※一期直後捏造
『サンタさん うんめいのひとを ください』
いつだって本当に望んでいたものはアナタだけで。
「すっかり元通り…」
机の上を念入りに拭きながらはあたりを見回した。
がらんと広いリビングには以外誰もいない。
説明を求められれば困るくらいの『色々』があったわけで、でもその名残はもう殆ど見えない…。
「…でも、ないわね」
そう、の独り言の通り何もかもが元通りではなかった。
何故かは今お屋敷を離れてVとWと3人で生活をしている。
Xとトロンはカイトと一緒に異世界への取っ掛かりを探すとか何とかで引き篭もっているので、弟達が実働部隊をしているそうだ。
「僕たち下っ端だからね」
と微笑んでいたVを思い出す。
フィールドワークと言えば聞こえは言いのだろうが、結局行けと命令されたら何処なりへでも行かねばならない彼ら。
そして留守番兼身の回りの世話係として下働きのが同梱されたというわけである。
彼女が選ばれた理由は色々あるが、一番の理由は恐らくWと一番仲が良いからだろうと思われた。
思うことがあってもそれを押し殺して振舞うVは見かけには温厚だが、Wは天邪鬼で奔放な部分が全面に押し出がちである。
まあ…そんなWをが御しやすいわけでは決してなく、もっと特別に仲が良いからなのであるが…。
それにしても3人住まいの為の一般的なものとはいえ一軒家をいきなり用意するなんて…と思わなくもなかったが、彼らの財力は半端ない。
何だかんだで坊ちゃんたちがこんな狭い家で暮らすなんて耐えられるだろうかと思っていたけれど、存外Vはけろっとしていて。
「遊馬の家はもうちょっと広かったけど、あの距離感いいなって思ってたんだ」
なんて言ってをほんわかさせてくれた。
寧ろWが。
「犬小屋じゃねぇのか、コレ」
と、のたまっていては胸倉を掴みそうになった。
この家にはVやWには言うまでもないことであるが、にも部屋が用意されている。
部屋の規模もVやWと遜色のない形だった事に物凄く恐縮した。
しかもWの部屋と接する壁にドアまであるし。
「これじゃあW兄様の部屋、二倍の広さじゃないですか。いいなぁ」
「ならばお譲りします。そう、兄弟でお使いになればいいんです!そうしましょう!!」
「えぇ?やだな、冗談だよ。そんなことしたら、僕、W兄様に恨まれちゃうじゃないか」
「そんなこと仰らず!!」
Wと密会し放題みたいな部屋なんか恥ずかしすぎて困る。
関係を温かく容認してくれるのは本当にありがたいことだけど、これは気遣いとはまた別のベクトルだ。
Vへの説得を試みるに真後ろから冷たい声が飛んでくる。
「お前、そんなに嫌なのかよ」
「!…と、トーマス君…、っ、じゃなかった!W様っ…!」
「取って付けたように様付けすんじゃねぇ」
固まるとVの間をつかつかと通り、Wはドアノブのところをじっと見る。
「鍵付いてんだから問題ねぇだろ」
「僕は最初からこの部屋を使うつもりなんてないですよ?ご安心ください、兄様」
を尻目にVはWににっこりと微笑んでいて、Wもそれににやっとした笑みで応えている。
ああああこういう時に兄弟の絆の強さなんか発揮してくれなくていいんですうううう!!!!
…とは立場上とても言えない。
「…はい…もう何も申しません…」
不満があろうとなかろうと、決定権は雇い主であるWやVにある。
はXの1つ下である。
父親はバイロンと同じ仕事をしており顔馴染みだった。
Xが生まれた時に家に招待された際、バイロンの家で働いていた母親と出会ったのだという。
バイロンもまだ新婚時代の話なのだと思うとは不思議な気分になって仕方がない。
だって気付いた時にはもうXどころかWもVもの傍にいたから。
不思議な気分はさておき、その縁はが生まれるまで続き、もっと長く続くはずだった。
過去形なのはもうの両親はこの世にいないからである。
事故だった…と聞かされたような気もするが、説明をあまり覚えていない。
ショックだった筈なのだが、何より幼すぎたのだと思う。
その後はバイロンが何とかしてくれたらしい。
恐らくは母親がアークライト家で働いていたからだろうと思われたが、事故の際に一緒にいたとも聞いた気がしてもしかしたら何かしらの責任を負う形になってくれたのかもしれない。
とにかく、ある日を境に父親がバイロンに変わってしまったということを何となく苦い気持ちとして覚えている。
クリス君、トーマス君、ミハエルちゃん(まだ赤ちゃんだったからそう呼んでいたのが定着してしまった)とも兄弟になった。
両親のことをバイロンに問うのは非常に躊躇われた。
新しい父は優しかったし、それを問う事で怒らせるか傷つけるのが怖かった。
それを押し殺したまま高校を卒業した後、母親と同じ道を選んだをバイロンはどう思ったのであろうか。
お互いの胸中を問いあう事もできず黙って通り過ぎてしまったという思いはお互いにあるのではと思われた。
だけどただ一つだけと言っては15歳になった時にバイロンに1つお願いをした。
それは…。
机を見つめて立つのいるリビングにインターフォンの音が鳴り響く。
びくっと体を跳ねさせたは慌てて布巾をキッチンに置くとインナーフォンのモニターを覗いた。
