クリスマスの朝に


突然のリストラで無職。
家賃が払えないならと、アパートも追い出されて途方にくれていたところをゾラに拾われ、ガレージで男たちのお世話を仰せつかった年上ヒロイン。

++++++

朝、起きられませんでした。

「私、どうして遊星の隣で寝てるの?」
「サンタが運んで来てくれたからな」

サンタって……それは私の部屋に不法侵入ですよ、ね?

「それに、なんでこんな格好?」
「問題ない。よく似合っている」

………ぷちん。
温厚な私も、堪忍袋の緒が切れました。

「似合う似合わないの問題じゃない! どうして朝起きたら両手両足縛られて、巨大靴下に入っているのか知りたいの! ついでに、遊星のベッドにいた理由も!」
「靴下は拾った」
「拾ったとかのレベルじゃないから! これと同じもの、アキちゃんと一緒に行ったショッピングモールで見たよ? 店先に綺麗にディスプレイされてたよ? 荷物持ち遊星も一緒に見たよね?」
「ああ、ちゃんと見た。しっかり覚えている」

ちょっと遊星さん遊星さん、頷きながら靴下ごと私を引き寄せないで。
ただでさえも密着してるっていうのに、太股の辺りに何か当たってるんだってばー!
少しでも逃げるべく身じろぎした私に、彼は。

「何故逃げる? はプレゼントだろう?」

………………………………は?

「昨夜はクリスマスイブだ。寝る前に靴下を置いておけば、サンタがプレゼントを入れてくれる」
「いやいやいや、遊星その年にもなってサンタを信じてるわけ? 靴下にサンタからのプレゼントを信じていいのは、龍亞たちぐらいまでだから!」
「だが、サンタは靴下を用意していた俺の元に、望んだプレゼントを用意してくれていた」
「靴下用意じゃないでしょ、こんなの普通に売ってないし!」
「だから、深夜のショッピングモールで拾ったと言っている」
「2つ目の不法侵入、さらりとカミングアウト! ってかそれ窃盗罪も付くよ!」
「サンタのためだ」
「ドヤ顔して言い切るな! サンタって、結局は遊星が自分でやったことじゃないの!」
「違う。靴下を拾いに行ったのは俺だが、をここまで連れてきた覚えはない。だからサンタと言ったんだ」

巨大靴下をあくまで拾ったと言い張るか、この蟹。
んで、私を連れてきたのは自分じゃないと?

「百歩譲って私をこんな目に合わせたのは遊星じゃないとするわ。だったら、昨夜珍しくホットミルクを入れてくれたのは誰よ?」
「俺だが、それがどうかしたか?」
「大方、そのミルクに睡眠導入剤でも入れたてんじゃない? でないと、さすがに手足縛られて起きないなんてありえないし。それでもサンタがやったと言い張るの?」
「サンタから要望されたからな」
「人に薬使う物騒なサンタがいてたまるかッ!」

叫ぶように言った私に、遊星の目が泳いでる。
力が緩んだ隙を突いて、私は遊星に腹パンチ。両手縛られてるのが前でよかったわー。
そして足を振り子にして半身を起こす。

「な、何をするっ……」
「何をするじゃないわよ、私のほうが言いたいわその台詞。人の部屋に不法侵入するなってあれほど言い含めておいたでしょーが」
「鍵を閉めておかなかったも悪い。それに俺は入るときに声を掛けた、だから不法侵入じゃない」
「フッフッフ、認めたわね。語るに落ちたとはこのことよッ!」

縛られてなければ、私は右手を上げて人差し指を突きつけていたと思う。

「私をこの部屋に連れてきたのがサンタなのに、遊星が声掛けして部屋に入るなんておかしいじゃない」
「……………くっ」

拳握り締めて悔しがることデスカ?
そんな遊星は放って置いて、私は足を床に下ろすと、口ゴムはなかったらしく支えを失った巨大靴下はストンと落ちた。
四苦八苦しながら足を出して、ロープの結び目を解く。足さえ自由になれば、手が縛られていても逃げ出せるもの。
きつく縛られてなかったおかげで、1分経たずに結び目は解けた。

「あっ、待てッ!」

すぐさま立ち上がってドアに駆けた私を、遊星が追いかけようとして……すごい音がして静かになった。
たぶん、巨大靴下を踏みつけて足をとられて、バランス崩して顔面打ちでもしたんだろうと思いながらも振り返らない。
パジャマ姿で廊下に出るのは恥ずかしかったけれど、ネグリジェじゃなかったことを幸いと受け止めて、私はドアを蹴破るようにして転がり出た。





