引き出す物質


机の上には、橙色の液体が入ったコップがひとつ。
風呂から上がったは、部屋に戻る途中にそれを見つけた。
水が滴る髪を拭きながらコップに近付く。
「…?」
確か風呂に入ろうと浴場に向かう前から、ブルーノとジャックという、普段どうやっても2人きりになりたがらない珍しいメンバーがここで何か飲んだり食べたりしながら話していたはず、と思いだす。
「片付け忘れたのかしら」
ブルーノは後ろのソファで寝ているし、ジャックの姿もない。
食べ残した菓子の袋の口は輪ゴムで止められているため、再開する気配もない。
「…まったく」
ブルーノを起こさないように呟きつつ、どうせ明日中にはなくなるだろうと予想しながら菓子を菓子置き場に戻す。ガサガサという音を立てて籠にしまった後、コップに目を映した。
何を飲んでいるのかは特に説明されていない。だが、人間が飲んで良いものであることには間違いないだろうし、何よりもったいないと飲んで処理してしまうことにした。
色からいってオレンジジュースだろうか、と予想する。
だが香ってきた匂いと舌で感じる味は自分の知っているそれと微妙に違う。それが不思議と美味しくて、彼らが口をつけていないであろう箇所から、一気に液体を飲み干した。




その頃遊星は、ガレージでDホイールの整備に追われていた。
プログラムの修正パッチを当てたのだが、ホイール・オブ・フォーチュンだけ何故かうまくいかない。
これはジャックの分だけ作り直しかと再びパソコンに向かおうとすると、先ほど風呂上がりに「寝る」と言って自分の部屋に戻ったはずのが下りてきたことに気付く。
「…どうした、寝れないのか?」
ぎ、と椅子を引いて尋ねる。
いつもなら少し距離を置いて答えるはずのがどんどん近付いてきて、遊星は不思議に思った。
彼女の顔はほんのり赤みを帯びている。
何があったのか聞こうとするが、は一向に止まらない。
カツカツとヒールの鳴る音が、自分の鼓動と共鳴しているんじゃないかと思う程に静寂に響く。


そうして。
「遊星大好き…!」
言うなり遊星の首に手を回す。
「…!!」
「好きなの遊星…大好き…!」
ぎゅううううううと力を籠められて少し苦しい。胸もこれでもかという程押し付けられている。それでもなんとか抱きとめて、を横抱きにして遊星は問うた。
「どうかしたのか?」
「今日タッグデュエルで私がプレイングミスしても守ってくれたでしょう?嬉しくてますます好きになっちゃったの…」
遊星の顔には困惑の色が濃く表れている。
確かにチェーンミスした彼女のフォローはしたが、それでも普段なら絶対に言わないような言葉だからだ。
今まで見たことのないの柔らかな表情と態度は、遊星の理性と平常心を無残に打ち砕いていく。
すりよってくる体温も、匂いもそれを助長させて堪らない。
今にも自分を支配しそうな欲と戦う遊星に構わず、は悲しげな表情で彼を見つめた。
潤んだ双眸は彼をとらえて離さない。
「…遊星は好きって言ってくれないのかしら…?」
「いや、それどころじゃないだろう…、一体どうしたんだ?」
いよいよおかしい。自主的に言ってくれたことはあっても彼女から愛の言葉を欲しがるなんてことはなかったはず。
動揺して言えないでいると、ますますの目に涙が溜まる。
「…遊星は…私のことなんて好きじゃないのね…好きじゃないから言ってくれないんでしょう…!」
「違う、そうじゃない。今はお前がどうしてそうなったのか知りたいだけなんだ」
やがて一筋涙が流れる。そのつもりがなかったとしても泣かせてしまったことに罪悪感を覚えた遊星は、を抱き締めてあやすように頭を撫でる。
「分かんないけど…遊星が好きだから聞きたいの…!なのに、なのに遊星は…」
「俺も…俺もが好きだ。愛してる。だから…頼むから泣きやんでくれ…」
「…嘘…!そんな慰めいらないわ…!」
ぐすぐす鼻を鳴らしながら目を袖で拭く。そんなことをしたら目が赤くなってしまうと、遊星はその腕を止めさせた。
「嘘じゃない。好きだぞ」
「…本当?」
「ああ、本当だ」
「ふふ、私も大好き…」
ちゅ、と口を吸う。そこからはわずかに変な味がして、遊星は眉を顰める。
「…まさか…」
「…?遊星…?」
口付けをしたことで更にとろんとなった表情のは、彼を煽るのに十分だった。
今すぐ襲ってしまいそうになるが、原因を探るのが先だとして質問しようとした、まさにその時だった。
「おい、リビングの机にあったコップを知らないか」
どすどすと音を立ててジャックが下りてくる。
幼馴染に抱きついているを視界に入れるが、敢えて触れない。
「コップ…?」
「ああ、飲みかけのものだが…」
「それなら私が飲んじゃったわよ。美味しかったぁ…」
にっこり微笑むはこの上なく幸せそうだ。
だが、その様子を眺める二人の男はそうではない。
一人は氷を纏いそうな蒼い瞳を金髪の男性に向け、その金髪の男性は冷や汗を垂らしながらバツが悪そうに目を逸らした。
「…中身は酒か?」
「………ああ」
冷たいやりとりを交わす。
原因が分かった遊星は、を部屋に連れていくべく抱え直して立ち上がった。
ジャックはそこから動けずにいる。
「…部屋で飲もうと思って置いておいたのだぞ」
弁解という名の言い訳をするが、彼の心には届かない。
遊星の腕の中から「部屋に行きたい」という声が聞こえ、彼もそれに賛同して歩を進める。
遊星がジャックの横を通り過ぎようとした時、彼はに聞こえないように小さく呟いた。
「…覚悟しておいてくれ」
しかしジャックにだけは届いて、ぞっと背筋が凍る。
「名前を書かないと誰に何食われても文句は言えない」ことが鉄則のこのポッポタイムに於いて、それに従わなかったのは事実。
今回は彼女がそれに従って口にしただけのこと。勝手に飲まれたことよりも、が飲んだその「結果」を恨むが、それはすなわち自分を恨むことになって、ジャックは苦虫を噛み潰したような顔をする。
「…」
メンテナンスの途中であるらしくコードが繋がれているし、何より飲んだ後だということも相まってDホイールに乗れない。
逃げられず、この一夜をこの家で恐怖と共に過ごさなくてはならなくなって、彼は肩を落とした。