そこにはXの姿が。
てっきりVかWだと思っていただけには驚いた。
「クリス君…!」
何時になっても数字呼びが慣れないは思わず彼の名前を呼んでしまう。
もう制約のようなものはないけれど、何となくコードネームで呼ぶのが定着しているXは小さく笑って。
「トーマスでなくてすまないな」
と、からかうように言った。
「なっ、た、他意なんてありません!すぐに開けます!!」
赤くなる頬を押さえながら玄関を開けると、やはりXが微笑みながら待っていた。
「…あれ?鍵は持っていらっしゃいますよね?」
「何となく勝手に入るのも気が引けてね。可愛い妹が物憂げな顔をしているのも見えたことだし」
「いいい妹って!っていうか見ていらっしゃったんですかっ!!」
「最後くらい構わないだろう。トロンがキミの願いを聞き入れるそうだ」
穏やかに言われた言葉にははたりと動きを止めてXを見上げる。
変わらず穏やかな微笑み。
だけど、そこには言い知れない複雑な気分も混じっているようだ。
長い付き合いで分かる。
多分、お兄様ちょっとだけ怒ってる。
「…クリス君…怒ってる…?」
「多少は。まさか勝手にこの輪から抜け出そうとするとは」
「だだだだって!!あたしももう19だよ?働いてるしさ!!もう…いい頃でしょ…」
最後はぼそぼそと呟きながら、折角来てくれたのに立ち話もなんですので…と部屋へ促した。
綺麗に維持されたその家は、購入時に見たままでの尽力を物語る。
に言われるままにソファに座り、彼女が飲み物の準備をしている間に鞄の中から書類を取り出した。
そこには『養子離縁届』と書かれていた。
「これを役所に取りに行けと言われた時にの気持ちを知ったよ。だいぶ前から打診していたようだな」
「…15歳になった時お願いしました」
「高校卒業後に進学しなかったのはこの為か」
「……どちらにしてもトロン様に経済的な援助を願うのは高校卒業までと決めていました」
18歳になれば働く幅も広がる。
高校さえ卒業させてもらえればなんとでもなるだろうと。
それでも働き口を探す前に母親と同じ道を提示してくれていたトロン、いやバイロンには感謝している。
当時は多少以上でも娘と同じように考えていてくれたのかもしれない。
…いや、今もか。
カップをXの前に置いて、は向かい合わせに座った。
無言で書類の入ったファイルを手に取る。
「わざわざ…ありがとうございます」
これを提出すれば目の前のXは勿論、WやV…そしてトロンとも縁が切れる。
他人になる。
元々他人だったわけではあるが、いざ紙切れひとつで呆気ないものだなと思わなくもない。
やや寂しい気分を覚えるのは致し方ないことであろう。
ちょっとしんみりするを尻目に、Xはゆったりとソファの背凭れに体を沈めた。
「まあ…正直のこの要望には驚いたんだが、私はさほど寂しいとは思っていない」
「……え、?」
何となく突き放すようなXの言い分には頼りなげな視線を上げた。
妹ではなくなるというのに然程興味もないと言うことなのであろうか。
厳しくも優しい兄だと思っていたのは独り善がりだったのかとは更に眉を下げる。
「あの扉、きちんと使っているか?」
「!」
にやりと意地悪く笑いながらの問いかけには一瞬びくりと体を強張らせた。
しかし頼りなげだった視線をきっと鋭いものに変えると、エプロンのポケットを探す。
小さな金属の触れ合う音を立てて取り出されたのは小さな鍵だった。
「何だ、使っていないのか。トーマスは何をやっているんだ」
「とととトーマス君は何にもしてません!!!」
「それはそうだろうな。その鍵をが持っているのだから」
「あ、あの部屋…まさかクリス君が…っ」
「私が設えたわけではないよ。偶然子供部屋に設置されていたから使えると思って部屋割りをしたのは私だが」
「っ!!!!」
しゃあしゃあと目の前で吐き出される驚愕の事実。
義姉と弟かと思っていたらいつの間にかただならぬ仲になってしまったWとへの過剰な気遣いと言うかなんというか。
ありがたいようで。
ありがたくないようで。
「トーマスとが結婚すれば結局は妹のままだろう」
「けっ…!!!そんなっ、だって…あたしもトーマス君も未成年だし…。トーマス君なんかまだ高校生だし…!」
「あれでプロのデュエリストとして稼ぎくらいはそれなりにある」
「それなりって!あの子はそれなり以上に稼いで……、じゃ、なくて……」
否定したいのだか肯定したいのだか訳が分からなくなってきた。
そう、はアークライト家での仕事で独りで暮らしていくことになっても十分すぎるくらいの給金を貰っている。
ここにWが増えたとしても彼は以上に稼いでくるからなんら困ることは無い。
例え家族がもう一人増えたとしても、きっと経済的な問題など起こらないであろうことは理解している。
「とにかく。こんな紙切れひとつでこの兄弟の輪から抜け出そうとは甘いと言いたいんだよ。私の妹に逆戻りするのも時間の問題だな」
微笑みながら冷めたコーヒーに口をつけるXを溜め息交じりで見遣り、は俯いた。
「どうした、」
「……お兄様。今夜のご予定は?」
「特にないが」
「今日が何の日かは知っていますよね?」
「勿論。……悪意がある質問だな」
