痛い白


※クラッシュタウン終了後くらい




「…何だこれは」
ジャックが不愉快そうに眉を顰めた。
顔見知りから『緊急なの!』と呼び出されたのはどうやら自分だけではなかったらしい。
机に頬杖をつく鬼柳と、クロウ。
ここに遊星の姿が無いのが非常に嫌な予感を刺激する。
「ジャック遅い!緊急って言ってるのに女の子待たすなんてダメじゃない」
…。お前の一方的な呼び出しに応じてやっただけありがたいと思え。遊星はどうした」
「遊星は別口でねぇ…3人にバレンタインデーのチョコレートと思って」
大きな皿を持って机の上に置くはジャックにも座るように促した。
そこにはチョコレートケーキが載せられている。
パウダーシュガーが振られたガトーショコラ。
見た目には何の変哲も無い。
「…ほら、座りなさいってば。毒なんか入れてないから。あたしが料理得意なのは知ってるでしょ?」
「……」
まあ、確かに。
特に鬼柳と仲が良かったは、良くアジトに来ては乏しい食材で見違えるようなものを作ってくれたものだ。
しかし…。
「何を企んでいる」
座る前にジャックはに鋭く突きつけた。
確かに彼女はいつだって食材を見事に調理して見せたが、何かしらの見返りを要求して帰っていった。
それも、いつだって可能な範囲の無理な願いを要求するから性質が悪く…。
「出来ない事は言わないわよ?」
「ならば先に言え。選択権をこちらに寄越さないのであれば食わずに帰るぞ」
「んもー…結構ジャックも楽しいと思うのになー」
「御託はいらん。ぐずぐずするなら帰る」
「とっっっっても美味しいコーヒーもあるのよ?」
流石長い付き合いだ…と思いながらクロウと鬼柳は、やはり頬杖をつきながら面倒くさそうにそのやりとりを眺めていた。
正直、この辺までがデフォルトである。
何だかんだ言っての要求をジャックが跳ねつけられたことは一度だって無い。
「そんなもので釣っても無意味だぞ」
話にならないというように肩を竦めたジャックに対してはまだ口元に余裕のある微笑みを湛えていた。
そんな唇がやおら開かれる。
「…ジャック、今朝コーヒー飲んだ?」
「何だ、藪から棒に」
「あれ、一昨日あたしがクロウに渡した物って言ったらどうする?」
ニヤニヤするの言葉に弾かれたような動作でジャックはクロウを見た。
ジャックの視線を受けてクロウは深い溜め息を吐く。
「お前…あれも仕込みかよ。タチ悪ィ」
「んふふ、あの時またねって言ったでしょ」
「…話はまとまったみたいだな。ジャック、観念して座れ」
鬼柳に促され、物凄く不服そうにジャックは椅子を引いた。
「はい、じゃあ切るわね。でも皆、もうあたしがお願いがあるって分かってるみたいだから食べながら聞いて頂戴ね」
「くっ…おい、話す前にコーヒーを用意しろ!」
「はいはい。ジャックはコーヒーだけど、クロウと京介はどうする?」








「と、言うわけなのよ」
「…さっぱり分からないな」
そもそも今の説明からすると遊星は無関係である。
なのに今、何故に縛られてのベッドの上に放り出されているのか。
「ジャックとクロウと京介にね、ホワイトデーのお返しは遊星をお願いねって言っておいたの」
「…成程…だから今日鬼柳が俺を呼び出したところにクロウとジャックもいたという訳か」
「そう。納得した?」
「今理解はした」
納得はしていない。
「何故俺なんだ」
「バレンタインデーに『本命よ』って言ってチョコレート渡したじゃない。貴方が好きだからよ」
「だが、今のこの状況に俺の意思は存在しないな」
「そうね。一方的に愛を押し付けるだけだわね。でも、遊星はそれを拒めないでしょう?」
ベッドの上にあがってくるは手も足も縛られて身動きが出来ない遊星に緩慢な動作で覆いかぶさった。