通ったキッチンでは、クロウが朝ご飯の支度中。

「ごめんね、家事一切をやる約束で住まわせてもらってるのに。ちゃんと仕事をこなせないんじゃ、ゾラさんに怒られちゃうよ」
「たまにはいいってことよ。それよりもそんなカッコでどーした? 靴も履いてねーし。ガレージは寒いんだからそんな薄着で動き回ってたら風邪引くぞ」
「風邪引いたら遊星に移してやるわ。あの蟹が人を薬で眠らせた挙句に連れ出したんだから」

言い終えて、私は派手なくしゃみ一発。……ううっ、ホントに足からじわじわ冷えるわ。

「ほら、そこに腰掛けて。両足を床から離して、腕のロープを解いて、少し待ってな」

自分の羽織っていた上着を投げてくれながら、クロウは言う。
受け取ったそれを肩にかけて、私は言われたとおりにした。

「ほら、少し温まってから戻れよ。今のままじゃ体が冷え切って、着替えんのも一苦労だろ?」
「わぁ、ありがとー!」

渡されたマグカップから立ち上る湯気と香り。

「はちみつ生姜湯。この前、配達先からもらったんだよ」

喉を通る温度に、私は自分が思っていた以上に冷えていたことを実感する。
生姜湯には仄かな甘みもあって、とても飲みやすい。

「おはよ、ってあれ? そんな格好でどうしたの?」
「おっブルーノ起床。、遊星に拉致されて逃げてきたんだとさ」
「あぁ、いつかはやると思ってた…………」

どこか遠い目のブルーノにクロウも頷いている。

「だが、昨晩それを実行に移したということは、意味があったのではないのか?」

いきなりの声に、私たちの視線が彼に集中。気配絶って近付かないでよジャック。

「あの蟹曰く『サンタからのクリスマスプレゼントだ』って……って、クロウもジャックもどうしたの?」
「なんかすごく打ちひしがれてるよね?」
「オ、オレとしたことが忘れていたっ……」
「キングがこんな重要なことを忘れていようとはッ……」

両膝を落とし手も床について、完全に肩を落としている彼らの真意がわからず、私とブルーノは顔を見合わて首をかしげる。

「あの、昨日が何?」
「記憶喪失のブルーノはともかく」
は知っていよう!」
『昨夜は靴下を用意して眠らなければならなかったことを!』

………………………待て待て待て待て。信じてるのは、遊星だけじゃなかったんですか。
心底呆れて言葉を失っている私を他所に、クロウとジャックはブルーノに靴下の意味を教えている。
間違いを教えないで。お願いだから、現実を見て。

「なるほどー。じゃ、遊星がサンタに頼んだプレゼントがで、それが実行されたんだね!」

イヤ、さっき拉致されたって言ったら同情してくれたじゃないですか。

「今年は忘れていた俺たちが悪いのだ。それなのに、忘れていなかった遊星がプレゼントを受け取れないのは気の毒だ」
「おぅよ。だったらオレたちで再配達してやろうぜ」
「それはいい考えだよ」
「ちょっ、3人とも本気ッ?」
『もちろん』

ジャックにより『プレゼントといったらやはりこれが必要だろう』と、何処から取り出して来たのか突っ込めない、幅50センチ以上ありそうなショッキングピンクのリボン。
嫌な予感しかしないから即座に逃げ出そうとするが、背後から両肩を抑えられて立ち上がれない。その間に、私の上半身は腕ごとグルグル巻き。ちなみに下半身は同じような幅のパステルブルーのリボンで巻かれた。

「ちょっとあんたたち、ふざけてないでさっさと解きなさいよ。年上を敬う気持ちはないの? 今ならまだお昼ご飯抜きだけで勘弁してあげるから!」
「年上っても俺とほとんど変わらないではないか。にしてもこれだけ騒いでいるのに、遊星は現れないな? 、心当たりは?」
「………転んだときに打ち所悪くて、気絶してるんでしょ。本当に解いてよ、こんな格好で連れて行かれたら、ただでさえもまともじゃない蟹が、もっとまともじゃなくなるから!」

絶対ワザとだろう。上半身に巻かれたリボンは胸を持ち上げて強調している。少し厚手の生地とはいえパジャマ姿でそんな目に遇っているのだから、先端まで形くっきり。

「うーん、透けていない分、こっちのほうがエロいな。よくやったジャック、遊星も喜ぶだろうぜ」
「満足げに頷くな、現ニート元キンーっ!」
「プレゼントが騒いじゃあダメだよ?」

