雪降る夜に


「あら?クロウ、早いわね。どこかに出かけるの?」
リビングで朝食を作っているが、彼の気配に気付いて声をかける。
「おお、もうちょっとしたらな」
呼ばれた彼は、輪の飾りがついた、緑色のバンドを装着しつつ答えた。
パンを何枚か取り出し、トースターにセットして手伝うが、その横顔はなんだかそわそわして落ち着かない。
『アーマードの主、どうしたのだ?』
トースターの横のポットで待機しているグングニールが思わず問う。
彼にコップを渡して、クロウはにへら、と笑ってみせた。
氷龍の横では、スターダストが瓶から黒い粉を出して、その中に入れていっている。
そうしてポットの真下にセットすると、氷龍がボタンを押す。こぽぽ、と小気味いい音を立てて、コップの中にコーヒーが出来上がっていった。
当たり前の光景になっているそれを、誰も疑問に思わない。
『出来たぞ』
『熱いから気をつけてくれ』
サンキュ、と礼を述べて差し出されたコップに口をつけて、クロウは答える。
「マーサハウスのガキ共と会ってくるぜ。ジャックとブルーノも連れて行ってな」
「ジャックとブルーノも?」「たまにはあいつらにも働いてもらうぜ。家の中にこもるのも身体に悪いし。…なんたって今日は一大イベントだしな」
その「一大イベント」が何なのか分からないは首を傾げる。
まあ何かあるんだろう、と、彼女はフライパンに目を戻した。
少し焦げてしまったが、この程度なら範囲内だろうと皿に移す。
その後ろで、クロウは懐から何かを取り出して、のポケットにねじ込んだ。
「…!?…何するのかしら」
「遊星と行ってこいよ。俺らのことは気にすんな」
フライパンと菜箸を置いてそれを手に取る。
白い封筒の中には短冊状のものが2枚。
「…エックスマス…?」
光っている木と星空が描かれたそれに書かれた文字を読む。
どうやら間違っているらしく、クロウは、ブハ、と吹き出した。
「違ぇよ。クリスマスって知ら…なさそうだな…やっぱり…」
「やっぱり…?物心ついたころにはアルカディアムーブメントにいたもの…知らないわ」
「じゃあなおさらだな。遊星が帰ってきたら誘って行けよ」
念を押すように強く言う。
訳が分からないが、悪いことではないんだろうとが頷くとクロウは屈託のない笑みを向けた。そうしてグングニールの方に向かい、彼に何かひそひそと言付ける。
何を話したのかには聞きとれない。氷龍と星屑龍は真剣にクロウの話を聞いていて、ますます彼女の疑問を募らせた。
「グングニール、何を話していたの」
「さー飯にしようぜ!パンも焼けたしよ!」
遮るようにクロウが声をだす。
それに合わせるかのように出張修理(近所の民家のオーブンが壊れたらしい)から遊星が帰ってきたものだから、詳しく聞くタイミングを逃したままは席につくことになってしまった。




「じゃあいってくるなー」
「今日中には帰る予定だ」
「いってきまーす!」
それぞれがDホイールに乗り込み、エンジンを始動させる。
ブラックバードには白く大きな袋が積んであって、機体の色によく映えた。
「その袋は何なの?」
が聞いてみるが、クロウは答えない。
彼の視線は遊星を向いていた。じい、と見つめられた遊星はに悟られないように首を縦に振る。
「遊星に聞いてみろって。…じゃあな、行ってくる!」
ブォン、と音を鳴らして、公道へ続く坂を上る。
明確な答えを示さなかった彼に手を伸ばすが、当然届くことはなかった。
「…何か今日は皆おかしいわ…」
眉をひそめるが、その原因は分からない。
とりあえず冷風も入ってくることだし、ガレージのシャッターを閉めようとするが、やんわりと遊星に止められた。
「俺達も出掛けるぞ」
「…どこに?」
「…クロウから何か受け取らなかったか?」
何か意味のある笑顔で彼女のポケットを指差す。
朝食を作っている時に渡されたそれを取り出して遊星に示すと、はやっと理解したようで、声を上げた。
「これって何かのチケットなの…?」
「ああ。クロウがふくびきで引き当てたらしい」
「なら、彼が使うべきよ」
「…だが、あいつはマーサハウスに行くと言って行ってしまったぞ?」
やられた、と思うがもう遅い。
外堀を埋められて逃げられないは、彼らの策略にまんまとはまるしかなかった。



