くすぐったいだけか?」
「…くすぐったいけど…気持ちイイ…」
いやらしいタッチで内股と太股を行き来するジャックに翻弄される
柔らかな粘膜に届きそうで届かないもどかしさに思わず腰が揺れる。
「じゃ、っく…ねぇ、分かってるんでしょ…?」
「何をだ」
「あん…、っ…吸いながら、触って欲しいの…」
蕩けた表情で素直に乞うが可愛らしくてジャックは思わず笑みを浮かべる。
「ココをか?」
太股の上を辿った指先での溝を下着越しにすいっと撫でてみた。
「んンっ…!そ、そう…お願い…、もう、あたし…っ」
続く言葉は出てこなかったが、快感を耐えきれないことだけは十分伝わる。
吸血の快感がの理性を柔らかく崩してしまったのだろう。
「いやらしいお強請りだな。俺の未来の妻は自分から腰を振る淫乱か」
「言わないで…」
恥ずかしそうに目を細めるも、下着の上からきゅっと敏感な突起を押し込むと膝でぎゅうぎゅうとジャックの腰を挟み込んだ。
「はぁ…っ、あ、あ…っ、気持ちイイぃぃ…っ」
布越しのもどかしい愛撫にも関わらずは自身がはしたなく濡れるのを感じる。
きっと指先からジャックにも筒抜けなのだろうと思うと恥ずかしいが、それがまた体を熱くした。
「は…、あまり吸い出すと魂までも奪ってしまうからな…。こちらにしておくか」
「…え…」
朦朧とした熱の中でジャックの牙が引き抜かれる。
「あ、抜いちゃ…だめ…。もっと、もっと…」
吐息の感覚がなくなることすら寂しくては縋りついてジャックを乞う。
しかしジャックは首を横に振ると。
「俺に身を捧げる姿勢は、花嫁としては及第点だがな。いきなり俺の前から消えようと言うのは褒められた姿勢ではないぞ」
「…」
「こっちで可愛がってやる」
覚えさせられた快楽を取り上げられてしゅんとしたのドレスの肩口を、ジャックは更に引き下げた。
押し下げられたドレスからの白い胸が零れ落ちる。
「あ、…っ」
ジャックの手で掬い上げられた乳房の先端には白い液体が小さな真珠のように膨らんで滲んでいた。
それを舌先で掬い取る。
「ふあ…っ!!」
敏感に膨らんだ乳首を舌先でぺろぺろと舐め取られて、刺激にびくびくと腰が震えた。
「こちらも堪らないようだな…」
反応を抑えきれない腰からお尻にかけてをするんと撫でると、ゆっくりと下着を引き下ろしていく。
既にじっとりと愛液を含ませているそれは、もう殆ど機能を果たしていないように思われた。
「んンっ…は、ァっ…!」
ミルクの滲む乳首の先端をやんわりと唇で食みながら、割れ目の奥にジャックの指先が潜り込んでくる。
「ひはっ!」
思わず声を上げてジャックの肩をぎゅっと掴んだ。
ぬちゅ…とぬかるみの中に冷やりとしたジャックの指先。
愛液を絡めとった指先は、そのままの敏感な突起をやわやわと擦る。
「あ、あ、だめ、そこ、っ…」
「どちらも溢れさせておいて駄目ではなかろうが」
意地悪いことを言って笑ったジャックには普段見せない性の色が篭っている。
愛撫を施しながら彼もまた同じように獣の欲を秘めているのだと思うと、体の奥がずぅんと重くなった。
同時に収縮した体内から愛液がぷちゅりと溢れ出しジャックの指を更に濡らす。
「こんなにも俺を求めて…可愛い奴め」
「んはぁっ…!あ、あぁっ…」
の体のいやらしい反応に煽らたジャックは白い胸にかぶりつく。
牙を立ててしまわないように注意深く、だけど彼女がより乱れるようにいやらしい舌遣いで。
ぷっつりと張りつめた乳首をねろねろと捏ねてはちゅるちゅるとミルクを吸い出した。
「そんなにしたら…っでちゃう、っ…とまんないよぉ…っ!!」
文字通り溢れるミルクを垂下して喉を鳴らすジャックの頭をはぎゅっと抱きしめた。
「はぁっはぁっ…あああ、あぁ…、イイぃぃ…っ、のんで、あたしの、もっと、のんでぇ…」
吸血にも似た快感に震え上がる体は、仰け反って求めるように胸を差し出している。
頬に触れる柔らかな感触がジャックを煽った。
興奮に比例するようにジャックの指先も激しさを増していく。
「ふ、は…、…っ」
「ジャック、じゃっ…く、っ!あああ、そこ、あ、擦ったら…っ、イく、イく…!」
見え始めたその先の絶頂を欲して、はしたなく広げられたの内股がびくびくと戦慄いた。
見計らったかのようにジャックはの突起を抓み上げる。
「うあっだめ、も、イくっイ…っ、―――!!」