にこにこブルーノに口に押し込まれたのはプラスチックのボール。ただし、穴だらけで呼吸はできる。頭の後ろでカチャカチャと、ベルトで止められる音。

「ふががが、ふあがぁ!(訳:こんなの、どこでぇ!)」
「備えあれば憂いなし。この間ゾラさんにもらったんだ」

私の叫びが伝わったのか、答えが返ってきた。
ゾラさんからって…………誰に使う気だったんだ、あのばーさん。

「最後はオレの出番だな。ブラックバードデリバリー、行ってくるぜ!」
「うむ、ちゃんと配達して満足してこい」

軽々と抱き上げられ、逃げられない私は逃げ出した部屋へ逆戻りさせられました。





「遊星、鼻血吹け………じゃねぇ、拭け。そのままだと受領サインもらえねーだろーが。いくらなんでも、仕事道具の上に他人の血の跡は嫌だぞ」
「すまない、わざわざ届けてもらって感謝する」
「いいってことよ。忘れてたオレとジャックの分も、遊星は満足してくれよな。って、は陸上げされた魚みたく暴れるんじゃねーよっ!」
「ふががががーっ!(訳:あばれるわーっ!)」
「わざわざリボンをかけてくれたのか。解くのがもったいないな」

クロウから渡された私の頬に、生温かいものが垂れた。

、血まみれにしてやんなよ。せめて俺が出て行くまでまともな顔でいろよ」
「クロウが抱いていたときより、こうやって見下ろすと強調された胸が予想以上に大きくて堪えられなかった。見事にダイレクトアタックされた、一気にLPを減らされた気分だ」
「だろーな。じゃ配達も終わったことだし、オレはジャックとブルーノ連れてマーサハウスに行ってくらぁ。昨日のクリスマスパーティーの片付けもあるだろうしな、男手は必要だろ」
「確かにそうかもな」
「だから明日までは帰らないから、とゆったりまったりべったり過ごしてろ」
「ふがーぁ、ふががががぁー!(訳:いやーっ、いかないでぇー!)」

私の懇願にもかかわらず、オレンジパイナップルは出て行ってしまいましたとさ。





「邪魔者はいなくなった。、クロウの言ってくれた通りこれから1日、ゆったりまったりべったり過ごそう」

遊星はベッドに座り、私をひざの上に乗せる。そしてボールを咥えさせられているせいで流れる私の唾液を舐め取った。

「ふががが!(訳:変態!)」
「変態じゃないさ、これからに必要だからな」

意味がわからない。ってか、私の言ってる意味わかったなんて。
眉根を顰めた私に、遊星はニヤリと。

「これから俺とでシンクロしよう。そして新たな命を召還しよう」

……………………今日私は、一体何度呆けたらいいのでせう。

「クリスマスにシンクロすれば、きっと確実に召還できるはずだ!」

そのまま押し倒される。
ベッドの軋んだ音に呆けていた私の意識は引き戻され、打ち上げられた魚のごとく暴れまくった。

「何故暴れる? そんなに俺とのシンクロが嫌なのか?」

悲しげな目の遊星に聞かれるも、まともに話せない私は何も言わない。その代わりに悔し涙の浮かんだ目で睨むだけ。
1つため息の後、遊星は私の首に手を回してきた。何をされるのかと身を硬くしたけれど、口の拘束が緩んだことに気付く。

「答えてくれ、俺とのシンクロが嫌なのか?」
「嫌とかそういう問題じゃないから」
「ならどうして拒む? 今年の初詣の帰り道、手を繋いで歩きながら、は『今年は赤ちゃんが欲しいってお願いしたの』と教えてくれたじゃないか」
「蟹印妄想乙」
「どこが妄想なんだ。繋いでいた手の体温も、のはにかんだ顔も覚えているのに!」
「全部。私が遊星たちと初めて会ったのは、今年初夏ですが」

一緒に生活を始めて、半年以上1年未満だってことを忘れないで欲しい。
人を好きになるのに時間は関係ないとか聞くけど、遡られるのは妄想としか言ってやれない。

「シンクロが嫌なのか? だったら融合はどうだ? の卵子に俺の精子が融合して、新しい命が」
「融合も嫌です」
「なら儀式召還だ。俺とがセックスという儀式を経て」

私は、遊星の言葉を遮って叫んだ。

「私は遊星と、シンクロも融合も儀式もするつもりない。いろいろすっ飛ばして、いきなりバトルフェイズに持ち込む人なんて嫌い!」
「……………………俺としては、いきなりじゃなかったつもりなんだが」