彼らの計画の始まりは数日前にさかのぼる。
「…こんなん当てちまったぜ」
配達から帰ってきたクロウの手には2枚の紙。
それを机に置いて、上着を脱ぐ。
「お前も大概くじ運いいのだな…」
ソファに座ってコーヒーを飲むジャックは、半ば呆れた眼で幼馴染を見た。確か昨日かその前も商品券だかを当てていたような。
あの時のクロウはいきいきしていたと記憶しているが、今の彼はどちらかというと悪巧みをしている時の表情である。
何を当ててきた、とジャックが見ると、そこには「水族館ペア招待券」と書かれていた。
「ほう…誰と行くのだ?」
「嫌味か。…俺じゃなくて、遊星に行って貰おうと思ってよ」
それに俺、マーサんとこのガキに会う約束してっし、と続ける。
どうだ、と聞かれたジャックは、ふむと顎に手を当てて考えた。
確かに遊星はここのとこ修理を請け負ったり整備をしたりと働きづめだ。WRGPを間近に控えていることもあるし、息抜きには絶妙なタイミングだと言える。
もよくやってくれているしな。俺に依存はない」
「そうだな、お前以上にな…ならこれは俺らからのクリスマスプレゼントにするか」
毒づく言葉を無視しつつ同意して、ジャックが中身を元に戻した時、遊星が靴音を鳴らしながらリビングに上がってくる。
どうやら一段落終えたらしく、その後ろにはブルーノもいた。
「楽しそうだな、何の話をしているんだ?」
「遊星、いいところに来たな。…お前24日空いているか?」
大分機嫌がいいらしく、微笑んでいる遊星に問う。
彼はカレンダーを確認すると、首を横に振った。
「いや、何もないが」
「そっか、ならと一緒に行けよ」
ぽす、と封筒を遊星の胸に押し付ける。
カサカサと男を立てて中身を確認すると、彼の目が見開かれた。
クロウを見るが、そこには遠慮の色が浮かんでいる。
「…いいのか?」
「いいって。俺らはそっち行くってマーサと約束してるしよ、二人きり堪能しろよ」
ニヤニヤしながら言われるが、思惑を見透かされているようで、遊星は咎めることは出来ない。
「あれ、"俺ら"って僕も入ってるの?」
「ブルーノの予定がなかったらな。一人でここで留守番も寂しいだろ」
「うん、誘ってくれてありがとう!嬉しいよ!遊星も楽しんできてね」
ブルーノが無垢な笑顔でクロウの味方につくものだから、遊星の顔はほんのり赤くなった。
ここまで配慮されてありがたいやら心苦しいやらで混乱しそうになる。
「本当にいいのか?」
「いいっつってんだろ。…あいつクリスマス知らないだろうし、堪能してこいって。土産買ってきてくれたらいいから」
「…すまない、ありがとう」
本当に良い仲間に恵まれた。
そう言う遊星の背をクロウは何度か軽く叩く。
照れ隠しのその行為だが、遊星は理解しているようでされるがままになっていた。

が買い出しから帰ってきた為に中断されたのだが、彼女はまさかそんな会議がなされてるとは思ってもない。
あの時から練られている計画だったとは…と彼らの絆の強さを思い知るが、それは同時に自分にも向いているような気がして、は顔を赤らめた。
「じゃあ行こうか」
「…分かったわ」
自分用になっているスペアのヘルメットを手に取る。
それを被ってDホイールに跨るが、遊星は一向にDホイールに近付かない。
パソコンが乗っている机の下から袋を取り出すと、漸くの隣に来た。
「…?」
「クリスマスプレゼントと言って、親しい間柄で物を渡したりするんだ。クロウが積んでいたのもそれだ。…貰って欲しい」
「私何も用意してないわよ…」
「いいんだ。さあ」
促されて、袋の口を開ける。そこから出てきたのは1本の白いマフラー。
端には氷結界の紋章があしらわれていて、の目を引いた。
丁寧に青い糸で縁取りまでされてある。
「…!」
「気に入ってもらえると嬉しいんだが」
「嬉しいに決まってるわ…!」
器用だとは思っていたがここまでとは。
小さくありがとうと述べるが、遊星には届いたらしい。
一度彼女のヘルメットをとって頭を撫でた。
被せて、自分も装着する。そうしてDホイールに跨ってエンジンをかけて発進させた。
一旦止めて戸締りをすると、その後はまっすぐ目的地に向かって行く。
噴水前広場は静寂に包まれた。