「う…ん」
ゆっくりと彼女をベッドに下ろす。水でも持ってこようかと身体を離すが、彼女自身がそれを阻む。
首に回された腕はそのままで、は満足そうに微笑んだ。
「ふふふ、遊星の体温気持ちいい…」
すりすりと頬ずりして彼に甘える。
遊星もそれに溺れそうになるが、必死で理性をかき集める。
…何か飲み物を持ってくる。少しでいいんだ、放してくれないか?」
腕を掴んで優しく聞く。
だが彼女はむっとしたような表情で、首を横に振った。
再び涙をいっぱいに湛えて。
「嫌…私から離れないで…!」
…ああ、大丈夫だ。離れない」
彼女たっての願いならば、叶えない訳にはいかない。
ぎゅう、と強く抱き締めて、気持ちを届ける。
堪らなくなってキスをすると、が自分から舌を絡めてきたため、とうとう遊星の頭を完全に本能が占めた。
勃ちあがった自分自身を彼女の下腹部に押し当てて聞く。
「…いいか?」
「ええ…シて?遊星のものにして欲しいの…」
その言葉を聞くと、抱き締めたままベッドに沈む。もう一度キスをして視界を閉ざさせると、彼女の服に手をかけていった。
下着だけの状態にすると、遊星も自分を覆うものを外していく。
ブーツ、グローブ、ジャケット、それからタンクトップを床に放り投げて改めての上に覆いかぶさった。
はぁ、と息を吐くの顔はこの上なく色っぽい。
「…そんなに俺を煽ってどうするんだ…?」
「煽る…?」
「俺を夢中にさせてどうすると聞いている」
ホックをはずす。胸回りの解放感を味わう余裕もなく、の胸に愛撫が加えられた。
突起をくりくりと摘ままれて、そこが勃起し始める。
「はぁ…ぁあん…」
ぴくりと身体が跳ねた。遊星は彼女の首の後ろから腕を回し、肩に手を添える。
逃げられなくすると、胸に舌を這わせた。
「ひぁんっ…遊星…」
「どうした?」
ちろちろ舐めていくと嬌声があがる。
自分に感じる彼女が愛おしくて、遊星は舌だけでなく口全体で愛することにする。
「きゃあん…!やぁ…!」
「嫌か?」
わざと意地悪く聞く。
いつもなら「聞かなくても分かるでしょう」と可愛い顔で怒るはずだが、今日は違った。
「嫌じゃない…もっとして欲しいの…」
遊星の後頭部に手を添える。
押し付けるように力が加えられて、彼は乳首を咥えたままほくそ笑んだ。
どうやら酒の力で素直になっているらしい。
「ふ、可愛いな…」
ちゅうちゅうと音を立てて吸っていく。片手を秘部にもっていき、そこをショーツ越しに優しく撫でた。
もうそこは湿っていて、快感を受け入れていることを示している。
「ひぁあ…そこ…!あぁん!」
「気持ちイイのか?」
「きっ…気持ちイイ…!遊星好きなの…!」
もどかしい刺激に、自分から腰を振って快感を得ようとする。そんな彼女を諫めて、遊星はショーツを脱がした。
そうして指を2本入れる。
じゅぷ、と音がして、それにもは感じた。
「ぁあああん!ゆうせっ…遊星の指ぃ…!」
ごちゅごちゅと膣の中をまさぐる。イイところは熟知しているが、最初からそこを攻めては面白くないと、遊星は焦らしていくことにした。
指を広げたり、入口をなぞったりしていく。
くぷ、と控え目な、いやらしい音が微かに聞こえた。
「やだぁ…遊星…意地悪しないで…!」
自分で足を広げて強請るの声は遊星に届く。
「ふ、分かった」
可愛いお強請りに免じて1回イかせてやろうと、彼は指を3本に増やして激しく責め立てた。
「ぁぁあああ!あぁっ、ゆうせぇ…!そんなにしたらイくぅ!イっちゃうのおお!」
「ああ、イっていい。…さあ」
くい、と中で指を曲げる。いわゆるGスポットを的確に突いたため、はたまらず潮を噴いて達した。
「んはぁァア!やらっ、イってる…イってるぅ…!」
びくびくと痙攣が収まった頃、指を引きぬく。
ティッシュでそれを拭いながら様子を窺うが、酒はまだ抜けていないらしい。
「ゆうせえ…遊星の舐めたい…」
言うなり彼の乳首に吸いつく。
「っはぁ…!ああ…イイ…気持ちイイ…!」
遊星の性感帯であるそこを攻めていく。の手は勃起したままの彼自身を握っていて、擦っていた。
先程の仕返しじゃないかと思うが、それでも遊星は嬉しい。
冷えないように抱きかかえて、男根を彼女に押し付けた。
「んんっ…はぁ、遊星の熱い…!」
「ああ…挿入れたいんだ…これを、お前の中に挿入れてめちゃくちゃにしてやりたい」
熱烈な愛の言葉には顔を赤くする。
乳首を愛撫していた口を離して、彼の胸に顔を埋めた。
「…挿入れてくれたら、ずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんだ。挿入れなくても一緒にいるがな」
くぐもった声の質問だが、確かに遊星に届く。
言い淀むこともなく彼が答えると、はふわりと笑った。
「ふふ、よかった…約束ね?」
「ああ、約束だ」
ぎゅう、と抱きついて、彼の心臓あたりに口づける。
そのままキスマークをつけると満足そうな表情をした。
だが、煽られる遊星は堪ったものじゃない。
もう我慢できないと、をベッドに押し倒した。
「…覚悟してくれ…!」
ここに来る前ジャックに言った台詞だが、ニュアンスはまるで違う。
どこか甘美な響きを秘めたその言葉にも感じてはふる、と身体を震わせる。
「ずっと一緒にいて」という彼女にキスをして、遊星は自身を宛がった。