腰の上に馬乗りになる体重を感じても、確かに遊星に拒む方法はないと言える。
しかしは物理的な拒絶は元より精神的な拒絶すら遊星が出来ないことを知っていた。
「優しい貴方につけこんで、あたしは今日貴方を手に入れるの」
の腕がやんわりと遊星に絡みつく。
それは細くてか弱くて。
物理的にであればすぐにでも振り解けるくらいの脆弱さで遊星を抱き締めた。
「縛られていなければお前を押し返すくらい何でもない」
「それは半分嘘ね。遊星は相手が弱ければ弱い程拒めない」
表情を殺したかのような遊星の頬をやんわりと撫でる。
暖かな皮膚の感触と、その上を走るマーカーの痕。
触り心地は遜色ないのに、何かを確かめるような気分になってはその頬に唇を寄せた。
「ン…遊星……好きよ」
うっとりとしながら唇でマーカーをなぞる。
やはり触れる感触におかしいところは何もなかった。
そのまま遊星の首筋をゆっくりと辿る。
「…そういえば、遊星、ジャケットはどうしたの?あたし、服装については何も伝えなかったんだけど」
自由を奪われてベッドの上に放り出されていた遊星はジャケットを着ていなかった。
ノースリーブから伸びる腕は、普段結構隠れているだけに晒されているとどきっとする。
「縛りにくいからと、ジャックが」
「脱がせたの?あらー…ジャックってばよっぽどコーヒーの事気に入らなかったのねぇ」
八つ当たりを受けた遊星には申し訳ないが、良くやったと言わざるを得ない。
「これはおっきな借りが出来ちゃったわ」
「何の、話を…」
「こっちの話よ」
馬乗りのがタンクトップの裾を掴むと、捲り上げられるところまで捲り上げた。
生憎紐が邪魔で胸板を全て露出させるには至らなかったが、は満足だった。
皮膚の柔らかい臍の周りをくるりと指でなぞっていく。
「…、」
「くすぐったい?」
遊星が僅かに息を詰めたのを見て取ったは嬉しそうに微笑んだ。
ベッドの上で女に跨られた上、身じろぎをする遊星なんてそうそう見られるものではない。
白いシーツに体を沈ませて浅く胸を上下させる姿は女であろうと男であろうと扇情的なのだ。
愛した異性が性の色を含むだけで、性別など関係がなくなるのである。
「遊星…可愛いわ……。ここ、口に入れてもいい?」
言いながらの手が遊星のズボンのファスナーのあたりに触れた。
まさかそんなところを触られると思っていなかったのだろう。
遊星の体が強張る。
「遊星の味、知りたいな…」
舌なめずりで股間を撫でるの手がおもむろにベルトを掴んだ。
「やめっ…!」
明らかに動揺の色を見せる遊星。
の手に伝わる感覚を恥じているようにも思われた。
『愛情を押し付けられている』と断じた遊星の若い体は、の手つきだけで主張を始めていたのである。
「怖くないから…気持ち良くなるだけよ」
「嫌だ…っ、…っ!!」
身を捩って逃げようとする遊星だが、腕と足を縛られた上に跨られているのだから逃げられよう筈もない。
ベルトを外す金属音が響いたかと思うと、は躊躇いもなく遊星の服の中に手を差し入れてきた。
「やぁん…遊星ってば、こんなに…」
感嘆の溜め息と共に感想を漏らしたは目を細めて体を屈める。
そして、充血した先端をやんわりと口の中に含んだ。
ぬるりと唾液を含んだ舌が、遊星の敏感な部分を包み込む。
「――っ…!」
それは未知の快感だった。
ちゅっと吸い上げては撫で回されるだけで腰が浮くほど気持ちイイ。
「ン、っ…遊星…まだ大きくなるのね、すごい…」
うっとりと呟きながらちろちろと舌先で露出した亀頭の部分を撫でられる。
しゃぶられた時とは違い、くすぐったいようなもどかしいような。
「うあ!」
そんな風に焦らした後で改めてもう一度飲み込まれると、更に快感の波が大きくなる。
