空き時間


イベントを終え、次の現場への移動も済んだ。幸か不幸か移動距離は短く、次の収録までにはかなりの空き時間が出来てしまったのである。
、セキュリティのお前がよもやデュエルが出来んと言うことはなかろうな?」
「え?ええ、まあ、その…多少は…」
「ならば相手になれ」
「あ、あたしがですか!?」
いやいやいやいや!あたしなんてとても無理です!
と、絶叫するを余所にジャックはもうデッキを取り出しデュエルする気満々である。
「早く用意しろ」
「や、だからあたしなんか…」
「いいからさっさと用意しろ」
「……横暴ですうぅぅ…」
言い出したら聞かないジャックである。
仕方なくはセキュリティ専用のデッキを取り出した。
セキュリティ専用とはいえ自由に強化も改変も認められているが、は基本的に自分のカードは持ち込まない。
と、いうか正直入れ替えが面倒くさい。
「セキュリティのデッキでレッド・デーモンズ・ドラゴンが倒せたら、明日からはあたしがキングですよおぉ…」
「先攻はくれてやるから屁理屈を言ってないでさっさと引け」
「ううう…。では、あたしの先攻で……」



「おい、冗談だろう」
「だから!あたしのデッキじゃ無理ですってば!」
ものの3分で決着してしまった事にジャックは呆れた表情でを見る。
「退屈しのぎにもならんではないか。と、いうよりそんなに弱くてお前仕事に支障はないのか」
「さりげなく酷いですね…。そこらへんのアマチュアならこれで十分なんです!ジャックが強すぎるだけで…」
「本気度が足らんのではないか?俺を相手にしてそもそも勝負を捨てているだろう?」
「…うーん、まあ…絶対敵わないだろうなぁとは思ってましたけど…」
「ならばもっと本気になれ。もう一戦だ」
「本気にって…そう言われましても…」
先程の一戦で余計に『敵わない』という気分が膨らんでいる。
そんな状態で本気になれと言われても、流石に易々とスイッチは切り替わらない。
「…ならばこうしよう。俺のダイレクトアタックが通るたびにお前は服を脱げ」
「ええええっ!」
「逆にお前のダイレクトアタックが俺に通ったら、その回数だけ何でもお前の言う事を聞いてやろう」
「ええええっ!?な、何でも…ですか?」
「ああ」
「お仕事関係でも?」
「勿論…というかお前は欲が無いな。仕事関係で使うつもりなのか」
「はい」
「…」
ジャックは呆れた顔をするが、凄く魅力的かもしれない。
例えば3回ダイレクトアタックが通れば3回はジャックに仕事関係で我儘が言える。
どんなに嫌がりそうな仕事でも現場に連れて行ける。
常々は自分はマネージャーか何かなのではなかろうかと思うことがあるが、もしかしたらそれを加味して御影と共にここに配属されたのかもしれない。
とにかく、ご機嫌を損ねないように気をつけなくとも、言う事を聞いてくれるなら楽ができる。
「…やります。そのルールで。あの、あたしのデッキ使ってもいいですか…?」
「お前…デッキを持っていたのか」
付き合いを始めて暫く経つが、が自分のデッキを持っているのは初耳だった。
「何故さっきは使わなかった」
「カードの入れ替え面倒なんで仕事中に自分のデッキは使わないんです。でももう入れ替えとか悠長なこと言えないルールなので。全部あたしのデッキで」
「面倒…!?結局手を抜いていたのではないか!」
「えええ、さっきのはさっきので本気ですよぉ…」
「ええいやかましい、さっさと引け!先攻もくれてやる!」
「いいんですか?じゃああたしの先攻で…」



「おい、冗談だろう」
ジャックは呆然とを見ていた。
いやいやいやありえない。
「…」
ふるふると体を震わせて床に突っ伏す
その姿は無惨なものである。
「お前…あんなにもったいぶってそれなのか」
「うえぇぇぇ…何で通らないのおぉぉぉ…」
ブラウスとショーツだけにされた姿で丸くなっている様は最早可哀想という言葉以外で形容できない。
因みにブラウスの中身、つまり下着は無惨にも破壊されてライフはゼロになりました。
「…お前、やはりセキュリティは辞めて俺と結婚しろ。もうそれしかお前を救う方法はない」
「嫌!嫌です…!!そんな絶望的な理由で結婚を決めたくありません…!!!」
「いや、そうは言うが、お前それで自分の身が守れるのか。今対峙している俺が犯人だったらどうする。想像するだに恐ろしいんだが」
「ああああ、言わないでくださいぃ……普段は…普段はもっと戦えるんです…!」
めそめそするを見ていたら本当に小動物…例えば食物連鎖の最底辺にいるようなウサギやハムスターみたいなそんなものを苛めているような気分になってきた。
と、いうか本気で心配だ。
何故こいつはセキュリティと言う職を選んだのだろうか。
…自分と出会うためか。そうかそうに違いない。
と、自己完結したジャックは、殆ど裸で小さくなっている可哀想なウサギを抱き上げる。
「もういい。本気で可哀想になってきたからとりあえずこっちで俺を愉しませろ」
「え…っ」
「これなら勝ち負けも無い。最初からこうすべきだった」
「あ、っ…やぁ…ジャック…」
「か弱さの中の庇護欲は小動物の特権だな」