「あはぁあ…!」
ずん、と奥まで侵入する。
散々に煽られた彼のモノはいつもより大きい。
「やあんっ、おっき…!遊星のすごい…!」
「あぁっ…の中も熱い…!溶かされそうだ…」
ごりごりと内壁を擦って蹂躙する。もう既に1回イっていることに加え、突く度にイイところを攻めるものだから、あっけなくはイった。
「ひぁああああ…!あぁッ、ゆうせ…ゆうせぇえ!!」
「っく…!」
締め付ける膣と、彼女の喘ぎが遊星を追い詰める。自分の名前を呼びながらイった彼女にこの上なく欲情して、彼も白濁を吐き出した。
「…っはあ…!まだ…まだだ…!」
だが、終わらない。
正常位で抱き籠めて、逃げられなくして突きあげた。
「んおおおっ!らめぇえ!イってるのにっ、もっとするの気持ちイイのぉお!溶ける…溶けちゃう…!」
「ああ、溶けていい…!一緒にいるんだろう…離れなくしてやる…!」
「ああああ…!耳元で言うのだめぇ…!感じるっ、遊星の声にも感じちゃうぅう!」
どぷどぷ出されたそこを容赦なく攻められて、は声を上げてヨがるしかない。
足を絡めて彼をもっと受け入れようとすると、遊星は応えるように足を抱えた。
入口を高くして出した精液が出てこれないようにすると、彼はそこに自身を突きたてた。
ペニス全体に膣が絡みついて、精液を強請るように蠢く。
扱かれるような錯覚に陥る遊星は、壊すつもりで腰を動かした。
ぐちゅぐちゅという水音がいやらしい。
「っァアあああ゛あ゛あ!!激し、すぎぃ!遊星の熱くて太いの、またイくっイくぅうう!」
「ぁああ!俺もっ…!俺もイく!奥突いてイく!ひあっ、うぁああ!イく、イくイくイく!」
お互いの声が切羽詰まって、余裕がなくなっていることを示す。
ごり、と奥の奥まで到達すると、遊星はそこで吐精した。
ごぷりと中で溢れる精液にも感じては遊星の大きいモノを堪能するように思い切り締め付ける。
熱い楔はそこにあるだけで彼女に快感をもたらした。
「あんっ!あぁぁ…これ、もっと…!もっとぉ!」
もう快感で何を言ってるのか分からない。
けれど遊星を愛したいのは真実だと、熱に浮かされた顔を向けた。
彼も愛液と精液が混じったそこから抜こうとしない。まだ勃起したままの自身をぐりぐりと押し付けて気持ちよくさせる。
「あぁあ゛あ゛…おくっ…!奥イイ…!遊星のおちんぽ好きぃい!」
「好きなのはっ、俺のコレだけ、か?」
不満そうに聞く。
腰の律動を再開して、愛することは止めずに。
「遊星もっ遊星も大好きィイ!全部好きなの!遊星の全部が好き!」
「なら、いい…!俺も、全部、の全部が好きだ…!」
「も、イくぅ!ゆうせぇ、一緒に、一緒にぃい…!」
「ああっ、一緒にイこう…!ひぁあッ出る、出ちゃうッ…ぁあアアア!」
びゅーびゅーと中で出す度に脈動する。
中の収縮は遊星を飲み込んだまま離さない。
意識的にやってるのか無意識的にやってるのか遊星には分からないが、そこに虜になっているのは確実だった。
他の女なんていらない。さえいればいいと、射精が収まらない自身を信じられない程奥まで押し込んではーはーと荒い息を吐く。
「ぁあっ、は、ぁ…あ…!」
も出された精液にすら感じて短く声を上げる。
やがて止んだかと思うと、彼女は意識を手放していた。