「ここだな」
「みたいね」
目的の場所に着くと、遊星はDホイールを止める。
自分が降りた後にの手をとって降ろすと、チケットを携えて入り口へと向かった。
一歩踏みこむと、目の前に飛び込んできたのは大きな水槽。
様々な種類の魚が縦横無尽に泳いでいて、思わず二人は息を飲んだ。
誘われるように近付く。
1匹の熱帯魚が出迎えるように目の前を舞って、と遊星のテンションを上げた。
「…来て良かったかも…」
そう呟く彼女の顔は満足そうだ。
いつも自分を見つめる視線は、今は水槽にある。
「まだそう言うのは早いと思うが?」
まだこの水族館の目玉のイルカも大水槽も見ていない。自分に視線が向けられないことに少し寂しさを覚えたが、が楽しそうなら、と遊星は彼女の手を引いて歩き始めた。

いくら海竜族を使っているとはいえ、こうやって展示されている魚を見るのは初めてだったようで。
どの水槽の前に行っても、は小さく歓声を上げた。
遊星自身も初めてだが、彼は魚よりも魚を見て分かりにくくはしゃぐのほうに夢中になっている。
微笑みながら眺める彼女を見て、心の中でクロウに感謝した。
「はあ…どの魚も個性的で素敵だわ…」
「そうだな」
「体色が綺麗なのも地味なのも生きる知恵なのね、生き物って凄いわね」
少々色気のない感想だが、彼女らしいと言えば彼女らしい。
次の展示は何かしらとうきうきして問うに答えるべく、遊星はパンフレットを広げた。
「次は深海がテーマだそうだ」
「深海…海の生き物の中でも個性的な外見の魚が多いと聞くわ」
遊星の前を進むだが、やはり彼を見ていない。
寂しさは募る一方だが、深海コーナーに近付くにつれ暗くなる館内で何らかのチャンスを期待する遊星は、それでもめげることはない。彼女の手をとって、少しでも意識を自分に向けさせようとした。

