嗚呼、太陽が眩しいぜ


20150721*ヴィクトール



いけないとは理解している。
いつの頃からか兄弟の近くにいた女の子は兄を選んだ。
優しくて話も面白い、加えて強い兄ならばに選ばれるのも当然だ。
兄と比べて自分は劣っている…等と思ったことはないが、彼女の眼は確かだと思う。
兄の隣で幸せそうに微笑むを見るのが良いのだ。
荒涼とした戦場の中で泥を啜り砂を噛んで生きてきた自分には、兄の隣で微笑むは太陽の輝きを放って見える。
眩しい彼女を掴むことも出来なければ届くことすらままならない。
それが堪らなくイイ。
この気持ちはには勿論だか兄にも理解出来ないだろう。
彼女が兄の物であることがいいのだ、それが素晴らしいのだ。
手に触れることも出来ない遠くの太陽に、無意識のうちに目を眩まされて身を灼かれる…。
そう、愛は一方的に捧げるものでなければならない。



いけないとは、理解している。
緊張で指先が冷たい。
息を、深く吸った。
「ぅ…っ」
途端に脳髄を痺れさせる匂いに眩暈を覚える。
顔に押し当てているのはが昨日着ていたブラウスだから、その眩暈も当然と言えた。
「はー…っ、はー…っ」
甘い良い匂いがする、とヴィクトールは思った。
兄はこれをいつだって堪能出来るのだ。
嗚呼彼女はその瞬間どのような顔をするのだろうか。
声は?仕草は?
俯き加減ではにかむを想像する。
抱擁すると、きっとあの細い腕で応えてくれる筈だ。
「…、あぁ…」
想像の中のグレゴリーの姿が、だんだんと自分に変化してゆくのを感じた。
が抱きしめ返す力はきっとそんなに強くはなくて、更に力を篭めたなら苦しいわ、なんて微笑んでくれるに違いない。
想像の中で掻き抱くの体は柔らかくて儚い。
……」
うっとりとした気分で浅くなる呼吸を繰り返す。
彼女のブラウスは相変わらず良い匂いがするが、グレゴリーの気配が微塵もなかった。
いつも仲睦まじい二人だから、少しくらいはグレゴリーの痕跡があっても良い筈なのに。
ヴィクトールにはそれが少し不満だった。
きっと色々なことを教えられているに違いない。
弟に気遣ってか、然程派手な遊びをしないグレゴリーだったけれど、ちらつく女の影は一つや二つじゃなかった。
だからきっとも……。
「はぁっはぁっ……」
そのうちの何人かは大人しいヴィクトールにも興味津々だったから、望んでもいない遊びを強要されたこともあった。
確かに快感もあったことは認めよう。
しかし、兄の感じている楽しさとは別のものだったと理解している。
その証拠に、兄の物でなくなった女達にヴィクトールは1%の情欲も感じなかったのだから。
そんな中でだけは別物になった。
一緒に戦場を生き抜いてきた兄弟にとって妹のような近い存在だったが、兄の物になったというのだ。
可愛がっていたへの親愛は、その瞬間に一気に愛欲に変質したことをヴィクトールは鮮明に覚えている。
今でもその愛欲は収まることを知らない。
「嗚呼、…」
虚空に名前を呼んでも彼女に届くことなど有りはしないが、想像の中の彼女はいつだって名前を呼べば嬉しそうに微笑んでくれる。
その体をベッドに押し付ける瞬間を想像する。
兄は乱暴に服を脱がせるのだと過去の女から聞いたことがある。
ヴィクトールはのブラウスを握る手に力を篭めた。
恥ずかしがる彼女から服を剥ぎ取る。
露わになる肌は桜色に染まる。
なんて可愛いのだろう。
甘やかな肌にかぶりつく…嗚呼堪らなくなってきた。
「はー…っ、…」
もぞもぞと自分の服の中に手を入れた。
の妄想だけでもう痛い程勃起している。
彼女は兄のコレをどうしてやるのだろうか。
ぬるつく先端を躊躇いもなく口に含んだりするのだろうか。
「うぅ…!」
あの小さな唇が先端にキスを与えると思うだけで背中に電機が走ったような気分だった。
小さな赤い舌がやんわりと包み込んで、ちゅるんとぬかるみに吸い込まれて…。
「はぁっはぁっ、あぁ…っ」
ヴィクトールは目を細めながら天井を仰いだ。
ぷちゅぷちゅと自身を扱く手の中から水音がする。
そうやって下品にも音を立ててがコレをしゃぶり立てたりしてくれたら。
、…っ、あぁ、イイ……、…」
興奮を覚える脳内はもう彼女の口内を犯すことでいっぱいだった。
頬張られたものに舌先が絡みつき、引き抜かれる時に卑猥な糸を引く。
くぐもった苦しそうな呼吸が漏れてくるだろう。
しかし健気にもはヴィクトールの膨張したソレを何度も唇で扱いてくれるはずだ。
いや、妄想はそれだけにとどまらない。
組み敷いて強引に足の間に体を捩じ込み、その隠された秘密の部分に押し入ることさえ。
「……、っ、あぁ!…!!」
妄想の中でを犯す瞬間、彼女は決まってグレゴリーの名前を呼ぶ。
その瞬間が一番ヴィクトールを興奮させる。
堪え切れない昂ぶりの波が襲ってきて、体を震わせながら絶頂しているのだ。
手の中で脈打つ自身の先端が勢いよく精液を吐き出して手を、シーツを汚している。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ、…」
脳がじんじんと痺れるように意識を揺さぶった。
射精後の余韻に気怠い溜め息を吐いて、ヴィクトールはのブラウスで手を拭う。
罪悪感は何も感じないことが後ろめたかった。