死にたい。

何時間か経って、むく、と身体を起こしたがまず最初に思ったことはそれであった。
そのまま生命活動を終えたいという意味じゃなく、ほとぼりが冷めるまで、どこか別の場所で暮らしたい、という意味だが、それも今の彼女には難しい。
昨日何故か気持ちよくなってしまって、遊星にいろいろ恥ずかしいことを言ったのも、そのまま部屋に連れて行ってもらって身体を重ねたのも、また恥ずかしいことを言ったのも全て覚えている。
確かそこで「一緒にいる」と約束してしまったはず。
いくらとぼけても、彼は真に受けて決して反故にはしないだろう。
本気になった彼が自分を手放さない自惚れなら充分にある。これまでがそうだったからだ。
ちら、と寝ている遊星を見下ろすと、彼の左胸には自分がつけた赤い痕がくっきりと残っている。
うわあああと頭を抱えるが、時間は巻き戻せない。
それでも心のどこかで後悔していない自分がいて非常に複雑だった。
はあ、と溜息を吐くと腰を抱えられる。
いつの間にか起きていた遊星にそうされるが、彼は顔色を窺って大丈夫であるようだと結論付けると、一度キスをして、早々に着替えていく。
「…遊星?」
「昨日は可愛かったぞ」
意地悪い笑顔を向けられて、の顔が赤くなる。
起きあがって詰め寄ろうとするが、腰が痛くて適わない。
うずくまった彼女をベッドに寝かせて、彼はブーツを履いた。
「少しやることがあるが…それが終わったら一緒にいような」
「ああもう忘れなさい!」
「忘れるものか。お前がしてくれた約束なのに」
ジャケットを羽織って、頭を撫でる。
愛していると言って、彼女の手を自分の左胸に当てて昨夜のことを意識させると、遊星は部屋から出て行った。
この後起こるであろう惨劇のことなど露知らず、は布団を被ってなんとか平常心を取り戻そうとした。
が、頭が痛い。
それが二日酔いだとは知らないは、大人しく彼の残り香が漂うベッドで、身体を休めることにした。