タカアシガニの水槽の前でお互い気まずくなったのは予想外だったが。



一通り見て回って、もう一度気になった水槽の前に行って存分に眺めて。
青い世界の虜になって、気付いたらもう日は暮れていた。
「時間が立つのは早いのね。すごく楽しかったわ」
ほくほくと満足そうに笑いかけるを見て、遊星も満たされる気持ちになる。
それなら良かったと微笑み返すと、彼はをDホイールに乗せた。
「この後行きたいところはあるか?」
問うが、彼女は首を横に振る。
それどころか「今日の夕飯の買い物をしないと」ときたため、遊星はがくりとうなだれた。
「…俺を優先してくれ…」
呟かれたその言葉はには届かなかったらしい。
自分の顔を覗きこもうとする彼女の肩に手を乗せて、遊星は口を開く。
「いや…なら、俺が行き先を決めても構わないな?」
「え、ええ…」
了承をとった彼は、エンジンをかける。
ちらほらと街に明かりがともるのを横目で確認しながら、丘に向かって走って行くが、は気付いていないようだった。
時折彼女からどこに行くのかという疑問が投げかけられるが遊星は答えない。
じきにわかる、とだけ繰り返されて消化不良だが、悪いようにはされないだろうと委ねることにした。
ハイウェイを降りて、下道を走ること1時間。
完全に日が落ちてあたりが暗闇に包まれたころに、遊星はDホイールを止めた。
ヘルメットをとって降りる。にも降りるように促して導くように歩くと、そこにはネオ童実野シティの街明かりがあった。
綺麗に輝く街を見て、何度目か分からない感嘆の息が漏れる。
「…遊星、まさかこれを…」
「ああ…以前この場所を知った時は昼間だったんだが、絶対夜は綺麗だろうなと思って…その通りで良かった」
夜風に吹きさらしになっているを抱き締めながら言う。
彼女の顔はその行為で赤くなったが、幸いにも気付かれることはなかった。
「遊星、今日はありがと…」
「いや、いい」
そっと顔を近付ける。
唇が触れ合うまであと少し、というところで、のデッキケースから冷たい風が吹き荒れた。
「…!?」
思わず顔を外す。
いいところで邪魔された遊星は悲しい顔をしたが、それを見る者は誰もいない。
「グングニール…?どうしたの?」
『星屑殿もここに』
召喚して問うが、龍は答えない。
意図が分からないが、穏やかな口調の命令に従い、遊星から渡されたカードをデュエルディスクに乗せると、2体の龍は上空へ舞い上がった。
氷龍が一吠えすると、呼応するように空気が冷たくなる。冷えないように、と遊星がを抱き籠めると、空からは冷たい粒が降りてきた。
雪だと理解するのに時間はかからない。
そのグングニールを、スターダストが囲うように飛ぶと、今度は彼が纏う輝きが二人を包んだ。
きらきらと雪が反射して、幻想的な光景がそこに広がる。
二人の視線は雪と星に彩られた街と空に注がれ続けた。
『主、我にはこんなことしか出来ないが…喜んでくれるか』
降り立った氷龍が遠慮がちに口を開く。
遊星に抱かれたままのが腕を伸ばすと、グングニールは顔をそこに近付けた。
「当たり前でしょう…!」
『ならばいい』
愛おしそうに頭を撫でる。その手が心地いいのか、彼は大人しく主人に甘えていた。
『マスター、貴方はどうですか?』
後ろからスターダストの羽根が伸びる。
グングニールごと二人を抱くようなその仕草に、愛されているんだと遊星は実感した。
「すごく綺麗だった。ありがとう」
『マスターが満足してくれたなら、私も嬉しい』
白銀の翼と、青白い体躯が人間を囲むというある種異様な光景だが、誰もそれを見るものはいない。
存分に堪能して、2体の龍が空に舞った瞬間。
まるで見計らったかのように遊星の携帯がなった。
「もしもし…クロウ、どうしたんだ?」
『やべえな、雪降ってきちまったな!どうしよう、帰れねえなー』
「ああ、それは」
グングニールが降らせた、と言う前に、クロウは続ける。
『事故っても嫌だしよ、帰るの明日にするぜ!じゃあな!』
ぷつっ、ツーツーツー。
虚しく鳴る電子音。わざとらしい彼の口ぶり。
会話を聞いていたは、ゆっくりと氷龍の方を向いた。
「…もしかして、朝会話していたのはこのことかしら」
『………そうだ』
モンスターの立場で嘘はつけない。
小さい声で肯定すると、彼女は顔に手を当てた。
「…仕込みすぎじゃないかしら…!」
呆れたように。だが照れるに言う。
『ホワイトクリスマスと言って、人間の世界では嬉しがられると聞いた』
『ああ、それに私の力を足せばさらに良いモノになると』
弁解する龍だが、に彼らを咎める気はない。
2体の頭を撫でてやって、怒っていないことを伝えた。
「貴方達は悪くないわ。素敵な演出してもらって嬉しいのも本当だし」
目を細める龍をよそに、遊星は道路を見つめる。
それに気付いたは龍から目を外した。
「遊星、どうしたの?」
「…いや、雪が本当に積もってきたなと思って」
確かに道路は白く染まっている。
クロウ達が帰れないのは先程聞いたが、これでは自分達も帰れない。
どうしたものか、と思っていると、グングニールが背を屈めた。
『我の背に乗ればいい。我の責任なのだから』
『この赤いのは私がもっていく。それなら問題はないだろう』
言うなり、スターダストが遊星号を大事そうに抱えて飛びたつ。
本人に似て強引なところがあるなと思うが、あえて口には出さずには氷龍に乗った。
戸惑う遊星に手を差し出して。
「ほら、乗って」
「…ああ、分かった」
その手を掴んでグングニールに乗せると、は遊星の腕を自分に巻きつかせる。
氷龍は二人が乗ったことをその身で確認すると、雪を纏いながら翼をはためかせた。
重力から解放されると、眼下に光の海が現れる。
ネオ童実野シティをこうして上空から見るのは2度目だが、あの時とはまた別の感動が二人の心を占めた。
「…こうしてみても綺麗だな」
「そうね。…この力を持てて、良かったかもしれない」
風ではためくマフラーを遊星は愛おしそうに撫でると、の腰に回した手に力を込めた。