「お前“等”ホントに趣味悪ィなァ」
グレゴリーは溜め息交じりで真夜中の廊下に座り込んでいるの腕を掴んだ。
彼女の服は盛大に肌蹴ており、立たせようとしても足元が覚束ない。
「んふぅ…今日も…良かった…」
「……そーかよ」
興奮交じりに頬を上気させるの顔をまともに見ることもなく、グレゴリーはその場からずるずるとを引きずっていく。
今まさに彼女は弟の部屋を覗いて自慰をしていたのだ。
部屋の中では恐らくヴィクトールもと同じことをしていたのだろうと思われるが、それを確認する勇気はグレゴリーにはなかった。
の行為を異常と思えども、最近では日常の一部になりつつある。
…コレが始まったのはいつの頃だったか。
ある日突然はグレゴリーに秘密の告白をしてくれた。
それは決してヴィクトールには打ち明けられない内容だった。

『あたし、他の男に愛されているあたしを愛してくれる男じゃないとダメなの』

全く意味が分からなかった。
言葉の意味もそうだし、彼女の性癖も、何故そんなことを自分に打ち明けるのかも、全く分からなかった。
だけど話をしているうちに、が『グレゴリーと仲良くしているを見つめているヴィクトールに恋をした』ということが分かってきた。
言葉の意味と彼女の性癖だけは理解出来たわけだ。
しかしまだ、何故それをグレゴリーに打ち明けたのか、というところが分からない。
悪趣味な内緒話にグレゴリーがどう返答したものか考えあぐねているところに、は更に悪趣味な話を持ち出したのである。

『グレゴリー、あたしと結婚しましょう。そうすればヴィクトールの手はますます届かなくなって、あたしをますます欲しがるようになる。あたしはそんなヴィクトールを脳内で愛したいの』

この発言をしていた女が妹のように可愛がっているでなかったなら、グレゴリーは気絶するまで殴ってしまっていただろうという確信がある。(いや、気絶で済んだだろうか)
とりあえず、どうにかこうにか結婚だけは思いとどまらせることには成功したが、いつの間にやらグレゴリーとは恋人関係であることになっていた。
以来、グレゴリーにもヴィクトールの視線の先が良く分かるようになった。
確かにヴィクトールはばかり見ている。
そんなにも彼女が良いならいっそをヴィクトールに押し付けてしまおうかとも考えたことがあった。
まだ、(偽りの)恋人関係だと知られて間もない頃だ。
今なら軌道修正できるのではないだろうかとグレゴリーは考えていたのだが、ヴィクトールの答えはグレゴリーを戦慄させるものだった。

『いいんだ。兄さんの相手がなら丁度いい』

『丁度いい、ってオマエ…』

『俺は“兄さんの物”じゃないとダメなんだ。だから兄さんがを選んでくれて本当に良かった』

やや俯いてはにかむヴィクトールはグレゴリーに本当に感謝を覚えているようだった。
結局、弟とは同類の生き物だったのである。