「…お前はもう20を超えたし、節度を持って飲んでくれているから酒を飲むこと自体は咎めない。だが、今回のように片付けなくて誰かに弊害が出るようなら、悪いが控えてもらうしかない」
「片付けなかったのは悪かったが…だが、お前はまんざらではなさそうだったではないか」
「…俺はそうだが、は未成年だし影響も出るだろう」
ジャックの部屋で、自分のベッドに腰掛けるジャックを睨みつける。
「…まあそうだな。少し控える。これでいいだろう」
「いや、駄目だ。デュエルしよう」
持っていたデュエルディスクを展開させて、遊星はジャックにお前も、と促す。
だがどうして勝負を挑まれたのか分からない彼は動かない。
何故だ、と聞くと、遊星はこともなげに言った。
「酔って俺に縋る彼女を見ただろう?」
「それだけでか!?」
「それだけとはなんだ。あの状態のを見ていいのは俺だけだ」独占欲をいかんなく発揮する幼馴染は非常に面倒くさい。
これは1回やらないと納得しないだろうな、と、ジャックは重い腰を上げた。





・水の入ったコップを手にして戻ってきた遊星はとても上機嫌そうだった。
どうしたの、と聞いても、彼は「と一緒にいられるのが嬉しい」としか言わない。
手に持っているものを机の上に置いて、遊星は彼女の上に圧し掛かる。
「さあ、一緒にいような」
「…どうあがいても忘れてはくれないのね…」
「俺がお前と交わした約束を忘れると思うか?」
自信たっぷりに言われてしまい、は首を横にふる。
はあ、と溜息をひとつ吐くと、彼は腰に手を回してきた。
「キスしてくれ」
「えっ…!?」
「…駄目か?」
顔を近付けて強請られて、に断れる訳がない。
ちゅ、と触れ合うだけのキスをして、顔をそむける。
感極まったらしく、身体を離そうとした彼女を、遊星はぎゅうううと抱き締めて何度も口づける。
「…だが、もう俺の前では酒は飲まないでくれ」
「あれはお酒だったのね…そうね、飲まないわ」
「もし飲んだとしたら、俺はと飲んだ奴をさっきのジャックのようにしなければならない」
彼が部屋から出て行ったあとの話の流れがいまいち掴めない。
しかし深く追求したら怖いことになりそうで、彼女は口を開けずにいる。
「…もう離さないし、離させないからな」
その言葉に観念したは、一緒にいるという約束を守るべく差し出された、彼の暖かい腕に甘えて今日を過ごすことにした。





「おい、ブルーノ…俺のホイール・オブ・フォーチュンの整備はまだか…」
「ちょっと待ってねジャック…このインストールデータの修正パッチの修正パッチを作らないと…きっと昨日遊星やろうと思ったんだろうけど寝ちゃったんだねえ」
「…」
そうではない、と言いたかったが、言ったところでまた面倒なことになるのは目に見えている。
開きかけた口をつぐんで、ジャックは画面に目を移すしかなかった。




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海と星と空と陸/冰覇様より6800hitのリクエストとして頂きました。
毎度毎度あたしマジでどんだけ通ってんだ。大好きなんです。仕方ないですよね。
リクエスト内容は「ポッポタイムで同居時にお酒ネタ+素直になっちゃう病」というものです。
実はコレ少しだけやりとりしているメールの中で出てきた話題で…。
スゲー萌えそうという理由だけで膨らましてもらいました。
そしたら予想以上に萌える結果になるって言う!
普段ツンデレちゃんがデレデレちゃんになるとこんなに萌える!
ギャップって素敵^^
と、言うわけで冰覇様、素敵な作品ありがとうございました!

また、こちらの作品はご好意で当サイトに掲載させていただいております。
持ち帰りや転載は厳禁です。
閲覧のみで宜しくお願い致します