Xは揶揄うように笑って見せた。
も悪戯っぽい笑みを浮かべて応戦する。
「いえいえ。他意はございませんよ、お兄様。最後に兄弟水入らずといきませんか?今夜はトーマス君もミハエルちゃんもきちんと帰ってきてくれるそうです。どなたかがフィールドワークの内容、楽にしてくださったそうなので」
「…」
「ご馳走を作る予定なんです。お兄様もお手伝い願えませんか?」
・
・
・
・
・
「兄様が来ているのも珍しいですけど、義姉様が侍女のエプロンを外しているのも久しぶりで新鮮でしたね。明日も良かったらそのままでお願いしますよ」
「ミハエルちゃんにそう言ってもらうのは嬉しいけど、明日は下働きに戻るから」
「それは残念」
見送り先の玄関で名残惜しそうにの頬にキスをしてVはXを振り返った。
彼に説得してもらおうと思ったのかもしれないが、Xはそれを意に介した風ではなくただ一言だけ。
「ミハエル、そんなに気にしなくてもトーマスが高校を卒業したら彼女はまた義姉に戻るそうだ」
「嗚呼、そういうことですか。なら後少し待ちましょうか」
「ちょっと!あたしそんなこと一言も…!!」
「昼間のの言葉であれば、君が未成年でなくてトーマスが高校生でなければ問題ないのだろう?」
「そそそそういうつもりで言ったんじゃないよ…!!!」
結婚という言葉を示唆されて、回避するつもりで返した言葉。
まさか今持ち出してくるとは思いもよらず。
Wがリビングで待っていてくれて良かったと心から思った。
聞かれていたら彼も乗っかってきたに違いない。
「一年後には両方解決していますね。それは楽しみだ」
「ミハエルちゃん!?違うよ、違うからね?」
取り繕うに向けられるVの微笑みは静かで優しくて可愛いけど。
三男である彼の処世術はこの笑顔に秘められていると言っても過言ではない。
つまり、何を考えているのか全然分からない。
「では行くか、ミハエル」
「はい、兄様」
「…気をつけてね。あと、ホントに違うからね」
何処まで理解してくれたか分からないけれどとりあえず穏やかに微笑む兄弟を送り出し、は玄関先でふっと息を吐いた。
兄弟の賑やかさは久しぶりだ。
アークライト家に雇われることになった直後は確かにこの雰囲気が残っていたのを思い出す。
敬語やコードネームで接するうちに忘れていた懐かしさ。
それをは紙切れひとつで消してしまおうとしている。
いや、きっと消せることも忘れることも出来ないのだろうけれど。
複雑な気分になりながら施錠をして、はWの待つリビングへ引き返した。
「やァっと行ったか」
「うん。クリス君もミハエルちゃんに渡すプレゼント忘れてきちゃうなんて、案外おっちょこちょいだよねぇ」
「……お前、ソレ本気で言ってンのか」
ぽかんとするWの言葉には首を傾げた。
「あの抜け目ねェ兄貴が忘れるワケねぇだろ。今夜はもうV帰って来ねーぞ」
「…え、っ…でも、それ、って…」
それが事実だとすると、今夜はWと二人きり…?
急激に距離を詰めてくるWに対してはびくりと体を強張らせた。
過剰すぎるほどの反応に挑発されているような気分を覚えるWは、硬直するを容赦なく抱き寄せる。
そして頬を擦り寄せるかのように顔を近付けると、さらりととんでもないことを言いだした。
「気ィ利かせたんだろ。な、一緒に風呂入ろうぜ」
「なっ…、何言って…っ!」
「今日くらい良いじゃねーかよ」
すぐ傍に見えるWの唇が不満げに僅かに尖る。
「…でも…っ」
の視線が宙を泳いだ。
同時に、が震える手でスカートの裾を掴んだのが分かる。
Wはそれを見遣ると、すぐ傍のの耳をやんわりと唇で食んだ。
「きゃっ…!」
「イイ子にしてたらご褒美貰える日なんだろ?結構頑張ったと思うけどなァ…俺」
耳朶を甘く噛んで吹き込むように囁かれる。
吐息がかかってくすぐったい。
「鍵もお前に渡してよォ。品行方正だったろ?そろそろサンタさんが俺の欲しいモノくれてもいいと思うんだけどなァ」
言葉を吹き込まれる度には身を縮める。
腕の中で委縮する体に、しかしWは容赦なく手を這わせた。
腰を抱き寄せていた手での胸を覆うと後ろからきつく抱きしめる。
「やァ…っ、…トーマス、君……っ」
「兄貴達は何も知らねーからあんな部屋用意しやがったんだろーけどな。扉一枚隔てて我慢すンの辛かったんだぜ」
掴んだ胸に指が埋まる感触だけでWは息が上がるのを感じた。
想像以上に彼女は柔らかいもので出来ている。
ふっくらとした丸い形を確かめるように掌でなぞった。
「くぅ…ん……」
溜め息のような声を漏らし、はWの腕の中で体を震わせることしか出来ない。
彼の手の動きが拒絶のための力を抜いてしまうのである。
すりすりと服の上から体を撫で回すWの呼吸が浅くの耳を掠める。
「プレゼントも何もいらねぇからお前をくれよ…」
切ない懇願にも似た声音。
珍しく殊勝な態度を取るWには背けていた顔をゆっくりと向けた。
そこには何故か悲しそうな表情のWがいて、は戸惑った。
困っているのは自分の方だと言うのに。
「何で、トーマス君がそんな顔してるのよ……」
訳も分からず罪悪感を刺激されてしまう。
「…あの離縁届ってなんだよ」
「えっ?」
