棒状のお菓子の日


20141111*遊星

そわそわと隣の彼氏が落ち着きません。
さっきから何かを言いたそうなんだけど、あたしの顔を見ては視線を逸らすを繰り返してる。
「遊星、どうしたの?何か落ち着かないみたい」
「…いや、あの…」
気まずそうに俯いちゃって。
…んもう、可愛いんだから。
いつまでも恋愛に慣れない様子の彼氏は本当にあたしのいけない心をくすぐってくれちゃう。
「何でも言って良いんだよ?言いづらいことがあるの?」
それでなくても結構くっついてベッドに座ってたんだけど、遊星の腕を取ってきゅうっと抱きしめてみた。
胸の感触がちゃんと伝わるように意識して遊星を覗き込んだら困ったように赤くなるし。
んー可愛いよお…。
遊星はきょときょとと視線を彷徨わせた後、近くの置いてあった鞄の中からお菓子の箱を取り出した。
「その…これを…俺と一緒に食べて欲しい…」
「!」
あぁ成程ねぇ。
そう言えば今日は棒状のお菓子の日でしたっけ。
これをあたしにお願いするのにすごい勇気を要してくれた訳ね。
「んふ、いいよ。後で一緒に食べよ」
「…後で?」
きょとんと遊星はあたしを見た。
だってぇ…あたしもうさっきから我慢できなくなってるんだもん!
「あたし、棒状のおやつ食べるならもっと別のものが食べたいんだけどなー」
言ってゆっくりと遊星の目から視線を下ろしていく。
唇、首、鎖骨、胸板、お腹…腰のあたりであたしが視線を止めた後、素早く遊星を見上げてみれば、さっきよりも赤くなった遊星がそこにいた。
「何が食べたいか分かった?」
「…っ」
あたしの問いに遊星は俯いて首を横に振る。
馬鹿ね、即答してる時点で理解してることバレバレだから。
「分からないなら教えてあげる…。でもそうね、その前に遊星とキスしたいかも。顔、あげてよ」
あたしのお願いに遊星はたっぷり時間をかけて恥ずかしそうに顔を上げる。
その瞬間を見逃さず、あたしは遊星に抱き付くようにして唇を押し付けたら、勢いつけすぎて二人してベッドにひっくり返っちゃった。







20141111*クロウ

「ねぇねぇ、クロウ。これ、一緒に食べない?」
彼女が差し出したもの。
それは棒状のお菓子である。
「そりゃ構わねぇけど…」
「ほんと?でもこれ未完成でね…もうちょっとだけ手を加えたいんだー」
「?」
クロウを試すように悪戯っぽく微笑んだ彼女。
もう一つのお菓子を差し出した。
「チョコレート?」
「そう!ねぇお願い、チョコフォンデュが食べたいの!!作って!」
嗚呼、成程。
プレーン状態の棒状のお菓子にチョコレートをかけたいと。
「うわあ正直面倒くせぇぇえ…」
「そこをなんとかー!!」
まあ彼女に頼りにされるのは何だかんだ嬉しいわけなのだが…。
チョコレート刻んで鍋にかけて…過程を想像するとやっぱり面倒くさい。
とはいえ彼女が美味しそうに自分の作ったものを食べる姿を見るのは割と、いやかなり好きなクロウ。
「…しゃーねぇな…。でも二人じゃ食い切れねーから遊星達も呼ぶか」
「作ってくれる!?」
「おお。お前も手伝えよ」
「うん!ありがとう!!!」
そう言うと彼女は急に棒状のお菓子の箱を開封した。
気の早い動作にそんなにも食べたかったのかと呆れる思いで見ていたら、彼女は思わぬことを言った。
「遊星達が来る前に、一回だけゲームしよっ」
「…は?」
ゲームって何だ。
と、クロウが思っていたら彼女はおもむろに取り出したお菓子を口に咥えたのである。
「!」
咥えた方とは逆の方を差し出されて、ゲームの全貌を悟ったクロウ。
「んなゲーム出来るかっ!!!」
じりっと後ずさるが。
「んー」
彼女も怯まないでクロウに追いすがる。
しばらくそれを繰り返したが、乗らなければ終わらないであろうこのゲーム…この状態を誰かに見られては堪らない。
クロウは意を決して彼女の肩を掴むと、ゆっくりと先端を口に含んだのである。







20141111*ジャック

『では、クイズに正解された方には美女とのゲームが待っていまーす』

『はーい!みなさん頑張ってくださいねー!!』

『今日の日付に因んでゲームは棒状のお菓子を両側から食べ合うゲームでーす!!』

「お前はこんなことをしていたのか」
「勝手に昔のDVD発掘してきて嫉妬されても困るんだけど」
恒例になりつつある『ジャックの発掘してきた昔のDVD鑑賞会』
アイドル時代のDVDなんて本当に見たくもないのに、いつも何処からかジャックはそれを探し当ててくる。

『○○さん、不正解!でも結構近いですよ!』

『あ、俺分かった!!』

『では××さん、答えをどうぞ!』

「ねぇ、もう止めない?」
この後の展開を知っている方としてはこれ以上の鑑賞をあまりしたくない。
だって実はこの後この男は正解するのだ。
そして。

『では、ご褒美の美女とお菓子の食べ合いをどうぞー!』

ああ、画面の中の昔の自分が今の彼の目の前で別の男と棒状のお菓子を食べている。
もう怖くてジャックの方を見れない。
打ち合わせでキスは無し、となっていたし自分のことなのでギリギリのところで逃げるのも分かっているんだけれど、心なしか抱き締めているジャックの腕に力が籠っていくような。

『やぁん!だめ、これ以上は無理ですー!』

『ちょっと!無理ってなんだよー!?』

共演者が悪ふざけに笑いながら自分の席へ戻っていくが、その辺りでジャックが覆い被さってきて画面が見えなくなった。
「したのか」
「してない!見てたでしょっ」
「…」
不機嫌そうに見下ろされ理不尽な気分だった。
だから止めようと言ったのに。
気まずそうに視線を逸らす彼女に覆い被さる影が濃くなった。
あ、と思ったときには。
「ん、っ」
顎を掴まれジャックの薄い唇がぷちゅりと彼女の唇を覆っていた。
「ふ…っ、は…」
重なるだけのそれかと思いきや唇をこじ開けて舌先が潜り込んでくる。
ねっとりと絡み合う舌先がジャックの本気を物語っていた。
「はぁっ、もお…っ何するの…」
「…仕方なかろう。消毒したい気分になった」
「消毒って…だからしてないってば。そんなに気に入らないなら…」
彼女は自分の鞄を漁る。
実はジャックの部屋に来る前に偶然にも今日が棒状のお菓子の日であることを思い出して何気なく買ってきたのだった。
取り出されたお菓子の箱にジャックは一瞬目を見開く。
「何だ、用意していたのか」
「違うよ、偶然。でも、買ってて良かった」
封を開けて一本取りだし、彼女はやんわりとそれを口に当てる。
「ジャックなら、最後までシてあげる。はい、どうぞ」
唇に含み、キスを強請るように瞳を閉じる彼女にジャックは小さく喉を鳴らした。