『嫌い』の一言が聞いたのか、悲しそうな目で見下ろしてくる蒼い双眸。

「遊星にそのつもりがなくても、薬のち不法侵入で拉致されたらそう思いたくなるわよ。今だってリボンラッピングされて自由奪われて。おねーさんは悲しいわ、半年といえど懇意にさせてもらってきたデュエルキングが実は、女に手が早い遊び人のヤリ逃げ蟹だったなんて」

大仰にため息をついたあと、私は遊星から顔をそらす。
そうじゃなきゃ、あのまっすぐな視線にほだされて流されていきそうだったから。

「そう言えば、どうして俺がサンタに『今年のプレゼントはが欲しい』と頼んだか言わなかったな」

視線だけ戻せば、苦笑している遊星が見えた。でも、私は何も言わない。

「俺は、誰かれ構わず欲しいとは言わない。ましてやシンクロしようなどと、口に出せるわけないさ。だから欲しいと願った、シンクロしたいと思った。に童貞を捧げたい、心から願ったんだが…………だめだったろうか?」

頬に滑る指が横を向いていることを無言で咎めている。仕方なく私は、再び遊星と向き合うことにした。

「ダメとかそういう問題じゃないの。もしここでそういうことになったとしても、満足するのは遊星だけ。セックスは1人だけの問題じゃない。お互いがちゃんと納得したなら問題ない。でもシたいからするなんて気持ちで突っ走って、相手の気持ちも考えないでヤろうだなんて、ヤられるほうからすれば単なる強姦よ。そんな簡単なことに気付かないんだったら、遊星は一生童貞だわ」
「ハッキリと言い切るんだな」
「もちろん。僅かな年の差とはいえ社会に出るのが早かった分、人生経験はそれなりにしてますから。……とにかく私は互いが納得してない、強姦まがいのセックスは真っ平御免です」
「俺はが好きだから、が欲しい。それだけじゃ納得してくれる理由にならないか……?」

不安な様子の混じった遊星のか細い声。
それを聞いてため息をついた私に、頬にかかる指が震えたのがわかる。

「その言葉を初めて聞いたわよ」
「え?」
「私が好きって、言葉」
「……………え?」
「自覚なかったわけ? よっぽど余裕なかったのね。あのね、相手に好意を向けられてて尚且つ自分も好意を寄せてる相手なら、多少理不尽なことでも許せる女もいるってこと知らない?」

彼は泣き出しそうな顔のままで、じっと私を見ている。
開き直る変な悪知恵はあるくせに、こういう場面でのメンタルは弱いらしい。
遊星の意外な一面に少し驚きつつも、私は言葉を続けた。

「だいたい、遊星が大事なことをさっさと言わないから、こんなに拗れてるんだけど」
「俺のせいなのか?」

『当たり前じゃない』とハッキリ言い返してやれば、むっとした様子。
次の瞬間、噛みつかれんばかりの勢いでキスされた。

「……いきなり何するのよ」
「俺はが好きだし、も俺が好きなんだろう? だったら問題ない」
「確かにそう取れる発言したけれども! でも、続きするんならリボン解きなさいってば!」
「そのうちな?」





「あ、オレ、湯沸かし器の電源切ってきたわ」
「構わん。あいつらのことだ、クロウが朝飯の用意をしておいてあることすら忘れている」
「今日の朝食が明日の朝食になったりしてね」
「ブルーノ、さすがにそれ笑えない冗談だからな?」
「冗談というよりも事実になっているやも知れんぞ?」
「明日の帰り道、薬局に寄って帰ろうね。多分には必要だろうし、遊星は用意してないだろうしさ」

次の日。
マーサハウスから戻ってきたクロウ、ジャック、ブルーノにその会話を聞かされた時、私の顔から火が出そうになったのは言うまでもなかった。
そして大判の湿布薬は勿論、有り難く使わせてもらった。


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マリアマリー様からお誘いいただいたクリスマス素敵交換企画。
マリアマリー様が【ヒロインが不法侵入】、ほしみが【遊星が不法侵入】で書かせていただきました。
当初は遊星とヒロインだけの予定が、ガレージ組がどこで召喚されたのでしょう?
なんかすごくだらだらと続いてますし……。
とはいえ楽しく書かせていただきました。
声をかけてくださって本当に感謝しています。


この作品のお持ち帰りはマリアマリー様のみです。
他の方は閲覧だけに留めてください。