「養子縁組解消してどうする気だよ…っ!俺置いて出ていくのかよ!!」
ぎゅうっとWの手に力が籠り、は痛みに顔を顰めた。
「許さねぇぞ。お前が何処に逃げても必ず探し出して連れ戻すからなっ!」
「ちょ、ちょっと…待って。離縁届なんて何処で見たの」
あれはWに見つかるのが一番厄介だから部屋に置いておいたはずなのに。
流石に勝手に部屋に入ることなど考えられない。
奔放なWではあるが、そういう倫理はきちんと持ち合わせている。
「机の上に置きっぱなしにしてただろーが」
「あたしの部屋の?」
「ンなわけあるか。そこだよ。そのソファのところだっての」
「…」
それこそ『ンなわけあるか』という気分である。
ぽかんとするではあるが、書類についての否定が無いことはWを更に苛立たせた。
「どっか行かれる前にお前を俺のものにしてやる…。来い!!」
「きゃっ!ま、待って、待ってってば…!!」
ずるずるとリビングからを引っ張り出して、向かうのは風呂場だった。
まだ何の準備もしていない筈で、的にはそこも引っかかるがそれよりも気掛かりなことがある。
「トーマス君、その離縁届、見つけた後どうしたの」
「ハァ!?破り捨てたに決まってるだろ!」
「ええええっ!?」
何と言うことだ。
折角Xが持ってきてくれた書類を。
しかしの言葉はWの怒りに油を注ぐばかりである。
「ってかよォ、お前自分の体の事よりそっちの方が気になるって訳か。そんなに俺から離れたいのかよ」
「そ、それは誤解なの。あたしトーマス君から離れようなんて思ってなんか」
「うるせー。強姦されたくなかったらちょっと黙れ」
吐き捨てるように言って脱衣所の壁にを押し付けたWは、強引に彼女に唇を押し付けた。
黙れも何も口を塞がれては反論のしようもない。
Wは乱暴にの唇を舌先で割った。
「んぅっ」
ぬるんと滑り込んでくるWの舌。
じんわり広がる彼の味。
本来ならきっと脳の奥が蕩けるように痺れて、堪らない気分になったに違いない。
なのに息苦しい程の熱烈なキスを受けて冷たさが増していくばかりの気分は。
「…ぅ、…、と、ます君…っ、お願い……やめて…」
の頬を伝う透明な雫。
ぼろぼろと零れてくるそれを見止めてしまうとWもやや罪悪感を感じずにはいられない。
こんな日に泣かせたい訳ではないのだから。
小さく舌打ちだけしてWはから体を離す。
「…泣くなよ」
「…あの、あのね、ごかい、だから…。あたし、トーマス君おいて、どっか行ったりなんか、しない、から…っ」
泣きながらの途切れ途切れの言葉にWはなんとなく冷えていく頭を掻いた。
「分かったって。話聞くから…落ち着いて喋れよ」
「…ん…」
の目元を拭ってやり、Wはの言葉を待った。
自身も自分の服の袖で頬を擦ったりしていたけれど、やがて呼吸を整えるように息を吸ったり吐いたりを繰り返してから口を開いた。
「…15歳の時に、お義父さんにお願いしてたの。高校を卒業したら自立するつもりですって。その時に昔の名前に戻ろうと思いますって」
「……親父は何て言ったんだよ」
「僕の決心がつくまで時間をくれないかって言ったわ。…結局それが今日だっただけなの」
アークライト家で働くことを提示されたのもその時だった。
母親と同じ仕事をしてみてはどうだと言ってくれたバイロンは、きっと多少以上の同情を持ってくれていたに違いない。
まさか自立よりも先にアークライト家で働いているなんて当時の自分は思いもしなかったし、Wとの関係だって当時の自分からすれば予想外だったけれど。
「ホントにトーマス君から離れようと思ったわけじゃなくて…。でも……ごめんね、不安にさせて」
逆の立場であったなら、きっと同じように不安に思うに違いない。
の言葉に早とちりしたことを知ったWはばつが悪そうに視線を逸らす。
そんなWにはそっと手を伸ばした。
胸板に頬を寄せてやんわりと抱き付く。
「…、?」
「……中途半端な態度が、トーマス君を不安にさせたんだよね…」
だから…と、抱き付きながら俯くの耳がほんのり赤い。
「い、いい…よ。一緒に、お風呂……入ろ…」
「!」
恥ずかしそうに顔を伏せたままのを見下ろしてWはの言葉を頭の中で反芻する。
「……マジで、良いのかよ」
「う、…うん…。あ、でもお風呂の準備出来てない、よね…。あ、あの…すぐ準備するから……」
「…いや、それなら問題ねェ」
「……え?」
「とととトーマス君…あ、あんまり見ちゃダメ…」
先程の『一緒に風呂入ろうぜ』という言葉はあながち勢いではなかったようだ。
が二人を見送っている間にWがお湯を張っていたらしい。
お陰様で待ち時間もなくこうして二人で湯船の中にいる。
Wの足の間にが身を沈めて、背中を預けるような格好だが、腕で胸元を覆っているので全体を見ることは出来ない。
それでも湯船の中に揺らぐの白い胸元や太股の破壊力は十分だったが。
「いや、見ちゃダメも何も、見るなって言う方が無理…痛ェ!」
「は、恥ずかしいからじっと見るの禁止!!」
ぎゅうっとWの二の腕を抓ったが頬を上気させたままでWを振り返った。
目尻の辺りまで赤く染めて見上げてくる様は非常に扇情的である。
「何だよ」
どぎまぎしていることを知られたくなくて素っ気ない態度を取ってしまった。