自慰とは全く違う口淫の感覚に遊星はびくびくと背中をしならせた。
「んっ…んっ…、んく…っ」
頬張ってねっとりと舌を這わせると、膨張した遊星がいやらしく跳ねて反応を返してくる。
嫌だと言っていても性の刺激に慣れていない若い体は素直だった。
「はぁっ…あぁ…っ、あ、あ、…っ」
堪え切れない遊星の淡い喘ぎ声がの気分を獣に変える。
先端に滲んだ粘液を啜り、頭の上下運動も加えてやった。
根元もきつめに扱いてやると、明らかに遊星の反応が良くなるのが分かった。
「あっ!それ…っ、だめ、だ…っ、もう…!」
出し入れの際に張り出したカリの部分が唇の端に引っかかる程膨張している。
ぱんぱんに膨らんだその部分に舌を這わせてやると遊星の体が仰け反った。
「あ、あ、でる、でる…っ!!」
激しく責め立てられた遊星は、女の体を突き上げるように腰を揺らめかせながら至っていた。
びゅっびゅっ、と断続的に迸る精液をは必死で受け止める。
たっぷりと吐き出されたそれを簡単に飲み込むなんて勿体無い。
「ン、…んふぅ…っ、ご馳走様……」
口内に吐き出された濃い精液をじっくり味わって飲み込んだ後、は体を起こして遊星を見下ろした。
視線の先の遊星は射精の余韻に痺れながら浅い呼吸を繰り返していたが…。
やがて小さな声を絞り出すように呟いた。
「…あんまりだ…。…」
背中を丸めて遊星は少しでもの視線から逃れるように体を縮める。
半端に脱がされた服が更に陰惨な雰囲気を色濃くしていた。
肩を震わせる遊星に憐憫の感情が刺激される。
「…そんなに、嫌だった?」
思春期でもあるのだし、多少くらいは快感も得てくれたのではと思っていたのに。
男性機能としての射精は果たされたが、心の中ではそんなにも拒んでいたと言うことか。
心底拒まれていたと考えると胸が痛い。
しかしそれは好き勝手に遊星を蹂躙しておいて言えたことではないだろう。
「…解いてくれ…頼む」
「…」
…お願いだ……」
「……分かったわ」
はサイドボードの引き出しから鋏を取り出すと、遊星を拘束している紐を切ってやる。
本当はこのまま最後まで致したいくらいだが、ここまでの拒絶反応を見せられてしまっては気分も醒めてくると言うもので。
足の拘束も切ってやり、遊星に視線を合わせずは鋏をしまった。
「さ、もう自由よ。行けばいいわ」
「…」
背中を向けたままでは遊星に言う。
ばつの悪い気分だが、謝罪は口にする気は無かった。
謝って済む問題でもなく、また謝るくらいなら最初からこんなことをしなければ良いだけの話である。
「…」
しかし。
いつまで経っても後ろの遊星は動くような気配がない。
拘束からは逃れたはずなのに。
もしかして恨みを込めた突き刺さるような視線でを射抜いているのだろうかと思うと急に居心地が悪い気分だった。
「…」
「……?遊星、…っ」
不安になったが恐る恐る振り返った瞬間。
遊星の手がの肩を掴んでベッドの上に引き倒していた。
「ゆ、遊星…っ!?」
急激に世界がひっくり返ったは、目を瞬かせながら覆い被さってくる遊星を見上げる。
しかし遊星はの呼びかけに答えることはなく、ただ彼女の服を乱暴に捲り上げた。
下着ごと捲り上げられたから、遊星の目の前にはの裸の胸が晒されたことになる。
「…」
無言のまま、遊星は柔らかな乳房をやんわりと下から持ち上げた。
「ゆ、うせ…っ」
大きな掌が胸を包み込んだことにドキドキしたのも束の間。
その掬い上げた胸に遊星は噛みついたのである。
「っ、痛ぅ…」
噛みつかれた痛みには思わず逃れようと体を反らしていた。
だけど遊星の手ががっちりと手首を押さえつけていて、逃れるには程遠い。
「お前は本当に酷い…」
暗い声で呟いて、遊星はほんの少しだけ体を浮かせる。