一瞬の硬直の後の体が痙攣し、ぷしゅ、と溢れたミルクがジャックの口内に溢れる。
見事な仕立ての黒いジャケットに皺が出来てしまいそうな程に、はジャックの腕をぎゅうううと掴んで絶頂を駆け抜けていた。
「はっ…あ、ぁぁ…」
腕の中で急激に崩れていく体をぎゅっと抱きしめて、ジャックはの額に唇を寄せた。
労わるかのようなそのキスにはきゅうんと胸を疼かせる。
「ん、ジャック…」
しかし優しい仕草とは裏腹に見上げたジャックは獣の視線でを見下ろしていた。
ぎくりと体を強張らせる彼女を机の上に押し倒す。
「あ、うそ、待って…あたしまだ…っ」
余韻も引かぬままの体に覆い被さってくる黒い影。
体内はまだ絶頂時の衝撃をそのままにひくひくと蠢いていた。
「どうせ俺しか見ていない。好きなだけ乱れるがいい」
ここ一番の酷薄なる笑顔でぎらつく牙を覗かせると、のドレスを捲り上げて足を抱えた。
「そんなっ、…おかしく、なる…っ」
取り出された熱がやんわりと花弁を押し広げて入口に到達する。
粘膜が触れ合うだけで絶頂直後のの体は期待に涎を垂らしてしまい、は恥ずかしさに手で顔を覆った。
それをジャックが引き剥がす。
「隠すな。全部見せろ。の全てを」
熱く囁きの目を射抜くジャックが一気にを貫いた。
「あぁぁあっ!!」
ぎゅっと目を閉じてゾクリと駆け上がる快感を必死でやり過ごす。
だけど反射的に跳ねる背中や、きゅんきゅんと震える体内までは隠すことが出来ない。
舐めるような膣内の感覚に、馴染む間ももどかしくジャックはゆっくりと腰を引いた。
「んあぁ…中身でちゃうぅ…っ」
ずるる…と抜き出される摩擦さえを苛む。
ぎりぎりまで引き抜いた凶器を思い切り打ち込めばは悲鳴にも似た喘ぎ声を上げて仰け反った。
「はぁあ、す、っご…、はぁ、あ、深いぃ…!」
ジャックの体の下で白い喉が晒される。
その皮膚の下では甘い真っ赤な体液が循環しているのだと思うと知らず喉が鳴った。
思うままに牙を突き立てれば鮮烈な断末魔と共に蜜にも美酒にも劣らない魂の味が口内に溢れかえるのであろう。
、っ…」
湧き上がる欲望に駆られるままジャックはの首筋に顔を埋めた。
先程彼女を味わった首筋の傷にもう位置を牙を突き立てる。
「んあっ!あ!」
はりのある皮膚に牙が刺さるぷつりとした感触が堪らない。
滲む血液を舐め取りながらジャックは激しく腰を振った。
「はぁっ、奥、おく…っ当たってる、のにぃ…っ!ああっ、吸ったら…っすぐ、イっちゃうよぉっ…!!」
ずんずん突き上げられるだけでもおかしくなりそうなのに。
そこに吸血の快感が加わっては頭の中が朦朧とする程感じた。
「いいぞ…っ、、一緒に…」
腰を掴まれ更に上を向く先端を擦りつけられる感覚は眩暈すら覚える。
本能のままに一番奥で射精を果たそうと言う男の性を感じてぞくぞくした。
高まる性感に導かれるまま、はびくんと爪先で宙を蹴る。
「あ、あ、イくっ、イくイくっ!あはぁぁあっ!!」
「っ、く…出る……っ」
一際きつくの体内がジャックを締め付け、その刺激でジャックも絶頂へと至る。
これ以上無理な程にの腰に自らの腰を押し付けて、一番奥にたっぷりと射精した。
繰り返される脈動は感覚が入り混じってどちらのものか分からないほど。
戦慄くをしっかりと抱きしめてジャックはそっと彼女に唇を重ねた。
「ん、はぁっ…、はぁっ…すご、かった…」
吸血鬼様ってば涼しい顔して激しいんだ…。
キスを交わした後で、くたりとは力の抜けた体をジャックに預ける。
さっきのお風呂にもう一度入りたいな…と思っていたら、居住まいを正したジャックがマントでの体をゆったりと包んでこう告げた。
「何を終わった気でいる。蜜月の夜はまだ始まったばかりだぞ」
「え…」
「と、言ってもここは常世の城で、朝などは訪れんがな」
「…うそ…」
「さあ、ベッドでじっくりと我が花嫁を可愛がってやろうではないか」
は気が遠くなった。








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去年の続きを平行世界的に書こうとしたらえらくファンタジックになってしまいました^^;
パラレル世界と言うことで大目に見てやってくださいませ。
女王と犬と帽子屋は、また来年に!(一年スパンで続くんかい)