そんなWを知ってか知らずかはへらっと笑ってWの胸板を軽く指先でつつく。
「…ちょっとだけ、昔思い出して…。皆でお風呂入ったこともあったなーって」
「ガキの頃だろ」
「……あの頃と比べて、トーマス君は逞しくなったね」
悪戯な指先はつうっと短い距離を辿ってお湯の中に消えた。
実際そんなつもりでなかったとしても誘われているような錯覚を感じる。
「…だって」
「え?」
「お前だってあの頃とは違うじゃねぇか」
ざぶ、と湯船のお湯が揺らいだ。
Wの手がの腕を掴み、ぐいっと開かせる。
「や…、っ」
一瞬の抵抗を試みるけれどWの力に敵うはずがない。
無防備に露わになる胸をWの大きな手が包み込むように掴んだ。
「あ…っ、んン…」
「さっき触った時より全然やーらけぇ…」
服の上から胸を掴んだ時よりももっと指が柔らかく埋まり込む感触。
仕事上Wは女性と交流を持つ瞬間が多い方であると思う。
しかしどんな女の体すら、彼女の感触には敵わないだろう。
そもそも以外に興味など無い。
「…んっ、は…、トーマス君…っ」
「やらしー声で名前呼ばれると興奮すンな」
「もうっ…あ、ちょっと、待ってぇ…っ」
撫で回されている間にぷつりと膨らんできた先端をWの指先が抓み上げる。
瞬間、体に淡い電流が駆け抜けたかのような刺激が走った。
「あはぁぁ…っ、だめ、っ」
「嘘吐け」
きゅむきゅむと抓まれたり引っ張られたり。
その都度びくびくと背中をしならせながらは小さく下唇を噛む。
「あうぅ、も、もうちょっと優しく…」
「悪ィ、痛かったか」
興奮の度合いが強すぎてなかなか手加減が難しい。
それなら…とWはお湯の中での体を反転させた。
「ふぇ…っ!?」
まさかの向かい合わせ。
Wの膝の上に載せられ逃げないように腰を掴まれる。
「や、うそ…これ…」
「ちょっと狭いな。実家の風呂ならもっと余裕あったのによ」
「狭いとか…、そーゆー問題じゃなくて…、やァん…っ」
「へへっ、これなら痛くねぇだろ…?」
掻き抱かれるままにWに体を預けていたけれど、掬い上げた胸にWの唇が被さった。
ちゅう、と抓まれて敏感になった乳首を吸い上げられる感覚。
「あぁっ、あっ、あっ…はぁあ……」
息が止まりそうな程の刺激が脳内を蕩かすかのようで。
「やぁ、あ、あぁん…っ!」
ねろねろ這いまわる舌先は円を描きながら乳首を捏ね回す。
の甘い喘ぎ声が浴室に反響する中でWは夢中でその肌の味や感触を貪った。
「……ずっとこうしてやりてぇと思ってた。…堪ンねーな」
胸元から少しだけ顔を上げてにやっと笑うWと目が合う。
雄の本能の色を滲ませた視線に、訳も分からずぞくりとして反射的に目を逸らした。
そんな風に見つめられるとドキドキして胸だけでなくお腹の奥も苦しくなる。
「逃げんなよ」
行動を咎めるWの声が低く鼓膜を揺らした。
怒っていると言うよりは、拗ねている声。
長く一緒に暮らしたからこそ分かる微妙な色合い。
しかしそこにはの知らない興奮の色が見え隠れしているのである。
「…あんまり、見ないで…」
「無理っつっただろ」
あらゆる意味で視線の遣り場を失うが弱々しく瞼を伏せた瞬間を見計らって、Wは殊更優しく唇を触れさせた。
びく、との肩が震えるのも一瞬のこと。
やんわりと重ねられる感触に徐々に体の力を抜いていく。
「ん、…ン…っ、……」
そっと重なったところをちゅっちゅっと何度も軽く食むWの唇は、少しずつ深くなり遂に侵入を果たした。
柔らかな舌先が触れて、Wの味がの口内に広がっていく。
胸への愛撫が直接的な感覚を刺激するのに対し、キスはもっと間接的だ。
Wと舌先を絡め合わせているという事実にドキドキして。
Wの体の一部が自身の中にあるということにゾクゾクする。
恍惚感にうっとりしながら、無意識にWの首に腕を回した。
の体が従順な態度を見せたのを良いことに、悪戯なWの手がの胸をゆったり包み込む。
「んー…っ!」
お湯に浮かぶそれを下から両手で掬い上げてカタチを変えてやる。
揉みしだいては輪郭を掌でなぞり、触れる乳首をきゅっと抓む。
それだけでは息が詰まるのではないかと思う程に感じてしまった。
「んっ、んっ…はぁっ…」
逃げるように息継ぎをするけれど、追いすがってくるWの唇にすぐ捉えられてしまう。
眩暈すら引き起こす程にたっぷりと奪われ続けた。
やがて、キスの合間にちゃぷちゃぷとお湯を揺らしてはその柔らかな胸を撫で回していたWの手が不意に離れる。
そして胴の中心を撫でるように伝いお臍の窪みを微かになぞった。
「ぅン…っ、あ、…トーマス、くぅん…っ」
流石に下腹まで伝い降りたその手の意図が分からないほど子供でもない。
ちゅるりと絡めた舌を吸った後、ようやく離れたW。
見下ろすの唇の端には飲み込み切れなかったのであろう唾液の痕が。
「…なァ、この下ってどうなってんだ…?」
べろりと顎から唇までの唾液の痕を舐め取りながらWは意地悪く言葉にする。
だけど聞かれても分からない。
体内はさっきから苦しいくらい収縮を繰り返している気がするけれど、その感覚すら初めての体験である。
「わ、分かんない…。でも、さっきからのぼせそうでクラクラする…」