ポッポタイムにつくと、スターダストは優しくDホイールを着地させる。
その横にグングニールが降り立つと、再び身体を伏せて主人を降ろした。
「ありがとうね、助かったわ」
『いや、主の役に立てたのならいい』
「スターダストも、運んでくれてありがとう」
『礼には及びません』
それぞれやりとりを終えると、2体はカードに戻る。
ここにも雪は積もっていて、足元から冷えが襲ってくるようだった。
「早く入ろう。長くいると風邪をひく」
Dホイールを押して、ガレージのシャッターを上げると、の手をひく。
逆らわずに歩を進めたのをいいことに、遊星は引っ張る手に力を入れた。
バランスが崩れた為が倒れるが、それを彼は苦にすることもなく受け止める。
「…遊星?」
「楽しかったが…あまりと向き合う時間がなかったように思う」
寂しそうな声と共に、腕が彼女の背に回される。
確かに魚や街、雪に見とれていて、遊星の顔を見てはいなかったような。
思い返すと次第にそうであるような気が強くなってきて、少しだけ罪悪感が湧いてきた。
「…そうね、そうかもしれないわ」
「だが、今夜は二人きりだ」
耳元で囁く声は色気に満ちている。
今までの視線が合わなかった時間を取り戻すかのように遊星が見つめるが、改めて顔を見るのはなんだか恥ずかしい。
がそっと視線を外すと、それを追いかけるように遊星の顔が動いた。
「…逃げないでくれ」
手で顔を固定される。
逃げるな、というよりも逃がさないと言った方が正しいその行為は、彼女の心拍数を徐々に上げていった。
「俺を、見ていて欲しい。今も、これからも」
じい、と見つめると、は彼の意図に気付いたらしく目を閉じる。
煽られた遊星だが、理性を総動員して抑えて丁寧にキスを落とした。
ちゅう、と吸うとの身体が小さく跳ねて、それにも遊星は興奮する。
モンスターに邪魔された時の分だ、ともう一度重ねると、そのまま彼女を横抱きにして、部屋に連れて行った。