白い胸には遊星の歯形が痛々しく残されていた。
その痕をほんの少しだけ舐めるとのスカートの中に手を差し込む。
「きゃ…、っ…!」
迷わずショーツを引き下げる遊星にはどぎまぎした。
この流れだと遊星はもしかして…。
先程萎れかけた性衝動が蘇ってくる。
ショーツを脱がせ、のスカートを捲りあげた遊星はが期待している通りに彼女の足を抱え上げた。
そして、じゅわりと湿り気を帯びるの足の間に遊星は先程放ったとは思えないほどに質量を増したものを押し付ける。
「…俺は、っ…!」
「あぁっ!!」
苦しげな遊星の声との声が同時に響いた。
が挿入の衝撃に顔を顰めるが遊星は止まらない。
「俺は…っ、初めての時はお前のナカと決めてたんだ…っ」
「っ、!」
「最初は…っ、お前のナカが良かったのに…!なのにっ…!」
「んうぅっ!!」
慣らすこともなく深々と突き立てられたが苦悶の表情を浮かべながら、遊星の腕に爪を立てた。
その姿に僅かな違和感を覚え、遊星はほんの少しだけ腰を引いて結合部を確認する。
「…これは…」
絡みついた愛液に滲む僅かな色味。
思わずに視線を投げる。
彼女は体を波打たせながら苦しげに呼吸を繰り返していた。
「はっ…はっ…、はぁあ…っ」
…お前…まさか」
「ん、ふふ…処女、喪失しちゃった…」
白いシーツに薄らと色味を含んだ染みが出来ている。
生々しい証に遊星は目を見開いた。
「…慣れているんじゃ…なかったのか」
今回の行動といい、先程の口淫といい、まさかに経験がないとは思いもよらず。
「あたし、京介と仲良かったからねぇ…。でも…」
きゅっと胸元の歯形に触れる。
それはそれは愛おしいものを触るような手つきに遊星は小さく喉を鳴らした。
「胸にこんな痕つけたのも、そこに入って来たのも…遊星が初めてよ」
媚びるような、それでいて困ったような上目遣いで。
目尻と頬を赤く染めて、恥ずかしそうな仕草でシーツを掴む。
「ごめんね、遊星の理想壊しちゃって。どうしても遊星に初めてを貰って欲しくてこんなことしちゃった」
体内が痛むのか内股が震えている。
それでも浅く胸を上下させながら遊星の首に腕を回す。
「もし、許してくれるなら…あたしのナカにいっぱい出して…」
ぎゅっと縋るの柔らかな体が遊星に密着した。
耳元にかかる淡い吐息に混じって、何度も彼女の『好き』と呟く声が鼓膜から脳を揺さぶる。
「…、
熱っぽい声で名前を呟いた遊星の唇がそっとの頬に触れた。
くすぐるように何度も触れるだけのキスを繰り返す。
「あ、遊星…っ」
労わるような優しい感触には背中をぞくりと震わせた。
まさか、こんな風に触れてもらえるなんて。
「痛かったな…すまない」
何処の箇所のことを指しているのか、全てに於いてのことを言っているのかは判断できなかったが、遊星はやんわりとの体を剥がすと体を屈めて先程自分がつけた歯形に舌を這わせた。
痛みは既に全くなかったが、痕はやはり生々しい。
そこにもちゅ、ちゅ、と何度もキスをしては優しく舐める。
「んっ…もう、痛く、ないわ…。あ、あぁん…」
繰り返していると柔らかく揺れる胸の先端が膨らんでいるのが見て取れた。
誘われるようにそこを口に含む。
「ナカが震えている…」
「だって…気持ちイイから…」
うっとりと伏せ目がちに呟くの体内が断続的に遊星を締め付けた。
先程の口淫も初めてなら、この握り込まれるような感覚も初めてである。
口の中でぷっくりと膨らんだ乳首をきゅっと吸い上げると、の体内の感覚が強くなった。
「ンっ…!は、あぁ…っ、そんな…あぁ…っ」
何かを求めるようにの膝が遊星の腰をきつく挟み込む。
それに応えると言うよりは寧ろ本能に流される形で、遊星はゆっくりと腰を揺らめかせた。
「う…っ、すごい…っ」