ふわふわと空中を漂っているかのような浮遊感。
水中のWの膝の上に乗せられているせいか、性感帯を刺激された快感のせいか。
長くお湯の中にいたからだけではないだろう。
とは言え頬を上気させて浅い呼吸を繰り返すは確かに少し苦しそうで。
「…続きは上がってから俺の部屋でするか…」
誰もいないのだから焦ることもない。
Wはの体をお湯の中から抱き上げた。
・
・
温まった体がひんやりとしたシーツに沈み込み、は僅かに身じろぎをして体を丸くする。
それは裸であることを恥じらっているようにも見え。
「隠すなって」
「ひゃ…っ」
圧し掛かってきたWがぴっちりと閉じられていた膝を掴んで割り開いた。
「いやっ…!何するの…っ」
必死で足を閉じようと試みるけれど、Wの力の方が強くてびくともしない。
自分でも見たことのないような場所を注視される日が来るとは。
「見ないでぇ…トーマスくぅん…っ」
「あんまカワイー声出すんじゃねーよ。優しくできなくなるだろーが」
今にも泣き出しそうなの声に触発されたようにWが体を屈めて、下腹にちゅっとキスをした。
「はぅ…っ」
普段あまり表に晒されることのない滑らかな皮膚が敏感に反応する。
震えるの内股を押さえつけて、Wは押し付けた唇をゆっくりと下にずらしていった。
「!」
その感覚で何をされるかを理解したはやはり足を閉じようとするが、既に足の間にはWの体が収まっていてどうにもならない状況だった。
ゆっくりとWの指先がの秘密の部分を広げていく。
普段は閉じられた部分が冷たい外気に触れて、はぶるりと身を震わせた。
「ピンクのがぴくぴくしてるな」
「やぁあっ、み、見ないでよぉ…っ」
「またそれかよ。もっとカワイーこと言えねーのか?」
吐息がかかる。
そんな近くまでWの顔が近付けられているのかと思うと羞恥心と恐怖心でどうにかなりそうだった。
しかしそんなの気持ちを知る由もなく、Wの舌先がぬるりと割れ目を舐め上げる。
「んうぅっ!あ、やぁ、ん…っ!ダメ、汚いよォ…っ」
自身で触ることすら抵抗があるような場所を、何の躊躇いもなく舐めたW。
信じられない気持ちで顔を両手で覆うを、Wは上目に見遣る。
「馬鹿だな。お前が汚いわけねぇだろ」
「でもっ、そんなとこ…っ、あ、あぁ…っ!!」
ちろちろと尖らされた舌先が割れ目に潜り込み、の何かを掠めるように舐めた。
瞬間、の腰に広がる甘い快感。
「な、何…?何、今の…」
「感じたか?もっとしてやる」
先程は掠めるように触れたWの舌先が、もっと的確にの体の一部分をつついた。
「ひぁっ!!!」
内股を押さえつけられ、折りたたまれていたの爪先が浅く宙を蹴り上げる。
ぞわぞわする腰と、更に重苦しくなる体内の感覚。
「あ、あ、っ、それ…っ、とー、ます、くん…っ…!」
唾液を含んだ舌がざらりと擦りつけられている。
未知の刺激には背中をしならせて天井を仰いだ。
その間にもWの舌先はの足の間を往復している。
刺激を受ける度に足の間のWの体を反射的に膝で挟み込んでしまう。
無意識下による反応だからは気付かなかったが、お陰様でどういう時に反応するのかはWに筒抜けだった。
「こうするとイイんだろ?イイって言えよ」
「そ、んな、こと…っ、わ、わかんない、よぉ……っ」
足の間で円を描くWの舌先が、きゅっと何かを押し込むような動きをした。
「ああぁぁ…っ」
文字通り腰が跳ねる。
緊張した足が何もない空間を蹴った。
ぞくりとする不思議な感覚は不快感とも快感とも形容しがたいが、体内にわだかまる疼きが続きを欲しがっていることはにも分かった。
「トーマス、君…っ」
「…もっとだろ?」
「何で……」
「そんな甘えた声で、分からねぇ方がおかしい」
知らずWに媚びるの体がいやらしく開かれていく。
ぴちゃ…と濡れた音を立ててWの舌先がねろりとの足の間に埋まり込んだ。
「んっ…あ…、あぁぁ……っ」
さっきよりも強くWの舌先がの突起を舐め回す。
「はぁっ、はぁっ…あは、あ、っあぁ…っ…!」
比例して快感の度合いが強くなった。
思わず縋るものを探して彷徨う手が、Wの髪に触れる。
「…強請ってんのか」
「そん、なんじゃ…!で、でも…っあ、あ…おかしく…なるぅ…っ」
「まだ……こんなもんじゃねぇぞ」
の求めるような行動に触発されて、Wは舌先を更に深く潜り込ませ始めた。
誰も侵入を許したことのない体内にWの舌先がつぷりと埋まる。
「うあっ、何、入って……っ」
異物感にも似た感覚は、の肌を粟立たせた。
小刻みに出し入れを繰り返しながら徐々に深くなるWの舌先。
時々それを蠢かせて、彼女の体内を堪能するかのように刺激する。
「はぁぁ、中、舐め、ちゃ…っ、あっあっ、すご、いぃぃぃ…」
悲鳴にも似た喘ぎに裏打ちされるように、掴んだの腰はびくびくと何度も淡い痙攣を繰り返していた。
溢れた愛液もが感じていることを物語る。
頬を伝う程のそれは、の内股をもじっとりと濡らす。
体内から舌先を引き抜いたWは、それを優しく舐め取って、ようやく顔を上げた。
「もういいか?俺もそろそろ気持ち良くなりてぇんだけど」
「…え、…?」
荒い呼吸を繰り返しながら虚ろな視線をWに向けた。
目の前のWは頬を手の甲で拭った後、改めての足を抱え上げる。