優しく下ろすと、彼女の左腕からデュエルディスクを取り外す。
机に置いて両手を自由にすると、手早く服に手をかける。
遊星の顔には何ともいえない魅力があって、思わず抵抗することを忘れた。
「…遊星…」
控え目に呼ぶが彼は止まらない。
ショーツを残して裸にさせると、遊星は自分も服を脱いでいった。
「愛してる」
短く好意を伝える。
抱き締めて口付けて、その気にさせて行くと、の顔は次第に熱に浮かされて色を帯びる。
扇情的と言っても過言でないその表情は、誘っている立場のはずの遊星を夢中にさせた。
「…んっ…ぁあ…!」
身体への愛撫を始める。胸をその大きな手全体で捏ねるように包むと、小さく声が漏れた。
堪らなくなって首に顔を近付けて、鎖骨の少し上あたりを吸うと、そこに赤い痕が残った。
痛かったらしく、身を捩るがその姿すら遊星を煽る。
「ふ、可愛いな」
「何を言って…っ!」
反論しようとするだが、彼にとっては興奮を増す材料でしかない。
その少し下にも同様にキスマークを付けて、自分のものだと主張した。
胸と同時に行われるが、もどかしいことには変わりない。
は遊星の髪を撫でて、言外に強請った。
「どうして欲しい?」
その意味が分かった彼は、意地悪く聞く。
言わざるを得ない彼女は、2、3度視線を彷徨わせて答える。
「…胸、触るんじゃなくて…口で…!」
恥ずかしいらしく、すぐに手で顔を覆ってしまう。
隙間からは赤面しているのが部分的に覗いていて、遊星の心をくすぐった。
望み通りに突起を口に含む。
ちゅうちゅうと音を立ててやると、漏れた声が響いた。
「やぁっ、は、ぁあああ…反対、手でするのだめぇ…!」
摘まむ手を押さえられるが、力の入ってない手で敵うはずもない。
「だめじゃないだろう。感じているくせに」
少しだけ強くする。
背中をそらし、胸を見せつけるような格好をしてヨがったは、自らの身体で嘘だということを自白してしまった。
恥ずかしいが、段々理性がなくなっていく今ではどうでもいい。
もっと、と強請ると、遊星の口角が上がった。
「そんなに俺がいいのか?」
「なんでそういうことを聞くの…!私の恋人は、貴方じゃないの…!?」
涙が混じった目で睨みつけるが、威力はないに等しい。
好きだという気持ちが溢れる程湧きあがった遊星は、最後の砦であるショーツをはぎ取ると、隠れていたところに指を伸ばした。
胸への愛撫も忘れてはいない。
同時に良いところを弄られた為、は軽くイった。
「…!」
びくびくと震える足がなまめかしい。
とろりと愛液が垂れてきたため、彼は胸から顔を上げて、そこに近付けた。
そうして、ぺロリと舐める。
ぞくぞくと快感が走ってまたイきそうになるのを堪えて、遊星の顔を離そうと頭に手を乗せる。離すはずのその手だったが、舐める遊星の舌が気持ちよくて、逆に抑え込むようになってしまった。
「ひぁあああっ…ゆうせぇ…!らめ、汚いの…汚いのに、舐めちゃだめぇえ…」
「淫乱だな、舐めちゃだめと言う割に俺を離さないなんて」
「だって…気持ちイイの…遊星の舌すごくイイ…!」
うっとりした口調で感じてることを伝える。ならば、とさらに遊星が舌を入れて激しく攻めると、そこから先は言葉は意味をなさなかった。
「ふぁあっ!ひ、ぁ…ゆうせぇえ!イくっ、イくぅうう!」
溢れ出る蜜を残さず舐めとる。
じゅるる、と吸う音が、の理性を完全に砕いた。
「はぁ…遊星…ゆう、せのも…」
のし、と彼に圧し掛かる。遊星はしたいようにさせることにして、彼女の痴態を楽しんだ。
は股間にある遊星自身を舐める。
竿、カリ部分、先端と箇所を変えていって、そうして口全体でソレを包み込んだ。
「…っ!」
一気に快感が遊星の背をかける。
手でも擦っていくと、彼の口からも喘ぎ声が発せられるようになった。
「ぁっ…ぁあ!く、はぁ…あはああ!」
ひどく気持ちイイ。
このままだとイかされると判断した遊星は、自身の指を舐めて、の秘部に挿入した。
ぐちゅ、という音を立ててめり込んだその中をまさぐって、イイところを探り当てる。
そこを重点的に擦ると、彼女の口から男根が解放された。
ぶるん、と震えるが、それも不思議な快感を生む。
「ぁぁああ…!ゆうせぇ…そこらめぇ…!弱いの、弱いとこイイのぉお!」
「はぁっ…あああ…、擦って…!俺のモノ擦ってくれ…!うあっ、ぁああああ!」
「きゃ、遊星…っそこぉお!らめって言ったのに…!だめって言ったのにごりごりしちゃったらイくぅうう!」
強請ると、は一生懸命に扱いていく。恋人に扱われていることと、自分の目の前に陰部があることが相まって、遊星は白濁を吐き出した。
イく直前に指をGスポットとその周辺に押し付けた為、彼女もほぼ同時に再度絶頂する。
二人の身体の跳ねがベッドにも伝わって、ぎしぎしと音を立てるのが、なんともいやらしい。
「…はあ…」
「っぁあ…はぁ…」
呼吸を整える。準備の出来た遊星との身体と心は、互いが欲しくてどうしようもなかった。
我慢できない遊星が先端を押し付けると、は何の疑問も思わず、自らの体重でソレを飲み込んでいく。
ぐぷ、という音を立ててどんどん侵入する。
「いああぁぁああ…!すごい…ゆうせえの太い…」
自分に跨って、根元まで埋め込んだ恋人の言動は、遊星の何もかもを興奮させる。
腰を動かして突き上げると、彼女は崩れて覆いかぶさる形になったが、それでも彼は良かった。
抱き締めて下から攻める。
「やあぁっ、はぁ…!遊星の太いの来てる…!奥突いてるのすごい…!」
「ああっ、中熱い…!の中熱くて、止まらない…!!」
じゅぷじゅぷと結合部からはしたない音が響く。
逃げられないようにと遊星が足を絡めると、より一層奥まで届くことになっては背中を逸らした。
「んはぁあ!イくっ…!敏感な中擦られてイくぅう!」
「ああ、イっていいぞ…、奥までっ受け入れて、イってくれ…!」
ぎゅううう、と足と腕の締め付けが強くなる。
抱き籠められたが痛がる暇もなく、彼女の膣からは遊星が放った精が垂れていた。
中もそれを搾りとろうと蠢いていて、自分が抱き締めているはずなのに抱き締め返されているような錯覚を遊星にもたらした。
「ぁああ…遊星のが…中にまだ入ってる…!」
感じている顔を隠そうともせずそう告げるものだから抜くに抜けない。
そのまま体勢を180°回転させて正常位になると、遊星は抜かずに律動を再開した。
ごちゅごちゅと抜き差しする度に、中の愛液と精液が混じった物が掻き出される。
「ふぁぁぁああ!はげし、のらめぇ…!壊れるっおかしくなるぅう!」
「なっていい、おかしくなっていいから…俺の、受け止めてくれ…せーえき、せーえき出すぅッ!」
「やぁあああ!イくっ、中っ中出されてイくのぉお!ゆうせえのでイっちゃうよぉお!」
びゅーびゅー聞こえそうなほどの射精。
それを全て受け入れたは虚ろな目で遊星を見つめるが、彼は止まらなかった。
一旦抜いたかと思えば、また挿入する。
絶倫である遊星に付き合うのは大変だが、この瞬間が何より好きな為、はただ受け入れる。
深く愛されているという実感は、確かに彼女に充足感を味あわせた。
はーはーと荒い息のまま、腰を打ち付ける。
指で探ったイイところばかりを蹂躙して快感をもたらしながら、遊星も自分を気持ちよくさせた。
ごりごりごりごりと深く先端を押しこめて、快感を貪る。
イきっぱなしになって、断続的に身体を震わせるを抱き締めて、彼も精液を何度も叩きこむ。
小さく紡がれた、「好き」というの声は、確かに遊星の耳に届いた。