ぬかるみがねっとりと遊星を舐めるように蠢いている。
爪先が痺れるような感覚さえ。
…、っ…堪らない…」
「あ、あたしも…っ、ナカが熱い…っ、ゆうせぇ、もっと乱暴にしてぇ…」
体の下で身じろぐは、丁寧な遊星の愛撫にもどかしさを味わっていた。
重苦しく疼く体内を遊星に宥めて欲しくて仕方がない。
「…いいのか…?」
「んっ、お願い…思い切り遊星に犯されたいの…」
うっとりとベッドに身を沈ませている
はしたない要求を跳ねのける理性は最早遊星に残されてはいなかった。
「…お前がそう言うなら…、いくぞ…」
改めてに覆い被さってきた遊星が、の片足を抱え上げたかと思うと、思い切り楔を打ち込んできた。
先程よりも足を開かされた体勢での突き上げは更に奥を抉る。
「はっ、あっ!あぁ…っ、ゆう、せ…っ、それ、すご…っ!」
それまで浅く出入りしていたものが深く突き刺さるだけで肌が粟立つ程の快感なのに、広げられた膣壁を擦られる感覚も堪らない。
しかも視線を上にあげれば切なそうに目を閉じて、自分の体を夢中で犯す遊星の姿が…。
思わずぞくぞくとしてしまい体内が波打った。
「う、…締まる、…」
上擦った声で呟く遊星の声は欲情に掠れている。
いやらしく興奮した声を聞くのなんか初めてだ。
ますます体内がきゅんきゅんと収縮する。
「はぁっはぁっ、あぁぁぁ…っ、いいィ…、イっちゃいそう…っ」
激しさを増していく遊星の動きに翻弄されながらは何度も背中をしならせていた。
ベッドの上でもつれる足がぴくぴくと跳ねている。
「…、…っ」
絶頂の予感に身悶えするの腰を遊星は抱き上げた。
これ以上ない程に腰を密着させて、先端をの体内に擦りつけるように腰を揺らす。
ぐりぐりと男性器で圧迫される感覚には戦慄いた。
「ふあっ、!おく、だめっ…!そこ、っ…あ!あ!」
「はぁ…っ、、すごい…っ」
ぴっちりと絡みつくを遊星は興奮に任せて突き上げる。
思わず遊星の肩を掴むの手に力が籠った。
「だめ、イく、イくっ…!あっ、イくううぅ!!」
悲鳴にも似た声が響いたかと思うと、遊星に爪を立てながらはびくびくと体を痙攣させた。
同時に遊星も仰け反りながら体を震わせる。
じわりとした熱がの体内に溢れ、と、同時に収まりきらなかったものが結合部から零れ落ちて白いシーツに新たな染みを作った。




「遊星、あたしのことが好きだったの?」
情事後の怠い体を二人してベッドに放り投げていると、唐突にがそんなことを聞いてきた。
「…まさか、お前がこんなことをするとは思っていなかった」
「返答になってないわよ」
「お前が本命だと言ってチョコレートをくれたのが嬉しかった」
「…」
「だから俺も本命だと今日返すつもりでいたんだ」
「!」
遊星の言葉には目を見開く。
まさかの。
本命のお返し。
「気に入ってもらえるかどうかは分からなかったが、指輪を買ってみた」
「ほ、ほんと…?」
「ああ」
なんということだろう。
大好きな遊星からそんなお返しが待っていたなんて。
等辺木な彼がどんなデザインのものを選んでいたって、たとえサイズが微妙だったって、絶対左手の薬指を試してみよう。
「だが、それはジャケットの内ポケットに入れていたんだ」
「…え」
「ジャケットごとジャックに取られてしまった」
「ええええええ!!!」
まさかの。
しかもこれは自業自得とかいうやつでは。
「また時間を見つけて改める」
「そ、そんな…だってそれホワイトデーの…」
「悪いがどうしようもない」
「ジャック呼ぼう!!」
「来ると思うのか?」
「……」
確かに。
この前呼びつけたばかりだし、既にジャックに貸しもない。
「今日は諦めろ」
ああああなんということだ。
意気消沈してベッドの上に蹲る
遊星はその頭を優しく撫でるのだった。