「…、あ…っ」
ぴたりとの足の間に赤く充血したWの一部が押し当てられるのが見えては体を緊張させた。
子供の頃に記憶する彼の一部とは随分様相が違う。
ぎくりとしてソレを見つめるに、Wは苦笑を漏らした。
あまり見るな、と言いたかったが先程自分はにその台詞ばかりだと言ったところである。
「初めて見るんじゃねーだろ」
「だ、だって…全然違う…し……」
特に、サイズが。
とはいえそれを口にするのは生々しくてには言葉に出来なかったけれど。
「…力抜け」
覆い被さってきたWの声が耳元でそう囁いたかと思うと、の体が圧迫感に軋んだ。
「あう…!」
体をこじ開けられるような鈍い痛み。
は思わずぎゅっとシーツを握りしめた。
「キツ、いな…」
薄らと目を開いて見上げると、眉を寄せて目を細めるWが目に入った。
僅かに開いた口元から赤く濡れた舌が覗く。
アレがさっきまで愛撫を施していたのだ、と思うと、きゅうにいけない気分が込み上げる。
「っ…あんま、締めんな…っ」
「そんな、っ…む、無理……」
掠れた声がのいけない気分を更に煽った。
男の欲情した声色に性衝動が揺さぶられる。
興奮に僅かにの力が抜けた隙を縫って、Wが緩やかに腰を揺らすと、飲み込まれるようにして収まった。
「っ…はぁあ…お前のナカ……すっげぇ…」
「んうっ…そ、んな声…出さないで…あ、あ、…っ、う、動かしちゃ…」
「無理……止まんね…」
小刻みに腰を揺らされると体内の奥に触れるような感覚がする。
「あぅんっ…トーマス君…っ」
それはもう痛みなのか快感なのか、痺れきったの脳には判断が出来なくて。
だけど。
浅い呼吸を繰り返すを見下ろすWの首には震える手を回した。
「トーマス、君と…こうなれて……あたし、嬉しい、よ…」
「!」
少しだけ困ったように笑う。
こっちこそだ、と思うWは、しかし言葉よりも体が先行した。
ずるりと引き抜かれた楔が内壁を擦りながらの体内を蹂躙する。
「ひ、あ…っ、あっあっあっ…!」
「カワイーこと言えって言ったけどよ…っ、いきなりは、反則だろーが…っ」
本当は優しくしたいのに彼女が可愛すぎてそれが叶わないなんて。
「や、あ、あっ、あっ、激し、…っ」
ベッドの軋む音との喘ぎ声が同じ間隔で部屋に響いた。
行為をなぞらえているようでは凄く恥ずかしかったが、Wが突き上げる度に自然に声が漏れてしまうのである。
「あっ、あっ…あぁぁ…、とー、ます…くぅん…っ」
深々と貫く度にの体内はきゅうきゅうと戦慄いてWを苛んだ。
加えて、見下ろす胸が何度もしなる度にWを要求しているようで堪らない。
「はー…っ、、すげぇ気持ちイイ…。お前は…?イイか…?」
するりと頬を撫でるWの声は本当に気持ち良さそうでは心臓が早くなるのを感じた。
そうするとやはりの体内も鼓動に比例するように脈動する。
搾り取るかのような蠢きにWはぶるりと体を震わせた。
「気持ち、イイ…かは、分かんない…けど……すごく、どきどきする…」
少し苦しそうで切なげな顔をするWを見ていると爪先から痺れのようなものを感じる。
「分かんねーなら…こういうのはどうだよ…」
Wは体を屈めるとの背中を抱き寄せて、呼吸に揺れる胸にかぶりついた。
「っ!」
器用にもそのまま律動を再開するW。
未知の器官による刺激だけではなく、性感帯への直接的な刺激にの体は震え上がった。
「あぁっ、やぁ、それ…っ、あっ!あっ!あっ!」
「今度こそ、イイだろ…?」
声のトーンが明らかに変質したことに満足して、Wは更にを追い立てるように速度を上げる。
体のぶつかる音や愛液が掻き混ざる音、そしてWがの胸をしゃぶる音が部屋中に響いていた。
「はぁぁ、っん…!トーマス君…っ、それ、だめ…っ!お腹が…っあぁっ…苦し、…っ」
髪を乱して悶えるが縋りつくようにWの背中に爪を立てた。
それでも容赦なく攻め立てるW。
思い切り打ち込んでは引き抜いてを繰り返し、最奥を叩いたと思った時、の乳首を唇できゅううううと食んだ。
「あぁっ!何…っ、何か…あっあぁぁぁ…っ」
ぎゅうっと下腹がきつく収縮する。
「――っ!」
それは一瞬だった。
ぴんと強張ったの爪先が、次の瞬間にはがくがくと震える。
合わせての体内もびくびくと脈動しながら収縮と弛緩を繰り返した。
「う、っ……」
上り詰めさせたのはWに間違いはないのだが、予想以上の体内の蠢きに搾り取られるようWも欲望をぶちまける。
の体内に迸ったそれは、収まりきらずにシーツに滴った。
嗚呼、零れてしまった…。
と、ぼんやりとした頭で考える。
熱い感覚は数度にわけての体内に溢れたが、やがて脈動を終えたWが体内から引き抜かれた。
Wもぼうっとしたように無言で荒い呼吸を繰り返している。
「…トーマス君……」
「……何だよ」
「…あの、もう一回…一緒にお風呂入ろっか……?」
多分、今からならもう少し冷静にゆっくり入れると思う。
「…どうして、今日だったのかな」
「何がだよ」
「養子縁組を解消する事をお願いした時、お義父さんは『僕の決心がつくまで時間をくれないか』って言ったわ。だからあたし、養子縁組も解消しないまま自分の家で働いてた」
