バレンタイン-ブルーノ


チョコレートを持って来たは、そこで意外なブルーノからの質問を受けた。
「ばれんたいんでー…って、何?ごめん、僕記憶喪失だからそういうこと全然覚えてないんだ…」
申し訳なさそうにへらっと笑ったブルーノをはきょとんと見つめ返す。
「記憶喪失ってこんなことも忘れちゃうの?結構日常的なことは忘れないんだと思ってた」
「日常的なことなの?」
「うーん、日常的って言うか…えぇっと、クリスマスみたいなものよ。一般的って言うの?」
「ふぅん…?クリスマスってみたいなものかぁ。こんなに短いスパンで贈り物をしあうって結構大変だねぇ」
少々ピントのずれた意見ではあるが、客観的に見れば確かに一か月おきくらいに贈り物をしあっていることになるのは確かである。
更に来月にはホワイトデーなんていうものもあるのだが…ブルーノのこの発言を聞く限り、お返しはあまり期待は出来ないかもしれない。
「とにかく!今日は女の子から好きな人にチョコレートを贈る日なの!だから…はい」
鞄の中からごそごそと取り出された薄い箱。
丁寧にラッピングが施されているそれは、男性に贈るもののわりに女性受けの良さそうな見た目だな、という印象をブルーノに与えた。
「ありがとう。でもなんかただラッキーな感じなんだけど」
そもそもイベントの知識が無かったブルーノにしてみれば、偶然チョコレートをもらっただけ。
バレンタインデーにどんなチョコレートが貰えるのだろうかとか、そういう楽しみなど皆無に等しかった。
「ああ、もう。こんなことならクロウにお願いして予備知識だけでも教えておけば良かった…」
そうすればもう少し感動もあっただろう。
ブルーノは困ったように笑いながら頭を掻いた。
「来年は楽しみに待ってることにするね。食べてもいいよね?」
「そうね。来年こそ全力を込めることにするわ…。どうぞ、食べて」
青いリボンを解き、包装紙を剥がす。
普段から貰うお菓子とは雰囲気の違うパッケージ。
流石にそういうイベントなのだとブルーノは漠然と感じた。
「凄く美味しそうだけど凄く高そう…チョコレートって結構高いよね」
「そんなこと気にしないの。こういう時だけだしね。…ブルーノ、バレンタイン知らなかったけど」
「それはごめんってば。でも…なんか僕だけ食べるって気が引けるなあ…も一緒に食べようよ」
はい、口開けて?
箱の中から取り出したチョコレートを差し出された。
しかし贈られた側の本人が先に食べずに、贈った側の自分が先に食べるというのは…。
「ちょっ、なんであたしが先に食べるのよ。ブルーノからでしょ」
差し出された手を押し返しながらは言った。
「えぇー…じゃあが食べさせてよ」
「あたしが?もー、世話の焼ける…」
こういうことを言い出したら聞かないブルーノの性格は良く知っている。
は箱の中に指を突っ込み、チョコレートを摘みあげた。
パウダーシュガーのふりかけられたそれをブルーノに差し出す。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
人懐っこい笑みを浮かべて礼を言うと、それをぱくんと口の中へ含んだ。
「あ!もう…指まで食べたー…」
ちゅぷん、とブルーノの唇から指先を引き抜きブルーノを睨むが、本人は満足そうにチョコレートを味わっている。
「凄く美味しいよ」
「そう、良かったわ」
「じゃあはい、の番」
先ほど差し出されたチョコレートを改めて差し出された。
流石に断るわけにもいかないか。
それに確かにこのチョコレートは奮発して買ったもので味に興味もある。
「じゃあ、貰うね」
「うんうん」
遠慮がちに開いたの唇にブルーノの指が無遠慮に入ってきた。
「ん!」
どうやらずっと持っていたから体温で少し融けてしまったらしい。
口内の熱もチョコレートを加速度的に融かしていく。
「融けた分もちゃんと舐めてね」
確信犯の笑みをニヤっと浮かべるブルーノ。
いつまで経っても指を抜こうとしないので、仕方なくはチョコレートを味わう前にブルーノの指を舌先で撫でる。
「んン…」
甘いチョコレートの味がしなくなるまでぺろぺろと指を舐めてそっと唇から引き抜く。
何をさせられているんだとちょっと頬を赤らめながらチョコレートを味わっていると、今しがたが舐めた指先をブルーノはぺろっと舐めて顔を近づけてきた。
「美味しいね。僕にも頂戴」
「…あ、ンっ!」
の肩を抱き寄せてブルーノが唇を押し付ける。
素早く潜り込んできた舌が味わうかのようにの口内を舐め回す。
甘い舌先を撫でては満足そうに唾液を垂下された。
「は、ぁっ…何するの…馬鹿…っ」
最早チョコレートを味わうどころではなくなったが頬を上気させてブルーノを睨む。
「ごめんごめん」
全く悪びれない謝罪には溜め息を吐いた。
そして肩を抱き寄せたままいつまで経っても離れようとしないブルーノを不審げに見上げる。
「…ブルーノ?」
「えへへ、何か僕、チョコレートよりが食べたくなってきちゃった」
「はぁ!?」
ブルーノの言葉にぎくりとして腕から抜け出そうとするが、少し遅かったようだ。
ぎゅうっとを抱いたブルーノの腕はびくともしない。
「ちょ、こんな昼間から…っ」
「あれ、夜ならいいの?」
「そういう意味じゃないけど…!」
「でしょ?ほら、チョコレートのお礼もしなきゃだし」
にこにことブルーノが言った言葉にははっとする。
バレンタインという風習を忘れているからこそのこの発言。
「や、あの、お返しは今日じゃないって言うか!」
「?」
「一ヵ月後にホワイトデーっていうのがあって…!」
慌てて説明しようとするの言葉を遮るようにブルーノはもう一度キスを落とす。
「ん…っ」
するりと服の裾からブルーノの大きな手が入ってきた。
下着の上からの胸に優しく触れる。
「つまり、一ヵ月後にもう一回をたっぷり愛せばいいんだね?」
「ち、違…わないけど、そうじゃない!…あ、やだぁっ…あ、あぁ…っ」
「可愛いね、。僕もう止まらないよ…」
重なり合う体温。
ブルーノの吐息を感じながらは自分が陥落する音を遠くで聞いた。