「結局私プレゼント用意しなかったわね」
湯を張った浴槽の中でが独り事のように呟く。
その後ろで密着している遊星は首を傾げた。
「…?俺はもらったが?」
「何を?」
顔だけを彼に向ける。見上げるその顔は自然と上目遣いになって、遊星の心をくすぐる。
「…またそういうことをして…襲われるのが趣味なのか…?」
「何言ってるのかしらねこの人は…。いいから、何をもらったか言いなさい」
上目遣いのまま睨まれても痛くはない。
遊星は笑いそうになるが、笑ったら拗ねるだろうと、必死でこらえた。
「お前からの愛の言葉を」
自分でもキザったらしいなと思うが、本心だから仕方ない。
呆れたような表情のは、笑うことはなかったが、ただ意外そうだった。
「…そんなのがプレゼントになるの?」
「そんなのとは。人の心を貰ったんだ、この上ないプレゼントだろう」
簡単に操作できるものではないし、ましてや操っていいものではない。
だから貴重なんだ、と続けると、彼女は顔を真っ赤にして照れた。
「…貴方がそれでいいのなら」
「ああ、充分だ」
ぎゅううううと抱擁を与えると、も身体を反転させて遊星に抱きつく。
のぼせるまでこうしていようと決めた遊星は、当分離すことはなかった。






翌朝。
帰ってきたクロウに与えられたのはからの洗礼だった。
満足に立てない彼女はガンターラに支えられていて、誰に何をされたかは一目瞭然だった。
事実、あの後も何度も遊星に抱かれて死ぬかと思ったが、恥ずかしくて誰にも言えないし言うことでもない。
ストレスを発散するようにデュエルを挑む彼女とは対照的に、遊星はすっきりした顔でブルーノに土産を渡すのだった。



(ブルーノ、土産だ。クロウとジャックと食べてくれ)
(わあ、クッキーだって!ありがとう遊星!)


(クロウ…気遣いはありがたいのだけど根回しのしすぎよ…!)
(…何があったか知ってる(というか気付いちまう)が、ここまでとは思ってなかったぜ…)
(いらんことを推測するのはやめなさい…!!デュエル!!!)--------------------------------------------

ヤマとオチはどこに。
という訳でメリークリスマス!
それぞれお持ち帰り可となっておりますが、サイトに掲示される場合、当サイト名と管理人名を明記していただき、必ず報告してくださいますようお願いします。

海と星と空と陸
綾貴&冰覇




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海と星と空と陸/冰覇様のサイトよりクリスマスフリー小説頂きました。
もらえるモンは何でも貰う卑しい管理人があたしです。
個人的に一番の萌え遊星は
「俺を優先してくれ」
と、項垂れちゃう遊星ですね。
珍しく素直に構って欲しい遊星さん。
でもヒロインちゃんはそれに気付かないところにニヤけます(酷い)
いつもどおりエロが秀逸ですよね。
珍しく意地の悪い遊星にキュン死にしました。
ご馳走様です!


こちらの作品はご好意で当サイトに掲載させていただいております。
持ち帰りや転載は厳禁です。
閲覧のみで宜しくお願い致します。