だけどクリスマスというこんな日をわざわざ選んでトロンは離縁届をXに託したのである。
何についての決心が固まったというのだろう。
「忙しくて先延ばしになっていただけで今日は偶然…??」
「…いや、それなら多分偶然じゃねぇ」
「え…?何か、今日に心当たりがあるの…?」
「心当たりってか、気付いたってか」
もそりとWが布団の中から這い出た。
情事後の殆ど裸のままだから、見ている方が何となく肌寒い気分になり、は布団の中で自らを抱き締めるように腕を掴んだ。
「これ、サンタから貰った今年のプレゼントだぜ」
「まさかトーマス君の口からサンタさんの名前が出てくるなんて…10年前くらいに『サンタの正体見切った!』って報告してきたのは何処の誰だっけ?」
「うるせー黙って見ろ」
差し出されたものを見るの視線が固まった。
ニヤニヤしながら布団の中に入ってくるWにぎこちない視線を向ける。
「…何コレ…」
「見て分かんねーのか?婚姻届に決まってるだろ」
きっちりと保証人にまで名前の入ったそれは、妻になる者の欄こそ空欄ではあるが、それ以外は全部埋まっている。
後はW…トーマス・アークライトの隣にが署名して提出すればそれで手続きが完了するであろう代物だった。
ふと、Wは月初めくらいにふざけてトロンに言った言葉を思い出す。
『今年はプレゼントいらねぇからを俺に下さいってサンタに言っといてくれっか?』
『…君は素直じゃないな。まだその存在を信じているだなんて僕は思いもしなかったよ』
『別にいーだろ?』
『……構わないよ。それなら僕も決心がつくというものだしね』
トロンは不思議と穏やかな表情を浮かべていたのが印象的だった。
バリアン世界と縁が切れてからのトロンは皮肉っぽい笑みを浮かべる事も少なくなっていたからあまり気にはしなかったけれど。
その時の『決心』というものの言葉が示唆するベクトルがイマイチよく分からなかったWだったが、の言葉で繋がった。
「離縁届なんか出してもソッコーで娘として戻ってくるって分かったから離縁届なんつーもん寄越したんだろうぜ」
「…お、お義父さんったら……」
あああああこれではXの言った通りではないか。
さっきVに一年後を仄めかしていたけれど、半年も待たずして義姉に逆戻りだ。
っていうか、それでなくともWによって離縁届は恐らくゴミ箱の中であろうし。
また自分で取りに行くのも馬鹿馬鹿しく結構面倒くさい。
もしかしたら離縁届は出される事なく、Wとの婚姻届が提出されてしまうのかもしれない。
Wは溜め息を吐くに白く縁取りされたちっちゃな赤い靴下を見せる。
「なぁに、それ」
「吊るして寝るに決まってるだろ。クリスマスだぜ?」
明らかにWの足には合わないサイズのそれには苦笑を返す。
「…何言ってるの。サンタさんにはコレ貰ったんでしょ。欲張るとコレ取り上げられちゃうよ」
それにそんな小さな靴下に何を貰うつもりなのだろう。
せいぜいキャンディや小さなチョコレートが関の山のようだが。
「んー…もしかしたら秘密の部屋の鍵もくれるんじゃねぇかなーって思ってんだけどどう思う?」
「…!」
「俺、ずーっと秘密の部屋の鍵が欲しくてさァ。結構イイ子にしてたと思うんだよな」
確信犯の笑みを向けられたは赤い顔で視線を逸らした。
「どう思うって言われても…あたし、サンタじゃないし…っ。し、知らないから!」
「ま、期待して待っとくかな」
珍しく声色を弾ませるWはやんわりとの体を抱き寄せる。
柔らかで滑らかなその肌の上に手を滑らせてしっかりと抱き締めた。
「トーマス君ってば…」
「寒いだろ?もっとこっち来い」
「…ん、もう…」
こんなことをしていては鍵を仕込む事も出来なくなる…と思わされている自身に気付いてはやはり少し赤面した。
何でもかんでも与えてしまっては義弟の教育にはよろしくないだろう。
そうと分かっていながらもきっと一生彼に望まれれば、その通りに従ってしまうに違いない。
もそもそと布団の中で繰り返されるキスを額や頬にくすぐったく感じながらこっそりと思うのである。
「あたしも ずっと きみがほしかった」
願う事は自由だろうと毎年願い続けたそれは、今夜成就された。
終
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ここまでご覧くださってありがとうございました。
あまりチャレンジしたことのないキャラはいつも『これが最後かもしれない』と思って書いてしまいます。
お陰様で長い長い…本当にすいません。
色々盛り込みすぎた感はあるのですが、ここまでお付き合い頂けていれば幸いです。
さて今回のW君は『myosotis -シノグロッサム-』の有栖様と企画的に書かせて頂きました。
メインテーマは『サンタさん うんめいのひとを ください』です。
嬉しいことにブログでクリスマス一緒にやりませんかと一人で書いていたところを拾って頂きまして!!!
お声を掛けていただいたのです!!!!
いやぁ、嬉しすぎました!良かったらまた何か是非やりましょう!
有栖ちゃん、ありがとうございました!!
こちらの小説は有栖様のみお持ち帰り可となっております。
他の皆様は閲覧のみで宜しくお願いいたします。